そんなカノジョを、僕は
アンリ様企画【うれしたのし秋の恋】企画参加作品です。
つい最近焼き芋食べて思いつきました。
あー、今度はモンブラン食べたい。
短編が楽しくて、連載作品の方が進まないのですよ……。
僕のカノジョは、芋・栗・南瓜・豆を愛している。
特に、芋。
僕と彼女のこれまでを語るには、『芋』なしでは不可能だ。
何せ彼女と出会ったのは、彼女が石焼き芋売りの屋台車を追い駆けていたときだったし、再会したのは正月に自治会の宴会で出された栗きんとんのお陰だ。
紆余曲折を経て晴れて恋人同士になった後の初デートでは紅芋味のソフトクリームを食べたし、行きつけの居酒屋で呑み合った時も芋焼酎片手に枝豆をつつき、夏祭りなんか『どの屋台のじゃがバターが一番か』を語り合った。
勿論、普通にケーキ屋さんでデートした日もあるし、映画館デートも二ヶ月に一度は行く。
彼女となら、普通のデートをしてても楽しい。
でも、やっぱり印象的なのは芋・栗・南瓜・豆関連のこと。
彼女が作ってくれた初めての手料理は、南瓜の煮つけ。女子友旅行のお土産は甘納豆。後は、天津甘栗だったかな。
僕が風邪を引いた日には南瓜プリンと豆のスープを作ってくれた。
おうちデートではムカゴの炊き込みご飯と山芋の揚げ物、手づくりポテトチップス(じゃがいもverとさつまいもver)を食べながら映画やらアニメやらを観る。
それが、僕たちの日常。
「でもさ~、お前のカノジョ。そんなんばっか食べてても全然太んねぇよなぁ」
何か運動とかしてるワケ?と十年来の悪友が肘でつついてくる。そうだなぁ、確か。
「僕の知る限りじゃ高校で卓球部だったぐらいかな」
そう、彼女は自他共に認めるインドア派。デートも外――例えば遊園地とか――で遊ぶと言うより、デパートやレストランに食べに行ったり、話題のお店に食べに行ったり……って、食べに行ってばかりだな。
とにかく、その手の類いが多い。
「あぁ、そういえば。彼女、ギャル○根体質だって言ってた」
「いくら食べても太らないってアレか?なるほど、どーりで俺のカノジョも羨ましがるワケだ」
悪友のカノジョは雑誌モデルだったはず。人一倍体型に気遣わなければならない彼女なら、確かに僕のカノジョの体質は羨ましかろう。
なんたって、美味しいものは脂肪と糖で出来ているらしいから。
少し離れたところから独り身連中の「リア充、爆発しろー!」やら「クッソ、惚気やがってぇ」やら、半ば自棄を起こした僻みの悲鳴が聞こえる。
悔しければさっさと相手見つけるんだな。ふん。
「ま、何にせよ。ようやく収まるところに収まったって言うか……思ったより長かったな」
「そうだねぇ、付き合い始めてから六年だし。出会ってからはもっとかな」
学生時代から社会人になった今まで、ゆるゆると穏やかな付き合いを続けてきた。
どこぞの恋物語のように劇的な展開やライバルが現れたり、突然遠距離恋愛になったりもなかった。
お互い浮気をしたこともない。
ケンカやいさかいが全くなかった……と言ったら嘘になるが、人同士の付き合いには付き物だと思う程度。それに、『喧嘩するほど仲が良い』とよく言うしね。
「で、例の言葉はいつ?どうやって渡した?」
好奇心旺盛に訊ねる悪友。
……いや、たぶん彼もそろそろそれを視野に入れているから、成功した僕のアドバイスが欲しいのかも。でも、残念。
「秘密。ってか、お前じゃ参考にできないから」
はぁあっ!?マジかよー!と叫ぶ彼にまた周りから「ドンマーイww」「ざまぁ味噌汁ぅ」と声が上がる。頭を抱える悪友、自分で考えなきゃ意味ないだろ?
