19 名産物会議
ちょっと落ち着こう。
昨日自分でもはっちゃけ過ぎているかもと反省したけれど、あの後わたくしがまた領内をエアスクーターでうろうろしていたことをお知りになった叔父様から「楽しそうなのはいいけれど、何事も急ぎ過ぎてはいけないよ」とのお言葉を頂いてしまいました。
遠回しのお叱りです。
はっ!!そうですわ!
急いては事を仕損じるですわね!!
思い返せば、クローンサイト家を出奔して色々興奮状態だったのでしょう。
セントールの美しい珊瑚礁の入江を見た瞬間、前世のマリンレジャーを想起して、観光地化!!
とか、
短絡的すぎでしたわ。
自立を焦る気持ちも有ったのかも知れません。
いきなりエアボール海底遊覧とか作ってみたけど、多分アレ、今のままだとお祭りの時の目玉くらいにしかなりませんわよね。
まぁ、半分は、というか九割九分自分が楽しみたかっただけですが。
マリンレジャーといえば、水上すきーとか、パラセーリングとかも。やった事無いけど憧れはありました。実現はそう難しくはないと思いますが、需要が、ありますかしらね?
あ、水上バイクが必要ですわね。モーターボートでもいいですが。
ボートで思い出しましたが、例の難破船、セントールで修繕を請け負う事になったそうです。急遽その為のドックと港の整備も行うそうです。
あ、何だか大事業に・・・
叔父様、お仕事増やしてしまってごめんなさい。
閑話休題反省の続きですが。
魔道具専門店はガチャしか需要がありませんでしたし。
でもここは少し方針を変えて、魔道具ガチャに力を入れてみてもいいのかも知れません。
一般庶民向け魔道具です。
決して、イケメンのナイトレイ様に市井に広まる事を希望されたからではございませんのよ?
違いますのよ?
前世は魔法の無い世界でしたから、物語の中にしか存在しない魔法や魔法のアイテムが実在したらいいのにと夢想したものです。
この世界には魔法は存在しますけれど、魔力の低い平民の生活には、魔法は無いも同然です。魔法を仕えたとしてもささやかな生活魔法、魔道具は高価で、庶民が手に出来るのは、行政から補助の出ているライフライン、着火、灯火、湧水(前世でいう水道)くらいでしょうか。
慣れると、前世を知る身としてはあまり魔法と感じません。種火と会話出来たらまた違うのでしょうが。
でも、効果がささやかなら何でも作って普及させればいいというものでもありません。
どんな物も使う人次第ですが、最低限、犯罪に使用されにくいものを。
これは、最初にガチャを用意した時にも大変気を遣いました。
ですから防犯グッズ中心でしたのですわ。
ナイトレイ様のお言葉を受けて、少し考えましたの。
既得権益でトラブルを起こさない為には少々価格を上げる必要はございますが、今考えているのは、首から下げられる縦横5センチくらいの巾着袋タイプのマジックバッグです。空間拡張のみで、容量は、縦横20センチの巾着くらいなら、大事な物を持ち運べるでしょうか。ガチャの中にアタリを仕込むのもいいかも知れませんね。容量二倍とか。
コスト削減と一見して魔道具とわからないようにする為に街のお母さん方のお小遣い稼ぎに端切れで巾着を縫って貰うのもいいかも知れません。
使い捨てではないので、ある程度の価格はご理解頂きたく思いますわ。
桁が違っているのはわかっておりますが、前世で言うところの三千円くらいに納めたい。・・・ギリ、五千円・・・かなぁ。
内訳は魔石代、巾着の材料及び縫製料、魔法付与技術料、ガチャカプセル、利益。
原価割れは無いので何とでもなると言えば何とでも成るのですけど、問題は既得損益に気を遣わざるを得ない事なのですわよね。
一般庶民向けと謳った時点でもう既に怒鳴り込んで来る人とか居そうですし。ははは。遠い目。
当分魔道具ガチャはセントール領内のみの扱いで。
実験営業です!!言い張ろう。
そう高くも無いとはいえ、山々に囲まれ、たった一つの峡谷の道を残して大陸から切り離された隠れ里のようなこの領地。
特別豊かとも貧しいとも言えず、ささやかな漁と農業で、その殆どを自給自足で賄っている、穏やかな生活を保っているこの土地で、何の素地も無い状態から、一から観光地化するには、何が必要か。
落ち着いて考えてみないと。
王都から馬車で三日。
観光客を呼び込むには。
・宿泊施設。
・飲食店。
・酒場。
・名産品。
・名物料理。
・観光の目玉と成る物。
大体そんなところだろうか?
