第25話 初めての感情
翌朝、国都から1番近い港町ル・ポールに向かう準備に皆追われていた。騎士団長ロバートが騎士を束ね一緒に向かう。近衛兵達は城を守るため残された。
「勇者健様、騎士団長のロバートです。本日から同行致しますゆえ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
そこへリリアがやって来た。
「健様、これを」
見ると美しい宝石のついた勾玉のネックレスだった。
「お守りです。是非お持ちになってくださいませ」
そう言われ俺は首にかけた。
「ありがとうございます」
「必ず無事でお戻りください」
リリアはとても心配してくれた。
それを隣で見ていたロバートは、何故か露骨に嫌な顔をした。
俺達を乗せた馬車と檻を引く馬車、周りに騎士達が同行した。
「トレートルと言っても元は皆と同じ傭兵だ。出来たら傷つけたくないし、捕えられて欲しくない」
俺は今の心境を皆に語った。
「反撃者に賛成し国民を苦しめても平気な奴らだ。健、構うことはない」
ユキナは少し怒った表情で言った。
「まぁ、相手の出方を見ましょ。正義の勇者がやって来た事を知って、それでも以前みたいに攻撃してきたら、やらなしゃーないで」
ホイットらしい言葉だった。
「おいは同じ傭兵として、素直に謝って捕えられて欲しい。戦いたくない……」
「それは皆そうやと思うで、でも僕は豪ちゃんが叩かれるのを見たら無理や。大事なのはここにおる仲間やからな」
ホイットがそう言うと、皆納得したのか静まり返った。
俺は豪がイノッチに攻撃され負傷したあの日を思い出していた。あんな目には2度と味合わせたくない。絶対にこの仲間を守りたい!
今までにない強い気持ちになっていた。
馬車がル・ポールに到着した。
警戒するため門から離れた場所に止まった。俺達は馬車から降り騎士達より先に門の方へ向かった。トレートルは突然の事だったためか、姿は見えない。
俺はロバートに中に入ると合図を送り、門の中へどんどん歩いて行く。街人達の安全のため中では戦いたくはない。通りには運良く人影がなかった。
そこへ1人の傭兵が建物から飛び出して来た。トレートルだろうか。
「え、お前は……」
「この方は勇者健様だ!」
俺が答える前に豪が叫んでいた。
「み、皆出て来てくれーー!」
2人が飛び出して来た。3人だけ……?
「トレートルなのか?」
俺は改めて3人に聞いた。
「そうだ!」
そう言いながら穂乃花に斬りつけた。
穂乃花の肩から血が溢れ出し蹲ってしまった。
「お前ら!」
それを見た俺はそう叫んで、そいつに斬りつけた。豪はすかさず前に出て挑発を唱えた。
「待ってくれ、お、俺は闘う気は無いんだ」
1人がそう言った。
ホイットはそいつの腕を掴みロバートに引き渡した。騎士達も中に入って来た。
最初に攻撃した奴と2人だけになったトレートルだったが、俺は許せなかった。根性まで腐った奴らだ。俺は何度も何度も斬りつけていた。2人が項垂れ傷を押さえていたのを見て、ホイットが俺を止めた。騎士達はすかさず2人を連行し檻に入れた。
皆穂乃花に駆け寄った。
肩の服が破れ、押さえてる手から血が流れる。穂乃花を抱き、急ぎ診療所に連れて行く。涙を堪える穂乃花が可哀想でならない。
診療所で手当てを待っていた5人の元へロバートがやって来た。
「3人を城に連れて行きます。穂乃花さんの怪我もあります。ここに少し留まっていて下さい」
騎士達は帰って行った。
「たけちゃん、どうしたんや?平静さを失ってたで?」
ホイットにそう言われた。
確かに。俺は腹が立った。卑怯なトレートルを許せなかった。穂乃花を狙ったのも気に食わなかった。
だが、ここに来る前は同じ傭兵を傷つけたくないと思っていた俺が……。
「すまない」
その言葉しか思いつかなかった。
トレートルの勇者も今の俺と同じように、何かが狂ってしまったのかもと思い始めた。
俺にはこうして注意してくれる仲間がいる。安らぎをくれる仲間がいる。忠実に付いてきてくれる仲間がいる。心配し励まして心に寄り添う仲間がいる。
それが彼にいなかったら……。