さて、僕はそろそろ。
「おーぅ、お疲れさん。あ、これ持ってけよ」
立ち上がった僕に手渡されるボトル瓶。中身が半分ほど残ってるそれは、僕のカノジョの好む銘柄の芋焼酎だった。
「帰って二人で呑めよ?」
ニヤニヤとある意味イイ笑顔を見せたそいつに「おう」と答えると僕はいそいそと家路についた。
……ちなみに、今日の飲み会は僕以外の連中の奢りだ。
「ただいま」
「おかえり~」
家に帰ると玄関にパタパタと駆けてくる足音――もう、夜も遅いのにまだ起きていたらしい彼女。
ほんのりと頬が上気してるのは、風呂上がりだからか、それとも……。
「先に貰ってたよん~♪」
やっぱり、呑んでたみたいだ。
彼女が頬擦りしているのは先日「お祝いよ!」と言って僕の姉が置いていった焼酎。珍しく、大豆のお酒だったはずだ。
もうすでに四分の一になってしまっているのは、ひょっとして。
「さっきまでお義姉さんと、妹と、酒盛りしてたの」
女子会よ、羨ましい?と無邪気に笑う彼女に微笑みを返す。
僕もさっきまで男子会(……って、言っていいのかなアレ。おっさんの会だったかも)に行ってたし、それは羨ましいかい?って聞くと「全然!」って、答えた。やっぱり。
「そんだけ呑んだなら、今日のこれはお預けだね」
「……え!芋!?ヤダヤダ、呑むぅ!」
お土産……というか戦利品かな?
貰ってきた芋焼酎をプラプラ振ると、彼女は猫じゃらしにじゃれつくようにピョンピョン跳ね回る。身長差25㎝を舐めるな、ふふん。「いもーいもー」と若干幼児返りしてるのは、少し酔ってるからだろう。
「意地悪するなら、夜食あげないよ!」
今日はトロロ飯なのに!とふくれる彼女。
それはマズい、トロロ飯――山かけご飯は、僕の好物だ。食べた分だけ太る僕だけど、あるなら食べたい。
「ごめんって、一緒に呑もう?まぁ、明日のこともあるから手加減してさ」
「むふ、芋~!」
コロリとご機嫌になる彼女、僕はちょっと苦笑いして食卓につく。トトトッと台所に駆けて、トトトッと戻ってきて。二人で向かい合ってにこり。
「ではでは、二人の門出を祝って~」
「祝われるのは僕らだけどね。明日だし」
「い~い~の!んーじゃあっ」
きゃんぷぁあ~いぃっ!とどこか気の抜けた彼女の音頭に合わせてグラスを合わせる。僕は大豆の、彼女は芋の焼酎をクイッと煽る。
あぁ、美味しい……。
「今日さ、アイツに『どうやって渡した?』って聞かれたよ」
「あーあの悪友の?なんて答えた?」
「もちろん『秘密』だって」
だよね!と笑う彼女。あはは、言うわけないじゃないか。
だって、プロポーズしたのは彼女からなんだから。
半年前の彼女の誕生日、僕からお祝いに手作りのモンブランを送ったお返しが「嫁に来て!」だった。ちなみに、それに対する僕の答えは「お婿さんなら喜んで」だった。
指輪を買ったのは、実はその翌日だったりする。
そして、明日はついに結婚式。正式に籍を入れるのは明後日。蜜月の新婚旅行は一週間後だ。
「あーん、しゃーわせぇえ」
ホクホク顔で芋焼酎とトロロ飯を堪能する彼女。
そういえば、初めて出会ったあの日。「いもーん!」って叫びながら石焼き芋の屋台車に置いていかれた彼女に、おまけで一個多目に貰ってた焼き芋を分けてあげたときもこんな顔をしていたっけ。
そうだ、そうだった。
その顔に、僕はきっと一目惚れしたんだ。
この先、何度も見るであろう彼女のこの顔。
その度に僕はまた彼女に恋を重ねて、想いを深めていくだろう。
美味しいは正義、だからね。
「えへぇ、いもいも~♪愛してるぅ~♪」
「来月には祖母さんが干し芋送ってくれるよ。今年も多目に頼んだから」
「マジで!?やったぁ~!」
僕のカノジョは、芋・栗・南瓜・豆を愛している。
特に、芋。
そして、そんなカノジョを、僕は愛している。
読んでいただき、ありがとうございました。