第六十九話 既視感のあるデート
皆様お久しぶりです。遅くなってすみません。読んでくださる方ありがとうございます。
またユニークが遂に10000人に到達しました。これからも頑張ります。
屋敷購入から二時間後。俺と詩帆は街の大通りの端の方を歩きながらのんびりと話をしていた。
「想像以上に大きかったわね、あの家……」
「ああ。大学の理学部棟の半分ぐらいの体積はありそうだな」
「家を体積で比較する人って、雅也ぐらいよね」
「そんなに変か?というか、片方は家じゃないし」
「あなたにとっては寝床であって家でもあったでしょう」
「まあ、大学院生時代はな……」
偶然にも顔なじみだった不動産屋で、買った未来のマイホーム。
前世ではさすがに手が出せなかったであろう超高級屋敷であったので心配だったが、内装や外観を見て回った限りでは悪趣味な成金趣味に走っていなかった。多少は応接室や対外用のホールや食堂なんかは気後れするような豪華さがあったけども居住スペースは意外に普通だった。
「住むところは過度な超備品もなくて住みやすそうだったから、想像以上に満足」
「偉そうに言われていますが……金を出したのは俺なんだけどな」
「あら、夫婦の財産は共有じゃないの」
「まだ、こっちの世界では結婚してないからな」
「フフフ。それならこの間の夜のこと、もうだいたいバレてるしソフィアに言っちゃおうかな」
「別に俺はいいけど……それって、恥ずかしいのはお前の方じゃないのか?」
「貴族は婚前交渉は厳禁よ。さて、それが知られたらあなたの社会的地位はどうなるかしらね」
「なっ……言われてみれば、確かに……」
詩帆から飛び出した爆弾発言に俺は思わずたじろいだ。
「さ、誘ってきたのは詩帆の方だろう」
「でも、こういう場合、最終的に悪いのは手を出した男の方でしょう」
「うっ……」
「まあ、冗談よ。誰が夫との夜の話を友達に話すのよ。まあ、さっきも言ったようにもうバレてるでしょうけど……」
「それを言うと悲しくなるから止めようか……」
両方ともに心の傷をえぐるのは得策ではない。この話は掘り起こせば起こすほど黒歴史が深まる気がするからしない方が賢明だろう。それに彼女も納得したのか、大きく頷いて話を変えてくれた。
「そうね……ところでさっきの買い物について別のことを聞こうと思っていたのだけど」
「なんだ?」
「さっきの買い物で十一億アドル一括払いとか訳の分からないことをしていたけど……あなたの総資産っていくらなの?」
「うーん……時価?」
「ふざけていないで教えてくれないかしら」
「いや、正直に言って数えたことがないから分からない」
詩帆に言った通り、俺の総資産は不明だ。現金資産は先ほど購入した時にあらかた使ってしまったので、今残っているのは数千アドル程度だが、魔物の素材、魔石、各種鉱石、魔術の資料等々時価としか言えない現物資産を含めると、少なくとも前世の小国の国家予算の数倍はあるとみていい。
「数えたことがないって……それであれだけの額がポンと出せるということは……数えてないって、そういうことなの?」
「ああ、数えたことがないっていうより増えすぎて数えられないんだよ。たぶん最低でも数千億アドル分はあるだろうからな」
「最低でも数兆円って……あなた一人で国を乗っ取れるんじゃないの?」
「そうだな、国債を全て買い取ろうかな……まあ、この世界に高度な有価証券取引の文化はないから、もっと単純に国を買えるんだけどな」
「やめておきましょう。あなたがすべてを乗っ取るなんて三日天下の予感しかしないわ」
「ひどいな……これでも世界最高峰の頭脳と呼ばれた物理学者だった男だよ」
「雅也は興味のないことは一つもやらないでしょう。国家運営なんてあなたには向いてないわ」
「そういうことですか……」
「そういうことよ。さてと、そろそろデートらしくお店にでも入らないかしら」
そう言いながら詩帆が足を止めたのはとある王都の有名カフェの前だった。かなり人気の高いカフェだが、珍しく行列にはなっていなかった。
「並ばなくてよさそうだし、入りますかね。歩きながら喋るのは結構きついし」
「おじいさんみたいなこと言ってないで入るわよ」
「いや、精神年齢は俺もお前も四十四歳だろ。十分に中年の入り口だって。だから精神年齢的には詩帆もおば……」
