16 絶叫系アトラクション
「セフィ姉様~!!」
美しいボーイソプラノでわたくしの名を呼びながら、叔父様の宝物、オパール侯爵子息達が駆けて来る。
五歳のキースフェルト様と三歳のセルバンティス様だ。
はうっ!天使降臨ですわ!!
キースフェルト様は叔父様譲りの黒髪に伯母に当たるわたくしのお母様と同じブラックオパールの瞳、セルバンティス様はお母様であるグロリア様譲りの蜂蜜色の髪に叔父様譲りのファイアーオパールの瞳。わたくしともお揃いだ。
確かな血の繋がりを感じ入るお二人はわたくしの従弟に当たる。
お二人とも未だお小さいながら、将来が楽しみな程天使のように優しく美しい容姿をされています。眼福ですわ。
お二人も例に漏れずエアボールのヘビーユーザーと化しております。未だお二人ともお小さいので、搭乗には護衛も兼ねて必ず大人が付き添いますの。
最初のうちは叔父様ご夫妻が付き合われておりましたが、既にお疲れの模様。護衛の方も交代で順番に付き添われていましたが、今は少し休憩にとご家族でかき氷を召し上がられていたようです。
「姉様姉様もう一回!!」
「お空にバビュン!っていうの、もう一回してください!!」
お二人がわたくしの腰に纏わりつく様にして可愛らしくおねだりされるのは、出発時にエアボールを逆バンジーのように空中に射出するバージョンの事です。
この世界には馴染みの無い、所謂絶叫系アトラクションですわね。
わたくしもお二人にお付き合いする際、そろそろ飽きられる事を心配して、というかわたくしの遊び心とサービス精神が仕事して、先程新たに追加したのですわ。
勿論別料金無しで。
今、ウッドデッキの先に二本の巨大な柱と繋がった長いバネの有る射出専用搭乗口が、その異様な姿を見せ付けておりますの。
体験第一号として三人でご一緒しましたの。楽しかったですわ。
それを目撃した人々の反応は真っ二つに分かれ、子供の大半、特にやんちゃな男の子達は、ぽかんと見送った後、エアボールが海に落下する頃、大分遅れて大燥ぎの大歓声。
「何アレ!?」
「凄ぇ!!」
「俺も乗りてぇ!」
大人達の大半は、顔を青くして、ひたすら引いていた。
叔父様もわたくし達が戻って来るまでは、心配に顔色を悪くしておろおろされていたようですが、わたくし達の笑顔を見て、「次は、俺も乗る!!」と張り合っておられました。
ですので、宣言通り、お二人の後から叔父様が二人の護衛と共にいらっさいました。
護衛のお一人はキースフェルト様の護衛のナイトレイ・ガードナー様、もうお一方は、セルバンティス様の護衛でレスティ・セーバー様。お二人とも成人はされていますが、未だ十代でいらっしゃるようで、なかなかの美丈夫でいらっしゃいますが、燥ぐキースフェルト様達のお言葉を耳にされ、顔色が悪くなっておられますわ。
ご不安でも、意外と体験してしまえば楽しいものですわ。護衛なのですもの、頑張って!
「では、こちらに」
わたくしは御一行様を専用射出台へご案内し、ファミリータイプのエアボールをパチンコのガイド部分にセットして搭乗を促す。
わっくわくで搭乗されるキースフェルト様とセルバンティス様と叔父様。
その隙に必死の形相でじゃんけんをして担当から逃れようとする護衛のお二人。
護衛一人でもいいよな!ではございませんのよ。
そんな事をしていたって・・・
「ナイトレイ」
「レスティ早くぅ」
お二人から呼ばれてしまっては行かざるを得ませんものね。がっくりと項垂れて搭乗し、後部座席に着かれました。
うむ。骨は拾ってやる。
ファミリータイプは、前席に二人掛け、後部に三人掛けのシートを設置してありますが。それぞれ二人掛けは三人、三人掛けは四人座れるゆったり設計ですの。
ですから、叔父様は愛息子達を両手に花のご満悦状態で前部座席に納まっておられます。
「では、出発まで暫しお待ちくださいませ」
一礼してエアボール結界を発動させると、安全の為のシートベルトが出現する。
わたくしはディテールに凝る方だ。
巨大な柱に繋がれた鋼鉄の綱が巻き上げられ、、キリキリと音を立てながら、今は射出台に固定されているガイドに繋いだスプリングを、限界まで引き絞り始める。
この何とも言えない緊張感を齎す待ち時間と音は、絶叫系を愛する者にとっての途轍もないご馳走だが・・・
苦手な人や初めての人にとっては。
地獄。
かしら?
緊張に耐えかねるのか、ナイトレイ様が真っ青なお顔で救いを求めるようにわたくしに縋る様な視線を向けられて来ています。
申し訳ございません。わたくしにはどうする事も出来ません。
手遅れです。
根性決められませ。
レスティ様は涙目で、あぁ、両掌に顔を伏せられてしまいましたわ。泣かないで。
そんなに悲壮感を出されないでも・・・
大丈夫ですのに。多分。
さあ、そろそろかしら。
射出台の少し先、乗客から見える位置に、カウントダウンを表示する大きな電光掲示板の様なものを出現させる。
これは、ウッドデッキ付近に居る人々にも見える大きさだ。
「射出十秒前です。よろしければあちらをご参照ください」
エアボールを覗き込むようにして乗客に告げ、ついでにカウントダウン表示板を指し示す。
「カウントダウンコールを致しますわ!皆様ご唱和くださいませ!」
次いで、声を張り上げ、周囲の人達の注目を集める。
「6!」
「「5!」」
「「「4!」」」
カウントダウンが進むほど、唱和する声も増える。
好きな人には興奮ものの時間だが、苦手な人には以下同文。
「「「「3!」」」」
「「「「「2!」」」」」
「「「「「1!」」」」」
「発射」
最後はクールな一言と共に足元の固定ロックを解除。「ポチッとな」。
「行ってらっしゃいませ」
限界まで引き延ばされた鋼鉄のバネが縮んで撥ね戻る轟音と共に射出されたエアボールへ向かって両手を揃えて最敬礼でのお見送り。
乗客には聞こえる筈も無く、礼すら見えていないでしょうが、そこは様式美というものですわ。
とんでもない速度で射出され、瞬く間に小さくなるエアボールを見送るビーチの人々から大歓声。ぐんぐん遠くなるエアボールからは悲喜こもごもの悲鳴と絶叫の幻聴が。
あ、コレ、傍で見るとヤバイわ。
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