表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第五章 騒乱の学園と王都政争編
97/253

第七十六話 純真な生徒と精神年齢が異常な人の交流

少し遅くなってしまってすみません.



「あの、ユーフィリア先輩。大丈夫ですか?やっぱりクラスの方が心配なら、行っていただいても……」

「えっ。ああ、ごめんなさいね。さすがに少し驚いてしまったけど、そこまで心配はしてないわ」

「そうなんですか。でも、さすがにあの光景は……」


私が固まっているのを見て、私に質問をしていた女の子が不安そうに聞いてきたが、別に言った通り心配はほとんどしていない。


「確かにそうね。でも、一応言っておくけどこういう光景は特待生クラスでは日常茶飯事よ」

「そうなんですか」

「ええ」


爆裂魔術で吹き飛ばされるエドワード君は毎日のことだし、タウラス君が無茶をして気絶するのは魔術祭以来よく見る。それを考えると私が心配するほどではない。まあ、中等部生にちやほやされていたせいか多少威力やパフォーマンスが派手だったけど。


「それに、それぞれに治癒魔術が使える面々が行った時点で、私の出番はないわ。現にま……クライス君も動いてないでしょう」

「そうですか。納得しました」

「そう。それじゃあ説明の続きをしましょうか」

「お願いします」

「ええっと、確か属性ごとの治癒魔術の差までは話したんだっけ」


私は外側で起こった事故のことは忘れて、目の前の女子生徒の疑問に答えることにした。


「はい。治癒魔術に分類される三属性が水・光・闇の三属性だということまでお聞きしたところで」

「あの爆発が起こったわけね。分かったわ。それじゃあ三属性の違いについてから話していこうかしら」

「はい。それで光魔術が外科治療に用いられて、水魔術が身体能力強化や解毒等に使われるというのは知っているんですが……」

「そうよね。闇魔術の治癒はもともと知られていないから。簡単に説明しておくと精神治療に関する治癒魔術よ」

「精神治療……ですか?」

「ええ。まあ、色々と危険性が高いので現在は名前が知られているだけなんだけどね」

「そうなんですか。じゃあ、覚えなくても?」

「構わないわ」


実際は覚えなくてもいいというか覚えてはいけない魔術なのよね。なにせ、危険性から裏の魔術師たち御用達の魔術である上に、失敗すれば精神が崩壊しかねない。というか、そういう方向性に悪用できるように魔術が改変されてきているから……危険性が上がってきているし。


「それじゃあ、光魔術の治癒と水魔術の治癒についてお願いします」

「それじゃあ、その二つのイメージの違いについて教えていくわね。とりあえず水魔術の治癒も光魔術の治癒も、魔術書に書かれている現象を想像するのが重要なのは他の魔術と変わらないわ。その上で、水魔術の治癒は、患部に水を浸透させるような、光魔術はその部分に光を照射するようなイメージでやるといいわ」

「それは学校でも聞いているんですが……」

「そうよね。じゃあ、実際にやってみましょうか……<暴風切断術ウィンドカッター>」

「キャッ。せ、先輩。体に傷なんて」


雅也が治癒魔術を教えるときのように風魔術で指の先を少し切ったのだが……さすがに貴族令嬢であることを失念しすぎていたかもしれない。


「大丈夫よ。傷跡一つ残さず治せるから」

「ほ、本当ですか。でも、普通は多少は傷跡が残りますよね。ひょっとして高位の魔術を使うとか……」

「違うわよ。ほら、見ていて……<治療リカバー>」

「えっ、第二階位の治癒魔術?」


私が使った魔術は最下級の治癒魔術である。彼女の気になっている通り、完全に傷跡を消そうと思うなら高位の治癒魔術を使うか、私のように超越級魔術を使えるのなら大量の魔力で強引に塞いでしまうという手段も使える。ただ、魔術の威力を上げる方法はそれだけではない。


