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桃姫と龍の鈴関連

桃姫と龍の鈴

作者: 笹目結未佳
掲載日:2018/12/21


 今、私は見知らぬ男によって売られる寸前だった。



「……これはどうした?」



 青銀髪の長い髪をした男は、

そうして捕えられている私のことを、いぶかしそうに見下ろしていた。

背後には、両手をせわしなく揉んでいる恰幅のいい男が居る。

私のことを無理やりさらい、連れてきたやつだ。


 目が覚めると、私は冷たくてせまいこの檻の中に入れられ、

足首は頑丈な鎖につながれていたことに気づく。

そしてこの状態のまま、私はここへ連れてこられた。


 柵に手をかけて、出して、ここから出してと訴えながら、

目の前の鉄の棒をがしゃがしゃと音を立てる。



(出られない……)



 辺りを見回せば、ここはどこかの広く大きな部屋の中で、

ずるずると身の丈よりも長い着物を着る、人間らしき姿の者達が居るし、

扇で口を隠しながら、沢山私の事を取り囲むように見ていた。

じろじろと見られるそのことに、とっても居心地が悪く感じる。


 前に、とと様やかか様から、

人間に関することは、いくつか話を聞いていたことがあるけれど……。

目の当たりにした正直な感想として、動きにくくて変な格好とか思ってしまった。

人間とは、実に変な生活を好んでしているようだ。



「……はあ、川で溺れたのか上流から流れてきましてね。

 親も近くに居なく、それも珍しい桃色の龍でしかも雌だったんですよ。

 それで公方くぼう様の嫁御よめごにどうかと……へへ」



 揉み手で薄気味悪く笑う恰幅のいい男が、

そう言って私の入る檻を、目の前に居る青銀髪の男にすすっと差し出した。

どうやら私は知らない人間の男のために捕らえられたようだ。

これはまずい。


(た、食べられる!?)


 私達の血肉は人間にとって価値があると、前にとと様が言っていたもの。



「で? 珍しいからそのままさらってきたのか、この者の親を探す事もせずに。

 檻に無理やり押し込めて、鎖に繋げて……ずいぶんと用意周到だな」


「はい? い、いえそれは泣いて逃げ出そうとするからで」


「見知らぬ大の男に捕まったら、怖がって逃げ出して当然だろう。

 ほら泣いているだろう!! 離してやれ!!」


「キュイイイ!!」



 泣いていたら目の前の「クボウサマ?」といわれた人間のお兄さんが怒鳴った。

言っていることがよく分からないけれど、まるで自分が怒られた気がして、

ぶっちゃいやと両手で頭を庇って、ごめんなさいをしていたら、

檻を開けて鎖を引きちぎり、手まりのように小さな私の体を、

青銀髪のお兄さんは抱き上げてくれる。


 その時、私とそのお兄さんの目が合った。

透き通るような水色の瞳、サラサラの長い青銀髪の髪は、

青い組紐でひとまとめにくくられており、その先には白銀色の鈴が揺れていた。



「……っ、怖がらせて悪かった。おまえの事を言ったのではないよ」


「キュ?」


……ちがうの?


 涙目でお兄さんを見つめると、お兄さんはうなずいてくれた。


「怖い目に遭ったな。もう大丈夫だ」



 腕の中で優しく頭をなでられて、これまでの事を思いだし、

すん……と鼻をすする。


 まるで、とと様のようだった。


 もう誰かになでられる事もないだろうと思っていたのに。

大丈夫なんだと安心したら、涙がまたぽろぽろと流れて、

抱いてくれるお兄さんの着物を濡らしてしまう。


 けれどお兄さんはそれを怒ることなく、

私が泣き疲れて眠るまで、優しく頭をなでてくれた。



「よしよし……良い子だ」



――自分と比べたら、一回りも二回りも……ううん何倍も大きな人間達は、

私にとっては怖くて仕方がない。かか様も、とと様も人間達に捕えられたから。



『逃げなさい』


 とと様が言った。


『戻って来てはだめ』


 かか様が言った。




 とと様は紅炎龍という真っ赤な龍、かか様は真っ白な白龍。

その間に生まれた私は桃色の、二つの血が混ざった龍だった。

本当なら私は、どちらかの能力だけを受け継ぐはずだったのに、

なぜか二つの力を受け持つ者として生まれた。異端の龍だった。


 けれど私は仲間外れにされることなく、

郷のみんなに守ってもらい、とても可愛がってもらえた。

龍の子どもはなかなか生まれないから、宝物なんだって教えてくれた。


『この子が大きくなるのが楽しみだな』


 そう言って、みんなで仲良く暮らしていたはずなのに……。


 どこからか知らないが、珍しい私の存在が人間に知られたらしく、

人間達は突然、怖いものを手にして私達が暮らしていた郷を襲った。


 どこかの力のある人間が、

私を見世物か呪術の道具に使おうと狙ったせいだった。



『居たぞ! 捕まえろ!!』


『キュ!』


 せまる松明の火と、争う気配、人間と仲間たちの悲鳴や怒鳴る声が響く。


 逃げて、はやくはやく、戻って来てはだめ!



