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18 引き渡し




 お昼過ぎに叔父様宛に来客があった。

 カスティエル商会という、例の、難破船の持ち主だ。


 船の状態を含めた確認や、積み荷やご遺体の引き渡し、サルベージに関する費用や謝礼などに関するお金の話や、船の処遇、修理に関する事。等々。


 全て叔父様にお任せしているが、叔父様に付いて少しだけ顔を出した。


 乗員の遺体に取り溢しが無いか、気に成っていたのだ。


 ご遺体は、わたくしの結界で、出来るだけ元のお姿に近付けるよう、でも()()()()()()ようにと復元して、一体一体棺に納めた上で、時間停止機能の付加されたマジックバッグに納めてある。


 予めご遺体を回収してある事は先方に伝えて貰って有るので、顔と人数を確認して貰った後は引き渡しと成る。


 幸い、取り溢しは無かったようでホッといたしました。




「こんな・・・、綺麗な状態で・・・」


「海の深い場所で、水温が低かった事も幸いしたのでしょう。少しでも在りし日の状態に近づければと、魔道具を使用してみましたが・・・」


 完全な復元には至っていない。

 勿論、故意だ。


「いいえ、そうして頂いたところで侯爵様に僅かにも利が有ろう筈も無い事。亡くなった者や遺族達にまでお優しいお心配りを頂きました大恩、このアンゲル・カスティエル、生涯忘れませぬ」


 そう言ってカスティエル商会の会頭、アンゲル・カスティエル氏は地に平伏し、号泣した。


「アンゲル殿、実のところ、遺族を悲しませぬようにと願ったのは、私の姪であるこの娘でね、今も、ご遺体に取り溢しが無いかと心配して、こうして確認の場について来ているんだ」


 叔父様ったら、何で暴露してしまいますの!?


 全てお任せしておりましたのに!


 わたくしの肩を抱き寄せて、アンゲル様に紹介されてしまいました。


 大事な部分は暈していますが、正当な手柄を明かして、危なげない形でわたくしへと、大商会との縁を繋げてくださっているのだわ。


「何と・・・!天使のような。お姿ばかりか、お心映えすらお美しとは」


 うぅ~ん、何ともコメントに困る、感極まるアンゲル様のお言葉。


「お名前をお伺いするご無礼を、お許し頂けましょうか?」


 アンゲル様のご要望に、チラリと叔父様を見上げると、優しい瞳が頷いて下さった。


「セフィリア・オパールですわ。アンゲル様、この度は、本当にお気の毒な事でした」


「いぇ、いいえ。このように、海に沈んだ船から乗組員や積み荷が戻るなど、嘗て例を見なかった事。奇跡としか申しようがございません。況して亡くなった者達にまでこのような恩情を掛けて頂けるなど、わたくしにとって、望外の幸運としか申しようもございません。一体何とお礼を申し上げればいいものかと、感涙に咽ぶ思いにございます」


「いいえ、全て叔父様のお力ですわ」


 この受け答えは、予め打ち合わせているものだ。


 身を護る為に、わたくし個人の能力である事は秘匿し、オパール侯爵家の所蔵する魔道具によるものと見せかける為である。

 

「セフィリアは私の姉の一人娘でね、先頃、故有って姉の婚家を離れて我がオパール家に戻っているんだ。うちもね、あちらとは縁を切っている」


「は・・・」


 王都の大商会の会頭ともなると貴族家の情報など頭に入っているのだろう。叔父様は家名を一切口にされないが、目まぐるしく働くアンゲル様の頭脳が、直ぐに裏事情込みの正解に辿り着いたようだ。


 俄かに強張った顔に、「おっと!コレ、触れたらアカンやつ!!」と太字で書いてある。


 オパール侯爵の姉と言えば。


 ひと昔前に世間を騒がせた、当時の王太子殿下を中心とした恋愛絡みの一大スキャンダルが、先ず頭に浮かぶ。


 政略による正式な、不動で有る筈の婚約者と、王太子殿下周辺の容姿端麗な高位貴族の子息達を手玉に取った世紀の淫売。


 お腹の中に同時に四人の男の子供を身籠るとは、一体どういう事なのか。その事実が一際世間を震撼とさせたのを覚えている。と言うか、普通にありえなさ過ぎて、忘れられる話ではない。


 その二人が、とある侯爵家子息との婚姻に於いて、何の因果か、再び同じような対立構図に。


 実はこの当時、両家の当主が気付いていなかったこの構図に、一部の商人達は気付いていた。


 無論、アンゲルも侯爵家子息と淫売の愛人関係とその子供達の存在を掴んでいた一人である。


 だが世間的には愛人の存在は知られぬまま婚姻は成立。


 正妻となった王太子殿下の元婚約者は令嬢を出産。


 その間も愛人である淫売の子供は驚くべき繁殖力で増殖。


 病弱であった正妻が亡くなった途端、侯爵家子息改め侯爵家当主は淫売とその子供達と共に侯爵邸に強引に乗り込んで住み着き、更に子供の数は増殖し続ける。

 

 このスキャンダルも、密かに市井を騒がせた。


 先頃、ただ一人の嫡子である令嬢が、馬車で事故に遭う騒ぎが無かったか?


 瀕死の重傷を負ったと聞く。


 そのせいか、幼少の頃からの公爵子息との婚約が無くなり、噂によると、傷物となった令嬢が、当主によって悪名高いダンドール前公爵へと差し出されようとしたとかしないとか・・・


 その令嬢が、今、己の前にあらせられる。


 アンゲルの顔色はどんどん青褪め、頬も強張って行く。


 コレ、本当に触れたら命が無い話題ぃぃっ!!


 噂の嫡子である令嬢が生家と絶縁するのは当然の事。


 また、令嬢の実母の実家が、激怒する事も、また、侯爵家と手を切るのも、至極当然の事であった。



「そういう訳でね、この娘の事は、あちらには知られたくなくてね。何しろまた愚かな手出しでもされると困るんだ」


「は、も、勿論の事でございます。わたくしの身命に賭しましても秘密はお守りいたします」


「うん、そう・・・。わかって貰えてうれしいよ。よろしくね」


 誓いを立てるようなアンゲル様の言葉に頷いて、叔父様はわたくしへと視線を向ける。


「セフィリア、そろそろ戻りなさい」


「はい」


 追い出されてしまいましたわ。

 でもこれからお金の話もされるのでしょうから、確かに子供の出る幕ではございませんわね。



 わたくしは、エアスクーターで、もう少し領地を見て回ると致しましょうか。






お読み頂きありがとうございます。

感想とか評価とか頂けますと幸いです。

次回もお立ち寄り頂けますと嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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