第七十三話 厄介な人物の再来
すみません、昨日は執筆時間が足りなかったので投稿できませんでした。
読んでくださる方、いつもありがとうございます。
撃ち込まれた魔力の光線は俺の展開した<反射結界>の中心に直撃した。その莫大な運動エネルギーを吸収し、そのエネルギーを変換した魔力弾が生成され、反射される。放たれた魔術の威力が威力だったので、かなりの魔力がもっていかれたが何とか周りに被害は出ていない。
「危なかった……しかし今の魔術って……<集束流星雨>だったよな」
「ええ、マーリスの独自魔術ですよね」
「ああ。全く、絶対に早とちりしてるな、あの人は……」
「すみません……」
「いいよ。それより早く誤解を解かないとな…<座標転移>」
放たれた魔術が師匠のものであると断定した俺は追撃が来る前に転移で店の外に飛んだ……瞬間、爆炎が俺に突っ込んできた。それを氷魔術で相殺すると、その先にはやはり見知った人がいた。
「師匠。いきなり何をするんですか」
「やはり君か。クライス君。ただ、私も王女を監禁するというのならたとえ君であっても引くわけにはいかなくてね」
「大きな誤解です。彼女は自分の意思であの店に入ってきたのであって、師匠がやったのはただの罪のない店舗の破壊行為です」
師匠は相変わらずのローブ姿で大通りの真ん中に立っていた。さっきの魔術で通行人は全員逃げ出したからな。はあ、他にも人がいれば押さえ込みやすかったんだがな。
「誤解。何のことだい。君たちがいたのはかなりの魔術的防御のなされた家だ。しかも特殊な空間魔術によって一部はこの世界から断絶している。あれだけの屋敷を君が興味本位で作っただけとは言わせないよ」
「僕が作ったんじゃないですよ。あれはメビウスさんが……」
「白々しい嘘をよくもつけるね。メビウスが千年前に消息不明になったのは知っているだろう」
「作ったのは千年前ですし、それにあの店のおかげでメビウスさんの現在の消息が分かりそうなんですよ」
「もういい。君が私をだましてまでも、王女を監禁しようというのなら……私も持てる手立てはすべて使わせてもらおう」
その言葉で師匠が俺の後ろの方に視線を移したのが分かった。その方向に視線を向けると、丁度店の入り口から詩帆が出てくるところだった。
「雅也。一体何があったの?」
「何が、と言われてもなあ……」
「ふむ。雅也、か。つまり彼女がクライス君の運命の相手、か……」
「ねえ、雅也。この人が七賢者のマーリス様ってことよね。私にも紹介して……」
「詩帆。下がれ」
「えっ」
「……<死毒の霧> クライス君、安心してくれ。君が投降すれば彼女の命は保障するから」
「……<神撃の旋風>」
師匠が詩帆の周りに高速展開した麻痺毒の霧を風魔術で散らす。なるほど、詩帆を人質にとる気か……もう我慢してやる必要はないよな……
「……師匠、詩帆に手を出そうと言うのなら……いくらあなたでも……容赦しませんよ」
「やれるものならやってみるといい」
「言いましたね。では……<座標転移>」
俺は師匠を伴って街の市街地から離れた場所へと転移した。さあ、どう痛い目に合ってもらおうかな……
「ちょっ、雅也。待って……はあ、行っちゃった」
「すみませんユーフィリアさん」
「いいのよ、私の旦那も十分悪いから……はあ」
「あら、シルヴィアちゃんじゃない。ねえ、あの人見なかったかしら。買い物の荷物持ちに付き合わせてたんだけど……あなたが捕まってるとかって言って逃げ出したのよ。今のあなたがそう簡単に捕まる訳ないのにねえ」
雅也とマーリスさんが転移で消えて、呆れて立っている私達に声をかけたのは銀髪の絶世の美女だった。でもローブ姿ってことはこの人ひょっとして……
「セーラさん。それがマーリスの誤解で……」
「誤解?あの人はこの短時間で一体何を……」
「それは私から説明させていただきます」
「あら、あなたは?」
「クライスの婚約者と捉えていただければ」
「そう、あなたがクライス君の運命の人、ね」
