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隠居した魔王様。異世界で勇者の彼女になります!  作者: さっぷ
序章『出逢い』Side ミレスティナ
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第5話 猫達の憩場

 学生には不釣り合いな案件から逃げ……学園から帰る道の途中。


「へんな話に巻き込まれてなんか疲れちゃったわねー。夜まではまだ時間があるし、どうしようかしら?」


 まっすぐ帰るという選択は最初から無く、横道に逸れて町中を散策していた。

 学園付近は学生たちの昼食戦争もあって、食事を提供している店がたくさん列んでいる。以前、下見の時に何件か寄ってみたけど、味は不味くはないという程度で、どれも学生向けということもあって量と値段に重点を置いている様子。

 そこから道を一つ入れば民家の並ぶ住宅街になる。商業区から外れているものの、何分大きな町ということもあって近隣の住民向けの小さな商店などか多数点在している。少し見てみたところ、こちらは商業区とは毛色が違って本当に現地向けといった感じで、品質はむこう(商業区)には及ばないものの、稼ぎの少ない庶民でも手に取りやすい手頃な価格で品物が提供されている。一般の住民に混じって冒険者の姿もみえるのがまた少し面白い。

 中心地だけでなく、こういう外れにもしっかり活気があって本当にいい町だ。

 で、こんな所にも冒険者が居るということは当然彼らのための集会所(ギルド)もあるわけで、ワタシは用事を思い出して集会所に隣接するとある店に足を運んだ。


『キャッツテラス』

 肉球ペイントのあしらわれた可愛らしい看板と周囲とは一風違う清楚な外観と大きな窓から見える大量の酔っぱらいが特徴的な愉快な食事屋だ。


「さぁ、覚悟は出来てるんだろうね」

「「ユッ、ユーフェリウス様ぁ!!」」


 ……今日はなにかそういう日なのかな?

 扉の無い出入口に立つと目に映る、前回にも増して混沌とした店内。一体今度は何をやらかしたのか?気を失ったユフィ君が店主のお姉さんに奥へ連行されようとしている。そしてあの強烈な小物臭のする取り巻き達は悲愴な感じに声を上げ、周囲の酔っぱらい達はなぜか黙祷していた。

(なにこれ?どういう状況?ユフィ君がなにか失礼したのはわかるけど、どうしてみんな助けようとしないの?アレ、なんだかそのまま殺っちゃいそうな雰囲気だけど……。あぁ、もう!とりあえず)

 本当によくはわからないが、放っておいてはイケナイことだけはわかる。

 ユフィ君を助けるのは癪だけど、ワタシは一度店主さんを落ち着かせるためにある魔法を行使する。

(清浄なる癒しの音色で荒れ(すさ)みしその精神(こころ)を浄めん。ピュリフィケーション・オブ・ハート)

 口には出さないが、心の中で苦手な聖系統の浄化魔法を唱える。


 リーン……  リーン……


 魔法で具現化された鈴の音が響き渡る。

 店の中も外も、その音意外の一切の音が消える。

 そして気付く。

(……また、やりすぎちゃった?)

 今の魔法は浄化魔法を相手の精神にも干渉出来るようにアレンジしたもので、その性質上何かを媒介させる必要があり、今回は咄嗟に音を使ったのだが……

(どうする?どうする?入る?引き返す?どっちも被害者だらけよ?いや、中の方がまだ少ないかな?よし!行こう。そうしないとそもそもこんなことした意味が無いしね!じゃないとただやらかしただけになってしまうわ!それなら前に進みましょう)

 立て続けに発生する問題に少し怯んでしまったが、これから外で起きる騒ぎに巻き込まれたくな……じゃなくて、覚悟を決めてワタシは店内へ入ることにした。

 そう。普通に。普通を装って……て、あれ?もう状況が普通じゃないけど、普通ってなに?


「あー、えっと……ごめんくださーい」


 よくわからなくなった結果、しなくてもいい自己主張をして見事に注目を集めました。あー、なにやってんのワタシ!

 酔いが浄化された元酔っぱらい達に注目されてかなり気まずいが、ここは堪らえて足を進めようと……


「ミレスティナさん!?」


 すれば、奥の方の席からなにやらワタシを呼ぶ声が。

 そっちへ視線を向けてみると、ユフィ君と同い年くらいの男女の二人組が居た。

(ん?えっと…、誰だっけ?最近どこかで見たような…見てないような?あれ?)

 気の強そうなお嬢様と質素……素朴で薄い少年。すごく不自然で不思議な組み合わせの二人組。

 ワタシの名前を知っているということは知り合いなのだろうけど、全くといって記憶に無い。いや、まぁ今日知り合ったクラスメイトなんて半分も覚えてないんだけど……。たぶんその中の二人っぽい。


「ん?あぁ!この間の嬢ちゃんじゃないかい!」


 ま、まぁ覚えていないものは仕方無いので置いておくとして、店主さんの方に話を戻しましょう。

 ()()の弊害はあったものの、無事に店主さんは以前会ったときの気立ての良いお姉さんに戻って、裏表のない純粋な笑顔でワタシを迎えてくれた。

 なにか残念なモノが適当に投げ捨てられていたけど、そっちは気にしないでおこう。うん。そうしよう。


「さっそく来てくれたんだね。いやぁ、この間は助かったよ。おかげで要望(リクエスト)をくれてた冒険者の子らも大喜びさ!あっそうだ!今日はなにか食べに来てくれたんだろ?すぐに用意するから、どこか適当に空いてる席に掛けといてくれよ」


