表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/54

21 復学




 学園長からの面談の許可は速やかに下された。


 わたくしは取り急ぎ制服に着替えて学園へ向かう。


 貴族の多くは、制服のスタンダードなデザインに自分なりの手を加えるものだが、わたくしは元々そういうものを好まないので、至ってシンプルなままだ。


 お陰で平民となった今、心なしか助かっている。


 平民が改造制服を着ていると、目を付けられやすいので。


 そこ、わたくしの場合は、無駄とか言わない。





 あまり知り合いに会いたくないなと思っていたら、それがフラグと成ったのか、早々に知り合いと出くわした。


 ()()()()


 最も顔を合わせたくない一人だ。


 異母兄弟妹よりはマシだが。

 嫌のベクトルが違う。




 ユウジーン・アサイラム公爵子息。


 公爵家の次男で、水色の髪に紫紺の瞳。わたくしの一つ上の学年の、優し気な容姿の貴公子だ。


 教室移動の途中だろうか、数人と連れ立っている彼の方もわたくしに気が付いた。



「セフィリア」


 ハッとしたようにわたくしの名を呟く。


 その声に、わたくしの中にカッとどす黒い怒りが沸き上がる。


 人前であるという事実も頭の中から吹き飛び、ツカツカと彼の前へと歩み寄ると、有無を言わさずその頬を引っ叩いた。


「気安く名前を呼ばないでくださいませ。もう貴男と婚約関係にはないのですから」


 鋭い怒りがわたくしの口を突いて飛び出して行く。


「事故に遭い重傷を負った婚約者に、見舞いに来るどころか手紙一つ出し惜しみ、醜い傷痕が残る女など要らぬとばかりに婚約を破棄するとは!クローンサイトでのわたくしの立場をご存じの筈でしたのに!幼い頃よりいい関係を築いて来れたと思っていたのは、わたくしだけの思い違いでしたのね!お生憎、わたくしはこの通り傷一つございませんわ!」


「セフィリア」


「気安く呼ばないで。と、申し上げましたわ」


「待って」


「今後、二度と親しくお会いする事はございませんわ。ごきげんよう」


 言いたいことを一気に吐き出して、わたくしは無情に踵を返す。


 彼の言葉に耳を貸すつもりは無い。


 今更何を言われたところで、元に戻る物など一つも無いのだから。






 少し嫌な気分を引きずりながら、わたくしは学園長室の前に立つ。


「セフィリア・オパールです」


「入りなさい」


 ノックして名乗れば、直ぐに入室が許可される。


「面談の許可を頂き、ご厚意に感謝致します」


「うん」


 フェリクス・シュトレーン公爵。


 学園長の役職は、王弟殿下が務めていらせられる。


 柔和な物腰のお方だが、王族らしく、厳しく恐ろしい一面もある。


 シュトレーン王家にはその祖に竜を持つという伝説もあるのだ。


 直系の、血の濃い方ともなると、時折、人とは違う気配を持つ。


「学園長、申し訳ありません。ここに来る途中、元婚約者に出会ってしまい、少し騒ぎを起こしてしまいました」


「うん。君も色々大変だったね。馬車の事故から暫くして、君はもううちの人間ではないからと、クローンサイト侯爵から君の退学の申し出があった。今の君は当学園の生徒ではないから、学園からの罰則は下せないね」


「あ、ありがとうございます」


 ふふ。と少し悪戯めいて微笑まれるフェリクス様に、恐縮頻りのわたくしです。


「こうして連絡をくれたという事は、復学の意志有りと受け取って構わないかな?うちとしても、君のような優秀な学生は手放したくはなくてね。戻って来てくれるなら出来る限りの助力は惜しまない」


「ありがとうございます。お察しの通り、本日は復学のご相談に参りました」


「うん」


「ご存じの通りわたくしはクローンサイトの籍を抜けて居ります。オパール侯爵家からは、後見を頂き、オパール姓を名乗ることを許されておりますが、今のわたくしの身分は平民でございます」


「養子には入らなかったの?」


「はい」


「潔い子だね。私は嫌いじゃない」


 フェリクス様の慈愛の瞳がわたくしに注がれる。


「うん。では、こうしよう。君は奨学生として学園に通いなさい。君のこれまでの成績なら、十分に資格が有る。編入試験も必要無いだろう」


「あの、ご厚意は・・・」


「奨学生には色々特典が有る。卒業後に返金するにしても、大分お得だ。一括返金だと更に割引が有るしね。君の懐具合を心配するのは失礼に当たるかも知れないが、平民として自立するのなら、お金は上手に使いなさい」


「・・・はい」


 強がるわたくしの言葉を遮り、諭すように仰るフェリクス様のご配慮が、心に染み渡るように優しい。


「クラスは今までと同じという訳にはいかないから、Cクラスへの編入になるね。それから、平民寮に一部屋用意しよう。寮の管理人には伝えておくから、直ぐにでも入れるよ。何か困ったことが有ったら、いつでも相談に来なさい」


 Cクラスと言うのは、下位貴族+平民の成績最上位クラスだ。


 上位貴族のクラスが有る学舎とは建物が違うので、うっかり間違えないようにしなくては。


 とはいえ、数だけは居るクローンサイト侯爵家の人間と顔を合わせないで済むのは幸いである。

 まあ、時間の問題であるが。


「はい。何から何までご配慮頂き、深く感謝致します」


 丁寧に深く一礼し、わたくしは学園長室を辞する。





 さて、わたくしは無限収納持ち。


 入寮に準備は必要ない。


 学園内の通達は魔法で為されるので、わたくしに迷いは無い。


 真っすぐその足で敷地の端に有る平民用の女子寮へと向かう。


 案の定、既に連絡を受けていた寮の管理人さんが待ち受けていて、わたくしの今日からの城となる一室へと案内してくれた。


 寮の規則も一通り説明を受け、ハンドブックも渡される。



 寮は平民向けらしく、部屋は一人一室だが、お風呂とトイレは共用のようだ。食堂が有り、そこで朝食と夕食が提供される。休日などの昼食は、事前に申告が有れば用意されるが、自炊も出来る設備が有るようだ。

 成程。


 さて、結界魔法と空間魔法を駆使した、お部屋の魔改造を始めましょうか?


 自重は致しませんわ。


 最低限、お風呂とトイレとキッチンは必要ですものね。




お読み頂きありがとうございます。

感想とか評価とか頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