23 和解
そんな日々の中、元婚約者ユウジーン・アサイラム公爵子息が謝罪に来ましたわ。
「セフィリア嬢、どうか話を聞いて欲しい。どうか、釈明の機会を。君は僕の初恋の人で、ずっと共に歩く未来が有ると信じていたんだ。僕は君を失いたくない。どんな形でも、力に成りたいし、支えに成りたいんだ。それは今でも変わらない。どうか信じてくれはしないだろうか」
あまりに真摯に懇願されるので、渋々ながら、話を聞かない訳にも行きません。
それにより、色々あのクズの罪が明らかに。
先ず見舞いについて、クズから、わたくし自身が傷を負った醜い姿を婚約者に見られたくないと取り乱しているという口実で訪問を断られていた事。
実際にはその時点ではわたくしは意識不明でした。
第一己の悪意により結界に阻まれてわたくしの生活空間に立ち入ることが出来ないクズにわたくしの状態などわかる訳もないのです。
手紙と見舞いの花をユウジーン様は毎日贈ってくださっていたそうです。
そんなこととは知らず言いがかりをつけてしまいました。申し訳ないことをしてしまいましたわ。
これは先日のわたくしの叱責との認識の違いを不審に思い、ユウジーン様が自ら調べられたところ、公爵家からの遣いがクズが新しく雇った侍従に買収され、クローンサイト侯爵家の敷地に入る前に処分されていた事が発覚いたしましたの。
流石のフィッツも知りようが無かったようです。
婚約は破棄ではなく解消でした。
解消に至った理由は、クズの説明である「二目と見られない醜い傷が残る」ことそのものには懐疑的ではあっても、訪問拒否が解除されないまま、見舞いの手紙にわたくしからの返信が無い事がわたくしの傷心と婚約継続を望まぬ意志表示としての信憑性を生んだことが一つ。
ユウジーン様のお父様であるアサイラム公爵のお兄様がクローンサイト侯爵家の後妻となったアイラ様を中心に過去に起こった大スキャンダルの被害者の一人であった事が一つ。
また、幼馴染でもあったお母様に対するクズの仕打ちを以前より苦々しく思っておられたことが一つ。
そのような事情が絡み、わたくしの意志を尊重するという口実を得て、クローンサイト侯爵家との縁を断つ好機とアサイラム公爵は判断されたようなのです。
言葉もありません。
その後、事実を知ったアサイラム公爵は罪悪感を持たれ、わたくしの身を案じてくださっているそうです。
ありがたいことですが、同時に大変申し訳なく。ご心労をお掛けしてしまいましたわ。
平民となった身ではユウジーン様との復縁はあり得ませんが、友人には、成れるかも知れません。
お互い胸に痛みを残しながらも、わたくしたちは和解致しました。
「最後に、君を抱擁してもいいだろうか?」
もう、立場が許さない。だから、これを最後にと、ユウジーン様は懇願される。
わたくし達は、お互い望まずして、共に歩む未来を失った。
恋と呼ぶ程激しい想いでは無かったけれど、確かに想い合う気持ちは有ったのだ。
だからわたくしもそれを受け入れる。
最初、ためらいがちに、寧ろ恐る恐る差し伸べられたユウジーン様の両手が、わたくしを包み込んだ瞬間、切なく両腕に力が篭る。
「あぁ、セフィリア、セフィリア・・・」
ひしとわたくしを抱きしめるユウジーン様のお体が微かに震えていらっしゃる。絞り出すような微かなお声には、涙が滲んでいる。
ただひたすら、失いたくないと。
あぁ、泣かないで、ユウジーン様。
あぁ、わたくしは、この方に、こんなにも想われていたのだ。
ユウジーン様との和解で幾許かの悲哀とともに胸の裡がほっこりと温まりは致しましたが、同時に不快な怒りが抑えきれず湧き上がってまいります。
あのクズ男が!
クズ男が!!
クズ男が!!!
あのクズとの関係悪化、いえ、悪関係にわたくしの態度や振る舞いに原因が無かったとは申しませんが。
一体何なのでしょうかあの男は!
止め処ない胸のムカムカが収まりません。寧ろ加速する勢いです。
が。
いけませんわ。
あのクズの為にわたくしの貴重な時間や精神を消費する方が業腹です。
こんな時はこの膨大なエネルギーをもっと別の有意義な事に注ぎ込むことこそ寧ろ復讐というものですわ。
関心の反対は無関心なのですもの。
そうですわね。
こんな時こそ特殊訓練ルームでチート魔法で暴れまくりヒャッハー!ですわ。
でもせっかくの魔法の的が訓練場の味もそっけもないダミーでは盛り上がりませんわね。
いっそ、こう・・・実在の魔物とかを模して草原やら森やら渓谷、ダンジョンとかのステージに配置すれば、やる気は勿論、討伐実習の予習代わりにもなり、一石二鳥かも知れません。
どうせならそこにゲーム要素もぶち込んで、倒すと素材やドロップ品が落ちたり、戦績をポイント制にして管理して、溜まったポイントでレベルアップしたりアイテムを手に入れたり。
そうすると最初にキャラメイクして別人に扮して活動するのも面白いかも。
別人になるのに全くのアバターではないところがまた不思議な感じですわよね。
別人の設定を実装した本人(物理)なのだから。
せっかく別人になるのなら、自分に無い属性も操れると面白いかも。
どうせ特殊訓練ルーム内限定の事なのだから、自重は無用。
さて、そうと決まったら図書館に行って出来るだけ詳細で精密な魔獣図鑑を探しましょう。
標的がリアルであればリアルである程やる気も出るというものです。
何しろ遊びの要素をふんだんに盛り込むとは言え、根本の目的は模擬自習。
つまりはお勉強なのです。
なので標的となる魔獣に関しては嘘やいい加減は、命取りになりかねませんので許されません。
日頃遊んでいるゲームで設定されたいい加減な魔獣の生態や特徴、能力をうっかり真に受けて甘く見ていると、立ちますからね、死亡フラグが。
ゲーム内で実装するキャラメイクされた能力とかは、取り敢えず見なかった事として。
・・・大丈夫でしょ、そこは流石に勘違いはないでしょう?
あ~、でも癖で愛用の架空アイテム使おうとかしちゃうかも・・・
・・・・・・。
いや、ここは敢えてその部分には目を瞑ろう。そうしよう。ストレス解消は必要ですわ。
さぁて、図書館図書館。
いい感じの図鑑は有るかな~?
お読み頂きありがとうございます。
感想とか評価とか頂けますと幸いです。