第44話 戦闘
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「物理攻撃出来る者はこっちへ!弓はあの小高い丘に登り、攻め入る敵を狙って欲しい。他の者は俺の側で待機し、号令で攻めて欲しい。俺たちの出番がない事を祈ろう」
谷間にブリーズ兵が到着したのは、真夏の太陽がちょうど真上に来た頃だった。ジリジリと照りつける陽を浴び俺たちは戦いに挑んだ。
まず黒魔法隊が仕掛けた。先頭の兵たちに火を、びっくりして逃げ惑う兵たちに氷や竜巻を放った。兵達はパニックになり後ろに駆け出す。後から来る兵は訳も分からず一緒に下がる。その後ろは丘からの弓に撃たれた。
ようやく俺たちアンジュ国の攻撃だと分かると、走って黒魔法を避けながら、前方に攻めて来た。近衛兵、騎士団、俺たち傭兵の物理攻撃が戦った。ほとんど前方に来る前に黒魔法で殺られる。
戦略は見事に成功した。前に来る者はいなくなり後方へ全員進んでいるとの事。一先ずは落ち着くだろう。
「谷間から1人も出てはいけないでしょう!いい作戦です!」
ロバートは興奮しながらそう言い笑った。
こちらの負傷者はいなかった。ブルーズ国の死者は2千人程。まだまだほんの一部に過ぎない。長い戦いが予想される。
「ジョンさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫も何も俺たちの出る幕がねーじゃねぇか、まったくよ!」
そう言って笑った。
「ユキナ流石に強いな」
「ホイット達のおかげだよ、MPが有り余るくらいだったな」
余裕の笑みを浮かべた。
その後、日が沈む頃まで敵の動きはなかった。このまま諦めてくれれば良いのだが。
辺りは暗くなった頃、使者らしい者が向かってくると弓隊から連絡があった。谷間を抜けた頃、手を挙げた2人の使者が大声で叫んだ。
「ブリーズ国王からの伝言で参りました、どうか攻撃しないで下さい」
俺とロバートは前に出て使者を待った。1人が手紙を差し出しまた手を挙げた。停戦申し入れと話し合いに応じて欲しいとの内容だった。
「信じていいものか……」
ロバートは力強く頷いた。
直ぐに手紙を書き、話し合いの日時と場所、訪れる人数を決めて使者に渡した。
使者2人は深々とお辞儀をし、また手を挙げたまま谷間に消えた。念のため2日陣営で待機し、その後国に戻った。
リリアが玉座の間に座り帰国を出迎えた。
「大丈夫なのか?」
「はい、とても気分が良くなりました。無事に帰って来て下さって安心致しました」
リリアが言うように、血色も良く笑顔が輝いていた。さぞかし心配しただろうに、そんな事は微塵も感じさせない。王女としての風格も感じられる。妊娠した事で幸せに思い、気持ちが前に進んでくれたなら喜ばしい事だった。
夕暮れ時、勇者の家を訪れた。皆夕食を済ませくつろいでいた。
「おう、健。ちょうどいい。実は聞きたかったんだけど……」
ユキナが尋ねた。
「この勇者の家にいても良いのか?傭兵は傭兵の家にいるじゃないか」
「大丈夫だよ、君達は真の勇者じゃないか。それに俺の大切な仲間だからな」
「そうかそうか、ならいいな!実際どうしたものかと皆で話してたんだよ」
ジョンさんがそう言った。
「俺からも聞きたい事があるんだ」
「なんや?何でも聞いてやー」
「うん、みんなの賃金なんだけど……。今更で申し訳ないが、お金を貰わないで生活するのは不便だしやり甲斐もないかなと。今度王女と相談して公的に賃金を出してもらおうかと思ってる」
「それは嬉しいです。またパンケーキが食べれるんですものね」
琴音が嬉しそうに言った。
「だけど、私たちだけなの?国や街の為に力をつけて戦う傭兵はどうなるの?」
ほのが提案してくれた。
「そうだったなぁ、皆無償だよな。よし、それについても何か良い方法を考えるよ。ありがとう」
寝室に戻るとリリアが編み物をしていた。
「そんな根気のいる事をして大丈夫なのか?」
「平気です。春に生まれるからまだまだいらないかも知れないんですが、どうしても赤ちゃんのおくるみを作ってあげたくて」
そう言うリリアの顔はとても幸せそうに見えた。
「この子はまた国を守る使命を、生まれた時から負わされてしまいます。絶対男の子がいいと思ってブルーのおくるみにしました」
男の子……、きっとリリアは自分と同じ思いをさせたくないのだろう。今まで性別なんて考えた事もなかったが、改めて思うと男の子の方が幸せかも知れない。だが、どちらにしても戦争がある世界なんかに生まれたくはないな。この子のためにも平和な世の中を作らなければいけない。
「リリア、提案なんだけど」
「なに?赤ちゃんの名前ですか?」
「あ、いや……、傭兵の今後の事で、ごめん。まだ赤ちゃんの名前は考えてなかった」
「あら、いいですよ。まだ生まれてからで大丈夫ですから。顔を見て一緒に考えましょ」