 とと様が、かか様が、みんなが私を逃がすために戦った。


 私も命からがら逃げだした先で、またも追い詰められ、

とぷんと川に飛び込んだまではいいものの、

私はまだ、とと様に泳ぎを教えてもらっていなかった事に気づく。

だから龍なのにまったく泳げないという、不名誉な状態だった私は、

そのまま川の流れに飲み込まれたまま、ぶくぶくと溺れて……今に至る。


「……」


 かか様がこのことを知ったら、さぞ嘆かれるだろうなと思った。



(かか様……とと様……)


 もう会えないのかな、とと様に、かか様に、みんなに。

眠りながらよみがえる記憶に、キュイキュイ鳴いて震えていると、

背中をぽんぽんと軽くあやすような感触に再び目が覚めた。


 その感触にゆっくりと顔を上げると、さっきの人間達が居て、

抱き上げてくれたお兄さんの膝の上で、自分が丸まっていた事に気づいた。

どうやら私のことで、さらってきた男ともめているようだ。



「あのう……では」


「誰が俺の嫁をさらってこいと言った?

 この娘はこちらで保護して親元に帰す。異論はないな?」


「では、報酬は……」


 ぱちん……と、お兄さんが持っていた紫苑色の扇が閉じられた。


「ほう……? まさか、この俺に誘拐の加担をしろとでも言うのか?

 俺は今、目の前の誘拐行為を寛大にも許してやると言ったんだがな。

 種族は違えど、龍の雌は龍族にとって宝だ。それを貴様は龍の宝に手を付けた。

 したがって、雌を売ろうとした者を極刑にすることも出来るんだが?」


「ひい!?」



 恰幅のいい男が掛けていた眼鏡をずり降ろして、慌てたように出ていくと、

さて、と彼は自分が座っていた敷物の上に、私をちょこんと座らせた。


「目が覚めたか?」



 急にじいっと見られて、おろおろと怯えている私に、

彼はまた私の頭を優しくなでて、目の前に片膝を立てて隣に座り込む。

従者らしき者達が「代わりの敷物を」と差し出すが、

手でそれを制し、視線は私の方を見下ろしていた。



「邪魔者は居なくなったな」


 そう言いながら自分を見つめるお兄さんの顔は、とても悲しげだった。



「上流にあるおまえの暮らしていた郷は……最近人間に襲われたと聞いた。

 あの男にはおまえを親に帰すと言ったものの……。

 だが、幼いのに一匹でよく逃げてきたな。えらいぞ」


「キュ……」


 頭をよしよしとなでられて、私は目を細めた。

この人は私をぶったり、鎖でつないだりしないみたいだ。良かった。



「しかし、公方様……この子どもの故郷が焼かれているというなら、

 この娘御はいかがされますか? 公方様の乳母殿も今はおりませんし。

 見た所、まだ人語も話せぬ様子……人型に姿を保つのも無理でしょう」


「公方様、いかがいたしましょうか?」


「確かに珍しい桃色の龍……それも雌ですね」


 側近の従者であろう切れ長の目をした男が、

クボウサマ? と呼ばれている青銀髪のお兄さんに近づくと、

彼の傍に居た私は一歩、後ろにずさっと後ずさりをして離れる。

そんな私の姿を見て、従者の動きがぴたりと止まった。


(な、なんだ。私とやる気なのか?)


