出ていけー!
ユリウスはドレスの胸元に手を入れて、ゴソゴソとまさぐった。そして取り出したのは手のひらサイズの手榴弾。
備えあれば憂いなし。下着と一緒にいつも身につけている特製手榴弾である。
「ロミオ!」
ユリウスはロミオに呼びかける。
ロミオはこちらを見向きもしない。ジャンボルトの攻勢に押されて、それどころではないのだ。肩で息をして、電子銃にかすったのかタキシードが所々破れている。
しかし、聞いてはいるだろう。ユリウスは言葉を続ける。
「これから全ての機械の動作を止める妨害電波を出す。そうすれば、ジャンボルトの電子銃は使えなくなる。ついでに、僕たちの翻訳イヤリングも使えなくなるし、他にも隠し持っている僕の色んな発明品も使えなくなるし、この辺一帯の機器が全部停止する!」
だから、妨害電波を出すのは極力やりたくなかったのだが……。しかも機器を痛めるし……。だがこの際、やるしかない。
「機械を止めている間に、何とかするんだ。いいね!」
「分かった」
ロミオが短く返事をする。しかし、すでに何を言っているのかユリウスには分からなかった。
手榴弾を投げたのだ。殺傷能力はない。爆発する代わりに、精密機器を停止させる妨害電波を発出する。名前は妨害野郎マーベラス。略してボマー。命名は自分。
耳をつんざくような音がして、全ての機器が止まる。大聖堂の照明が落ち、豪華な装飾が施されていた室内の本当の姿が露わになる。
崩れ落ちそうな石壁。床は大理石ではなく、汚れが染み付いた木の板だ。聖堂に並ぶ女神像に宝石なんてついていないし、ステンドグラスは割れている。
今まで見ていたものは全て、精巧なプロジェクションマッピングだ。
こういった技術を知らない青藍公国の人々は、美しい大聖堂の姿を真実だと思っていただろうが、全て虚飾だ。
緋の国は貧しい。王家の結婚式すらまともに彩れないほどに。
一枚皮を剥がしただけで露わになってしまうみすぼらしい姿が、ユリウス自身に重なる。
「余計なことを!」
ジャンボルトは苛立たしげに短銃を床に捨てた。
その隙にロミオが剣を構え、攻勢に出る。ジャンボルトもすでに剣に切り替えている。
ジャンボルトとロミオが打ち合い、金属音が大聖堂に反響する。しかし、
「銃なんて使えなくても、私の方が強い」
ジャンボルトが一際大きく振り被り、剣を大きく振り払った。
一際大きな金属音が響き、ロミオは剣でそれを受け止めた。しかし、
「ぐっ……」
ジャンボルトの勢いを受け止めきれず、ロミオは体ごと弾き飛ばされた。剣は手を離れ、宙を舞った。
膝をついたロミオの首元に、ジャンボルトが剣先を突きつける。
「ここまでだな」
「くっ……」
「ロミオ!」
ユリウスは叫んだ。
ジャンボルトが一度剣を引き、ロミオに向かって振り下ろそうとする。
その時だった。
「馬鹿者どもー!!」
ニノ神父の強烈な一喝が響く。
「神聖なる聖堂で争い、あまつさえ殺人まで犯そうとは。たとえ神が許したとしても、ワシは絶対に許さんからな!」
「ニノ神父殿、これは国を守るために必要なことで……。決して殺人などでは」
ジャンボルトが言い返すがそんなことでニノ神父は止まりはしない。
「うだうだ言うな! そんなもん知るか! ワシは国より聖堂の方が大事じゃ!」
それはそれでいかがなものだろう。
ニノ神父の強烈な自己主張にジャンボルトもやや押され気味だ。
「全員聖堂から出ていけー!」
ニノ神父が癇癪を起こして叫ぶ。
「出ていけー!」