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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第五章 騒乱の学園と王都政争編
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第七十五話 魔術指導実習

読んでくださる方ありがとうございます。しばらくほのぼのストーリーが続きます。

次章は戦闘多めですので、戦闘好きな方はもう少しお待ちいただければと。


遅くなってすみません。土日は気を付けます。


師匠達の来訪から明けて翌日。俺と詩帆は魔術学院の校庭にいた。


「なあ、詩帆」

「何?」

「俺は今、前世の大学時代を思い出していたんだが」

「奇遇ね。私は前世の指導医時代を思い出したわ」

「あの、ユーフィリア会長。治癒魔術のイメージについてお聞きしたいのですが……」

「分かったわ。どういうことが教えてほしいのかしら」

「クライス先輩。僕はこの攻撃魔術の展開範囲について詳しく知りたいんですが」

「ああ。それか……さて、模造魔術の場合の範囲設定がどうだったかな……」


俺と詩帆はローブ姿の中等部生達に囲まれていた。そして、魔術の指導を行っていた。まあ、教えてるのは俺だけじゃないけど。


「ソフィア先輩。風魔術の発動方向外への威力を教えてほしいんです。私、制御が悪くて……」

「そう。それなら……」

「ソフィア先輩。スリーサ……」

「……<風神の大槌ウィンドハンマー>」

「グぼオッ」

「余波で質量五十キロ程度のいびつな物体を二メートル吹き飛ばせる程度の威力ね」

「は、はあ」


まず、隣を見るとソフィアさんがふしだらな発言をした生徒を吹き飛ばしていた。


「リリアさん」

「な、何でしょうか」

「彼氏はいるんですか?」

「えっ、えっと……それは……」

「いるなら構わないんです。ただ、いないのなら僕と、付き合って……ぐぼあああっつ」

「えっ、今、何が……魔術だと、は思いますが……私が関知できないなんて」


次に正面を見るとリリアに絡んでいた生徒が偶然雷に打たれて痙攣していた。あの様子なら治療は必要なさそうだし、大丈夫だろう。


「…ふう」

「雅也……あなたってシスコンだったっけ。あっ、でも前世では妹さん可愛がってたわよね」

「それは認めるが……何の話だ」

「リリアちゃんに告白しようとしてた男の子がいきなり雷に打たれるわけないでしょう。空もこんなに晴れてるのに」

「何の話だ?」

「白々しい顔でよくも言えるわよね……まあ、私はいいんだけど。でも告白相手が私じゃなくてよかった」

「何でだ?」

「あなた、妹さんでああなら……自意識過剰かもしれないけど、私が告白相手だったら相手……死ぬんじゃないかと思って」

「それはないよ」

「よかった……」

「二度と目覚めないようにするだけだから」

「同じじゃない」


俺達が中等部生に魔術を教えているのは、それが俺達にとっての授業だからである。「魔術師指導実習」、それがこの授業の名前だ。何でも優秀な魔術師なら後進の育成も必要となるので、その経験を積んでおけということらしい。


「まあ、さっきの発言は冗談だけどな」

「……目が笑ってないわよ、雅也」

「二人とも、お疲れ様」

「あっ、レイス先生」

「お疲れ様です」


俺と詩帆が喋っているところにやって来たのは、魔術実技指導の担当者レイス・ゴースト先生。まあ、早い話がメビウスさんの物品管理を任されているレイスさんだ。


「指導は順調かな」

「まあ、それなりには」

「熱心な生徒さんばかりで、こちらとしても勉強になります」

「そうか……にしても、実習とは名ばかりの講師代理なんて引き受けてくれて助かったよ」

「いえ、こちらもご迷惑をおかけしましたから」


一応、魔術指導実習というのは実習という名の通り、俺達にも講師が付くことになる。本来なら中等部の実技指導と俺達の魔術指導実習の監督をレイスさんがすることになるのだが、俺達はそれを断わっていた。

基本的にはこれはお詫びの意味でのレイスさんへの奉仕だからだ。あの日、師匠が店の外壁を貫通したせいで、隠蔽魔術の結界が緩み、師匠とレイスさんの二人掛かりで修復には二時間かかった。

