第1話 日常生活
閑静な住宅街の中にポツリと建つ小さなマンション。塗装されたスカイブルーの外壁が周りの景観を壊している。ロビーというシャレた物等なく?誰でも出入り出来る赤いエレベーター。そこの9階に俺と両親3人暮らし。間取りは至って平凡な3LDK、3人にはこれで充分だった。
「健~夕飯出来たわよ~」
母の甲高い声で、俺は目を覚ました。
うるせぇ、さっき昼飯食ったとこじゃねぇか。床に散らばってる物を蹴り飛ばしながら、部屋を出た。メシメシって子供じゃあるまいし、好きな時に食わせろ。
キッチンに行くと、母は忙しそうに鍋を洗っている。寝起きの俺には嫌な光景だ。
「健の好きな肉多めの餃子とイカ多めの八宝菜よ。温かいうちに食べてね!」
母はそう言うと、リビングにあるドレッサーの前に座り化粧を始めた。看護師の仕事をしていて、夜勤に行く準備だ。いつもの光景で嫌気がさすほど見飽きていた。
俺はイカを手でつまんで口に放り込む。母の料理は上手いが、生憎寝起きの俺には食欲がない。
「じゃぁ、行って来るわね!」
玄関の方に歩いていた母が振り返り、笑顔でそう言うと足早に出て行った。閉まった玄関扉の向こう側で鍵をかける音がする。これもいつもの事。いつまで子供扱いなんだ……。
リビングのソファーに寝転び、テレビをつけた。程なくして玄関を開ける鍵の音。銀行員の父が帰って来た。
「ただいま!おぉ今日は餃子かっ!いいねぇ~」
父は着替えを済ませ、冷蔵庫からビールを取り出し食卓についた。
「健は食べないのか~?八宝菜も絶妙な味だな。母さんは料理が上手くて幸せだよ~なっ!健っ!」
ちっぽけな幸せだな……。俺は父に答えずそう思った。
ちなみに俺はギリギリ高校を卒業し、今はフリーター。と言っても、気が向いた時にド短期バイトに行くだけだ。この気が向いた時というのがくせ者で、働く意味がわからない俺はなかなか気が向かない。まぁ、俗にいうニートと大差ない。
ただいま19歳。来年の成人式だけを楽しみにしている、どこにでもいる男だ。成人式には仮装をしてハメを外すという、連れとの約束。
一生に一度の成人式。思いっきり暴れて一生の思い出にしてやるっ!
次話からいよいよ異世界突入します。