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隠居した魔王様。異世界で勇者の彼女になります!  作者: さっぷ
閑話 あの人のあんな話とかこんな話とか
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裏話 誕生☆ニック先生(2)

前半のあらすじ……

なんか呼び出されて云々かんぬん


 陛下にイジられる同期(ルイス)をながめること小一時間が経過した。

 机にはポットと3人分のティーカップ。それとルイスが持ってきた書類が所狭しと広げられている。


「と、いうことだアレックス。お前にはこの情報を元に調査を進めてもらうことになる」


 内容も一通り浚い終わり、陛下が一言締め括る。


 聞き終えた僕は机に並べられた書類に目を落とし只々驚嘆するばかりだ。 

 前世の記憶を持っているという“転生者”。何らかの要因で異世界から流れ着いた“異世界人”。これらの者たちを募り探し出し、そしてそこから他の世界の情報を聞き出して予言の内容に該当するであろう存在を洗い出す。更にはその存在についての情報まで可能な限り調べ上げ、詳細と供に彼我の戦力差を加味した脅威度まで振分けている。

 たった十数枚の書類ではあるが、これを用意するのにどれだけ多大な労力が費やされたのかは想像に難くない。


「よくもまぁこれだけの量を探して調べてきましたね」


 さすがにこれは素直に賞賛するしかない。


「どうだ?儂にかかればこの程度のこと造作もないことよ」


 ……と思わなくもなかったが気が変わった。どうにかしてこの鬱陶しいドヤ顔を恥ずかしくさせてやろう。

 どうすれば上げたところから落とせるかを考えようとすると、どうやらその必要は無かったようだ。


「えぇ、陛下直々に懸賞を掛けて募ったのは効果絶大でありましたね」


 僕がなにもしなくても、横に居たルイスが悪気無く台無しになるようなことを挟んできてくれた。


「おぃっ!余計なことを……」

「いやぁ流石ですね!確かに陛下の権力と財力(おちから)の前ではこのような事、些事でこざいましたね」


 陛下の誇らしげな表情が崩れたところへすかさず満面の笑みで賛辞を送り付ける。

 なにやら恨めしげな視線を向けられているがそんなものは知らない。僕はただ人間の欲をついて合理的に情報を集めた陛下の手腕を讃えただけなのだから。


「ゴホンッ!でだ。アレックスよ。お前にはこの情報を元に調査を進めてもらう訳だが……」


 一体どうしたのか?何かを誤魔化すように陛下は咳払いをしてさっきのやり取りを無かったことに…………と、まぁ冗談もそろそろ控えて話を進めようか。


「ええ、学園で教師ごっこに興じながらそれとなく適当にやらせていただきます。詳細は任せて頂いてもよろしいですよね?」


 先のやり取りで学園への手配についても事後であろうことは察するところだが、一応方針決定等の権限についてと併せて確認をとる。


「『教師ごっこ』か……。そうだな。現場での動きは全てお前に任せる」


 その辺りに心配はしていなかったが、無事に現場単位での自由行動は認められた。それにしても、僕の言い回しになにか懐かしく思うところがあるのか少し感慨深そうだ。


「それで、だ。お前に渡しておくモノがある。ルイスよ」

「はっ!」


 陛下が自身の過去に思いを馳せたのも一瞬。

 今回の辞令にあたって何か用意していたようで、声を掛けられたルイスが一枚の封筒を取り出した。

 僕はそれを受け取り封を切る。


「なんですか?コレは」


 中に入っていたのは一枚のカード。


「現役軍人であるお前がそのまま学園に勤めるわけにはいかぬであろう?だからだ。儂の方で仮の身分証を用意しておいた」

「いえ、そういうことではなく……」


 それは『冒険者協会 組合員証』。いわゆる冒険者カードだった。


「どうして私は冒険者にされているのでしょうか?」


 これが今はここにあるということは、僕は知らない間に勝手に冒険者として協会に登録されているということになる。『ニック=アクセル』という名前で。


「それは……その、なんだ。そのほうが色々と動きやすいであろう?」


 僕の率直な疑問もとい抗議に取ってつけたように陛下はなにか言っているが、まったく説明になっていない。目が泳いでいるし、確実になにか私情を挟んでいるだろう。


「もしかして御孫さんの件。王妃様には内緒で?」

「ぅぐ!」


 それっぽい理由を推測して突いてみれば、見事に図星だったようだ。


「し、仕方ないであろう!リーゼシアの奴は後継はバカ息子共の内の誰かにすると言って聞かんのだ!話せるわけがなかろう」

「国政に関わることとは言っても、そういった家庭事情に他人を巻き込まないでいただけますか?」


 見事に情けなく狼狽する陛下。

 妻を口で説得できないからと冒険者として学園の臨時教師にされるとは……。やらされる身にもなってほしい。 


「アレックス!恩師(せんせい)……陛下が本気でお困りになっているというのに、お前はチカラになりたいとは思わないのか!」


 何を勘違いしているのか。さっきまでと変わらない僕の軽口に横のルイスが憤慨し始めた。

 実際問題、日々欲に塗れた貴族共の相手をしている王妃様を相手に口でどうこうしようというのは無理があり過ぎる話で、陛下が裏で気取られないように動こうとした気持ちも理解できるし、孫を推そうとしている理由についても、貴族界で育って残念なほどに思想が染まってしまった息子達を知っていれば言わずもがなだ。


