第11話 サリの願い
ベッドの上で朝を迎える。なんと素晴らしい事だ。カーテンを開け窓から外を見た。村の中心部は多くの人が行き交っていた。少し寝すぎたかも知れない。
ルームウェアのままLDKに向かう。2人の姿はなかった。庭から物音が聞こえた。
ソファーの後ろの扉を開けると、朝の冷たい風が吹き込む。この格好では寒い。庭に井戸があり、その前で豪がタライに向かい何かを洗っている。よく見ると俺の防具だ。琴音の巫女装束は洗い終えたのか、綺麗に干してあった。
「おはようございます。豪さんがどうしても自分が洗うってきかないんですよー!」
琴音は村娘のような服を着て、ベンチに腰掛けていた。そうか、洗濯されると着る物がない訳だ。
「服はどこにある?」
「寝室の箪笥に少し入ってました」
琴音が答えてくれた。
なんせ寒い。寝室に戻り箪笥の中を物色する。麻の上下があった。この時期に麻……。仕方なくそれを着た。上着があったのでそれも羽織る。
戻ると琴音はソファーに座り、豪は手を拭いていた。「豪ちゃん、ありがとな!」俺がそういうと豪は首を横に振り「なんも。」という。豪らしい……、だがこの洗濯により狩りには行けない事が確定した。ハハハ、可笑しくなって笑ってしまう。
「おはようございます。勇者様!」
娘の声がした。
扉を開けると、年若い村娘が何かを持って立っていた。それを俺の胸にぐいと差し出す。
「ん?」
豪と琴音もやって来た。
よく見ると卵と野菜の入ったサンドイッチ。
「くれるの?」
前髪をきれいに揃え、後ろで三つ編みにしている。村娘は何も言わずこくりと頷いた。俺はそれを受け取り、お礼を言った。村娘はまたこくりと頷き、坂の小道を走って行った。
「ちょっと待って?君名前は?」大声で叫んだ。村娘はピタリと止まり振り返った。「ニーナ!」そう答えると、三つ編みをぴょんぴょんさせながら道の向こうに消えた。
3人は顔を見合わせた。可笑しくなり俺が笑うと2人もつられて笑った。
「有難く食うか!」
3人は食卓に付き朝食にした。飲み物は相変わらず水。
食べ終わると琴音が食器を洗ってくれた。昨夜の食器も綺麗に片付けである。豪はまた庭に出た。干した衣類の裾を絞っている。
立てかけてある2人の武器を見た。琴音のはまだ真新しいが豪の盾は鍋蓋のようで、裂けている所がある。よくこれで攻撃を受けていたなと、感心するほどだった。剣も所々錆びていた。「よし!」その盾と剣をとった。
「ちょっと出掛けて来る」
琴音は振り返りどこに行くのか尋ねたそうだったが「はい……」と返事をした。
リュックを背負い家をあとにし、武器屋を目指した。
「いらっしゃいませ」
弟のヨシュアが低い声で出迎えた。
ヨシュアが作った二刀流の立派な剣を持ってはいるものの、会うのはこれが初めてだった。
「立派な剣をありがとうございます!」
「いえ……」
兄のジョンとは違い、とても物静かだった。もしかして白い毛だけで2本も剣を交換した事が気に入らないのかも知れない。豪の盾と剣をカウンターに置いた。
「新しいのが欲しい。出来ればこれより上の強い方がいいんだ」
ヨシュアは無言で怪訝そうな表情で俺を見た。
「高いです……」
「いくらだ?」
「鉄の盾が600、剣が500」
合わせて1100円か。俺は財布の中身を見た。1540円あった。
「なんとか買えそうだ」
「まけてやれ!」
隣の部屋からジョンが入って来て、そう言った。ヨシュアは露骨に嫌な顔をして俯いた。
「いえ、先日も世話になってるので、今回はきちんと払わせて貰いたい」
そう言って1100円カウンターに置いた。
ヨシュアは無言でカウンターの盾と剣を取り後ろに置いた。奥から光る盾と剣を持って来て、カウンターに置き100円を俺に返した。
「いいんですか?」という俺の問いに「こちらです」とうつむき言った。
俺は100円を大事に財布にしまい込み、新しい盾と剣を手にとった。その頑丈な盾はすごく重かった。
「ありがとうございます!」
ヨシュアとジョンに深々と頭を下げ店を出た。豪の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
急ぎ足で家に向かっていると、村人に声をかけられた。
「勇者様!お願いが……」
「何でしょう?」
「オラの娘っ子が明日17の誕生日を迎えますだ。日頃からろくなものを食べさせてねぇ。明日位はいいものを食べさせてあげてぇんだ」
白髪混じりのおばさんは懇願した。
「何がお望みですか?」
「猪の肉だ。1個でいいんだ。あの子の分だけで。頼めねぇかのぉ?」
猪、倒した事がない。果たして倒せるのかも分からない。だが、懇願するそのおばさんの要望を叶えてあげたい。
「約束は出来ませんが、手に入れば必ずお持ちします。ちなみに何時頃までなら大丈夫ですか?」
「ありがてぇ!明日の夕飯までなら大丈夫だぁ!」
おばさんはサリという名で、防具屋の裏に住んでるらしい。サリの望みは素晴らしい考えだ。叶えてあげたい。
家に帰り豪に盾と剣を手渡した。豪は素晴らしい真新しい盾に惚れ込んだようだった。
「ありがとうございもす。これで勇者様を守りもす」
それからサリの話しを切り出した。
「猪肉はイノッチというモンスターが落としもす。」
豪が教えてくれた。「まだ無理か?」
「イノッチは攻撃がとても強くて……」
琴音は不安そうにそう言った。
「じゃっどん、もう一人雇えばいけんかな?」
「いい考えですね!アタッカーはどうでしょう?」
3人はアレやコレやと話し合うも、解決策が見当たらない。だが、3人の想いは同じだった。
サリの望みを叶えてあげたい!




