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私とリクはいつもぎゃあぎゃあとうるさく過ごしてるけど、喧嘩したのは初めてだった。

私の怒気とリクの緊張が支配するリビングルームは、かつてないほど静か。

お互いに視線を合わせないまま、結構な時間が経った。


「……ごめん。そんな事情があったなんて知らなくて」


ぽつりと、リクが萎れに萎れた声で謝ってきた。

すぐには許せなかった私は、むっつりと黙ったまま視線だけ奴に向ける。


「……なんつー顔してんだおまえ……」


話しかけるつもりなんてなかったのに、リクの酷い顔を見て思わず声に出してしまった。まるでこの世の終わりみたいに顔を歪ませ、泣き出しそ――って、泣いてやがる!!


「っおまえ、泣くほどかよ!?」


ぼろぼろと大粒の涙が、リクの瞳から零れている。


「ご、ごめ、嘘。俺泣いてる? キョウちゃんに本当に嫌われると思ったら、何か、もう、どうしたらいいか分からなくなっちゃって」


本人も想定外だったようで、混乱しながら流れ出る涙を手の甲で拭き始める。あとからあとから涙が溢れて、拭くのがちっとも追いついてない。


「あーくそったれ。謝る相手私じゃないけど、もういいよ。泣き止め馬鹿」


私は立ち上がってリクの目の前にしゃがみ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔をティッシュで乱暴に拭いた。


「キョ、キョウちゃん、ごめん。落ち着いた」

「はー……びっくりしたわもー……」


マジでびっくりした……何なんだコイツ……

そんなに好きか私の顔。


「……ねぇ、キョウちゃん……」

「なんだ」


リクは鼻声で控えめに訊いてきた。


「がっぽり稼げる仕事探してたって言ってたね。何で大金が必要なの? 答えたくなければ、良いんだけど……」


まだ萎れてやがる。

人の制止なんてガン無視でベタベタ触ってくるいつもの図々しさはどこに行った? 家出中か?


「兄貴が病気なんだよ。その治療費が馬鹿高ぇの。それで金がいるんだわ」


他人に聞かせるには割と重めだから、気楽なつき合いでいたいリクには言ってなかったけど、一緒に暮らす以上は話さないってのもフェアじゃない気がしてきて、正直に話した。細かい事情はとりあえず置いておいていいだろう。


あーほら、金が要る理由だけでショック受けた顔してるよ。サラッとした口調で言ってみたけど駄目だったか。


「なに情けねぇ顔してんだよ。おまえが聞いたんだろ」

「だって、良かったの? 俺が聞いても。他人の事情に不躾に入り込んで、無神経だったよね」


お~~~い!! ホントにこの人誰ですかァ?? 

また泣き出しそうなんですけどぉ!


「別になんともねぇからいい加減そのツラどうにかしろ」

「でも……」

「むしろこっちこそ、一緒に暮らしてるのに黙ってて悪かった」

「キョウちゃんが謝ることなんてない!」

「そうか? ならおまえももう気にすんなって」

「……」


全然元に戻んない。物理的に床にめり込むんじゃねぇのってくらい気落ちしてる。罪悪感とか自己嫌悪とかの文字が奴の肩に載ってる幻覚まで見えてくるし。


――はぁ。


「リク」


名前を呼んだ。

できるだけ優しく聞こえるように。


「……ッ」


リクがビクリと肩を揺らす。


「こっちおいで」


ソファに座り直した私は、ぽんぽんと隣を叩く。

リクは一瞬躊躇ったようだが、のろのろと動き出すと、俯いたまま恐る恐る指定された場所に座ってきた。


「もういいよ。謝れて良い子だな? よしよし」


そう言ってリクの頭をゆっくり撫でると、奴は石像みたいにガチリと固まった。

それにお構いなく私は撫で続ける。


今は甘やかしてやるから、もう泣くな。

おまえがそんなだと調子狂うんだよ。


「……リク?」


しばらく撫でていると、リクがぶるぶる震え出した。

えっ、なにこれ怖。病気?


「リク、どうし――

「んあぁぁっ!? キョウちゃんがデレたぁぁぁぁぁ!! リクって! リクって! 名前呼ばれるの久しぶりなんだけどっっ! なにこの破壊力!? しかも頭なでなでとか悶え死ねる!」 

「うぐっ」


突然のシャウトに唖然として反応が遅れた私は、リクに押し倒された。


「ああああ好き! 愛してるっ!!」


さっきまでの意気消沈は完全に吹っ飛んだらしい。

はぁはぁと荒い息を吐いて、私のシャツのボタンに手を伸ばし始めたので、足蹴にして何とか抵抗する。


「俺の旦那さんになって!! 抱いてっっ!!」


少しは大人しくなったかと思えば、やっぱりこうだよなコイツは。

嘘みてぇに通常通りじゃねーかこの野郎。


「……――だから、私は女だと言ってるだろうが!!」


これにて完結です!

読んでくださり、ありがとうございました!!

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