八章
僕はそのことを、自宅の電話で知らされた。深冬と会った翌日の朝だ。相手は深冬の父親だった。通話履歴から僕と話したことを知って連絡してきたらしい。彼は何か言いたそうだった。何か知っているのではないか、と。でも結局は何も聞かれなかった。涙のない電話だった。きっと僕も、深冬の父親も、現実感が追いついてきていなかった。奇妙に冷静な二人の会話は、すぐに終わった。
電話を切り、僕は部屋にこもった。飽和した感情は僕の許容量を超えていて、何も認識することができなかった。悲しくもない。当然嬉しくもない。輪郭すらつかめないほどの、濁流のような感情の渦が僕の中に居座っていた。
交通事故、だったそうだ。夕方にコンビニに行くと言って家を出た深冬は、道の途中でトラックに跳ねられた。見通しのいい一本道で、僕もよく使う道だった。日曜日で交通量はさほど多くないはずの道だ。
その日何をしていたのか、もうよく覚えていない。覚えているのは、翌日から一週間、学校を休んだことと、火曜に行われる通夜には行かなかったことだけだ。
一週間、僕は自室から出なかった。両親は何も言わなかった。おそらく連絡が何らかの形で来たのだろう。僕はひたすらに本を読んで過ごした。一週間、一言も言葉を発しなかったように思う。何も考えず、何も考えられず、文章をただ目で追ってはページをめくった。
一週間経って、僕はようやく外に出た。朝の四時くらいだった。小鳥すら寝ている、あまりにも冴え冴えとした夜中だった。僕は家の近くの神社の境内に座り込んだ。その頃には少しずつ、ようやくだが、僕は物事を捉えられるようになっていた。
彼女はきっと自殺した。昨日の彼女の笑顔が、逆説的にそれを証明している。あの笑顔に意味を見出さない人間がいるとすれば、それは余程の愚か者だ。きっと、僕の選択は間違えていた。あの場面で、僕は深冬への対応を間違えた。彼女が話し始めるのを待つべきじゃなかった。泣いた跡を見つけた時に、すぐにでも聞いてしまえば良かった。そう思い始めると、芋づる式に後悔が湧いてくる。そしてそれらの後悔は、純然たる彼女の死と結びついて、僕を押しつぶそうとしてきた。ああ、と思う。知っている。生まれて数年の子供ですら知っている単純な感情だ。彼女への気持ち、後悔、それらを無理矢理に単純化する言葉。
それは悲しいという言葉だ。
僕は両手で顔を塞いでその場にうずくまった。まだだ。まだ、この感情にそんな名前を与えていい時じゃない。僕は悲しみがすぐ背後に迫っているのを感じた。今にも叫んで逃げ出しそうになる。背後の悲しみと、目の前にそびえる圧倒的な現実は、あまりにも恐ろしくて、絶対的だった。僕の存在だけが、この名前のつけられない感情を抱えていた。
僕は孤独だった。深冬、と僕は一週間ぶりに発声した。かすれていて、誰も聞き取れないようなひどい声だ。それがきっかけだったのか、自分でふさいだ視覚の中で、深冬との思い出が浮き上がっては消えた。だめだ、と思った。すぐ背後の悲しみから逃げ出したいのに、僕にはその気力がなかった。悲しみを受け入れる気力すらないと思った。なのに、気づくと僕は泣いていた。一度泣き始めたら、もうそこから先は決まっていた。僕は人生で初めて、文字通りに涙腺が壊れるほど泣いた。呼吸は乱れたが、叫ぶことはなかった。僕は体の中のありとあらゆる水分を失うほど、泣いて、泣いて、泣いた。
僕は彼女が好きだった。好きという言葉は便利すぎてあまり使いたくない。しかしどんな形が存在するとしても、僕が彼女を好きだったことを否定はできない。僕は彼女の勉強の姿勢を敬愛していた。僕だけに見せてくれるわがままが好きだった。そう、好きだった。僕は枯れ尽くした涙をさらに絞り出すように泣いた。
ようやく涙が止まった頃には、外は明るくなっていた。冬の朝は遅い。もう七時くらいかもしれない。僕はふらふらと立ち上がり、自宅に戻った。両親は何も言わなかった。僕は朝食をとって、一週間ぶりに登校した。帰りに深冬の家に寄るつもりだった。
しかし結局その日、僕は深冬の家に行くことができなかった。彼女が自殺したと知るのが怖くなった。心のどこかで、単純な事故だったらと考えている自分がいることに驚いた。僕は家に帰り、自室に引きこもって、心を固く閉じた。早朝から泣いた反動か、感情の波はとても静かだった。凪のような世界の中で、疲れ果てた僕は眠った。
そして目を開けた時、僕の知る青空は地球になっていた。