「えっ、傷跡が」

「消えたでしょう」

「はい。でも、なんででしょうか。ユーフィリア先輩の魔力量が多いからですか」

「魔術の威力はいじれないわ。それが原則なのは分かっているでしょう」


それが本当に原則であるというのは一部の人しか知らない事実であるのだが、一般の人たちが使う、雅也が言うところの模造魔術では魔力を注ぎ込める量は全て一定だ。


「威力を変えるのは不可能だけど、魔術はイメージに応じて多少の変化はするの」

「変化、ですか?」

「ええ。たとえば攻撃魔術で言うのなら、魔術の射出方向は変えられるでしょう」

「そうですね。でも、治癒魔術って威力や範囲を上げるためには高位の魔術を使うしかないですよね」

「治る過程、というか治った後の様子をどこまでイメージするかが重要なのよ」

「イメージ?でもそれってさっき言ったものなんじゃ?」

「あれは、その属性魔術全般に対するイメージよ。その魔術それぞれに対するイメージを持っておくことは別よ。ようは傷が塞がるというのを治ったと表現するか、それが完璧に元の状態に戻るのを治ったというのかの違いよ」


魔術は人間の精神体にため込まれた魔力を元に、魔力空間から情報を引き出すもの。それなら引き出す情報自体は変えられなくとも、その情報をどう解釈するかは術者の自由だ。


「なるほど。そうすれば威力が上がるということなんですね」

「納得したかしら?」

「はい。とても」

「よかった。話が長くなってごめんなさいね」

「いえ。詳しく説明していただいてありがとうございました」


そう言って彼女が離れて行くと、周辺にいた女子を押し倒すように男子たちが押し寄せてきた。


「ユーフィリア先輩」

「僕におしえ……」

「俺が先だ」

「いや、俺が」


押し寄せてくる男子の目はさっきとは違って別の意味で血走っていた。自分でも意識していなかったけど私って憧れの貴族令嬢の一人だった。こういうことは警戒しておくべきで……


「ま、待って。順番に教えるから」

「先輩。俺から先に……」

「や、やめっ……」

「……<雷爆雨サンダーレイン>」

「「「ウギャアア」」」

「えっ……」


興奮した男子生徒たちの迫力に怯えて、目を瞑ると、すさまじい光と男子生徒たちの悲鳴が聞こえた。ゆっくりと目を開けると、そこには男子生徒たちが痙攣しながら転がっていた。やりすぎだなあ、と思いつつも私はぼそりといった。