その謝罪代わりの実習だったのだが、クラスで今日の行き先を話したところ、面白そうだとみんながついて来て今の状況である。


「いえいえ、今年の一学年特待生クラスは粒ぞろいですからね。彼らにもいい刺激になるでしょうし」

「そうは言っても大人数で押しかけてご迷惑ではなかったですか?」

「まあ、普段だったら困りますけど……そのおかげで生徒たちはとんでもなく貴重な体験をしているわけですし……」


そう言うレイスさんの視線の先には子供たちに魔術を教えている師匠とセーラさんの姿があった。


「はあ、私が指導を受けたいぐらいですよ」

「今度、言ったら普通に教えてくれると思いますよ」

「クライス君、そんな風に普通に返してるけど……あの人たち、本当に何もすることないの?」

「一応、時期に関しては俺が時々連れて戻った時に観測するらしいぞ」


レイスさんと話し始めたところに、詩帆が聞いてきたのは、もちろん魔神戦に関することである。レイスさんはともかく、周りに子供たちがいるので隠喩が多いが要約すると魔神の出現時期が迫っているのに、師匠たちは何もしなくていいのかという問いに、俺が復活の時期はこまめに確認するから大丈夫だよと答えたという訳である。


「そうは言っても、ねえ」

「まあ、今から焦っても何もできないからな。それだったら今を楽しんで、その中で後進を育てるなんてとてもいいじゃないか」

「そう……まあ、あなたがそう言うのなら、いいわ。私はそれに関しては何もできないから」

「そうでもないけどな。直接対決は無理でもユーフィリア嬢の実力なら戦場には立てると思うぞ」

「そう言う意味じゃないんだけどな……」

「どういう意味だ?」

「言わない」


詩帆の発言が何か意味深に聞こえたのだが、彼女はそれっきりそれについては口をつぐんでしまった。その代わりに別の話題を引っ張り出してきた。


「そういえば、レオン殿下は長期休学するって言ってたけど……やっぱり」

「間違いなく、裏で動いてるんだろうな」

「手伝わなくていいの?」

「前に言われた。極力学校外では会わないようにしてくれと。特に関係性が噂されそうな場所では」

「そういえば、一昨日の師匠さんとの話の時も、防諜にはものすごく気を配ってたものね」


レオンは師匠との話の後、裏で現王を玉座から引きずり下ろすために、色々と工作をしているらしい。もっとも既に根回しはとっくの昔に済んでいたらしいので、今は最終調整の期間らしい。という訳で面倒な政治交渉など前世でこりごりの俺は積極的には関わりたくはない。


「あなたは結構戦力になりそうなんだけどね」

「そうだとしても、俺はもう二度とあんなことはしたくない。詩帆のためだったからやってたんだよ」

「でも研究のためならまたするでしょう」

「うっ」

「ついでに実は前世でも楽しかったから、こっちの世界でも少しは足突っ込んでみたいなあ、なんて思ってない?」

「うっ……否定できない」

「ふふふ。さてと、ずっと喋っていても仕方ないし、そろそろ指導に回りましょう」


詩帆のその言葉で、俺達は近くにいた中等部生の方に顔を向けた。すると待ちわびたように子供たちが詰め寄ってきた。うーん、少し妙な空気感を出しすぎたかな?


「クライス先輩。雷魔術の基礎を教えてください」

「ユーフィリア先輩。すみませんが、水と光の治癒魔術のイメージの違いを教えてください」

「私は風魔術の自由な方向への展開について教えてください」

「俺は土魔術の防壁のイメージを」

「光魔術の防壁って、他の属性と少し系統が違うと聞いたんですが……何が違うんですか」

「分かった。落ち着け。順番に聞くから」

「そうね。順番にね」


群がった生徒の目は血走っていて少し怖かった。そういえば、俺って全属性魔術が使えると言い切ったし。入学式の日の魔術披露や、魔術祭でもかなりやらかしたからな。しかも詩帆の方も俺がいなければ首席確定の千年に一人の逸材だからなあ……そりゃあ、こうもなるか。


