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10 出奔

※一部に下品注意報発令中

ざまあ回です。




 呼び出されたのは南棟の応接の一つだ。


 呼び出したのが当主なのに執務室ではなく応接なのかとか疑問に思ってはいけない。

 仕事をしない人には執務室は必要ないのだ。自明の理である。



「っこの()()()め!!」


 ノックして名乗り、許可を得て入室すれば、開口一番それですか。

 クズは興奮して醜く喚きますが、何の事やらさっぱりです。


「馬車の事故など起こしおって!!醜い傷痕が残る女など要らぬとアサイラム公爵家から婚約破棄を突き付けられ、とんだ恥をかかされたでわないか!!この役立たずの無駄飯喰らいめが!!」


 よぉし、ゴングは鳴った。


「まぁ、それって()()()()()()()()()()()ですわよね、クローンサイト侯爵。しかも後半はまるっと()()()()()ですわ」


「っな、何だとっ!?」


 嘲笑うように微笑みを湛て反論すると、クズは面白いように顔色を変えた。


「まぁ、うっかり口から滑って出たかしら?とち狂った挙句魔道具まで用意して暗殺しようとしたのに失敗で残念でしたねと申し上げているのですわ」


 空っ惚けてさらに追い詰める。


「っな、何を証拠にっ!?しょ、証拠はあるのか!!」


「魔道具なら此処に」


「っは・・・っ!!?」


 掌の上に件の魔道具を魔法収納から出して見せると、クズは今度は胸を押さえて青息吐息である。あらやだ心臓病かしら?


「ど、どうしてそれを・・・っ!!」


「あら、白状されましたのね。事故現場で発見されなくて安心でもされてましたのかしら?」


「ち、違う!!知らん!!私のものではない!!」


「まぁ。魔道具は高価な物ですから、調べれば直ぐに購入者もわかりますのよ?」


 何ともまあ、バレバレのしらの切り方ですこと。

 やはり入れ知恵した黒幕が居るのでしょうか?


「とにかくそんなことなどどうでもいい!!」


 まぁ、キレましたわ。


「そんなこと?侯爵令嬢の暗殺未遂が、そんなこと?有り得ない事を仰いますのね」


「う、五月蝿い!!いつもいつも(さか)しらな事ばかり言いおって!!可愛げの欠片も無い!!っこの!!役立たずの傷物が!!侯爵令嬢だなどと抜かしたところで、お前のような醜い傷物の事にかかずらわる者など居りはせんわ!!」


 まぁ~無茶苦茶なことを仰いますこと。

 ご自分が何を仰っているのかわかっていらっしゃるのかしら?


「傷物傷物と五月蝿いですわね。そんなに傷物に憧れがお有りでしたら、ご自分で体験なさっては如何?殿方の傷は勲章とか申すようですし。股間の、その子作り道具の切断など、お薦めですわよ?」


 意識的に全身から威圧と冷気をコンボで浴びせながら笑顔で凄んで見せれば、クズは「ひィッ!!」と声を喉に詰まらせる。


「っだ、だ、だ、黙れ!!」


 あら、復活しましたわ。


「お前のような醜い娘でも貰ってくださるというありがたい申し出をくださった方が居る」

 

 あら、()()が抜けましたわね。

 それにしても()()()ですか。

 どこに目ぇ付けているのかしら?

 人の美醜は多分に個人の好みと美的感覚に左右されるとはいえ、これでもわたくし、十人居れば十人の人が美しいと言ってくださる程度には美少女ですのよ?

 高い侯爵家の身分とオパール家の特徴への偏見や好悪を差し引くとどうかわかりませんが。

 ・・・あ、ダメですわ、わたくし、弱気になっては!


