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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第四章 桜舞う入学式/夜桜散る再会
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現代編 水輝side ~さらなる発見と芽生えた想い~

十分遅れました。ご心配をおかけしてたらすいません。


読んでくださる方、いつもありがとうございます。


今回は、少々説明成分が多いですが、その分は次の二話で補いますのでご了承ください。


「ふう……とりあえず一段落か」

「お疲れ様です、須川准教授・・・。はい、お茶をどうぞ」

「悪いな。こんな遅い時間まで残らせて」

「いいですよ。湊崎准教授の全てを知ってしまったものとして、私も手伝わなければいけない理由がありますから」


俺は大学に提出する<次元間の情報データの解読記録>に関する論文を書いていた。これは俺が二年前に准教授に就任してから、半年に一度提出することを求められているものだ。これを行わなければ、大学側が研究成果ごと研究室を接収するとのことだ。


「今回もギリギリで<次元間量子解析装置オリジナル>のブラックボックスの解析が終わっていて良かったですね」

「ああ……本当に義兄さんの頭の中はどうなっていたんだか」

「私も気になりますね……それはそうと最近はどうなんですか?」

「研究は順調。ただし生活は常に非日常だな」


俺は日夜、様々な政府機関から監視されている。被害妄想ではなく数日に一度、接触している顔見知りの自衛官の報告なのでほぼ間違いないだろう。

この数年、研究成果を条件付きでも大学が接収できることに加え、俺に各国政府機関の監視が続けられているのは、もちろん俺のと言うか湊崎准教授の研究がいまだに魅力的であると同時に危険なものであるからだ。


「そうですか……まあ、私も最近は似たようなものですが……」

「まあ、この研究室の研究を取り仕切っているのは俺だけど、他のことは星川に任せっきりだもんな」

「そうですね。研究に関してもあなたから大半のことは聞いているから、報告書ぐらいしか情報のない外の人間に比べたら、はるかに知っていると思いますし……」


星川はそんな風に思ってくれているようだが、実は違う。彼女が知っているのはあくまで俺の研究室で発表したり、学生に助手をさせられるレベルの話の少し先程度のことである。だが、もちろんそんなことを言うわけにはいかない。


「まあ、唯一心を許せる存在だからね」

「そう言うセリフは彼女にでも言ってあげてください」

「生憎、この研究を始めてから彼女を作る余裕なんてありません。それは君もだから分かるだろう」

「准教授。デリカシーなさすぎますよ……」

「はは、そうかもな」


彼女の言葉に苦笑しながら俺は、自身の頭の中にある機密を思い返していた……


「それより、二人の時は須川先輩のままにしてくれよ。さすがに肩がこる」

「すいません。慣れちゃって呼びにくいんですよ」

「それなら仕方ないか」

「そうですね。諦めてください。それより、落ち着いたのでしたら飲みに行きましょうよ」

「そうだな、論文も片付いたし行こうか」

「准教授のおごりでお願いします」

「研究費用に使い込んでるからカツカツなんだけど」

「それでも助教の三倍近い年収あるじゃないですか」

「分かったよ。払うよ」


そうして俺は、ゆっくりと席を立ちあがった。






その夜……


「ふう……こんなもんか。さて、どこまでやったらいいんだろうな」


三軒、店を変えて深夜零時まで飲み続けた後、星川は俺の自宅に酒を持ち込み……結果、俺が作業をする横で爆睡している。


「まったく、あれだけ飲んだら明日はぶっ倒れるだろうに……しかも、男の家でここまで無防備に寝られるか、普通……いや、そういえば前に言ってたな。俺なら刑事罰が及ぶような真似はしないだろうから安心だって……信頼されてるのか、されてないのかよく分からないな」


そう言いながら、俺はタオルケットを持ってきて星川にかけた。そしてそのままベランダに出た。


「寒っ……こんな深夜に外に出るもんじゃないな」


春になったとはいっても、まだ朝晩の冷え込みは厳しいようで、俺は震えながら上着の首元をすぼめた。


「はあ……まったく、あの人が押し付けた研究のせいで俺の人生は激変しちゃったよな。しかも常に否定していた俺の頭が准教授よりいいっていう説を少なからず立証しちゃうし……」


俺は既に湊崎准教授が遺した<次元間量子解析装置オリジナル>のデータのおそらく七割程度の復元に成功している。もっともブラックボックス内の主要な観測データは完全に破壊されていて、とてもではないが公式発表以上のデータしか手に入らないかと思っていた。しかし……そのデータはとんでもないコードで読み解けることが判明した、いや気づいてしまった。


