前世のユメ
−荘かに飾られた広い空間の中、彼女は居た−
−据えられた玉座に座る彼女は何かを憂いた表情をしていた−
−夢の中の僕は彼女の元へ何をしにいったのだろうか?−
−夢の中の僕は勇者だった−
−彼女は魔王と呼ばれていた−
−だが、僕は彼女を前にして剣を抜くことはなかった−
−僕は必死に彼女へ何かを訴えかけていた−
−ただ彼女は悲しさと嬉しさの入り混じった様子で優しげに僕へ答え続けた−
−僕は剣を捨てて彼女を呼んだ−
−彼女は応えた−
−彼女の唇が不意を突いて僕の唇へと重なった−
−彼女は瞳を潤ませ告げた−
−「ゴメンね。この世界ではワタシはキミを護ってあげられないんだ。でも、どこか別の世界。来世のキミなら……」−
…………その言葉が僕の脳へと届くとともに辺りは光に包まれ、僕の意識はそこで途絶えた。
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「また……いつもの、夢」
視界に映るのは、毎朝丁度良い角度で光を取り込んで僕を起こしてくれる日除けの無い小窓の付いた壁と見馴れた天井。外から聞こえてくるのは、聞き慣れた鳥の鳴き声や馬車の駆ける音。漂う空気は穏やかで町は平和そのものであり、その普段通りの情景が、さっきまで視ていた情景を夢であると改めて強く自覚させる。
幼い頃から時折不思議な夢を視る。夢の中では自分は別の人物になっていて、明らかに夢だと分かるものなのだが、実際に自身が体験しているかの様な妙なリアルさがある。
「夢……なんだよな」
その証拠に、今もまだ唇に優しく触れた柔らかい感覚が残っている。
夢で起きたことが忘れられずにしばらくぼーっとしていると、扉の隙間からお母さんの作ってくれる朝食の匂いが入ってくる。
「おーい、ウィル。起きているか?朝食ができたぞ」
「すぐ行くよ」
そして扉の向こうから父さんの呼ぶ声が聞こえてきたので、僕はすぐに着替えて部屋を出た。
「父さん母さん、おはよう」
「おはようウィル。昨日はなんだか、またうなされてたみたいだけど大丈夫?」
「うん。大丈夫。またいつもの変な夢だよ」
「本当に何なのかしらね?これ」
「さぁな。教会や医者に診せても異常は無いと言うし…」
部屋から出て挨拶をすると、心配して気遣ってくれる優しい両親。
以前に同じ様に夢を視ていた時に、僕は覚えていないのだけど、夜中に寝言で叫んだり泣いていたりしたそうで、それで心配した両親に不思議な夢について相談したことがある。その時に町の医者や教会の神父様に調べて貰ったが、結果はその正体も原因も不明。何も判らなかった。とは言っても、実害はほとんど無く、時折とても寝苦しそうにしている程度なので、不安かと訊かれるとそうでもなかったりする。むしろ夢の中では現実では経験出来ないような体験が出来るので、ちょっと楽しんでいたりもする。
「あっ、そんなことよりご飯できてるんだよね?早く食べないとスープが冷めちゃうよ?」
「あ、あぁそうだな」
「そうね、ごはんにしましょう」
とりあえず夢の話は一旦ここまでにして、僕は朝食をいただくことにする。
一応言っておくと、僕の家は裕福でも貧しくもない一般的な中流家庭だ。いや、家庭内の空気は暖かいし、むしろ恵まれている方かな?
と、まぁ僕『ウィル=ヘンディ』は現実ではごく普通な一般家庭のごく普通の学生だ。特に秀でた能力も無ければ特別な家柄やそんな血筋でも無い。平凡な一般人である。この後に訪れる出会いさえ無ければ……。
コンッ コンッ
家の入口の戸が軽く叩かれる音がした。
「ん?こんな朝から誰だろうな?」
「さぁ?お父さん、お願いできる?」
「あぁわかった。えーと、どちら様でしょうか?」
来客の対応をする為に、父さんが戸を開いた。その扉の先には……
「あっ、朝食中にすみません。今日この町に越して来ました……」