「その言い方は止めてくださいね。ユーフィリアとひとまずは呼んでください」
「後で元の名前も教えてね」
「ええ」
どうやら彼女はマーリスさん同様、私と雅也の過去を知っているようだ。なら、話が早い。
「端的な話をすれば、シルヴィアさんが捕まったと早とちりをしたマーリスさんが、私を人質にしようとして、それを止めた彼がキレました……」
「はあ、全くあの人は……あなたも大変ね」
「大変ですよ。ただ、彼といると……楽しいですから」
私のその返答を聞いてセーラさんは微笑んで言った。
「そう……じゃあ、馬鹿な師弟喧嘩を止めに行きましょうか……爆音がしたから向こうの方ね」
「ええ、急ぎましょう」
「私は戦力になりそうもないのでお待ちしています」
「その方がいいわね。そこの店主さん、うちの旦那がごめんなさい。後で修理代は払うから、その子をよろしく」
「ええ、承りました」
「えっ、セーラさん。何でそのことを知ってるんですか?」
「状況説明の間に精神魔術の記憶系統でざっと情報は確認したのよ」
「さすが七賢者の第二位、ですね」
「お褒めに預かり光栄だわ。じゃあ、行くわよ。ユーフィリアちゃん」
「はい」
私とセーラさんは音の方向に向かって走り出した……
「なるほど、街の外か」
「ええ。ここなら街の門からも離れていますし、師匠も本気を出せるのでは?」
「別に街中でも問題はないよ。君と違って魔力操作の年季が違うから」
「別にどれだけ魔力の操作技術がすごかろうが……師匠の単純な攻撃魔術の威力で僕の膨大な魔力と、物理魔術を攻略できるとは思わないのですが」
「ほほう、言ったね……じゃあ、身元判別不能な全身火傷を負ってもらおうか……」
「なら、全身凍傷で痛い目を見てもらいましょう」
師匠が無詠唱で<炎獄世界>を放ち、俺の周囲を超高温の炎が包む。それを瞬時に<絶対零度>で周囲を凍結させて防ぐ。さらにそこから氷魔力を再吸収し、<氷神の氷結槍>を放って、師匠との距離を取る。
そこから周囲に<超電磁砲>を数十発同時に展開し、時間差をつけて師匠に叩き込む。師匠が転移で回避しようとするのを予想して、周囲には既に<空間座標固定>を張ってある。だが、それすら予想していたとばかりに師匠は音速を越える速度で向かってくる<超電磁砲>をすべて見切った上で自身に衝突する物だけを魔術で撃ち落とした。
「さすがの身体能力強化の熟練度ですね。音速を見切れる速度まで動体視力を向上させるとは」
「まあ、目が疲れるけどね」
「では、もう一度行きましょうか……」
「私が何度も同じ手を使わせるとでも……<錬金> <霊土の槍>」
「詠唱されたら対策は取りますよ……<光子障壁>」
「さすがの読みだね……だが……私を舐めすぎだよ」
「なっ……」
師匠が俺の<超電磁砲>を防ぐために錬金魔術で俺の周囲の地面を硬化させたことは分かった。そして、それが槍と化して俺に向けられることも。だが、俺は師匠がわざわざ詠唱したことに違和感を持った。俺はその瞬間、結界の展開方向を上側に展開し、自身を風魔術で上空に打ち上げた。
「「……<流星雨>」」
師匠が発動した<流星雨>によって上空から超大質量の隕石群が降り注ぐ。それを間一髪で発動させた俺の<流星雨>が砕いていく。ただ、制御が雑な分、相殺しきれないものの方が圧倒的に多い。しかし咄嗟の勘で上側に展開していた結界が打ち落としきれなかったものから俺を守り切ってくれた。
そして隕石群によって視界が悪いうちに、俺は地面に着地し、<大陸崩落>で周囲の地面を崩落させようとした……瞬間、師匠の暴力的な威力の風魔術によって俺は吹き飛ばされそうになった。だが、構わず土魔術を放った。その瞬間、師匠が上空に退避する。それを見て、俺はあらかじめ用意しておいた<超電磁砲>にありったけの物理魔術のブーストをかけて師匠に放とうとして、気づいた。
「……魔術が使えない?」
「発動妨害じゃないぞ。これは……精神魔術の……ってことは……」
「うおう。こっ、これは……なんか、見たことあるんですけど」
