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唐突に思いついて書いてしまいました。何でも許せる方だけお読みください。
「はぁ……タイプ……」
「……」
ソファに座っている私の隣には、色気を駄々漏れにしてこれ見よがしに溜息を吐いて来る男――リクがいる。
吐息が私の首にかかるほど近い。
というか、もたれ掛かられて、肩に顎を載せられている。重い。
「男だったらなぁ……」
「……」
じっと熱を孕んだ視線をこちらに向ける気配がするが、スルーを決め込む。
映画観てんだよ邪魔すんな。
「キョウちゃあん。無視しないでよ~!」
焦れたリクが私の太腿に手を載せ、スルリと一撫でする。
ぞわぞわと背中の毛が逆立った。
「ッこの、どこ触ってんだセクハラ野郎!!」
ドゴォッ!
「ぐあっ!」
全力で蹴り飛ばし、リクをソファから追い出す。
奴は身体をくの字に曲げて、痛そうな呻き声を上げている。ざまみろ。
「私の半径一メートル以内に近づくな」
冷ややかな声で吐き捨ててやった。が、
「……げほっ! あぁ~……キョウちゃんから触ってくれるなんて幸せ」
リクは目尻に涙を浮かべながらも、恍惚とした面持ちで言いやがった。
「は!? さわっ……!? どういう解釈したらそうなんだよ変態が!」
ギョッとして部屋の端まで移動する。
この変態の頭では、蹴り飛ばされる=触れられるになるらしい。
どういう思考回路なんだ。
「そんな言葉使いが悪いところも好き」
「キッッッショ!!」
甘ったるい声で告白してくるが、悪寒しかしない。
鳥肌が立つ腕をガシガシさすりながら、リクに確認する。
「おまえ、ゲイだって言ってなかった?」
ルームシェアしてすぐに発覚したコイツのセクシュアリティ。
入居当初は知らなかったせいで色々あったが、分かってからはむしろ安心してたのに。
「そうだよ~。だからキョウちゃん男になってよぉ」
「どうしてそうなる……」
ほんとに、どうしてそうなる。
「俺、つっこまれたい方なの」
「死ね!!」
身も蓋もない言い方に、思わず助走をつけて飛び膝蹴りをしてしまったが、奴を喜ばすだけだった。おおいに失敗した。
私が舌打ちをしてソファに座り直すと、リクは当然ようにべったりとくっついてくる。さっき半径一メートル以内に近づくなっつったろ。おまえは三歩歩いたら忘れる鶏か?
うっとおしいが、引き剥がそうとしても多分また喜ばせるだけなのでそのままにすることにした。
「顔も身長も性格もタイプ……性別だけ……性別だけなのにぃ」
「そうか。じゃあ諦めろ」
バッサリと切り捨てる。
さっきからおまえのせいで何度も巻き戻してんだよ。
「ヤダぁ! じゃあさ、俺って言って? 俺って言ってみて?」
「じゃあって何? 嫌だよ」
しつけぇな! 良いところなんだよ、今!
ルーシーはどうなる? 復讐は成功するのか?
あ、おい待て。後ろに誰かいるぞ。逃げろルーシー!
「ねぇねぇ、お願い~! 言ってよぉ~!」
「嫌だっつってんだろ。つか邪魔。映画観てんの分かんない?」
ちょ、ルーシーまじか! すげぇ反応速度!
あれを躱すなんて、さすが主人公。かっこいいっ。
「なんだよぉ。女の子にはよく言ってあげてるじゃんかぁ」
不満そうな声を上げるリクは、勝手に私の膝に頭を載せている。
膝枕を許可した覚えはないんだけど?
私は心底うぜぇと思いながらリクを床に落とした。
「仕事だからだよ。おまえも客として来るなら言ってやるよ」
映画に集中したかった私は、深く考えずに答えてしまった。
キョウ:中性的なイケメン……ではなく女性。男物の服ばかり着る上、身長が一七五センチあるので男にしか見えない。
リク:セクシー系イケメン。一八五センチ。キョウから万年発情期と揶揄されるが、本人曰くちゃんと相手は選んでる。