「ありがとう、雅也」






ユーフィリア嬢に群がっている男子生徒達に魔術を当てようと左手を上げると、その瞬間に彼女の周りの男子生徒達だけが雷に打たれて倒れた。


「ふむ、私の出番はなかったようだね」

「クライス君がいて、彼女に危害が及ぶわけがないでしょう」


クライス君が学院で中等部生達に魔術を教える授業があると聞いたので、面白そうだと思って来てみたが……


「クライス君のクラスメイトはユーフィリア嬢やレオン殿、妹さんをはじめとして……面白いねえ」

「それは分かるわ。まあ、あのメンバーも十分おかしいのだけれど、他のクラスメイトもすごいわよね」

「いろんな意味が込められているけどね」


爆裂魔術で吹き飛んだ彼は、威力や範囲は完璧に模造魔術をうまく使えている……まあ、発動場所が体に近すぎて自分が吹き飛んでいるけど。


「あの子、ミスリル版に頭突きしたわよ……あっ、気絶したわね」

「ただ、ミスリル版にひびは入っている。元の身体能力が相当高いんだね」


身体能力強化ステータスアップ>は名称の通り、元の身体能力を高めるだけだ。それでミスリルにひびが入れられるのだからたいしたものだ。


「ただ、頭突きでしなければいいのにね」

「ああ。そう思うんだが……」

「まあ、趣味なんでしょう」

「そう思っておこうか」

「あの、先生……?ですよね」

「うーん、臨時だけどね」


私たちはそこでクライス君のクラスの考察をやめ、中等部の子の話を聞いてあげることにした。






「お疲れさま、クライス君」

「疲れましたね。魔術研究者としては立派な教えをしたと思いますが……僕って教師には向いてませんね」

「どうしたんだい。生徒たちは目をキラキラさせて聞いていたじゃないか」

「いや、少し私情で生徒たちに魔術を撃ち込んでいましたし……」

「まあ、あれは指導対象だからね。まったく、美人な年上の女子生徒に優しくされて舞い上がるとか……教えている私が恥ずかしい」


授業終了後、レイスさんはそう言って苦笑していたが、俺もだめだなあ。年下相手に本気でイラっときて魔術を撃ち込むとは。まあ、あれはエスカレートしたら痴漢になりそうな距離感だったから撃ったこと自体は問題ないと思う。ただ、反射的に選んだのが非殺傷魔術の最高階位なのでそこら辺は大人げなかったなあとは思う。


「一日はしびれが取れないでしょうね」

「まあ、それで反省しそうだからいいじゃないか。それじゃあ、私は次の授業があるから行かせてもらうよ」

「はい、お疲れさまでした」

「あっ、一つ頼まれごとをしてくれないかな」

「何ですか?」

「今日の指導で使っていた魔術教本の一部がうちの図書館の物なんだ。だから、返しておいてもらえると助かる」

「分かりました。それぐらいでしたらやっておきますよ……全然お詫びになりそうもないぐらい騒ぎにしてしまいましたから」

「ははは、そうだね。じゃあ、お願いするよ」


そう言うレイス先生を見送って、俺は本の山を<亜空間倉庫ディメンジョンボックス>に叩き込むと、図書館へと向かった。






「はあ、男子が他にいたら手伝わせてたんだがな……」


図書館からの帰り道、俺はそんなことを言いつつ歩いていた。負傷した二人に残った二人が付き添いでついたので、この場に最後まで残っていた男子は俺だけだったのだ。まあ、大した仕事もなかったので別にいいのだが。


「うーん。学校の裏路地か。何か面白いことでもないか……ブッ」


興味本位で校舎の隙間の裏道を覗き込んだ俺はとんでもないものを見てしまった。


「師匠……きちんと隠蔽魔術使えよ」


そこでは師匠とセーラさんが激しく抱擁を交わしていた。なんだろう、いきなり盛りだすのかあの人たちは。まあ。修業時代も良く二人で消えることはあったけど……こんな何もない裏路地で何があったのだろうか?


「もう少し近くで見物を……」

「雅也。何してるの?」


俺がもう少しその様子をのぞき込もうとしたところで、後ろから声がかかった。


「い、いや別に何も……」

「ねえ、そっちに何かあるの?私にも見せ……」


そうして覗き込んだ詩帆は二秒後に振り向くと、色々な意味で赤くした顔で俺を上目遣いに睨んできた。


「最低」

「誤解だ。たまたま見かけただけなんだって」


そう言って走り去ろうとする詩帆を言い訳をしながら捕まえる。


「待って、悪かったから」

「ふん。本当に間が悪すぎるのよ……さっき助けてくれて、ありがとうって言いに来てたのに」

「すみません……お詫びに何でも一個、お願い聞くよ」

「そうね……じゃあ、私も抱きしめてキスして」

「はあ?」

「ダメなの?じゃあ、後であの二人にクライス君が覗いてましたよって……」

「嫌じゃないからな。ああ、もう知るか」

「キャッ」


そう言いながら俺は彼女を抱きしめた。久しぶりに抱いた彼女はなんだかとてもか弱く感じた。


「詩帆って女の子なんだなあ」

「それ、どういう意味よ?」

「んっ。守ってあげたいってこと」


そう言いながら俺は彼女を再び強く抱きしめた。



その後この光景を師匠とセーラさんに見られていたことが発覚し、俺は詩帆に怒られることになる。同時に師匠もセーラさんに責められていたけど。まあ、照れ隠しの怒りだから可愛いものだけど。


教訓。こういうことをする前は、必ず結界を張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