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「ところでキョウちゃん、それ高いワインじゃなかった? 買ったの?」
うずくまっていたリクは多少復活したらしく、ズリズリと芋虫みたいに床を這ってテーブルの前に移動し、並べられているボトルを見て驚いたように訊いてきた。
リクの驚きも当然だ。このうちの一本は、だいたい二、三十万する代物だからな。
「まさかぁ。もらったんだよ」
ほんの少し舌足らずな口調になる。怒ったし頭突きしたし、さっきより酔いが回ったか? つか、そもそも水飲みに行くつもりだったんだって。
私はキッチンに行って、冷蔵庫についているウォーターサーバーの水をグラスに注ぎ、ごくごくと一気に飲み干す。
自分が思ってたよりも火照っていたらしい身体に、冷水が染み渡って気持ちが良い。ミネラルウォーターのように美味しかった。
ぷはっ、と息を吐いて口元を拭う。
ついでに冷蔵庫から冷却シートを取り出してソファに戻った。
「おい」
「ん?」
「デコ出せ」
私は赤くなったリクの額にぺたりとシートを貼る。
「ねぇキョウちゃん。なんで今日そんなに機嫌良いの?」
いつもはこんなことしてくれないのにと言外に含ませるリク。失礼な奴だな。まるで私が優しくない人間みたいじゃねぇか。
いつも蹴り飛ばされるのはおまえの自業自得だからな? 何で被害者が加害者の手当てをしてやらなきゃならない?
でもまー、今はあからさまに機嫌が良いのは自覚してる。
だって嬉しいもんは嬉しいし。
「カモ……じゃねぇや、太客が五日連続で来たからだよ。半年は働かなくても食ってけるレベル。金づ……お客様は神様ってのはこのことだな」
いやー。ほんとに稼いだ。給与明細見るのが楽しみ!
「じゃあこのワイン、お客さんからのお土産?」
「ん? 貰いもんらしいけど店長がくれた。白はあんま飲まないからって」
ワインどころかこの一週間世話になりっぱなしだったから、今度しっかり何かお礼しないとな。
と言っても、店長の性格からして高いものは受け取ってくれなさそうだから困る。
んー……何だったら良いか……
『キョウが欲しい』
……うん。
思い出しちゃったよ。勘弁してくれ。冗談なのは分かってるけどさ……
「へぇ……そう」
リクの声が心なしか低くなった。
「……あいつってキョウちゃんの何?」
「は? 何かって、……上司と部下? それより、あいつって言うな。あの人店長だぞ」
「俺には店長だろうが何だろうが関係ないしぃ?」
リクはソファに置いてあったクッションをむぎゅむぎゅ抱き締めながら、子どもみたいに分かりやすく拗ねている。
奴のジトリとした目線は「この浮気者!」てな具合だが、てめぇに言われたくねぇ。ってかつきあってねぇ。
「ったく、何が気に入んないのか知らねぇけど、あの人のこと悪く言うなよ」
「あーそぉ。そんなに大事なんだ? どー見ても下心あったけどね。キョウちゃんがそんなに庇うほど大層な人間なの?」
「そうだよ」
私の間髪入れぬ返事にリクの責める視線が途切れ、予想した反応と違うと目をぱちくりさせている。たぶん、めんどくせぇ奴だなとあしらう私を想像していたんだろう。
「がっぽり稼げる仕事探してふらふらしてたら、見るからに裏家業の輩にヤバイとこ連れてかれそうだったの助けてもらったからな」
「……えっ」
「助けてもらって、しかも雇ってくれて。あの人には頭あがんねーの。恩人なの。分かった?」
人には好き嫌いがある。
それは物だろうと人だろうとどうにもならないことで、それを他人が変えろと強制するのは間違っているというのが私の持論だ。
嫌いなものは嫌いでいい。
でも、
「あの人を、悪く言うのは許さない」
キョウちゃんおこです。