第3話 コマンスマンの村初日
辺りはシンと静まり返っている。あのジジィが話さなければ、こんなに静かだったのか。改めてそう思った。
海岸線にそって海辺を歩いた。波が穏やかだ。離れた場所に港が見え小さな漁船が数隻確認できる。俺は困惑していたものの、その景色の美しさにしばし時を忘れ、砂浜に打ち上げられた流木に腰掛けていた。
太陽が傾き水平線に近づき、空と海をオレンジ色に染めていた。そうか、ここは時間の経過があるのか。
夕焼けの美しさは例えようが無い。多分今まで見た中で1番美しいだろう。いや、それ以前に景色に魅了され、こんなに長い時間見たのは初めての事だった。日が沈むと青紫色の空が海を染めた。辺りが次第に暗くなっていた事に今さらながら驚く。
"健様。今日の御用はなさそうでございますな。いやぁ、初日から何もせず夜を迎えられるとは……"
静けさを破りハレルヤの声がした。
海風が肌寒くなってきた。
「寒っ!」
"もう10月も終わりに近づくと朝晩は冷えてきましたなぁ"
「季節もあるのか」
俺はゆっくりと砂浜を歩き、村の中心部へ向かった。建物が立ち並んではいるが、店はどこも閉まっていた。
「あー腹減ったなぁ。ハレルヤ食料はどこで売っている?」
"売っておりません。"
「食堂ぐらいあるだろ?」
"ございません"
俺は風よけになる建物を選び、そこに身を潜めるように座り丸くなった。いい加減疲れた……。起きて餃子食いてぇ。
"そうそう、健様にお祝いの品を渡すのをすっかり忘れておりました。"
「何?」
"回復薬と1000円でございます。"
そう言うと俺の背中のリュックが重くなった。
「この状況だと普通食い物だろ」
"食べ物ならご自分で調達して下さいませ"
「調達?どうやって?」
"健様のジョブは双剣でございます。ですので腰に剣がございます。それで村の外のモンスターをやっつけると、モンスターがアイテムを落としリュックに自動的に入るシステムになっております"
「早く教えてくれよ!やっとゲームらしくなってきた!」
"基本質問されない限りアドバイスは行いませんので、ご了承ください。私目もやっとアドバイザーとしての仕事が出来てほっとしております"
「よしっ!モンスター退治に行くかっ!」
勢いよく立ち上がった。
"生憎もう夜でございます。夜のモンスターは強く今の健様では倒せません。"
「はぁ~!?」
俺は一気に力が抜け、その場に尻もちをついた。
"ですので、今日はもう休みます。
明日また、という事で"
ハレルヤはその言葉を最後に静かになってしまった。お腹は鳴り出すし、皮のベストに布のズボンは寒すぎる。
あぁ、こんな事なら餃子食っときゃ良かったな。暖かいベッドも恋しいなぁ。
俺は今までこんな苦痛を味わった事が無い。子供のようにホームシックにかかっていた。いつ覚めるともわからない夢の中で、初めて野宿をし朝をむかえた。