 しっぽをぶんぶんと振って、私とその人達とのにらめっこが始まる。

すると、さっと視線をそらす従者の男達を見て、勝った! と思った。


 頬を染めて震えている辺り、

この私がよっぽど怖かったのだろう。ふふん。



「そうだな。だから余計に高く売れると俺の元へ来たのだろう。

 幼ければ飼いならせると……災難な目に遭ったな、娘、名は名乗れるか?」


「キュ?」


 急に話しかけられて私は首をかしげる。

実は、とと様達に名前はまだ付けてもらってない。

幼い私が人間に名前で縛られることがないよう、

成体になるまでは、名は付けないって言っていたから。


 そんな私を見て、目の前のお兄さんは勘違いをしたようだ。



「やはり人語もまだ話せないか、いやそれとも……。

 恐ろしい目に遭ったから、言葉を失ってしまったかもしれないな。

 まだこの姿からしても人化も上手く出来ぬようだ。

 確か上流にある龍の郷に、珍しい色目の雌の龍が生まれたと聞いたが……」




 なんだか話し合いが始まったので、今のうちに周りをきょろきょろと見回す。

私の方を気にかけていない今なら、今なら逃げられるかもしれないと思い、

とててっと走り出せば、悲鳴を上げた「ニョウボウ?」という、

人間のお姉さん達が、動く桃色の物体の私に気が付き、


「逃げましたわ!」


と叫んで、持っていた扇を床に落として、慌てて私を追いかけてくるではないか。

追いかけっこは得意だ。とと様ともよくやったもの。

でも今回は遊びじゃない、大丈夫わかってる。

つかまったら何をされるか分からないから、私は必死で必死で逃げた。


 ……でも、木を削って作られた床は慣れないから、つるつると滑り、

すってんころころと転んでしまって、壁にぶつかって止まってしまった。

気づけば取り囲まれ、逃げ道がなくなって部屋の隅に追い詰められている。

振り返ると、自分を見下ろす形で人間達が私のことを見ていた。


「キュ!?」



 必死になって、カリカリと爪先で目の前の壁を引っ掻く、

ぽろぽろと涙があふれてきた。かか様、とと様……助けて、助けて。



「キュ……キュイイ……」


「か、可愛いわ……!」


「ぷるぷるしているわね」


「止めなさいよ。震えているじゃないの」


「私達は怖くないわよ~? さあ、こっちへいらっしゃい」


 私の方へ伸ばされる、いくつもの手に私は飛び上がった。



「寄ってたかったら怖がるだろう……お前達は下がれ……俺がやる」


 すると、さっきのクボウサマと呼ばれていたお兄さんがこちらに近づいて来て、

ニョウボウとかいう人達が人波を分けて道を開ける。

差し出されたのは自分を抱き上げてくれる、温かい手。



「キュ……?」


「ほら、もう怖くないからおいで?」



 触れてくるその手は優しい……この人はやっぱり大丈夫だと思った。


 でも相手はかか様達を襲ったのと同じ人間だ……信じたらだめ。

そんな事を考えていたら、着物の裾から青い龍のしっぽが伸びていて、

ゆらゆらと目の前で動いているのに気づく。


 色は私やととさま達と違うけれど、それはとても見慣れたものだから、

腕から飛び降りると、そろそろとソレに近づき……。

そのしっぽの持ち主を見上げる。


「ん? 人型になっている龍が珍しいのか?」


「キュ?」


 やっぱり、尾はこのお兄さんから出ているではないか。

ということは……なんてことだ。すっかりだまされてしまった。

この人も、いやここに居る人達も人の姿をした龍族や眷属で、

何かの化身なんだと。


 なんだ、そうだったのかと、彼のしっぽをぺちぺちと触っていたら、

周りにいたニョウボウのお姉さん達が悲鳴を上げる。



「くっ、公方様になんてことを!」


「幼いゆえの暴挙だわ!」


「これでは公方様がお婿になれないわ」


「というか、嫁取りが出来ないじゃないの」


「キュ?」


「そうだわ、ならこの子に責任を取ってもらって番になってもらいましょう」



 つがい?


