第6.5話 少しふり返ってみよう
完全に日も暮れて、薄暗くなっている自分の部屋。
「うぅ…やっぱりレオナさんの所へ寄ったこと、正直に言えばよかったな」
夕食を済ませた僕は今日何度目かもわからない後悔をしていた。「たぶん大丈夫だろう」と軽い気持ちで挑んだのが間違いだった。いつも腹一杯になる程食べている母さんの作る晩ご飯をあんな重たいモノを入れた胃でいつも通り食べようなんて最初から無茶だったんだ。
横になるのも苦しいし、僕は極めて使用頻度の少ない勉強机の椅子へと腰掛けた。
「本当に、ただの思い込みだったのかな…」
そのまま僕は灯りも点けずに薄暗いままの部屋の中で、窓から見える星空を眺めながら今日のことや彼女のことについてあらためて真剣に考えてみる。
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始まりはあの不思議な夢。
一体いつからだったのか。僕はそれを物心ついた頃にはもう視るようになっていた。物語が綴られるように。不定期に断続的に。
十年以上もかけてようやくその夢は結末を迎えた。そしてその日、僕の目の前に夢の中で出てきた哀しい眼をしたあの優しい魔王と瓜二つな女の子が現れた。その娘は『ベルディスティア』という姓を持ち、近場へ越してきたと言っていた。
それから数日が経った今日。その娘は編入生として学園へとやって来た。偶然にも多数あるクラスの中でちょうど僕が在籍しているクラスへと。更にこれまた偶然にも彼女の席は僕の隣になり、比較的近い距離で学園生活を送れることになった。
そして放課後。偶々立ち寄ることにした馴染みの軽食屋『キャッツ・テラス』で再び偶然彼女と遭遇して………………うん。
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まぁとりあえず結果だけ言えば、彼女は僕のことを特に意識していたりとかそんなことは無かったワケだけど、こうして思い返してみれば出来過ぎなくらいに偶然が重なっていた。そう。なにか運命とかそんな大きなチカラが働いているみたいに。
「いや。やっぱりただの偶然じゃないんだ!」
それでもまだ確信ではない。けどそうとしか思えない。いや、そう思いたい。
不安を押し込めるように僕はそんな気持ちを口にして自分自身へ聞かせる。
『でも、どこか別の世界。来世のキミなら……』
そうして自分の中の疑念を再び確信へと変えようとした時。ふと、どこかで聞いた……いや、夢の終わり際。確かに聴いた彼女の言葉がどこからか聞こえた気がした。
咄嗟にその方向へ振り向くが、目に入るのは当然ただの壁と机に備え付けられた小さな書棚だけで、特に何もないし誰かが居るわけでもない。
「あっ。これ…」
けれど、そこで僕の懐かしいモノを見つける。
「懐かしいな。小さい頃よく見てたっけ」
それは古めかしい1冊の絵本。というか実際古い。使われている文字は他では見たことがないもので全く読めないし、町が管理している大書庫や書店でも同じモノどころか翻訳されたモノ……いわゆる写本すら見たことがない。
そんなものがどうして僕の家にあるのかはわからないけど、小さかった時の僕はなぜかこの本をとても気に入っていたみたいで、父さんから譲り受けていた。
僕は部屋の魔導灯を点けて、懐かしついでにその分厚い絵本を開いてみる。
「うーん。やっぱり全く読めない。いったいどこの言葉なんだろ?」
だろうとは思っていたけど、ある程度学園で語学を学んだ今でもこの本の文字は全く読めなかった。とは言っても、絵本なのである程度の話の流れくらいなら読み取ることができる。ざっくりと言うと、よくある勇者の物語だ。ただ、こうしてあらためて見返してみると、この本は描かれた時代の違いによるものなのか他の物語とは少し雰囲気が違っていた。
どう言えばいいのか、勇者が国や町を救う場面以外も多く描かれていて他よりページ数が多いのはそうなんだけど、どこか目的が違うというか。なんだか内容が『冒険譚』というよりも勇者の『日誌』に近いようなそんな気がした。
そんなことを考えつつ、懐かしみながらページを捲っていっていたのだが、まだ半分もいってはいないところで僕の集中力は切れてしまった。
「ふぅ…。というか、よくこんな分厚い本をずっと飽きずに見てな。僕。今じゃ話題になったのをちょっと見てみるくらいだもんな」
僕はそっと本を閉じて、天井を仰ぎ見ながらわけもわかってないままにこんな本を熟読(?)していた幼かったころの自分に感心した。
「……あれ?もうそんな時間なんだ」
そしてふと気が付けば、そこそこ時間も経っていてようで家の中は静かになっていた。
「明日も授業があるし、そろそろ寝ようかな」
時間が経ったおかげで苦しかったお腹の方も落ち着き、ちょうどいい感じに読書疲れで眠気も来ていた僕は本を棚に仕舞ってベッドへ移った。魔力供給を止めた魔導灯は時間差で消えて部屋も暗くなり、それにあわせて僕も目を閉じた。
(ミレスティナさんのことは考えてもやっぱりよくわからないし、まずはとりあえず仲良くなれるようにがんばろう)