俺が言葉を言いきる前に詩帆の手に魔力が集束した。そこから瞬間的に生成された風の刃が俺の頬を薄く切り裂き、上空へと飛んで行った……
「…<暴風切断術>……ねえ、雅也。それ以上言ったら、本気で舌を切り落とすわよ」
「ご、ごめんなさい……」
「すぐに土下座をしないでよ。天才学者の名が泣くわよ……」
「前世の称号はどうでもいいんだよ。普段からずっと気も張ってるわけじゃないし、頭を回してるわけじゃないんだからな。そんな普通の俺なんてダメ人間でいいんだよ……詩帆の前ではね」
「普通は私の前ではカッコよくありたいとかじゃないの……」
「俺は自分の素を見せる方が相手を信頼してると思えるからいいんだよ。それより入ろうか」
「そうね……はあ、なんで私達の会話って長くなりすぎるのかしら……」
相変わらず無駄な会話をしながらカフェに入ると、誘導されたのは一番奥の窓際の席だった。
「なんかこの席だとさあ」
「ええ。私との初デートの日よね」
「あれが……初デートになるのか?あの日っていうか、中学の頃はまだ付き合っていなかったと思うんだが」
「私がそう思っているからいいのよ。うーん……後は雪が外に降っていたら完全にあの日の再現ね……って、いつの間に幻影を中学時代の制服姿に変えてるのよ」
「後は雪を降らせれば完全再現だな……降らすか。……<降雪>」
「ストップ。できるんだろうけど、異常気象を起こすなんて完璧に迷惑だから止めて。後、姿もさっきの幻影に戻して」
「安心して、冗談だから。詠唱に魔力を込めていないだろう」
あの冬の日の出来事を再現しようと思えばできるという魔術の万能性にびっくりだな。まあ、姿を変えるぐらいならともかく、詩帆の言う通り人様の迷惑になるようなことはしない。
「そんなに心配するなって。俺だって最低限の常識はわきまえているよ」
「ええ。あなたが普段はかなりの常識人であることは知ってるの。ただ、自分の興味にある研究対象についてとなると無茶をするのがあなただからよ」
「ひどい……けど、事実か……」
「あなたが前世で研究のために脅した人は何人だったのかしらね」
「それもほじくり返さないでくれよ」
「そうね。まあ食事がまずくなるのも嫌だし、止めておきましょう」
そう言って詩帆はテーブルの上にあったメニュー表を見だした。
「この世界の料理ってあんまり複雑なものを頼むと、かえっておいしくないよね」
「それは同感だな。だから調理手順が少ないものを選べばいい。すみません、トマトソースパスタとステーキをお願いします」
「じゃあ私はパンケーキとコーヒー」
「かしこまりました」
こういう時は二人とも即決なので、テキパキと物事が進むのは夫婦して似ているところだと思う。そんなことを思いながら料理を待っていると突然、詩帆がこんなことを言いだした。
「そういえば前世の新婚旅行先のアメリカのカフェでさあ、テロに巻き込まれたよね」
「そういえば、そんなこともあったな」
「ええ。雅也と一緒にいるとなぜか月一ぐらいで命の危機にさらされるのよね」
「まあ、研究が研究だったしな」
「あなたの不幸体質もあるんじゃない。政府機関や大規模犯罪シンジゲートに命を狙われることはないはずでしょ。あなたが情報を握ってたんだから」
「まあ、そうなんだけどな……」
「よう、華奢な兄ちゃん。可愛い彼女を連れてデートかい」
詩帆と過去の話をしていると、いつのまにか机の横にガラの悪そうな男達がたむろしていた……どうりで店の奥が騒がしいのに客が少ないわけだ。こいつらに絡まれたくなかったんだな。俺と詩帆にとっては敵にすらならないというか、障害物にもならないような連中なので全然意識をしていなかった。
「彼女、というか妻……いや、婚約者です」
「こ、婚約者だ……てめえ、どこの商家のお坊ちゃんかしらねえが、俺らの縄張りで堂々といちゃつくとはいい度胸だな」
そういえば今日の服装は商人風だったな。これが貴族服とドレス姿だったらこいつらもさすがに絡んでこなかっただろう。まあ、俺も詩帆も普通に休日であったら貴族服ではなく平民風のラフな私服かローブ姿で行動すると思うので変わらない気もするが。
「てめえ、ちょっと痛い目に合ってもらおうか」