 ……どうやら、龍の尾にじゃれるのはとってもいけないことらしい。

さっきのお兄さんも頬を染め、顔を手で覆ってうなり声をあげている。

そうか、弱点なのか、それは悪い事をしたと今度は優しくな~でなでしてあげた。

これでどうだと顔を上げたら、何とも言い難い顔で私を見つめられた。



「……意味を、分かっているのかお前は」


「キュ?」


「やはり知らないのか……。

 龍の尾に触れていいのは身内と乳母以外は許されない。

 ましてや適齢期を迎えた者は……ああ、いやどうしたものか」



 ……だめらしい。

そーっと手を離してなかった事にしようとしたが、

背を向けて「お邪魔しました」と部屋を出て行こうとしたら、

私の小さなしっぽをつかみ、クボウサマなお兄さんは私にこう言って微笑んだ。



「――これでおあいこ、婚約は成立した。

 俺の尾に気安く触れた責任はとれよ? 娘。

 ……本来はこういう事を言うのは反対なんだがな」


「キュ?」


「名前が名乗れぬようだからな、不便だからお前に名を付けてやろう。

 そうだな……お前の名は桃だ。若草色の瞳に桃色のうろこで桃のようだから。

 だから桃姫、俺の番……妹背いもせとなれるように大事に育ててやる」


……これがクボウサマこと、龍青りゅうせい様との出会いだった。



※ ※  ※ ※



 龍青様の嫁として、私は新しい寝床と食べ物をもらえるようになった。


 私がまだ幼いという事で、ほとんどはお勉強よりも食っちゃ寝がほとんどだ。

龍青様はこの湖の主様であり、ここでも数少なくなった青水龍の一匹。


 時折、私にかまって遊んでくれたり、食事の際に食べさせてくれたりとして、

私の成長を楽しみに見守ってくれているのが、幼心にも分かった。


 嫁……とか、番……とか意味は分からないが、悪い気はしない。

幼いこの身でも、大事にしてくれているのはよく分かるから。

それだけこのお兄さんは私にとても優しくて、直ぐに私は懐いた。

頼れる者が居なかった私にとって、龍青様は私の生きる支えになってくれた。



「キュ……」



 狩りをしなくても食べ物はもらえるし、あたたかい寝床もある。

人間とかの外敵にも襲われないので、生活の心配はしなくていい。

今は幸せに暮らせている。


 でもそんな中でも、思い出すのはとと様とかか様……みんなのこと。

故郷に残して来たととさま達が、今どうしているのか気になる。

何度かこのお屋敷を抜け出して、川の上流にある郷へ行こうとしたけれど、

なにせ私はまだ泳げない。だからもう少し泳げるようになったら行くことにした。


 なので今日は、水盆の上でばちゃばちゃと泳ぐ練習だ。

泳ぐには水の量が少ない気がするけど、気にしない気にしない。



「……あー、ずいぶんと水浸しになったな桃姫、女房どもが泣いていたぞ」


「キュ?」



 振り返ると、困った顔をした龍青様が私を見下ろしていた。

そしてしゃがみ込み、綺麗な布で私の体を拭ってくれる。



「まだ湖の水はおまえには冷たいだろう? 風邪を引いたら大変だ。

 さ、これでいい……おいで、おやつの時間だよ」


「キュ!」



 おやつ!


 私はうなずき、龍青様の後ろをとてとてと歩いて付いて行く。

今日は私の名前にちなんだ桃を用意してくれたと聞いた。

共食いになってしまうぞと龍青様は笑っていたけれど、

お膝の上に乗せてもらって、食べさせてもらえるのはとても嬉しかった。


 この甘い水菓子をかか様達にあげたら喜んでくれるかな、なんて、

すんと鼻をすすって、差し出される桃の欠片にぱくりと食らいつく。

しゃくしゃくと噛んでいると、甘い果汁が口の中にいっぱいに広がった。



「……幼いとはいえ、給餌にも素直に応じるな。保護したのが俺で良かった」


「キュ?」


「雄が龍の雌に食べ物を差し出すのは、求愛と言って大切な行為なんだ。

 好きでもない相手を気安く受け入れてはだめだから、気を付けるんだぞ?」



 そういう龍青様にこくりとうなずいた。

でも、私は龍青様のこと好きだからいいんだよね? とキュイキュイ言えば、

龍青様は顔をほんのり赤らめて、「そ、そうか」となんだか嬉しそうだった。

人語は話せないけれど同じ龍族だけあって、獣の言葉なら、

私の言っている事はちゃんと伝わっているようで安心する。


 ここでは、私の言葉が分かるのは龍青様だけだった。



「おやおや、すっかり懐かれましたね」


「ええ、若様に嫁御よめごができたのは良い事ですね」


「小さいですが」


「ええ、小さいですが」


「とっても小さいですが」



 私と龍青様の仲は良いと思う。きっと私の一番の仲良しさんだ。

遊び相手が、彼以外に居なかったという事もあるんだろうけど。


 お仕事中は邪魔をしないで部屋の隅でじっと待っていられたし、

部屋を移動する時は、龍青様から貰った手まりを持って付いて行く。

手習いで機織りを習ったら、出来た布のはしきれを龍青様にあげたりもした。


「桃姫が作ったのか? はは、ありがとう大切にするよ」



 龍青様はそんな私を見て、とても嬉しそうだった。



「……よし、おいで桃姫」


「キュ!」



 龍青様に呼ばれると遊べる合図、急いで駆け寄って彼に抱き付いた。

相手が居る、ままごと遊びはやっぱり楽しい。

郷では一緒に遊んでもらえる事は、今まで少なかったから。


 でも時折、龍青様の顔に疲れが見え始めた。

トシゴロ? のクボウサマに嫁が出来たというのに、子が出来ないのが問題だと、

家臣の者達に言われ始めたからだった。


 子も何も、嫁自体がまだ子供だった。ゆえに無理な話だとかなんとか。

嫁探し問題で揺れていたこのお屋敷は、今度は跡継ぎ問題が出たらしい。

問題か……お勉強は私も苦手なので、きっととっても難しい問題なのだろう。



「そろそろ側室の話も進めないといけないとはな」



……というのを、私は手まりを転がして遊びながら、そんな話に耳を傾けていた。

何を言っているのかよく分からなかったが、とにかく龍青様が大変らしい。



「キュ……」



 龍の情は深く、恩は必ず返すものだ。幼くてもそれは分かっている。

私はお兄さんのおかげで、こうして生きていられる。

だから、お兄さんに元気になってもらうために、

私は桃を採りに行くことにした。


 桃はいい、甘くて食べるととても元気になるのだ。


 あれから何度か抜け出そうとは考えたが、

屋敷の外へ本当に出るのは初めてだった。

ちょっとした冒険にわくわくと胸が高鳴る。


「キュ?」


 其処で私はある事に気づいた。屋敷周辺を取り囲むうっすらとした透明の膜、

その先では宙をお魚が舞い、水草がゆらゆらと揺れている。


 陽の光を受けた水面が反射してきらきらと輝いて、鏡のように私の姿を照らす。

どうやら自分は泳げないと思っていたが、実際にはもう泳げていたらしい。

ここは湖の中の世界、龍である龍青様が治める世界だったのだと。


 そう、私達が暮らしている場所は、結界に守られた特別な場所だったんだ。



(桃がない……)



