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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第五章 騒乱の学園と王都政争編
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第七十一話 真夜中の侵入者

遅くなってすみません


投稿日23:59修正  あまりにも最後の詩帆の行動が悲惨すぎたので、少々文章を変えてマイルドな感じに仕上げました。


深夜 王都郊外 旧王家所有邸 西門付近


「作戦の準備は」

「いつでも侵入可能です。まずは我々が突入します」

「そうか……確実に成功させろ。奴はガキとはいえ、魔術師で、国家に仇なす大罪人だ」

「はっ」


ルーテミア王国騎士団長である俺、ヴェルニムは作戦の進行状況を確認し、大きくため息をついた。


「はあ。まったく国家反逆罪の人物の暗殺任務だっていうのに……まさか、王宮筆頭魔術師が参戦しないとは……あの野郎、陛下の恩情がなければ首が飛んでるところだぞ……勅命だぞ、これは」


俺が陛下に任命された今日の任務は国家に対する反逆行為を犯した者の処刑だ。処刑目標はクライス・フォン・ヴェルディド・フィールダー。田舎のフィールダー子爵家の三男であり、子供ながらに上級魔術師である男だ。


「寝てるガキの首を飛ばすだけだが、相手は魔術師だということで魔術省に応援を頼んだというのに……あの野郎、グレーフィア軍務大臣からの要請を断りやがって……借りがあるだとかふざけたことをぬかしてたな……」


借りというのはおそらく奴の息子がクライスに救われたという一件だろう。だが、あれすら王宮に取り入るための布石だとしか思えない。というかおそらくその治療も軍務大臣のご令嬢、ユーフィリア嬢がやったことなのだろう。……それを自分のことのように言う奴はやっぱり国家の安定に今後、害を与えるだろう。


「ありもしない恩に借りを感じるとはテルミドールの奴も堕ちたな」

「団長。今の発言はさすがに……」

「そうだな。クソッ、王宮筆頭魔術師は魔法省の大臣職も兼任だからな。俺の暴言が不敬罪に当たるからな」

「ええ。何より、あの方は一応は軍務閥の貴族です。人事の裁量権なども一部を握っている以上、流石にまずいかと……」

「そうだな……」


俺の発言があまりにひどすぎたからだろう、副官が俺の言葉を遮った。まあ助かったな。おかげで頭が冷えた。


「団長。今は国家反逆者の処刑が優先です。これは軍務大臣閣下が直々に陛下に奏上なされ、陛下直々の勅命なのですから」

「そうだな。さてと、副団長。作戦開始までは後?」

「三分です」

「そうか……第一部隊、侵入用意」


俺の言葉に潜入工作のプロを複数名入れた班だ。テルミドールの協力が取り付けられていれば、魔法省の大臣直属の潜入部隊の人間が使えたのだが、ないものは仕方ない。奴は王宮魔術師たちの自主的な協力に関しては禁止しなかったので、それなりに腕が立つものを十人ほど連れてきているので十分なはずだ。それに……


