第32話 恋の行方
豪とホイットに諭され庭に出てみた。遠くのベンチに穂乃花が俯いて座っている。
「ほの〜」
俺が声をかけると穂乃花はチラッと俺を見て、慌てて涙を拭った。
泣いている……!?いったい何があったんだ。
穂乃花の隣に座った。
「どした?」
穂乃花は俺の目をしっかりと見つめ何か言おうとしていたが、また俯いてしまった。
前の世界で彼女がこういう行動をとったなら、多分面倒になりその場を離れただろう。だが、今回は違った。大人になったのか、気が長くなったのか、穂乃花だったからか……。それは分からないが、心配で堪らない。
「ほの、俺には何でも言ってくれないか。じゃないと悲しくなるよ」
「ごめんなさい、私にもよく分からないの。こんな気持ちになったの初めてだから」
「じゃあ、どんな気持ちでいるのか教えて?」
「うん、健とリリア姫が2人きりで何処かに行くって聞いて……とてもイヤな気持ちになったわ。皆が焼きもちって言ったんだけどね……それも分からないの」
「えっ、俺?原因は俺か」
思いもよらない穂乃花の言葉に絶句した。仲間は大好きな存在でとても大切だった。彼らを悲しめたり苦しめたりする奴がいたなら、俺は絶対に許さない。
なのに俺が穂乃花を苦しめていた。ショックだった。
だが待て、俺に焼きもち。穂乃花は俺の事を好きなのか?じゃ、俺は?
頭が混乱してきた。リリア姫の事は何とも思わない。それははっきりしている。穂乃花の事は嫌いじゃない。それもはっきりしていた。
だからといって恋人として好きか、自問自答するが自分でもわからない。
「ほの、リリア姫と出かけてごめん。でもただ誘われたから行っただけで、何も深い意味はないよ?楽しくもなかったよ」
「本当に?」
「あぁ、だからもう悲しまないでくれないか?」
「うん、分かった」
分かったと言いながら穂乃花はまだ浮かない顔をしている。どうすればいいんだ。俺も好きだと言えば簡単にこの場は収まるだろう。だが、嘘はつけない。
「ほのが大切なんだ。悲しませたくない」
これが真実だった。
「ありがとう……なんか……ごめんなさい」
そう言って穂乃花はまた泣き始めた。
俺は穂乃花を思い切り抱きしめた。こんな事を曖昧な気持ちでしても良いのか……、だがその時は自然に思えた。
穂乃花は長い時間ここに座っていたのだろう。身体がとても冷たい。
「……健を……困らせ……たくないのに……本当にごめんなさい……」
咽び泣く穂乃花をいっそう強く抱きしめた。
「お願い、お願いだから……ほのを嫌いにならないで……。好きにならなくてもいいから、お願い……お願いだから……嫌いにだけはならないで……」
穂乃花は嗚咽した。
「ほの、大丈夫だよ。嫌いになんか絶対にならないよ」
穂乃花のピンクの髪をなぜながらそう言った。
いや、逆に今なら好きだと言えそうなくらい穂乃花が愛おしく思えた。
ーー王室ではーー
リリア姫が国王に呼ばれた。
「お父様、何でしょう?」
「おぅ、リリアよ。そろそろ結婚の話を進めようと思ってな」
「……はい」
「どうだ、お前は22歳だ。ロバートは25歳。ちょうどいいと思わんか?」
「年齢だけで選ぶのですか」
「いや、そうではないぞ。ロバートは立派な騎士団長だ。今までこの国を支え続けてくれた。今回のトレートルの一件もーー」
「ロバートや騎士達だけでは捕えられず沢山の兵を失ったではありませんか!勇者健様がいたからこそです!」
「これこれ何をそんなに怒る事があるのじゃ?ロバートは嫌いか?」
「結婚相手なら自分で探します」
「誰か心におるのか?」
「いえ……まだ……今は。でもお父様、私に好きな人が出来たら結婚できるように応援して下さいますか?」
「うむ、相手による……なぁ」
「お母様が生きていらっしゃればきっと応援してくださいます」
「それを言うではない……分かった分かった。約束しよう」
穂乃花の機嫌もよくなり、皆で夕食をとった。恋の行方を皆気にしていたようだったが、あえて何も聞かなかった。穂乃花はご馳走を前にして嬉しそうに俺の横で食べている。
この感覚はなんだろう、穂乃花を見て考えた。嬉しそうにしていると、こっちまで嬉しくなる。泣いていると悲しくなる。友達でも同じ感情にはなるが、ここまで切実にはならない。
仲間として大好きだ。だからか?死を前にして戦ってきた仲間だからこそ、ここまで大切に想うのだろうか。こんなに自分の気持ちが分からないのは初めての事だった。
そう思いながらずっと穂乃花を見ていたので、穂乃花は不思議そうな顔をして俺を見つめていた。
「ん?」
「いや、なんでもない。食べようか!」
俺は笑顔で答える。
「まだ食べてなかったんかいな!はよ食べな無くなるやん」
「お前が1番食べてるだろ」
「ちゃうちゃう。豪ちゃんの方が食べてるって」
「ふぁい、ふぉです!」
豪は肉にかぶりつきながら慌てて言ったので、変な言葉になった。
自分で言って可笑しかったらしく、口元にソースをつけながら高笑いした。
皆もその豪を見ながら笑った。
間違いなく言える事がある。俺はこの5人が大好きだ。