「そうだね。傭兵に公的な賃金を与えてあげたいんだが、どうだろうか」
「私は前にも言いましたが、本当に何もわからないんです。ですから貴方が良いと思う方向で考えて下さい。それを報告していただければ、私が皆さんに賛否をうかがいます」
「そうか、わかった。では、傭兵レベル30になった者は国の雇う傭兵の資格を持つ事にしよう。近衛兵や騎士団と同じ額でいい。生活が大変だからボランティアじゃあ可哀想なんだ」
「本当にそうですよね。分かりました。早速手配致します。また他にも何かあればいつでもアドバイスくださいませ」
そう言うと、編みかけのおくるみを綺麗にたたみ席を立った。結婚前のリリアからは想像できない程逞しくなった。やはり子供の頃から国を守る事の意識があるからだろうか。それとも血筋だろうか。どちらにしても前向きなリリアに戻ってくれて嬉しかった。
角笛がなったのは朝早くの事だった。
「どうした!何があった!」
「はっ!健公、ブリーズ国の奇襲です!約1万の兵がすぐそこまで来ております!」
急いで広場に集まった。
「なぜだ!あの使いは何だったんだ⁈」
「してやられました……」
ロバートが肩を落として呟いた。
「ユキナ!いるか?」
「はい、黒魔道士を集めました」
「塔から攻撃出来そうか?」
「無理だ、遠すぎる。弓ならいけるだろうがな」
「弓隊、塔から攻撃準備を!」
「ジョンさん!出番だ!黒魔法隊も外に出て攻撃するしかない。どうか守ってやって欲しい。俺たちも外に出る!」
「任せとけっ!」
「これよりブリーズ国との戦闘を開始する!近衛兵、騎士団、物理攻撃隊、黒魔法隊は共に外へ!」
城門を出ると兵の数の多さに圧倒される。ブリーズ国には約束という物が通用しないのか!腹立たしい思いで俺は戦場に立った。洗練された兵は強い。五分と五分の戦いが続いた。その光景は酷かった。
夜になるまで戦いは続き休戦になった。皆広場に入った。広場がまた死傷者で溢れかえった。医者たちは忙しそうに動き回り、痛がる兵は大声をあげていた。
「もう一度、使者を送りますか?」
ロバートが辺りを見回し顔を歪めながら言った。
「いや、もう俺は信じない」
「はい、そうですね……」
「被害状況はわかるか?」
「確認中です」
みんなを見て回った。手当てが追いついていないのか、そのままじっと横たわる者が多かった。
「ユキナ!」
「ここだ!」
横たわる兵の中にユキナがいた。
「やられたのか⁈」
「心配ない、ほんのかすり傷だ。明日には戦える」
「無理するな。他の黒魔道士はどうだ?」
「騎馬隊に攻撃されて盾役が追いつかなかった。死傷者が沢山出た……」
「そうか、残念だ。やはり黒魔道士は戦闘から離れよう」
「バカ言うな!何のために皆強くなったと思ってるんだ?国も守れずにどうしろと言うんだ!戦わせてあげてくれ!いや、指示がなくともあたし達は外で戦う!」
ユキナは怒りの目を俺に向けそう言った。
「わかった……、だが、もしまた騎馬隊が来たら速やかに城へ入れ。いいな?」
ユキナは納得できないようだったが、コクリと頷いた。
戦いは次の日もまた次の日も続けられた。ようやく終戦を迎えたのは4日後の昼過ぎだった。ブリーズ国は兵を多数失い帰って行った。こちらの被害も甚大だった。何よりも傭兵が死んだことが悔しかった。それでも皆は相手が逃げ帰った事に歓喜し「アンジュ国万歳!」と叫んだ。
「リリア、心配かけてすまなかった」
リリアは玉座の間に座っていたが顔色が悪かった。
「もうここはいい。寝室に行こう」
歩くこともままならないリリアを抱きかかえ寝室に寝かせた。
「ちゃんと食べていたのか?」
静かに首を横に振る。
「なぜ?お腹に子どもがいるんだ。2人分しっかり食べないとだめじゃないか」
「皆が戦っているのに私だけそんな事は出来ません」
侍女にリリアの食事を持って来てもらうように頼んだ。
「食べたらしっかりと眠るんだよ、いいね」
「あなたはどこに?」
「心配はいらないよ。もう戦いは終わったんだ。次またいつ襲ってくるとも限らない。その為に今は休養をとってくれ、いいか?自分1人の体じゃないんだよ」
リリアはコクリと頷いた。
その後勇者の家に行った。皆疲れ果てているようだった。
「ユキナ、怪我は大丈夫か?」
「もう良くなった。痛みもないよ」
「そうか、皆お疲れ様!本当に大変な戦いだった。皆のおかげで傭兵の統制がとれた。ありがとう」
「そんな事は造作無い。それより俺達皆話してたんだけど、傭兵ってなんなんだろうな。もちろん戦う為に生まれたものだが、戦いなんか要らないよな。俺はその為に防具を作ってきたが……、なんだかよ、虚しくなったよ」
いつも元気なジョンさんが、力なくそう言った。沢山の傭兵達の死を目の当たりにしたからだろう。戦いのない世の中にしなくてはならない。だがそれは一方で傭兵や装備屋、酒場をも不要にしてしまう事になる。新たな世界は新たな生き方が必要になる事を知った。