「ダンドール前公爵様はな、先頃二十三番目の後妻を亡くして色々困っていらっしゃる。当主命令だ!!既に迎えの馬車を差し向けてくださっておる。直ぐにでも失礼の無いようご用意いただいた衣装で着飾って、有難く輿入れさせて頂くんだ!!荷物など纏める必要ない。前公爵様は身一つで来て構わぬと仰せだからな」


 そう。これがクズの切り札でしたのね。

 ダンドール。

 身分は高くとも、いい噂の無い家ですわね。

 取り分け、前公爵など、好色で変態のヒヒ爺じゃないの。あまりの変態ぶりに後妻を貰っても貰っても命を落とされてるとか。

 流石好色絶倫繋がりですわね。


 あれ?ダンドール前公爵って言えば、『ハナヒカ』の悪役令嬢の末路の一つじゃなかった!?

 うぅわっ!!こんな世代が下って迄そんなEND設定が繋がって来るなんて!!

 当時何歳よ!!そして今!!何歳なの!!妖怪かっ!!

 それに、二十三番目の後妻がって・・・

 そんなに被害者が・・・

 困っている色々って、絶対色事関係ですわよね。性欲異常なのは間違いないようですわ。


 このENDの悪役令嬢は前公爵から贈られたエロエロ透け透け意味不明に着ている方がいやらしい拘束具かっ!?っていう花嫁衣裳を着せられて馬車に放り込まれて、着いた途端大量の媚薬ぶっかけられて首輪を着けられた挙句あれよあれよの紅いシーツの円形ベッドの上の二人だけの結婚式では誓いの言葉と共に挿入とか!!どこに誓ってんのかって話だし、ベッドの上拘束具と大人の玩具散乱しまくりだし、どこの成人男性向け変態妄想エロゲーかって、むっちゃ引いた覚えが有るよ・・・って、今ここ一歩手前!!ギャーッ!!

 うぅわ、あの箱変態エロ透け花嫁衣裳!!

 うぅわ!!


 っていうか『ハナヒカ』って18禁系乙女ゲームだったの!?

 関心無さ過ぎて記憶に無いけども!!

 関心無さ過ぎて記憶に無いけども!!

 ・・・アキちゃん四月二日生未明まれ高校一年生。

 学年で誰よりも最年長の女。・・・でも十八歳には程遠い。

 ・・・ゥヲイッ!!


 それはともかく。


 でも大丈夫。

 貴族の婚姻は当主同士の契約。当主の命令は絶対だけど。


「お断り致しますわ」


 キッパリとわたくしは宣言する。


「っな、何だとっ!?当主の命令が聞けないと言うのか!!」


「えぇ勿論その通りですわクローンサイト侯爵。何故わたくしが貴男を態々()()()()()()()()()とお呼びするのか、まだお気付きに成りませんの?」


「何!?」


「見限ることにしたのですわ。超えてはならない一線を超えた方を親と慕う謂われは有りませんもの」


 まぁ親と慕ったことなど()()()()()()()()()()()()が。


「馬車の事故から目覚めてから、わたくしも覚悟を決めましたの。ですから色々と準備を進めていたのです」


「ご令嬢」


 そこでフィッツがわたくしに声を掛け、一枚の書類を手渡してくれる。

 名前やお嬢様呼びではなくご令嬢と呼んだのは、わたくしの身分を濁して匂わせる演出だ。

 ふふ。やりおるな、フィッツ。

 流石フィッツです。

 フィッツ・ジェラルディン子爵。

 忘れませんわ。


「丁度承認頂きましたわ。わたくしクローンサイト侯爵家から籍を抜きましたの。ですから、わたくしの名前はセフィリア・オパール。わたくしが当主と仰ぐのは、オパール侯爵家の当主。わたくしに命令出来るのも、ダニエル様ただお一人ですわ」