 けれど探しているものはなかった。どうやら桃は龍青様が仕事の合間に、

陸地に上がって採って来てくれたものだったようだ。

故郷を恋しがる私の為に、彼がわざわざ採って来てくれた貴重な水菓子だったと。

てっきり、私に毎日くれるから、その辺に生えているのかと思ったのに。



「キュ……」


 今度から大事に食べておこう。


 でもそれに応えるほどの物が、今の私には見つけられなかった。

その辺に転がっている石っころで喜んでもらえるだろうか?

食べごたえのありそうなお魚をつかまえたら……と思ったけれど、

魚は膜の向こうに居るし、意外と逃げ足が早かった。


 まだ泳げない私には、むずかしいことだった。


「キュイ……」



 しょぼんと項垂れて屋敷へ戻ると、静かだった場所は一転して騒がしくなっていた。



「も、桃、桃姫どこへ行った。出ておいで!!」


「若様、どうか落ち着いてください!!」


「ええい離せ! 桃姫は小さいんだ。

 今頃どこかで挟まれているかもしれないだろう!?」


「……!」



 自分が抜け出したことで、龍青様はとても取り乱していて、

慌てまくって着飾っていた着物が乱れ、半分龍の姿が見え隠れしている。

こんなに自分が居ない事で取り乱すのを見るのは、とと様以外では初めてだ。

自分はこんなにも大事にされているのだと実感する。


 その時、とくん……と胸が不思議な鼓動を打った気がした。


「キュ?」


 なんだろう……いや、それよりも今は龍青様が大変なんだ。

私が物に挟まれて動けなくなっているのではないかと、

そう思って探しているようなのだ。



「あの桃姫が静かな時は、たいてい何かやらかしている!」



 しっけいな!



 抗議の為にキュイキュイ言いながら近づくと、

目を見開いた龍青様は人型へと戻り、私を抱き上げた。



「おお、おお……桃姫無事だったか」


「キュ?」



 ああ、そうだったお屋敷から黙って抜け出してしまったんだった。

かくれんぼをしていたと言ってごまかしておこう。

キュイキュイ言って私は龍青様にじゃれ付いた。


「姿が見えないので心配したぞ、

 お前はまだ小さいからな、俺の傍から離れるんじゃないぞ?」



 とくんと……その時、胸がまた不思議に高鳴った。

なんだろう、具合でも悪いのだろうか。

でもなぜだか、悪い気はしなかった。


 それから数日後の晩、なかなか寝付けずに夜中に目が覚めた。

とても静かで辺りには誰もおらず、上空に浮かぶ月の光が水面に反射して、

きらきらと光って、部屋の中にもわずかに差し込んでいた。



「キュ……」



 本当ならいつも私が寝る時は、とと様とかか様が傍に居てくれた。

体を寄せ合って、温もりを分け合って寝ていたのに。

でも今はもう誰も居ない……広すぎる部屋に、大きすぎる寝床、

暗い世界に、ぽつんと小さな自分だけが取り残されている気がした。



「キュ……キュイイ……」



 急にまたさびしくなって、すんすん泣きながら小さな枕をくわえ、

ずるずると床を引きずって龍青様の元へ行こうと思った。


 ここへ来たばかりの頃、仲間を恋しがった私のために、

一緒に眠ってくれた事は何度かあったが、自分から行くのは初めてだった。

お仕事でお疲れの龍青様を起こすつもりはない。

勝手に潜り込ませてもらうつもりだ。

きっとあのお兄さんなら、許してくれるに違いない。



「番となる娘がまだ幼くては、公方様もお寂しいでしょう? ふふ……」


「……キュ?」



 龍青様の部屋の前まで行くと、中から女性の声が聞こえた。

こんな時間にお客様かなと思っていたら、龍青様にしなだれかかる女の人がいる。

龍青様はというと、歯を食いしばりながら押しのけようとしていた。

どうやら嫌がる龍青様に、女の人が強引に迫っているようだった。



「キュ!」


 たいへんだ。助けないと!

私は御簾みすを潜り抜けると、襲っていた女の人目がけて突進する。


「ぐえっ!?」


「キュイ、キュイイ!」


 龍青様、いじめちゃだめ!