一つ一つ考えてみよう。
先ず、宿泊施設。
この地にも商人は来るし、小さいが冒険者ギルドも有るので、そこそこ冒険者の出入りも有り、それなりに宿屋は有る。が、貴族が来た時は領主館を利用している。
観光地化!!
と考えた時、明らかに不足だが、いきなりリゾートホテル!みたいに箱だけ作っても維持費だけの金食い虫に成りかねない。
でも箱が無いと人を呼び込めない。
極力環境破壊を冒さない配慮をしつつ、景勝地に貴族・富裕層向けの宿泊施設を作りたいなぁ。この辺の複雑に入り組んだ海岸線は景勝地の宝庫なのですもの。あまり見向きもされていないのは残念です。
景色だけで呼び込めないなら、食!!
海の幸山の幸の宝庫ではありませんか。
理想的な食材の宝庫です!
王都や海の無い領地の方には珍しいものも多い筈。
地酒もあるそうですし。
食は問題無さそうです。
が。
名産品。
領の名産品として王都や他領へ流通しているのは、主に、柑橘類や、苺、そして塩。海産物に関しては、鮮度や輸送コストの問題であまり取り扱いの無い異世界あるある。むむぅ。
ここは前世知識の出番では?
この世界の文明や技術レベル的に有って不自然ではないもの。
前世の世界で伝統的な保存食など幾らでもある。
海産物なら、普通に干物、燻製、塩漬け、味噌漬け、醤油漬け、糠や麴に漬けるものもある。それから缶詰。
あと、塩は、思ったんですが、グルメ塩なんてどうでしょう?
この世界では、塩は塩としてしか流通していないようですが、そこは、有ったらいいなの隙間産業。商人や冒険者、旅をする人、もしかしたら騎士団とか野営をする人には需要があるかも知れません。
あちこち領内をうろついて、色々見つけて来ました。
山の中など結界を広げつつ「可食植物、菌類」の条件で探索し、山椒、胡椒、お茶の木、唐辛子、山葵、ハーブ&きのこ各種見つけましたの。チートが唸りましたわ。
海でも、あおさ海苔、わかめ、テングサ、昆布、貝類各種に、桜えびに似た小海老も無漬けましたの。
この中からでも数種類粉にして塩と混ぜれば、お手軽調味料に。
それに、ものによっては、配分を変えるだけでお茶とかスープの素に成りますでしょ?
前世では梅昆布茶とめかぶ茶が好きでしたし、粉末の昆布茶と椎茸茶は、お出汁としても重宝していましたの。
「という訳で、用意してみましたの」
・柚子塩
・蜜柑塩
・きのこ塩
・山椒塩
・胡椒塩
・にんにく塩
・抹茶塩
・バジル塩
・山葵塩
・昆布塩
・海老塩
・あおさ海苔塩
・ホタテ塩
・あさり塩
・いりこ塩
それから何故か七味唐辛子。・・・いえ、知ってる材料が結構揃ってたので。
ちなみに、鷹の爪、山椒、あおさ、陳皮、胡麻、芥子の実、麻の実が入っていますの。
あと、ミックススパイスとして、にんにく、胡椒(赤、黒、白)。
そして、缶詰の試作品。
・サバの水煮缶
・オイルサーディン
・あさりの水煮缶
・帆立貝の水煮缶
・缶切りの魔道具
領主館の食堂。
大テーブルの上にずらりと並べてみました。
商品候補の後ろには、わかりやすく採取したままの素材、それを乾燥して粉にする前の状態、粉末にしたものをそれぞれ置いてある。
それから、それらを味見する為に、小さめにカットしたパン、茹でたジャガイモ、茹でてオイルを絡めただけのぱすた、焼き肉、薄味のスープ、白湯なども用意して貰っている。
「勿論全てを商品化する必要は無いですけれど、皆様の忌憚の無いご意見を頂きたく思いますの」
と領主館の皆様にプレゼンしたところで背後に気配。
はっ!これは、またレリックさんのブローチ経由の情報漏洩か~ら~の~、叔父様出現!のパターンですわね?
そろ~り、と、振り返れば、奴が、い・・・た!!
めっちゃ笑顔のオパール侯爵家当主ダニエル・オパール叔父様。
ひー!!筒抜け!
でも悪事じゃないから大丈夫。の、筈!
「また、面白そうなことやってるね」
叔父様暇なんですの!?
言いたいけど言えない。
言ってはいけない。
ので、叔父様には簡単に経緯をご説明。
「これはわたくしの反省を経た再始動ですわ。領地の名産品を梃入れして、ゆくゆくは王都にアンテナショップを開いて、セントールの魅力をもっとアピールして行くのですわ」
夢は大きく。でも一歩一歩確実に。
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