「ああ、間違いない……<不可視の枷>だ……」
俺と師匠が魔術をキャンセルされ、ズタズタになった地面に降り立った瞬間、今度は見覚えのある銀色の魔力の鎖によって拘束された。咄嗟にレジストして、互いに迎撃魔術を放とうとした瞬間……俺の周りに寸分の隙のない氷の牢獄が展開された。それとほぼ同時に師匠の真横に寸分の狂いなく竜のブレスが叩き込まれた。
「……師匠」
「……なんだい」
「もう、止めましょう。これ以上やったら……」
「うーん、腕一本で済むといいんだが」
「いや、命すら取られる気がするんですが……」
俺と師匠はさっきまでの激戦が嘘かのように、生まれたての小鹿のように震えていた。上空から降りてきた二つの冷たい視線によって。
「あなた、早とちりでよりにもよってクライス君を疑うって……」
「雅也。キレずに冷静に説得できたでしょ。それをここが更地どころか荒れ地にするまでの激戦をして」
降りてきたのはもちろんセーラさんと詩帆だった。というか、俺達を封殺できるとしたらこの二人以外ありえないんだよな。
「セーラ。誤解ってどういうことなんだ?」
「シルヴィアちゃんは別に捕らわれたわけじゃなく、興味があってあの店に入っただけよ」
「それならそうと早く言ってくれれば……」
「言ってたでしょ。最初に」
「すみません」
師匠が起こられているのを片目で見ていると、詩帆が魔術を解除したのか、氷が溶けて、俺の体が解放された。まあ、まだ<不可視の枷>は残ったままなので、立ち上がれすらしないけど。
「雅也。本当にあなたは面倒事に関わっていくわね」
「悪いな」
「まあ、この土地を元に戻すのなら、お説教は後にしてもいいわ。私を守ろうとしてくれたことだしね……」
「それなら説教もなしにしてほしいところだけど……まあ、俺が悪いから仕方ないな」
「じゃあ、整地よろしく」
「待って、まだ魔術が使えないんだけど」
「あっ、ゴメン。解除し忘れてた……<解放 魔力封印>」
詩帆のその言葉で魔術が使えるようになったことが感覚的に分かった。
「こんな魔術、使えたんだな」
「ええ。精神魔術系統の最高位の術ね。相手の精神体が魔力を多様に含んでいることを活用して、そことの接続を断ち切ることで魔術の使用を禁止する魔術。実際、普段だったら二人とも掛からないでしょうね」
「まあ、魔力量の差がある上に、魔力量の大きさは単純に魔術抵抗力の高さに相当するしな」
<魔力封印>はその名の通り、魔術使用を封印できるのだが、相手との力量差がよほどないと普通はかからない。今回かかったのは、俺と師匠が激高していたせいで精神的な魔術抵抗力が下がっていたことと、第三者の介入を考えていないので相手以外の魔術を感知していなかったこと。何より詩帆がセーラさんの補助を受けていたことが大きいだろう。
「とにかく、落ち着いたみたいね」
「ああ。じゃあ、早速整地しますか」
「やっぱりクライスか」
「やっぱりって……なんだ、レオンか」
「なんだじゃないぞ、まったく」
整地を始めようと立ち上がった俺の背後には、武装した兵を連れたレオンが立っていた。
「それで、殿下がなぜここに?」
「外で大規模な魔術戦を行っているバカがいると聞かされてね。それでクライスだろうと思って一般の騎士団ではなく、私の直属の兵を連れてきたら……」
「予想通りだったと」
「そういうことだな」
確かに、普通の兵士たちなら間違いなく街の外周で騒ぎを起こしたわけだから、俺と師匠は確実に拘束されていただろう。うん、レオンには感謝しておこう。
「それで、だ。一体何があったんだ」
「ああ、それなら……」
「それなら私がまとめて説明しよう」
「あなたは?」
「その質問も含めてお答えするよ、王太子殿下殿」
「はあ……」
拘束された師匠が地面に寝転がったままクールに言い放ったが、その言葉には何の緊張感も生まれなかった。
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