「思っていなければ今ここには居ませんよ。実際。陛下が勝手に登録していなくても、後日自分で向かうつもりでしたし。偽名が本名を捩った安直なモノであること以外はむしろ手間が省けたくらいで、別段文句はありませんよ」


 わざわざ同窓の友(ルイス)から諭されずとも最初から協力するつもりだ。……文句が無いというのは多少嘘になるところではあるが。


「お前は本当に昔から変わらず素直ではないな」

「自分に正直なだけですよ」


 察しの悪い友人の為にわざわざ本心の一部を口にすれば、案の定性格の悪い師に茶化されてしまった。

 ルイスの奴ももう長い付き合いなのだから、そろそろ上手く察して欲しいものだ。まぁ、それで図らずとも話がまとまる方向に向いたので良しとしよう。……元から半ば強制のようなものなので揉めるか揉めないかの差しか無かったが。


「ではアレックスよ。この件についてお前は引受けてくれるということでよいのだな?」


 平静さを取り戻した陛下が話を締めに入る。

 魔法を維持し続けるのも疲れるし、色々とこれからの準備も大変なので僕も伝えることを伝えてさっさとお暇するとしよう。


「ええ。それで陛下。私を学園へ派遣するにあたって、手配しておいて戴きたい件が……」


 僕は広げられた書類を片付けながら陛下へ話を切り出す。


「なんだ?わかっているとは思うが、あまり大掛かりなことは出来ぬぞ」

「大丈夫です。そんな大した事ではありません。陛下に()()学園側へ掛け合って戴きたいだけですので」


 僕の申し出に対し、陛下は否は無いが限度はあるぞと念を押す。

 まぁ王妃様のことがあるので、僕もそれは承知済み。

 僕は前もって用意しておいた一枚の紙を片付けたテーブルに陛下へ向けて差し出す。

 陛下はその紙を手に取り一読する。


「ふむ……。お前がクラスを1つ任されるようにし、そこへ『シルヴェスター』とここに記されている『ミレスティナ』という娘を在籍させるよう手配すればよいのだな?よかろう」

「ありがとうございます」


 僕が用意した要望書に陛下は二つ返事で了承してくれた。

 要望の内容は陛下が読み上げた通りで、件の御孫さんこと『シルヴェスター』の教育と……


「して、この『ミレスティナ・エルフィール・ベルディスティア』という娘は何者なのだ?」

「その方は私の方で目星をつけた要調査対象です」


……事前調査で偶然見つけた最重要調査対象の観察をより行い易くする為に、授業を看るだけでなく、その二人を含めたクラスを一つ担当させて欲しいというもの。

 理由は、直接担任となれば対象に対して干渉を行い易いのと他にも色々と都合が良いからだ。


「流石だな。一体どこまで先手を打っておるのやら……」

「ハハハ。陛下程ではありませんよ。それに、私の方はもうこれでネタ切れです」

「どうだかな……」


 僕の準備の良さに賛辞を送ってくれる陛下であるが、この人から言われてもただの世辞にしか聞こえない。

 なにしろ。ここまでのやり取りの中で本気で驚いていたのはルイス一人だけで、陛下からしてみれば殆どのことが想定済みであっただろうから。いったい今回の任務には他にどんな面倒事が隠されているのやら……。


「で、ルイスよ。お前は何にそこまで驚愕しておるのだ?」


 僕の謙遜に疑いを向けつつも、陛下は追求せずに僕の隣でなぜか暑くもないのに多量に汗をかいて挙動も怪しいルイスへその理由を訊ねた。


「あっ、いえ。その……ですね。」


 彼はきっと陛下には()()()をしていかったのだろう。陛下に訊ねられて動揺を更に加速させ、説明しようにも言葉が詰ってまともに話せなくなっている。別に隠していたわけでもないし、ましてや叱責されているわけでもないのに何をそこまで慌てる必要があるのか……。仕方ないから帰る前に少し手助けしてあげようか。


「あぁ、そういえばルイス。貴方も前世の記憶とやらを有していましたね。たしか、前世でも軍の指揮を執っていたとか。その前世の世界での魔王。かなりの力を有していたそうですね?名前はたしか……魔王『ベルディスティア』といいましたか。で、彼の者には娘が居たとか居なかったとか……」

「ほぅ?」

「ぉ、おいっアレックス!!」


 陛下の疑問へ順を追って説明するように僕が答えを代弁してあげれば、陛下は面白そうに微笑を浮かべ、動揺のあまり固まっていた情けない友人も復活した。


「さてと。それでは陛下。色々と準備もありますので、私はそろそろこの辺で」

「うむ。頼んだぞ」

「ええ。期待に添える程度には頑張らせて頂きます。それでは」

「待てアレックスッ!どうするんだこの状況!」


 なにやらご立腹な様子の友人は気にせず、挨拶もそこそこに僕は魔法を解除して部屋を出……


「……っと。そういえば陛下。もうじきコチラへ王妃様がお訪ねになると思いますので、諸々ご健闘お祈りします。それでは後はお二人でごゆっくりどうぞ」

「なに!?リーゼシアが?どういうことだアレックス!おぃ待てアレックスっ!アレックスっ!!」


……る前に陛下にも置土産を残して、晴れやかな気分で王宮を後にした。




 後日、アステリア王国シルファリエス領エルフォートの町にあるイルゼシア王立学園に『ニック=アクセル』という一人の冒険者が教員として着任した。

こういうわけで

先生は先生になったとさ。


こういう話も要望があればちょくちょく書いていきたいと思いますので、

よければ感想や評価・コメントいただけたらなーと思います。

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