そのまま着物の裾から見えていた女の尻尾に、思いっきりかぷっと噛みついた。



「きゃああああっ!?」


「な、なん……桃!? どうしてここに!」



 がじがじと牙を立てたら、女の人が長い髪を振り乱すように暴れて、

私を振りほどき、慌てて部屋から逃げ出して行った。


 勝った! 私はふんっと鼻息を荒くしてその姿を見送る。



「……」



 そして、ぼうっとした顔で静かになった龍青様に近づく、

大丈夫? ぽんぽんと彼の手をなでて、

私がなぐさめてあげると龍青様は視線を落とし、私の顔を見て、


「とんだお転婆な娘だな」



 そう言って私を抱き上げて笑い転げたではないか。



「キュ?」


「は――だが助かった。ありがとう桃姫。

 まさかおまえが側室を望んでいる娘を退けてくれるとはな。

 そうか、その手があったか! 桃姫が嫌がるなら仕方ないよな」



 よくわからないけれど、龍青様は喜んでくれる。

その顔を見たら、なんだかとても嬉しくなって、

私は彼に抱き付いてキュイキュイ鳴いた。


 龍青様はさっきの女の人に言い寄られて困っていたらしい。

相手は魚の化身だったと聞いて、捕まえておけば良かったと後悔。

どうりで美味しい味がしたはずだ。


「ここで暮らしている者達は、俺の眷属となっている湖に住む者達なんだ。

 屋敷や俺の身の回りのことをしてもらう為に、

 俺の力で一時的に人型になってもらっているんだよ。

 ……まあ、さっきの娘は他所の眷属なんだが」


 これまで湖にいる龍族は、龍青様だけだったそうだ。

龍からの寵愛は、他の水域の化身達にとっても魅力的なものらしく、

これまでも龍青様に言い寄ってくる者達は多かったそうで。

他所で暮らす者たちも、今みたいに忍んで来ることがあるとか。

……言っている事は難しくてよく分からないが、とりあえずうなずいておいた。



「そういえば、こんな時間に訪ねてきてどうしたんだ?」


「キュ」


 そうだ。一緒に寝てもらいたくて来たんだった。

私はいったん部屋を飛び出して、持ってきた小さな枕をくわえると、

ずるずると部屋の中に持って来て、それを龍青様の寝床に置いた。

よしこれでいい。私はころんと丸くなる。



「……もしかして、俺と一緒に寝たかったのか?」


「キュイ」


 そうだよと言うと、隣に寝っころがり、

ぎゅっと抱き寄せてくれた龍青様がいた。



「……はあ、やきもちを妬いてくれた訳ではなかったのか。

 色気のない誘い方だなあ……まあ、そうだよな」


「キュ?」


「おまえが色よく誘ってくれる日はいつになるんだろうな、なあ、桃姫」


「スー……ピー……」


「寝るの早いなおまえ! 