 迎えてくれたのはいいんだけど、その勢いも先日会った時と変わらずで、ワタシが返事をする間も無く一方的に言うだけ言って店主さんは奥の厨房へと戻って行ってしまった。


「えっと…、空いてる席ってどこも空いてないんだけど」


 言われて店内を見渡せば、空いてるテーブルなんて一つも無い。席は空いているには空いてるけど、どこも誰かと相席する形になる。

(店主さん。やっぱり料理以外は大雑把ねー)

 正直、この店は一般の女性が立寄るには少しハードルが高い。その理由はもちろん主だった客層にある。

 店内に居る客の8割程は何かしらの武器を携えている。つまり冒険者なり衛兵などの兵士職の人たちになる。そしてもちろんその内の……いや、その他も含めて大半をおじ様方が占めていて、むさ苦しいことこの上ない。

 つまりはどういうことか?はい。あるテーブルを除いてどこに座っても見知らぬおじ様方と相席することになるということです。

(普通に考えてダメよね。実際冒険者にはなったことはないからわからないけど、それでも若い女の子がね?うん。絵面からもうダメだと思うのよね。そうなるともう他には無いんだけど…)

 「こっちどうだい?」と、さけぶおじ様方をスルーして実質一択の選択肢に意識を向けてみるのたが、視線まで向けることは少し躊躇する。それはなぜか?

(髪留めで後ろに髪を束ね上げてるあの娘。名前は覚えてないけど、さっきからすごく視てるのよねー。やっぱりさっきのアレのせいよね?)

 たぶんクラスメイトの二人組の片割れ。お嬢様っぽい方がワタシの方へ物凄い疑いの眼差しを向けているからだ。また、その理由に心当たりしかないからなんとも言い難い。

(うん。あそこもムリね。すでに今日一日やらかし過ぎちゃってるし、これ以上不用意にトラブルに近付くのは避けましょ)

 やっぱり選択肢は一つも無かった。

 というわけで、最後の希望として席が空かないかと例の席とは視線を合わせないようにしながら少し待機してみる。

 だがしかし。まだ日も暮れていない時間にそんな希望はどこにも無かった。

(だめだわ。店主さんの悪感情と一緒にみんなの摂り過ぎたお酒を浄化しちゃったみたいで、みんないい感じに呑みなおし始めちゃってる)

 まさかの酔っぱらいたちの復活。たしかにさっきの魔法は浄化対象を拡大させただけなので毒や呪いなんかも浄化できてしまうが、酔いまで治してしまうのは予想外だった。いや、仮に予想できてたとしてもこの事態までは予想できなかったけど…。

 まぁそんな感じで動くに動けず立ちつくしていると、店員のお姉さんが一人悪戯な笑みを浮かべて近づいて来た。


「ニャニャ?どうかされましたかニャン?」


 尻尾をゆらゆらさせながらわざとらしい口調と笑顔で声をかけてくれる可愛らしいエプロン姿の猫系獣人のお姉さん。

 一見傍から見れば、困っている客への対応をしに行っている風に見えるかもしれない。けれど残念ながらそうではない。


「お客さん。攻めるときは積極的に攻めていかないといけませんよ?オスなんて単純な生き物なんですから、遠慮なんてしてたらあっという間ですよ?」


 ワタシの耳元まで顔を近付けて小声でそんなことを耳打ちするお姉さん。

 はい。実際はかなり下世話な冷やかしです。ありがとうございました。

 確かにそっちの席は意識していたけれど、そういった方向の意識は微塵もしていないのにとんだ勘違いだ。この感じだと勘違いしたまま向こうの方にもなにか言い出しそうだし、ちゃんと訂正しておかないと。


「別にそういうのじゃなくて…」

「恥ずかしがらなくてもいいニャ。ささっ♪このミケちゃんが背中を押してあげますから、ガンガングイグイいっちゃいましょう♪」

「えっ!?いや、ちょっと待って、話を」


 ダメでした!

 残念なことにこのお姉さん()人の話を全く聞いてくれないタイプだった。相手の意向など最初から問うつもりも無く、一方的にガンガングイグイ善意(?)を押し付けてくる。

 ウェイトレスのミケさんはワタシが謎の勘繰りを否定しようと顔の前に出した手を掴んで、近寄り難い雰囲気の漂うテーブル席へとそれはもう楽しそうにワタシを引っ張って行ってくれる。

(いや、ちょっと待って!気まずいから。すごく気まずいから!せめて、せめて心の準備だけでもっ!)

 ただでさえ注目を集めている中ではしたなく騒ぐ度胸はワタシには無く、心の中で抗議しながら少し抗ってみせるが、そんなワタシの些細な抵抗もむなしく。ワタシ達は問題の席にたどり着き、ミケさんは声を躍らせて先客へと声を掛けてしまった。


「すみませーんお客様ぁ。コチラ相席よろしいでしょうかー」

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