「中身が大魔術師だろうが、潜入工作のプロに寝首を掻かれれば、生きていられるわけがあるまい」

「ええ、その通りです。団長……潜入開始時刻です」

「うむ、第一部隊潜入」


俺の声に音もなく第一部隊が魔術師の<上昇気流ウィンドアッパー>で塀の上に飛び乗り、そのまま敷地の中へと消えていった。


「さて、後は報告を待つだけだな」


それを見送った俺は薄く笑みを浮かべつつ、報告が来るまでのんびりと立っていることにした。






「さすがに遅くないか」

「ですね……これは内部で拘束されたのでは」

「いくら相手が凄腕の魔術師だからと言って高々十五歳のガキ一人相手に、うちの精鋭部隊が全滅はありえんだろう。最低でも一人は脱出してこちらに報告に戻るはずだぞ」

「しかし、この時間のかかり具合はいくらなんでも……」


十分おきに後続の部隊を送り出して、最後に後始末のための部隊を派遣してから三十分が経った。最初の部隊を送り出してからは一時間が経っている。


「確かにおかしいが……」

「残った部隊全員で突入しますか」

「いや、内部の警備が厳しすぎて時間がかかっているだけかもしれない。下手にこれ以上人数を増やすのはよくない」

「団長。しかし、この屋敷……警備の人員はおろか、召使いすらいなさそうですよ」

「それはそうだろうが……」


魔術師としてこれだけの屋敷が買えるほどのお金を稼いでいても、所詮は子爵家の三男だ。これだけの屋敷を維持するだけの人を雇う伝手はないだろう。


「というか、この屋敷にはおそらくユーフィリア嬢もいるのだぞ。大規模交戦になって、奴がユーフィリア嬢に手を出したらどうする」

「しかしいくら国家大逆罪の容疑者とは言え、実の妻に手を出すような真似はさすがにしないのではないかと……」

「甘いぞ。軍務大臣閣下によると、奴は王宮に取り入る駒の一つとして、世間知らずなユーフィリア嬢を誑かした可能性が高いらしい。最悪、そのような手段に出ても何もおかしなことはない」

「あのユーフィリア嬢が誑かされる……予想が付きませんが」

「その手段は魔術でも、脅しでもなんでもあるだろう」

「なるほど……」


軍務大臣閣下は自分の娘を守る作戦を私たちに託したのだ。絶対に失敗するわけにはいかない。


「しかし、一時間も大きな動きがないとなるとさすがに確認は必要です」

「分かっている。魔術師以外は私と副団と数人を残して、騎士団の残りの人員を二手に分けて二方向から時間を空けて襲撃させる」

「それなら大規模な戦闘になるリスクが減らせますか……」

「ああ。という訳で速やかに部隊を編成しろ」


こうして突入させた部隊は、結局二時間たっても帰ってこなかった……


「一体どうなっているんだ」

「私には……さっぱり」

「こうなったら、私たちも侵入する」

「危険です……が、仕方ないですね」

「魔術師隊、隠密魔術を……」


私たちは何かに追い立てられるような気分で、塀を魔術で飛び越え庭へ下り立った。だが、そこで見たのは信じられない光景だった。






三時間前


「ふう、やっと潜入部隊の登場か。律儀に深夜0時ぴったりに侵入してくれるとは……全くもう少し早く侵入してくれればいいのに」

「普通は潜入捜査ってそういう物でしょう」

「そうだけど……眠い」


レオンの指示で豪邸を購入して三日後。グレーフィア伯爵が国王に上奏して、俺への暗殺命令が下ったという情報をレオンから聞いた俺は、詩帆とともに外泊届け出を学院に提出し、その豪邸で暗殺部隊の到着を待っていた。もちろん返り討ちにするためである。


「しかし豚伯爵も面倒な命令を出してくれたものね」

「ああ、細かい内容も聞いてたのか」

「ええ。雅也が私を誑かしていたですって。あの豚の方がよっぽど濁った眼で私を見てるわよ」

「まあまあ、落ち着けって」

「落ち着けないわよ。私の最愛の人をそんな風に言うなんて」

「おーい。熱くなったせいで結構恥ずかしいこと口走ってるけど大丈夫か」

「はっ……うううう、そうだった」


本当は詩帆は外泊届け出を取って、この豪邸に到着した後で寮に<座標転移トランスポート>で送って安全を確保する予定だったのだが、俺の暗殺を上奏した伯爵の言葉を聞いてから激怒し、自分の手で報復させろということなので仕方なく連れてきている。

まあ、彼女の実力的に仮に王宮筆頭魔術師が出てきても身を守るぐらいはできるだろうから心配はしていないのだが……


「顔を赤くするのはそれぐらいにして、そろそろ状況を見てもらえるかな」

「赤くなってないし、ずっと状況も追ってるわよ。今、全員が塀を越えて地面に降りたわね」

「ああ、そのままこっちに来るな」

「ええ。じゃあ、そろそろ……<眠りへの誘いスリプルガス>」

「おっ……さすがの威力だな。全員が深い眠りに入ってる」

「ええ。後、同時に無詠唱で精神魔法を重ね掛けしたから、しばらくはうなされてると思うわよ」

「そうか。じゃあ見えなくしておこう……<不可視化インビジブル>」


うなされて、うめいている兵士と魔術師たちは俺の魔術で一瞬で見えなくなり、同時に何も聞こえなくなった。にしても、せめて王宮の魔術師なら多少は威力が高いとはいえ第三階位の<眠りへの誘いスリプルガス>程度はレジストしてほしかったな。