 ……まあいい、子どもが育つには寝るのも大事だ。

 早く大きくなってくれよ、桃姫、

 そうすれば俺も跡継ぎ問題からも解放される」



 ……大きくなる? 大きくなったら良いことなのだろうか。

意識が遠くなる中でそんな言葉が思い浮かんで、

私は無意識にこくりとうなずいた。


 とと様も、かか様も好き……でも龍青様のことも私は大好きになっていた。

だから……だから望みを叶えてあげたいと、そう思ったのだ。


 龍青様と一緒に居たら、お互いに寂しくないかなって思ったんだ。


 けれど、そう思っていた私に突然その日はやってきた。

龍青様の腕の中で目が覚めた日の朝、屋敷は急に騒がしくなったのだ。

なんでも遠方から旅人の装いをした急な客が、この屋敷を訪ねてきたらしい。

お客さんと言えば水菓子、ごちそうだよねと思った私は、

迎え入れる龍青様の邪魔にならないよう、

部屋にある屏風びょうぶの影に隠れていた。


 あわよくば、おやつをもらって遊んでもらおうとか思っていたから。



「突然の先触れなしの訪問を受けていただき、感謝します」


「……!」


 龍青様の前で並ぶように座り、頭を下げて告げるその声に聞き覚えがあった。

私は隠れるのを止め、両手を伸ばして声の主に抱っこを求める。

駆け寄ったのは着物を着た一組の若い夫婦、男は緋色の髪に朝焼けの瞳、

女は真っ白な肌と髪に金色の瞳をしていた。



「キュー!」


「……っ!」


「あっ!?」



 それは人の形を取っていたが、匂いと声で分かる。

紛れもない、生き別れたはずの私の両親だった。

キュイキュイ鳴いて抱っこをせがむ私を、

とと様もかか様も私に気づき、涙を浮かべて抱きしめてくれた。



「おお、やはりおまえだったか。無事で良かった!」


「私の子、よく頑張りましたね」


「キュイ! キュイイ!!」



 その時のとと様とかか様は、人間の姿で私の前に現れ、

同じ色合いの粗末な着物を着ていた。


 見慣れないその姿は、私の前では今まで一度も見せなかった人型。

きっと私が幼いゆえに普段この恰好をしていたら、警戒心を忘れ、

私が人間にも懐いて、連れて行かれてしまうと考えたのだろう。



 今の姿は私が見慣れていた龍体ではなくとも、

自分のとと様、かか様だと分かる。だって匂いが同じなんだもの。

がっしりと着物をつかんでキュイキュイ鳴いて涙を流し、

しっぽをこれでもかと振っていたら、

背後で息をのむ気配がした。



「……その娘は、おまえ達の子どもだったか」



 龍青様が私の両親にたずねた。



「はい、郷を人間達に襲われ、我ら一族は散り散りになってしまいました。

 その中、せめてこの子だけはと先に逃がしたものの、

 後で探した時には行方知れず、噂で川に流された子どもの龍が居ると聞き、

 望みをかけてここまで我が子を探しに来た次第です」


「そうか……難儀だったな」


「まだうちの娘は泳ぐことも出来なかったので、

 自ら川に飛び込むなど半信半疑でしたが、

 湖の主様に保護していただけたようで、本当にありがとうございました。

 なんとお礼を言ったらいいか……」


「キュ?」


「そうか、良かったな桃姫……」



 うん良かった。でも龍青様は寂しそうに笑っていた。



「子どもは親の傍で暮らす方が幸せだろう。

 おまえが好きだったまりを一緒に持っていくといい」


「キュ?」


 差し出されたので、素直にそのまま手まりを受け取る。

そして「達者でな」と頭をなでられ……背を向ける龍青様。

その姿が、とても悲しそうに見えたのはなぜだろう?



「キュ……?」


「さあ、行こう、主様にお礼を言いなさい」


「行きましょうね」



 とと様とかか様は、生き別れになった仲間を探しながら、

安住の住処を探しに行くらしい。それに当然私も付いて行くことになった。

とと様に抱き上げられたまま、キュイキュイと龍青様にお礼を言った後、

手まりを抱えながら小さな手を振……ろうとしたけれど。


 ふと、このまま別れたら……龍青様ともう二度と会えなくなる気がした。



「キュー!」


「桃姫?」


「ど、どうしたんだ」



 じたばたと暴れ、とと様の腕を飛び出した私は、

龍青様のあとを追いかけ、龍青様の足にがしっとしがみ付く。


 もう遊べなくなるのやだ。一緒にいられなくなるのやだ!

キュイキュイ鳴いてそう伝え、涙がぽろぽろと流れてきた。

親とはぐれて寂しかった時、いつも龍青様が懐でなぐさめてくれた。

ずっとずっと一緒に居てくれると思ったのに、もう会えないなんて嫌だった。


 このまま、このお屋敷でみんな一緒に暮らせばいいのに、

なんで一緒に居られないのか、私には分からなくてキュイキュイ泣く。



「桃……桃姫」


「キュイ! キュイイ!!」


「おまえは本当に……ああ、だが……」



 龍青様は私を抱き上げて、一緒に居られない理由を教えてくれた。


 とと様は紅炎龍、炎の属性が一番強いだけに、

水の中の世界で暮らしていくには生きづらいらしい。

私はかか様の血も引いているから、その影響はないらしいけど、

家族でずっと一緒に暮らしていくには、ここではだめらしかった。

そして龍青様も湖を治める主として、ここを見捨てて暮らす事はできないと。


 それでも私はいやだと泣いた。泣いて龍青様にしがみ付いたまま、

もう会えないのは絶対にやだとお兄さんに言う。



「……桃姫、ではまた会うと約束する。

 大きくなったら迎えに行くから、それまでどうか健やかに」


「キュ?」



 足に結ばれたのは、白銀色に輝く鈴に青い紐が通されたものだった。

いつも龍青様の髪を結っていたそれが、私の足に結ばれている。

そっと動かすと、ちりん……と涼やかな音色を放った。



「おまえと俺がつながっている証拠だよ。

 邪な人間達の目を欺け、退ける呪力もある。

 これを大きく鳴らす時に会いに行こう」


 私の額にそっと龍青様の口が触れた。



「キュ?」



 また……会えるの? 私、龍青様の嫁とか番にもなれる?


「ああ、桃姫がそれを望んでいてくれるのなら。

 俺のことを――……ずっと忘れないでいてくれるのなら」


「……」


 こくりと私はうなずいた。その約束を叶えてくれるなら安心だ。


「……あの、桃姫って……まさか」


 とと様が、龍青様の腕の中でゴロゴロと喉を鳴らす私を見て、顔を青ざめる。



「桃姫のご両親、勝手で悪いが俺と桃姫は将来夫婦となる契りを交わした。

 妻請いはしなかったが、どうか受け入れていただけるとありがたい。

 でなければ……いずれ力ずくでも奪い取らなくてはいけないからな」



 不敵に笑う龍青様の顔を、私はもらった鈴を鳴らしながら見る。


「力ずくって……」


 問いかけるとと様に向かって、龍青様はいろいろとふっ切れたようだった。



「龍族の間で嫁取りは実力主義、それを知らぬ訳でもないだろう?」



 悲鳴を上げた両親と、晴れやかな顔で別れを交わす私と龍青様。

そうして私は陸へ戻って、新しい生活を始めることになった。



※ ※ ※ ※



「――キュイ、キュイイ、キュイイ」


 龍青様~あ~そ~ぼ~!