「ああ。ついでに女の方にも怖い目を見てもらおうか」
「あの、彼女には手を出さないでいただけませんか」
「あん。そんなことを言える立場だとでも思ってるのか」
「思ってますよ」
「なめやがって……おい、こいつの前で女を……」
男達が詩帆に手をかけようとした瞬間、俺は半ば反射で後ろから俺を抑えていた男を殴り飛ばした。
「てめえ、やる気か?」
「ああ。お前らが詩帆をどうにかできるとも思わないけどさあ……覚悟はできたか?」
「それはこっちのセリフだよ。なめやがって、全員やれ」
「死にたい奴からかかって来い……<身体能力強化> <転移>」
「なっ、なんでいきなり外に……」
「店に被害を出させないためだよ」
戦闘開始と同時に詩帆を残して男達を全員、店の外に転移させる。その際に自身と奴らの相対距離を少し離した。男達は一瞬で状況を理解し、俺に向かってくるが、その一瞬があれば十分だ。
「……<死毒の霧> <大旋風>」
リーダー格であろう男一人を残して、向かってきた全員を風魔術でズタズタにしながら上空に吹き飛ばし、傷口から酸を浴びせた。おそらく上空から呻きながら落ちてくるのだろうが、そんなに簡単に休ませるわけがない。
「……<質量低減>」
空から落ちてくる男達にかかる重力を低減し、木の葉のように落下してもらう。上空の風向きもいじっているので五分ほどでここに落下してくるはずだ。
「……上級、魔術師……ま、まさか王宮魔術師、な、訳はないか……」
「ああ、そうだな。で、まだやるか?」
「ひっ、ひい……畜生。なんで今日は一日に二度もこんな目に合わなくちゃいけないんだよ」
「二度目……どういうことだ?」
俺におびえて震えている男の口から出た言葉に俺は興味をひかれた。
「半日前のことなんだが、酒場でいちゃついてる高そうなローブ姿の美男美女のカップルがいたんだよ……それに絡んで行ったら……」
「いったら?」
「全身に雷撃を浴びせられてな……その上でこの世のものとは思えない悪夢を見せられて……」
「悪夢……精神魔法か……その上で高そうなローブを着た二人組か……いや、まさかな。だけど……おい、その二人のローブの色とか容姿とか覚えてないか」
「ローブの色……確か男は青色で女は白色だった気がするな……容姿はああ、女性の方は銀髪の無茶苦茶美人な人だったぜ……男の方は覚えてないけど……」
「そうか……まさかな。まあ、いいや。それじゃあ子分の処理は頼んだぞ」
「えっ……処理?」
俺は男の話にとある人物の面影を感じながらも、空からゆっくりと降りてきた奴の子分たちのうめき声が聞こえる前に店に戻ることにした。まあ、あの人に会ったら、そのときはそのときだろう。
「ただいま」
「おかえり。前世では頭使って危険を回避してたけど、魔法のおかげでケンカに強くなってるわね。前世では対処の効かなかった拳銃とかの対処もできるんじゃない」
「まあ、前世でも拳銃持った相手程度ならなんとかなったよ。爆弾を使われたりとか、プロ相手なら無理だったろうけど」
「それも今なら余裕でしょう」
「まあ、そうだろうな」
「それにしても前世でも武力があれば色々と対処しやすかったかもね」
「拳銃ぐらいは携帯してたぞ」
「どこから手に入れたのよ」
「警察の物を自衛隊経由で」
「検問とかに引っかかって捕まったらどうするのよ」
「大丈夫。よっぽどのことをしない限り、大規模機関は俺を拘束できないから」
前世では次元間の量子データにアクセスして得た情報の中で特に機密だったりヤバい情報は俺の防衛手段として確保させてもらった。俺の身に何かあれば、次元間の情報へのアクセス回路を利用して全世界のサーバーにばらまかれる仕組みだった。だから世界は誰も俺に手出しできなかったわけだ。
「そういえば、そんなこと言ってたわね」
「ああ。そういうことだ」
「まさか私の治療費とか、そこら辺の政府から脅し取った金じゃないわよね」
「治療費は全額俺の給与から出してるよ。そういう金は研究にしか使ってないよ」
「つまり、そういう金はもらっていたわけね」
「あっ……」
外からは男達の悲鳴が聞こえてきていたが、俺は気にせず詩帆と二人きりの、のんびりとした昼食の時間を過ごすのだった。
次回は明日投稿できるよう頑張ります。