「これで一段落したみたいね」

「だな……と、思ったら次の部隊だ」

「今度はあなたがやって」

「いいよ。それじゃあ……<岩石の弾丸ストーンバレット>」

「わあ。すごいコントロールね。全員の頭部に正確に当てて、威力も頭蓋骨や脳を壊さず、気絶させるレベルにとどめるなんて」

「ついでにそれをこの遠距離で達成した手腕もほめてほしいね」

「うん、すごい」


そんな感じで俺と詩帆はのんびりとした三時間を過ごした。時折、お菓子をつまみ、仮眠をとり、トイレに退出し、と結構自由に過ごしていた。まあ、俺も詩帆も外周の兵士たちの様子は監視し続けていたので特に問題はないが。


「雅也。まさか騎士団も完璧に今の状況がのぞかれてるとは思わないでしょうね」

「思わないだろうな」


最初に兵士が侵入してきてから三時間。俺は光物理合成魔術の<望遠スコープ>で塀の外側の騎士団の動きを監視し続けていた。風魔術の応用で音声も拾っているので相手の動向は筒抜けである。と、向こうに変化があったな。


「ねえ、雅也。今の流れだと……」

「ああ。団長と副団長辺りは退却するかもな」

「それってまずくないかしら」

「ああ。下手に無傷で戻られると困るから……<思考改変メンタルリバース>」

「今、なんだかひどい魔術を使った気がしたのだけど」

「そうでもない。ただ、自分の想いと反対の方向の行動をしてしまう精神魔術だよ」

「いや、ひどいと思うのだけど」

「まあ、この魔術の倫理観念についてはいいから」

「分かった。後で聞かせてもらう」

「なんか怖いけど……分かった、そうしてくれ。……じゃあ、行くぞ」


俺は詩帆を伴って侵入してくる騎士団長たちのもとへと向かった。






「な、なんなんだこれは」

「ぜ、全員無傷ですが、気絶していますね」

「誰がこんなことを」

「俺に決まっているだろう」

「ク、クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダー。それにユーフィリア嬢まで……」


後から来る人員が不審に思うだろうと、継続しておいた<不可視化インビジブル>を解除しながら騎士団長たちのもとに向かうと彼らは茫然とした顔で立っていた。


「それで、こんな夜中に何の用ですか」

「何の用とはふざけた言いざまだな。国家大逆人」

「俺は何もしていないんですがね……」

「とぼけるな。現にユーフィリア嬢を誑かして妻としているでは……」

「……<光線レーザー>」


騎士団長の発言に我慢できなくなった詩帆が、騎士団長の周りにいた全ての魔術師と騎士の両手両足を<光線レーザー>で打ち抜いた。発動速度と精度が神がかっているな。容赦のない射撃を見ると顏は無表情だけどかなり怒っているようだ。


「ユ、ユーフィリア嬢。一体何を」

「次にクライス様に対して言われようのない暴言を吐いたならば……あなたの脳天を打ち抜きますよ」

「な、何を……ユーフィリア嬢、あなたはだまされて……」

「……<光……」

「<大地神の大槌ストーンハンマー>」


詩帆の勧告を無視して喋り続ける騎士団長を前にして詩帆が本気で殺気を放ったのが分かった。俺は咄嗟に魔術で騎士団長を殴り飛ばすことで、騎士団長を昏倒させたうえで魔術の射線からそらした。


「……詩帆、落ち着け。殺したら本気で王国を敵に回すぞ。圧倒的な実力差でもって追い返すのが今回のプランだ。それならギリギリ向こうに対する牽制になる」

「うう、ごめん。うっかり我を忘れてたわ」

「はあ。まあ気持ちはわかるけどさあ」


その言葉に詩帆がニヤリと笑ったように見えた。まさか……嫌な予感がするぞ。


「分かってるなら、最期に色々とやらせてもらっていいかしら」

「えっ……」

「騎士団長には痛い目に合ってもらわないとね……」

「そ、それは……はあ、分かった。程々にな」

「それぐらいは弁えるから安心して」


深夜の王都郊外に男の低い悲鳴が響き渡った……


ちなみに彼らを解放した後、二度と暗殺者は送り込まれてこなかったので、おそらく作戦は成功したのだろう……俺の心にほんの少しのトラウマを残して……

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