 新しい土地で巣をつくり、私は毎日水辺に向かって鈴を鳴らした。



 ちりんちりん……。



 ちりんちりんちりん。



 ちりんちりんちりんちりんちりんちりんちりん!



 反応があるまで、けたたましく鳴らし続ける鈴の音に、

ざばっと目の前の水面が盛り上がった。



「ぷは! うるさいぞ!!

 そう毎日毎日、何度も俺を呼ぶなと言っているだろう桃姫!!」



 ずぶ濡れのまま龍青様が顔を出し、岩肌にしがみつく。



「キュ!」


 あ、来てくれた。いらっしゃい。



 水がある所で鈴を鳴らすと、どういう仕組みかわからないが、

龍青様の暮らしている湖につながるらしい。

なのでどこへ行っても龍青様と連絡が取れた。


 時折、龍青様は「桃姫の成長と無事を確認する為」と、

土産を持って私の居る巣まで遊びに来てくれることもあるが、

やはり一緒に暮らしていた時と比べたら、全然遊び足りない。


 だから、ほぼ毎日のように龍青様を呼びつけるようにした。



「まったく……おまえに俺の鈴を与えたのは早かったか、

 この俺を気安く呼べるのは、きっとおまえ位なものだぞ桃姫」


「キュ?」


 何して遊ぼうかと、しっぽをぶんぶんと振って手まりを持つ私に、

龍青様は苦笑した顔で、私の頭をわしわしとなでる。


 あれから……龍青様の住む湖から陸地へ戻ってきた私達だったが。

『あの方に他に何かもらったか?』と、なんだか怖い顔でとと様に聞かれたので、

桃を食べさせてもらったよと、キュイキュイ答えたら、

とと様は顔を覆って絶叫した。



『名で縛るだけでなく、すでに給餌までえええっ!

 俺の娘が……幼い娘にもう悪い虫が付いたあああ!』



 龍の雌は貴重で、目を離した途端にこれだと嘆くとと様。

人間が近づかず、かつ龍青様の居る湖から遠く離れた場所を探して、

転々としながら龍にとっての安住の地を見つけた。


 その際、とと様はまた人間に扮して「おはらい?」という事もして、

私を厄災というものから守ろうとしたこともあった。



『うちの娘が湖の主様に魅入られた!!』


『あなた、落ち着いてください』


『これが落ち着いていられるかああああっ!!』


『キュ?』



 清めのお酒を掛けられたり、変なぐしゃぐしゃの文字とかが書かれた文様布を、

体にぐるぐるに巻かれたまま故郷から離れたけれども、

あれがどんな意味なのかも分からない。


 でも結局、行く先々で私が龍青様を呼びつけて会っている事から、

既に手遅れだと悟り、最近は私が嫁に連れて行かれてしまうと、

毎日どこかで泣いているらしい。


 嫁はいいことのはずなのに、なぜ私のとと様は泣くのだろう?


 それに龍青様は龍族で私達の同胞でもあるんだ。虫なんかじゃないのにな。

人間から逃げるのは分かるけれど、なんで龍青様からも逃げようとするのか。

聞けば、彼は龍の中でも神格の位置にある龍で、龍族でも特別なんだそうな。

つまり、水神様なんだって。


「キュイ」


 だけど私はそうなんだ~としか思えなかった。


 とと様はそんな龍青様と私を一緒に遊ばせたくないみたいで、

水属性の彼がたどり着けないないような、水辺のない土地にも行こうとしたが、

生き物が水気のない所で長いこと生きられる訳もないし、

私が水を地面にこぼしてでも呼び寄せるので、

まあ無駄な努力に終わっていた。



 かか様が言うには。


『父親とは娘が嫁ぐ頃にはこうなるのよ』


 と何やら感じた顔で笑っていたよ。



 そんな訳で私は今日も、龍青様を呼び出して仲良く遊ぶ。


 ちりんちりんと鈴を鳴らしながら、二つの世界を行き来したりして。



「キュイキュイ」


 あそぼあそぼと、龍青様の着物をぐいぐいと引っ張る。


「わかったわかったから……おいで桃姫」


「キュ!」



 龍青様に抱っこされて私は今日もご機嫌だ。やっぱりみんな一緒だと楽しい。

そんな私が嫁とか番の意味を知るには、まだ先の話になるのだろう。

まあ、それは置いておこう。今は思いっきり遊ばないと。

 

 大好きな龍青様からもらった手まりを持ちながら、

私はキュイっと元気に鳴いた。



 ~終~



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― 新着の感想 ―
[良い点] 桃姫ちゃん可愛い [気になる点] 桃姫ちゃんと龍青様のこれから [一言] お転婆な桃姫ちゃんとそれに振り回される龍青様がとっても面白く可愛らしかったです! 続きが読んでみたくなってしまいま…
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