表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヤン 〜魂の絆~  作者: ゆめ猫
6/47

第6話 ドロップをドロップ

 村の中心から離れ、出入り口の門までまた戻った。水が流れる音がする。ふと見ると、いつも座っていたベンチの道を隔てて反対側に、小さな小さな噴水があった。


「水だ!」

 俺は噴水から勢いよく溢れ出す水に駆け寄り、汚れた手を洗ってから両手でため、口をつけた。カラカラになった喉の渇きを潤すには充分だった。


「あー水って最高だ!」腹のたしにもなった。


"その噴水はお昼の間だけ水が流れるようになっております"


「そうなのか……」


 狩りから帰って来たら、もう水は止まっているかも知れない。そう思うともったいなくてしょうがない。汚れた腕、足、赤く腫れ上がった腹、砂まみれの髪までも、念入りに洗った。生憎拭くものはない。暖かい陽射しを浴び乾かした。最高の気分だった。

 右手のひらを改めて見ると、3の数字が光っていた。レベルアップしている。


「よしっ!連撃スキルが使えるぞっ!」


 リュックから回復薬を取り出し、右ポケットに入れた。左ポケットには毒消し薬を入れ、元気よく門から外に飛び出し道に沿って歩き出した。キノッチよりも強いモンスターを探すためだ。

 右側のキノッチを避けながら進むと、反対側にウサギを見つけた。


「ハレルヤ、ウサギは強いか?」


"そのモンスターはラビッチといいまして、キノッチよりも強いです。ですが、今の健様は連撃が使えますので、ちょうどいい相手でしょう"


「わかった!」


 勢いよくラビッチに切りつけた。ラビッチは分裂し2匹になった。こっちには連撃スキルがある。臆する事はない。だが、1匹に切りつけるも今までと変わりがない。


「ハレルヤ、スキルはどうすれば使えるんだ?」

 ラビッチにひたすら攻撃を与えながら訊ねた。


"連撃ですよ、健様!素早く2回攻撃をしてください"


 ラビッチは両足で顔を目がけ、キックして来る。俺はよろけながら必死に連撃スキルを浴びせようとするも、いつもの攻撃しか出来ない。

 やっと1匹を倒せたが体力はかなり消耗している。ポケットから最後の回復薬を取り出し飲みほした。ラビッチは左耳のあたりにキックする。耳鳴りがし俺は真横に倒れた。


「ヤバい……」


 もう回復することは出来ない。即座に立上り素早く2回攻撃を繰り返す。だがなかなかスキルが発動しない。


"健様、スピードが命です。もっと素早く連撃してください。スキルが発動すれば剣が光ります"


 俺は運動神経には自信があった。だがどうも上手く行かない。連撃スキルを練習している場合じゃない。回復薬がなくなった俺にはあとがないんだ。ラビッチの攻撃を受けながら連撃を繰り返した。その時剣が光った。スキルが発動したのだ。ラビッチは思いっきり後ろに飛び倒れた。


"それが連撃スキルでございます"


 だが、俺は喜べないでいた。なぜなら、次必ずスキルを使えるという確信がもてなかったからだ。自分のものにしたい。

 俺はこんな奴だったか?真面目さなんてどこにもなかった。努力なんかかつて1度もした事がない。生ぬるい環境を作りそれに甘んじる。それが俺だった。

 だがここに来て、醒めない夢に落胆し、過酷な環境で考える余地も無く命と向き合う。死にものぐるいとはこういう事を言うのだろうか。

 俺は死にたくない、絶対に死ねない。生きているのか死んでいるのか分からない生活をしてきた俺が、なぜここまで命を大切にするのか……。今の俺にはわからなかった。

 体力はかなり消耗していたが、そのままキノッチの方へ歩き出した。門の近くにいたキノッチに切りつけた。分裂はしなかった。


「スピードだ、スピード。」

 呪文のように繰り返しながら、2回攻撃を繰り返す。

 キノッチの攻撃が遅く見え、攻撃をかわす事が出来るようになっていた。だが普通攻撃で倒してしまった。

 俺はがむしゃらにキノッチを探し、切りつけた。何度も何度も繰り返しようやくコツをつかんだ頃、辺りは夕闇に染まっていた。

 倒れ込むように門の中に入りベンチに腰掛けた。目の前の噴水にはやはり水がなかった。リュックを降ろし中を見た。山のようなエノキをベンチに並べる。まるで店が開けそうだ。


「1.2.3..全部で11個。」


 ラビッチからのドロップだろう、袋に入った白い毛が1個。もう一つ小さな小さな小袋を見つけた。赤い飴が入っていた。飴だけを残し他は大事な宝物のようにリュックにしまった。袋を開けその飴を口に入れた。ここに来て初めての食べ物だった。甘い香りと甘い味。疲れた身体にしみわたる。


"ドロップをドロップしましたな!

フォッフォッフォッフォッ"


 なぜかハレルヤのその言葉を聞いた途端、涙が溢れた。笑うところかも知れないが、俺は泣いた。涙が次から次へと溢れ止まらない。決して泣き虫ではない。逆に感情をあまり表に出さない奴だった。その俺がたった一つの飴で泣いていた。滑稽だと思う冷静な自分がいるのに、何故か涙は止まらない。

 そんな恥ずかしい光景を夜の闇が隠してくれた。





次話も早めにアップする予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