 わたくしは、たった今届いたばかりの除籍を証明する書類を見せつけるようにして宣言する。


「そちらの婚姻契約?それに記載のあるセフィリア・クローンサイトという人間は、何処にも存在致しませんの。残念でしたわね」


 わたくしは更にとどめを刺す。


「とは言え貴族の婚姻は家門同士の繋がりを強める為のもの。どうしてもダンドールとの繋がりが必要でしたら、クローンサイト家には代わりがゴロゴロ居りますわね。件のダンドール前公爵様もお優しい方ですもの。花嫁の挿げ替えも、それどころか花嫁が何人であっても、きっと悦んで受け入れてくださいますわ。よかったですわね。お祝い申し上げますわ」


「な・・・」


 底の浅い野望が潰えたのを理解したのか、はたまた、ダンドール前公爵との契約不履行で被る何かでも恐ろしいのか、クズは最早床に崩れ落ちている。


 愚か者め。


 人を呪わば穴二つなのですわ。


 こんな男でもアイラ様との子供には愛情らしきものはあるのでしょうか?

 どうしても娘を差し出すのが嫌なら、いっその事ご自分が贈られた花嫁衣裳を纏ってお詫びにでも乗り込めばいいのです。きっとめくりめく時間の中で新たな可能性の扉が開くのではないかしら。

 少しはアイラ様を休ませて差し上げる切っ掛けが生まれるかも知れませんわよ?



「二度とお目に掛る事が無い事を祈りますわ」


 わたくしは冷ややかにクズに告げて踵を返す。

 そうそう、置き土産を一つ。

 目に入った衣装箱にささやかな悪戯を思いつく。

 ダンドール前公爵からの贈り物だ。


 肩越しにちらりとクズを視線に捉え、クズに向けて結界を発動。続いて収納魔法経由でダンドール前公爵が贈ったという花嫁衣裳を結界に放り込み、気付かれないようにクズのお召し代えを実行。勿論結界の空間支配の作用でクズは自分の服装に気が付けない。


 今日一日その姿でいればいいのです。


 そして今日一日皆の反応に首を傾げ続け、寝る前にでも初めて己の姿にビビればいいのデス。


 本当は侍女達を呼んで強制お着換えとかの方が楽しそうではあるんだけど、妄想は楽しそうでも現実は阿鼻叫喚と、もしかしたら喜悦の入り混じった地獄絵図に成るような気がするし、侍女達の迷惑も可哀そうですもの。

 見たくないものを見せられるどころか、自分たちの手で仕上げるのですものね。

 って、うわっ!!ホントにエゲツナイ衣装!!凄い姿!!微妙に似合っていなくもないところが救いようがないっ!!

 いやいやいや。

 わたくしは見てないわたくしは見てないわたくしは見ないぃぃぃーっ!!


 いや、待て。

 そうだ!映像記録魔道具にちょっと録画しておこう。

 今度何かして来たらこれを公開してやる!!

 ふっふっふ。


 しれっと知らないふりで応接を出ようとして、扉の横に控えているフィッツが目に入る。

 流石のフィッツも顔色を悪くして、クズを見ないように微妙に視線を逸らしている。

 腹筋も小刻みに震えてますが、流石のポーカーフェイスで微塵も悟らせません。


「ゴメンね」


「いえ、いい薬かと」


 すれ違いざまに小さく舌を出して謝れば、同じく小さな声で許容が囁き返される。

 ふふ。共犯です。


「どうかお元気で」


「あなたも」


 それから暫く、主に西棟で阿鼻叫喚とやっぱり喜悦を少々の悲鳴が、時間をおいてあちこちに響き渡ったとかいないとか。


 迎えに寄越されるというダンドール前公爵家の馬車に謝罪という名の言い訳を自らしに行くであろうクズの姿に対するダンドール家の御者の反応が気になる今日この頃。

 必要ですよね?謝罪。当主自らの。で、もう行っちゃいなよダンドール前公爵家~。

 そして自ら生贄に成るがいいのですわ。




 お下品で申し訳ありませんでしたわ。




お読み頂きありがとうございます。

感想とか評価とか頂けますと幸いです。

次回もお立ち寄り頂けますと嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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