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リクの相手をした数日後、頑張った私にご褒美と言わんばかりの太客が、五日も連続で店に来てくれた。

シャンパンタワーが連日積み上げられ、酒のボトルが面白いほどになくなり、店は嬉しい悲鳴を上げた。私の財布も大変潤った。


この間、私はずっと店長の家に寝泊まりしていた。

一日だけと思っていたのに、次の日も泊まっていいと言われ、その次の日も大丈夫だからと言われ、気づけば一週間経っていた。

店長の手料理が美味しすぎて、ついつい好意に甘えた結果だ。


胃袋をがっつり掴まれた私は、店長の「もっといてもいいのよ?」という魅力的な言葉に頷きそうになったが、これ以上お世話になるわけにもいかないので断った。


お礼に何が欲しいものはないか尋ねると、そうねぇと笑みを浮かべた店長が私の頭を撫でた。

えっ? と目線を彼に向けると、愛おしいものを見る目つきで見つめられる。

その瞳があまりにも綺麗で、身じろぎも出来ずに見入ってしまった。


店長の手がゆったりと私の頬へ下りていき、顎に行き着く。

指で掬い上げるように軽く持ち上げられて、強制的に目を合わせる体勢になった。

彼の薄い唇が開く。


「キョウが欲しい」


彼は尋常じゃない色気を放出しながら爆弾を投下した。


「……ッ!?」


ぶわぁぁぁっ、と自分の顔が熱を帯びるのを感じる。


いきなり何かますんだこの人は!?

いつもはオネエ口調のくせに、急に男になるのは止めていただきたいんだが!?


「キョウ?」


ああ、くそ。低くて甘い声も腰にくる。


「――ッ、その、色気、しまってください……っ」


首を傾げて悪戯っぽく笑う店長を思わず睨んでしまう。


毎日美形に囲まれて過ごしてるし、こっちだって本職だからそう簡単に動揺なんてしないけど、店長は何もかもがズバ抜けてるのだ。彫刻かと思うほどに整った顔は、イケメンという言葉よりも麗人と言った方がしっくりくる。男だけど。


そんな人からの色気に当てられて平然を装えるわけがない。

なんかもう色々無理。


店に来る初心なお姫様みたいに顔が赤くなった私をからかって満足したのか、やっと店長は放してくれた。


「とっ、とにかく! 一週間もお世話になりました。本当に助かりました」


これ以上火照った顔を見られたくないので、深~く頭を下げながら礼をする。

心から感謝してるのも本当だし。


「私が好きでしたことだから気にしないでちょうだい。これからもいつでも来ていいから、……ね?」

「は、はい」


最後の、ね? に妙な圧力があって、遠慮しようとした言葉を吞み込んだ。


「じゃ、はいこれ」

「えっ……! これ、いいんですか!?」

「もらったんだけど、白はそこまで飲まないからあげるわ」

「ありがとうございます!!」


こっちが礼をする立場なのに、私の好きな銘柄のワインをお土産に持たせてくれる。

店じゃシャンパンばっかりだったからな。ワインは別腹だ。


「また明日ね、キョウ。おやすみ」

「はい、また明日。おやすみなさい」


別れ際のウインクのまた似合うこと似合うこと。


顔面偏差値が上に振り切れてて、それに見合う色気があって、店をまとめるカリスマ性があって、面倒見が良いだなんて、何だあの人ズルくねぇ?

拾ってもらった恩もあるし、一生頭上がんないな。


スマホを見ると、リクからの連絡が何十件もあり、それらが全部謝罪文。


……ま、そろそろ帰るか。


私は朝焼けの空に向かって伸びをしながら帰路に着いた。

店長:“麗人”と呼びたいイケメンだが中性的なわけではない。一八七センチ。キョウの職場先の店長。

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