「じゃあ、雷魔術の基礎な。雷魔術は火属性のエネルギーと土属性の物体干渉性を利用した魔術で、特性は他の魔術に比べて指向性のある攻撃魔術を広範囲にばらまけることだな」

「は、はあ」

「まあ、難しいだろうから簡単にまとめると雷を模した魔術だ。麻痺させる能力は雷撃によって相手の神経を阻害するという効果だからこれも雷だとみれば、第九階位を除けばこの魔術は全て雷のエネルギーを直接攻撃力に転換する魔術と言えるな」

「なるほど。では第九階位は違うんですか」

「違うね。まあ、それは長くなるので気になるなら聞きに来てね。という訳でここまでで意味は伝わったと思うから、後はイメージだけだ。ひとまず<火弾ファイアバレット>は使えるかい」

「はい、使えます」

「よし。じゃあ、それの周りにエネルギーを纏わせて撃つようなイメージで」

「分かりました。ありがとうございます」


一人目の議題を解決すると、周りの生徒達も気が付けば真剣な顔をして聞き入っていた。


「すげえ。あんなによく分かる解説初めて聞いた」

「雷魔術。今まで合成魔術って手の届かないものだと思っていたけど……」

「なんか、適正さえあればできそうだよな」

「俺、水と風の適性があるから氷魔術の修練方法聞いてみようかな」


どうやらさっきの解説は生徒たちの心を深くつかんだようだ。にしてもこんなのを見てると本当に前世の准教授時代に戻ったかのようだな。


「よし、次は風魔術の自由展開についてだったな」

「はい。私は風魔術の第三階位までしか使えないので、レパートリーを増やしたいなと思いまして」

「なるほど。それじゃあ基本的な話からするけど……」

「キャア」

「うわあ」

「……なんだ、今の音?……ああ、なんだエドワードのいつものか」


突然響いた爆音に後ろを振り向くと、爆裂魔術の実践をしていたエドワードが吹き飛ばされてた。体は無事みたいだが、爆発のショックで気を失ってるな。


「先輩。これ、どうしたらいいんですか?」

「気絶してるだけだろう。これは僕の専門外だ」

「あ、危なかったね」

「そうだね……」

「ああ、君たちを怯えさせてしまってすまなかったね。怪我はないかい」

「あっ、はい」


とばっちりで不満たらたらでルークが生徒たちに引っ張られていき、その周辺では怯える女子生徒にジェラールがまとわりつ……怪我がないか確認していたので大丈夫だろう。


「あの、先輩大丈夫なんですか?」

「よくあることだから……」

「キャアアアア」

「おい、すごい血の量だぞ」

「そりゃあ、そうだろう。いくら<身体能力強化ステータスアップ>をかけてるからって、学院秘蔵のミスリル板を頭突きで割ろうなんてすればそうなるだろうよ」

「だれか、治癒魔術の使える先輩いませんか」

「わ、私は水しか使えないので傷は塞げないんですが……」

「ティシリア先輩は脳が無事かどうかを確認してください……まあ、ただの脳震盪でしょうけど。出血は私が止めますから」

「ありがとう、リリアちゃん」


生徒達の言葉で大体状況はつかめた。まあ、これもリリアが向かった時点で俺の出番はないな。と、思っていたのだが、俺はエドワードが爆破した地面を見て考えを改めた。


「よし。風魔術の方は少し待ってくれるかな」

「えっ、どうしてですか」

「先にあの穴を塞ぐ」

「ああ、あのさっきの爆発で空いた穴ですか」


エドワードの爆裂魔術で発生した直径二十メートルほどのクレータを俺は埋め戻すことにした。レイスさんに迷惑をかけないためというのも一つの理由なのだが。実は思いついたことがあったのだ。


「ついでに土魔術関連の質問をまとめて受ける。他の属性でも関連性があれば受けるぞ。実践指導だ」


俺の言葉に生徒たちが沸くのを見て、俺はやっぱり教師業っていいなと思えた。


一応、このお話は前後編です。


誤字・脱字等の指摘があれば感想欄にお願いします。作者ももう追いきれませんので。

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