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ねこ

作者: 水底

 一昨年の夏のことです。日本海側にある実家に帰省していた私は、近所の砂浜を何となく散歩していました。その砂浜は、砂浜と言っても観光地として栄えているわけではなく、まばらに草が生えたり、ゴミが落ちているようなところでした。観光地ではないからこそ、打ち上げられた様々なゴミが清掃もされずにそのまま残っています。中には海の向こう側から運ばれてきたようなゴミ(韓国語表記の何かのパッケージなど)もあり、私は昔からそういうものを見つけるのが好きでした。その日も、私はめぼしいものがないかと地面を眺めながら砂浜を歩いていました。

 海岸沿いにしばらく歩いて、砂浜の端の、いよいよ人が来ないような場所に差し掛かった時、私はものめずらしいものを見つけました。それは小動物の骨でした。鳥や虫に食べられたのか、肉の部分は少しもなく、きれいに白い骨だけが落ちていました。胴体の部分のようで、小さな背骨と、細い肋骨がまとまって落ちていました。骨のサイズ的には、小さめの猫くらいの大きさの生き物のようでした。私はそれをしばらく眺めた後、何の気なしに、砂浜の砂をかぶせて、小さな立木を墓標に見立ててさしました。そうしてできた小さな墓に、数秒手を合わせた後、私はその場所を後にしました。私のこの行動は、本当に気まぐれの行動でした。『骨は墓に埋めるもの』という、直列的な思考回路で行ったことで、その意味を深く考えたりはしませんでした。私はすぐにこの出来事を忘れてしまいました。


 去年の夏のちょうどお盆の時期、私は再び実家に帰省しました。

 法事も無事終わり、特にすることもない私は、和室の畳の上で何をするでもなく寝転がっていました。いつの間にやら眠ってしまっていたようで、ふと目を覚ますと畳が夕日でオレンジ色に染まっていました。私が、寝起きでぼーっとした頭で(ああ、そろそろ夕飯の時間かな)なんて考えていると、遠くから「にゃーん」と猫の鳴き声が聞こえました。その声は家の玄関の方から聞こえているようでした。実家では猫なんて飼ってはいませんでしたから、私は(近所の野良猫が鳴いているのかな)とまだぼんやりとしている頭で考えました。すると再び「にゃーん」と鳴き声が聞こえました。今度は先ほどより少し大きい声に感じました。私は近所の猫が餌でもねだっているのだろうと思いました。するとまた、「にゃーん」と声が聞こえました。先ほどよりまた少し大きい声です。少し間をおいて、また「にゃーん」と、さらに大きい声で鳴き声が聞こえました。

 四度目になってやっと私は異変に気が付きました。その声は、家の外からではなく、中から聞こえてきていました。声は大きくなってきていたのではなく、鳴き声の元が近づいてくることによって、大きくなっているように聞こえていたのです。その猫は、丁度玄関から和室に続く廊下を、少し歩いては鳴いて、少し歩いては鳴いてと繰り返しているようでした。繰り返すようですが、実家では猫を飼ってはいません。また、猫が入るような隙間もないはずです。私は不意に、その前の夏に埋葬した骨のことを思い出しました。(あの骨は猫の骨だったのか。お礼でもしに来てくれたのだろうか。)と思い、少し怖いような、うれしいような、不思議な気持ちになりました。

 「にゃーん」「にゃーん」「にゃーん」

 鳴きながら近づいてきた猫は、丁度私が寝ている和室と廊下を隔てるふすまの前で立ち止まったようでした。私はどうしたらいいのかわからず、ふすまに背を向けて寝転がった姿勢のまま、しばらく耳を澄ましていました。五分ほどたったでしょうか。ふすまの向こうからはもう何の声も聞こえてきませんでした。私は起き上がり、恐る恐るふすまを開けました。そこには暗い廊下があるだけで、猫の姿は見当たりませんでした。なんだか拍子を抜かれた私は、小さく息を吐きました。猫とはいえ、初めての心霊現象に緊張していたようで、知らず知らずの間に肩に入っていた力が抜けたような感じがしました。

 その時です。右の耳の近くで「にゃーん」と声が聞こえました。

 振り返っても、そこには夕日に照らされた和室があるだけで、何もいませんでした。

 

 これが私の去年の夏の体験です。皆様にお伝えしたいことは、たとえ一見良いことであるように感じたとしても、見ず知らずの骨を埋めたりしない方がいいということです。それが、何の動物なのか、どんな死に方をしたのかわかったものじゃないんです。

 私が埋めたモノだって、もしかしたら猫じゃ、ただの猫なんかじゃなかったのかもしれません。

 だって、最後に私の耳元で聞こえたのは、大人の、それも年配の男性が、無理矢理猫の鳴きまねをしたような声だったんですから。


 長々とした拙い文章を、最後まで読んでいただいてありがとうございました。今年もお盆の時期が近づいてきましたね。今年もあの声が聞こえたらと思うと、私は耐えられそうにもありません。

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