第4話 初めての戦闘
眩し過ぎる朝の光を浴び眠りから覚めた。家ではなかった事に酷く落胆する。朝食が出来たわよ~と、いつもはうざく感じていた母の声が懐かしい。
子供扱いされていた事に苛立っていたが、実際問題否定など出来なかったんだと気づく。ろくに働きもしない俺が何不自由なく暮らせていたのは、両親の稼ぎのおかげだったんだ。働く意味を俺は初めて知った。
重い腰を上げ土を払い、大きく伸びをした。身体のあちこちが痛む。同時に喉の渇きと空腹。最悪のコンディション。働かざる者食うべからず。
村の外に出るため歩き始めた。モンスター退治をして食料を得るためだ。今にも倒れそうな古い木の門を見つけた。そして恐る恐る村から外に出た。少し怖かったが空腹には勝てない。
「ハレルヤ、キノコがいる」
俺は弱々しい声でそう告げた。
"おはようございます、健様。それはキノッチというモンスターで、1番弱く今の健様の倒せる唯一の敵でございます"
「そうか……、わかった……」
剣を腰から抜きキノッチに切りつけた。突然目が怒りだしたかと思うと、脇腹目がけて突進してきた。
ドサッ!
「うっ……」
息も出来ないほど、その一撃は強かった。
「マジで痛い……、なぜだ?ゲームだよな?夢だよな……」
防具らしい物を装備していない俺の脇腹は、赤く腫れ上がっていた。
"健様、そろそろ目をお覚まし下さいませ。ゲームや夢や色々おっしゃっていますが、今あなたは現実にここで生きておられるのですよ"
「えっ……。嘘だ、嘘だよな……」
今度はキノッチが頭から突進し、俺のスネに一撃を加えた。声も出せずよろけながら膝をついて倒れた。
"キノッチに殺られる勇者様など、見た事も聞いた事もございません"
言えてる……、1番弱い敵なら簡単に倒せるはず。今ある渾身の力で剣を振り下ろしたが、キノッチはびくともしない。突然キノッチは宙を舞い、頭にそのまま体当たりしてきた。よろけるどころか俺はそのままうつ伏せに倒れた。
"死ぬか生きるか、相手も必死なのです。どうか健様、目を覚まし今のあなた様が置かれている現状を直視して下さいませ"
「死ぬ?殺られたら本当に死ぬのか?」
"もちろんでございます"
俺はふらつく頭を振り起き上がった。そして無我夢中でキノッチに切りつけた。スキなど与えない、痛みはもうたくさんだった。
キノッチはその場に倒れ、もう起き上がる事はなかった。
もう戦う力は残っていなかった。よろよろと村の門をくぐり中に入った。ベンチに腰掛けて大きく息を吐いた。確かに勝った、勝ったが喜びはない。ぶざまな闘いだった。あのまま俺が殺られていてもおかしくない。1番弱い敵に五分と五分なんだ。
"健様、今こそ回復薬が役立つ時でございます。HPという体力ゲージがあと残りわずかですから"
「そうか、やっぱり危なかったのか」
背中のリュックを降ろし中からビンを取り出した。赤い液体が入っている。喉の渇きもあり、一気に飲みほした。身体中に力が湧いてくるような不思議な感覚。だが空腹は補えないようだ。
「ドロップ品は食料なんだよな?」
"食料もありますし、モンスターによって様々でございます。それと少量のお金が財布に入ります"
リュックから袋を取り出した。中にエノキが1束入っていた。財布を開けると1010円。死ぬ気で戦って得たものはたったこれだけだ。キノコだからエノキか、俺は妙に納得したがこれは食えない。
"健様、右手のひらをご覧下さい。"
土と汗で汚れた手のひらを見た。何故か光った数字が浮かび上がっていた。
「2?」
"それは今の健様のレベルでございます。今の戦いで1からレベルアップしたのでございます。おめでとうございます"
「レベルアップすると強くなるのか?」
"もちろんです。各種ステータスが上がり強くなっていきます。それと一定のレベルに達すると様々な事が出来るようになります"
「何が出来るんだ?」
"それはもう様々な事ですが、1番近いものでレベル3になりますと、スキル連撃が使えるようになります"
「なるほど……。ちなみに俺は双剣使いだが、なぜ剣が1本しかない?買えばいいのか?」
"生憎買ったところで装備出来るのは、レベル8の二刀流スキルを身につけてからになります。ですから最初は1本しか持っておりません"
「色々わかってきたよ。戦う事が俺の仕事なんだよな。仕事をしなければ何も得る事が出来ない。そうなんだろ?」
"おぉー健様!成長されましたな!このハレルヤ嬉しく思います。やっと私目の仕事も順調にはかどりそうでございます"
何故かはわからないが、ハレルヤはそう言って喜んでいた。俺も褒められて悪い気はしなかった。
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