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5 住み分けを致します

遅れ馳せですが。

ブクマ登録ありがとうございます!!

少しでもお楽しみ頂けるよう頑張ります。




「ご理解頂けまして?」


 立て板に水式に場を仕切るわたくしに呑まれてまごつく当主とその愛人家族に有無を言わせず念を押す。

 甘く見てもらってはいけない。


 ただでさえあちらには権力と数の暴力が有るのだ。中に入れば磨り潰されてしまう。


 こちらは嘗められて好き放題される訳にはいかないのだ。



 良好な関係を築ける人柄を持つ人達であれば、様子を見ながらゆっくりと交流を深めて関係を改善して行けばいいし、そう出来るだろう。


 相手側も突然高位な身分を得て、立場も生活も一新するのだ。馴染み順応するまで暫くは混乱もあるだろう。はっちゃけて勘違い爆走する危険もある。


 そんな状態の中、為人(ひととなり)を知らない人達の腹の知れない家族ごっこの輪に。


 いきなり入るのは悪手だ。


 信用する理由などひと欠片も無い。



「次期侯爵夫人とお呼びしても?」


「あ、いえ、名前でお願いします」


「わかりましたわ」


 アイラ様に呼び方を確認すると、慌てて希望を述べられたので、素直にそれを了承します。


「では侯爵、アイラ様、並びにご子息ご令嬢の皆様。わたくしは元よりこの邸の東棟を使わせていただいておりますの。南は対外的なエリアですわ。皆様には西棟をお使いいただきます。それと、原則として()()()()()の為、立ち入りはご遠慮ください。わたくしも皆様の生活空間には立ち入りません。御用の際は家令のフィッツかロバートへ。後程そちらの専属の者を選出して向かわせますわ。それではフィッツ、皆様をご案内して差し上げて」


「畏まりました。では皆様こちらへ。ご案内いたします」


「あ、あぁ・・・」


 有無を言わせぬわたくしの指示に気を呑まれたまま()()()()()()()()はフィッツの案内に導かれてぞろぞろと移動を開始する。

 そう言えば、名目上兄妹となる異母兄弟妹達とは碌な挨拶も交わしていませんが、必要以上の関りを持つ気は無い。


 一先ず客間へ案内する事に成るが、先触れも無く突然乗り込んで来る方が悪いのだ。本当に常識の無い。


 それから後日、各自の自室を用意する事に成るだろう。改装や模様替え、家具の入れ替え等、暫くは大変だろう、本邸の使用人達は。急ぎ増員を考えなければならないかも知れない。


 今まで彼等のお世話をしていた使用人はどうしたのだろう?後程フィッツに確認させなければ。

 少人数でも見知った顔があった方が、彼等も過ごしやすいだろうに。本当に、そういう配慮は思い付きもしないのだろうか、あの男は。一人もつれて来ないとは。


 ぞろぞろと移動し始める集団を見張っていると、ふらりと群れから逸れて双子がわたくしに近寄って来た。スルカとサセルカだったか。


「お前、生意気だな」


 右目に泣き黒子。

 スルカが見下すように鼻を鳴らす。


「変な髪。気持ち悪ィ目。お前人間?」

 

 グイッと顔を近付けて顔を覗き込んで来たのは左目に泣き黒子。サセルカだ。

 珍しい特徴を持つわたくしの容姿を侮辱する事も忘れない。躾の成っていないこと。

 九つにも成ってこれでは困りますわね。侯爵家の品格を疑われてしまいますわ。


「貴族教育が足りていないようですのね。フィッツ、教師の手配を。・・・そうね、環境に馴染む時間も必要でしょうから二週間後から来て頂くように」


「っ!」


「なっ!!何勝手に決めてんだ!」


 ガン無視でフィッツに教師の手配を指示するわたくしに、二人はギョッとして騒ぎ立てますが。


「抗議は受け付けませんわ。今迄がどうかは存じませんが、正式に侯爵家の一員と成ったからには、きちんと自覚を持って行動して頂きます。家門の恥と成らぬよう、最低限身分に相応しいマナーと教養は身に付けて頂きますわ」


「なっ、なっ・・・っ!」


「これはお願いではありませんわ。()()()()であり、()()()()ですの。逆らうことは許しませんわ」


「くっ、この、クソ女!!」


 冷たく言い放ったわたくしの言葉に逆上したサセルカがわたくしに殴りかかろうとした瞬間。


 スパン!!


 その瞬間、殴りかかったサセルカの拳が二人の間の何も無い空間で突然切断されて飛ばされる。


「っは!?」


 本人ですら何が起きたのか理解が追い付かないのだろう。二人は唖然として拳を握った掌の半分ほど先の消失した紅い切り口を見詰めている。


 わたくしの結界が仕事をしたのだ。


 わたくしの結界は少し特殊で、今は詳細は省くが、基本的に悪意、害意を持つ者を通さない。

 わたくし個人には常時発動状態で周囲に展開しているが、先程宣言した東棟にも設置している。

 説明の際、立ち入るなとは言ったが、悪意や害意を持った者はそもそも入れない。

 なので、変な話悪意の一つでも持ってくれている方が煩わされずに平和に過ごせそうなものなのだ。家令や使用人経由で厄介事を持ち込まれなければの話だが。


 凍り付く二人を無視して、わたくしは少し離れた床に落ちたサセルカの拳の半分を拾い上げてサセルカの前へと戻ると、両手で包み込むようにして切り口に元通りそれをくっ付ける。

 わたくしの手が離れたそこには、元通り、傷痕一つないサセルカの手があった。


「ご覧の通り、何人たりともわたくしに悪意・害意を持って近付く事は出来ませんの。暴力は振るえませんわよ?今回のこれは幻覚ですけれど、()()()()()()()ですわ」


 まぁ、化け物を見る目ですわね。


「お疑いのこれは条件で発動する障壁魔法ですの。無知は罪ですわ。恥をかきたくなくば、知識を得る為に勉強なさいませ」  


 あらゆる差別と偏見は、無知の産物だ。

 未知。即ち知らないことが恐れを呼び、恐れが怒りを呼び、攻撃性へと発展する。怒りは生存本能の発露だからだ。恐れは防衛本能によるものだが、全ては、未知のものを知ろう、少しでも理解しようとしない怠惰が引き起こしていることに過ぎない。


 冷たく言い放ち、控えていた侍従のロバートに目配せして、おいて行かれかけている二人の案内を任せる。

 数人子供たちが廊下の先で立ち止まり、この一件を見ていたようだが、気にはしない。

 お互い隔意があるのは覚悟の上の筈である。被害者面の相手をする気は無い。


 冷たい表情のまま、わたくしは自分の生活空間である東棟へと向けて踵を返した。





お読み頂きありがとうございます。

感想とか評価とか頂けますと幸いです。

次回もお立ち寄り頂けますと嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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