第5話 キノッチの胞子
レベルアップしたのだから、キノッチは楽に倒せるかも知れない。それを確かめたくて、俺はまた門の外に出た。
緊張のあまり景色など目に入らなかったが、今改めて辺りをゆっくり見渡す事ができた。砂利道が遠くの森へと続いている。見渡す限り建物はなく手付かずの自然が広がり、木々の葉は少し色付きはじめていた。そこここにモンスターがいる。
手前のキノッチに近づくと向こうから攻撃を仕掛けてきた。
ドンッ!「痛っ!」
痛みは同じだが、よろける事はなかった。痛みに耐え剣を振りかざす。切りつけられたキノッチが分裂し、敵が2匹になった。
「マジか……」
いくら強くなったとは言え、2倍の攻撃をくらうわけだ。しかも俺の攻撃は単体攻撃しかない。
「1匹ずつ倒すのみっ!」
ズサッ!
キノッチは後ろに倒れた。確かに俺は強くなっている。もう1匹が横腹目がけて突進してきた。それにも構わず俺は倒れた方のキノッチに攻撃をする。剣がスムーズに動き思いっきり切りつけた。
あんなに手こずっていたが、案外早く1匹目を仕留める事が出来た。しかし1匹だけを攻撃している間、他方のキノッチから横腹にダメージを受けていた。HPがかなり減っていることもわかるようになってきた。
"健様!回復薬を!"
「戦闘中も使えるのか?」
"もちろんです"
俺は背中のリュックを降ろし開けると、キノッチは容赦なく襲いかかる。急いで回復薬を飲み、もう一本をズボンのポケットに押し込んだ。立ち上がろうとするとキノッチは胞子を俺に撒き散らした。
「なんだこれは!?」
息苦しさと共に身体が重くなっていく。ダメージをくらっていないキノッチは快活に動き回る。
「くそっ!お前に負ける訳にはいかないんだよ!」
軽やかに動くキノッチの横から切りつけた。キノッチは吹っ飛んだ。
だが俺の体力消耗は続いている。慌ててポケットから回復薬を取り出し飲みほした。そして起き上がるキノッチを縦に切りつけ、やっつけた。しかし体力消耗は止まらない。
"キノッチの毒を受けたようですな。薬品店に行き毒消し薬を購入して下さいませ"
俺は走り始めた。毒で死ぬなんてまっぴらごめんだ。第一恥ずかしい。
薬品店のドアを開け、叫んだ。
「早く毒消しを!」
店主は慌ててカウンターに青い液体の入った小瓶を置いた。それを急いで飲みほした。
「勇者様……大丈夫ですか?」
店主は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。見ると背は同じ位でとても弱々しい華奢なおじさんだった。色白でブラウンの髪は少し白髪混じり。
「すまない、びっくりさせてしまったよな」
毒消しを飲んでも体力は回復しない。俺は息も絶え絶えにそう告げた。
「私は大丈夫ですよ。それより勇者様回復薬も飲まれた方が宜しいかと」
「そうだよな。」
リュックから回復薬を取り出し飲んだ。これで回復薬は残り一本となっていた。元気を取り戻した俺はお金を払っていなかった事に気づく。
「毒消し薬はいくらなんだ?」
「50円でございます」
これが安いのか高いのか今の俺にはわからない。だが、こんな経験はまっぴらだ。
「予備でもう一本くれ」
「かしこまりました」
店主は後ろを振り向き先程の小瓶をカウンターの上に置いた。
「トータル100円になります」
財布からお金を手渡し残金を確認した。回復薬も一本しかない。あとリュックの中身はエノキだけだ。買った毒消し薬を大切にしまい込み店から出た。
昨夜と違って人通りが多い。この中を血相を変えて走って来たのかと思うと急に恥ずかしくなった。
行き交う人が皆俺を見ると華やいだ顔になり「勇者様!」と一礼をする。
こんな弱い勇者がいるだろうか……。早く強くならなければ。
アドバイスなどいただけると幸いです。
<(_ _)>