「あれが表に出たら、世界が終わる以上。俺もこの研究を誰かに託して死ぬしかないよな……いや、あるいはデータを全て消して死ぬというのもありなのか……」


湊崎准教授の研究内容は危険すぎた。あれはある意味、情報の内容なんてどうでもいいレベルの話だった。「あそこには世界中はおろか全ての並行世界と宇宙の情報が規則的に流れている」……そう言って数々の物理学賞を獲得した彼が、まさか、あんな重要な秘密を残していたとは思わないだろう。それが分かってしまえば、世界が終わるほどのことを……


「しかも、俺も別方向から次元間の量子データのエネルギー値に関する計算を行った結果、恐ろしいことを見つけてしまったしな」


俺が知ってしまった量子データの危険性。湊崎准教授が発見したものと俺が発見したものの二つ。それは全く違った危険性だった。


「次元間に情報が生まれてから世界に情報が生まれるのか、世界に情報が生まれてから次元間に写されるのかは不明だが……次元間の量子データを削除すれば、この世界でもそれに関する情報と物質が不安定になり、やがて消滅する……そりゃあ、そんなもの公表できるわけがないよな」


湊崎准教授が全ての研究データを破壊したとはいえ、俺に残したにもかかわらず唯一、一切の説明がなかったのがこの話だった。しかもこれは<次元間量子解析装置オリジナル>のデータに残っていたはずなので、あの人は知っていたにもかかわらずだ。しかも、おそらく彼が隠しているデータはまだまだありそうなのだ。


「<次元間量子解析装置オリジナル>のデータ内に、何重もプロテクトが掛けられた上で、複数回にわたってデリートされてたデータが最低でも後、三つはあったからな……まったく、あの人はどこまで危険な橋を渡ってたんだよ」


酒がかなり入っているせいか、小声とは言え愚痴が止まらない。ベランダなので、さすがにこれ以上は言わない方がいいのだろう。

が、この部屋は湊崎夫妻が俺に残した高層マンション最上階ワンフロアぶち抜きの部屋の屋上バルコニーなのでまずバレる心配はない。……本当に准教授はどんな取引をしていたのか知らないが、馬鹿みたいに金を持ってたみたいだ。


「はあ、しかもあの量子データに一定の波長の電流を加えると、次元の壁をぶち破って原爆の数十倍の規模の破壊が起きると……本当にリアルな反元素爆弾かよ」


これが俺が見つけた量子データのもう一つの危険な性質だ。これらが世界にばれれば……間違いなく世界は終わるだろう。


「これを俺一人で背負うには重すぎるんですよ、雅也義兄さん。詩帆姉連れて行ったんですから、本当に僕一人で背負わないよう、どうにかしていってくださいよ……」

「その研究が不特定多数に触れられるのが本当に危険だと分かっているのは、この世界であなたが一番だと思いますよ。先輩」

「……星川」


突然かけられた声に後ろを振り向くと、そこには顔を真っ赤に染めた星川が立っていた。


「お前、大丈夫か」

「足元はふらつきますけど……まあ、アルコールの分解は早いので」

「そうはいっても限度があるだろうが」

「それより……私が何も聞いていなかったとは思っていませんよね」


彼女の顔が急に真剣な表情になり、俺もそれを見て、観念することにした。


「どこから聞いてた」

「あなたが屋上に出てからずっとですよ」

「そうか……」

「何で話してくれなかったんですか?」

「星川をこれ以上危険に巻き込まないためだよ。あそこまでなら引き返せる。けど……これを聞かせてしまったら、君は……」

「馬鹿にしないでください」

「なっ……」


彼女が今度はいきなり怒鳴ったせいで、俺は思わずふらついた。


「そ、そんなに怒らなくても……」

「怒りますよ。なんで私を信頼してくれなかったんですか」

「信頼してたよ。だから言わなかった」

「本当に信頼しているなら、私にも重みを分けてください。あなた一人で背負わないでください、須川先輩」

「……」


彼女の言葉を聞いて思い知った。俺がしてきたことは彼女を守ることではなく、ただ傷つけただけだったと


「……星川……」

「……須川先輩。もし先輩が私に何も言わずに死んだら、この研究はどうなるんですか……」

「うっ……それは」

「それに……あの人の策に乗るようで癪なんですが……私はどうしたらいいんですか」

「えっ……それって」

「先輩は、鈍感すぎるんです。せっかく先輩の前では無防備な姿を何度もさらしてたのに手を出さないんですもん」

「いや……それは。普通じゃね」

「うう……そうですけど」


なんか、あれ、俺の研究、と言うか湊崎准教授の研究の話はどうなったんだ。えっ……これって……


「とにかく先輩。私にも重みを背負わせてください。先輩と運命を共にしたいんです」

「いや……でも」


俺は一生独身でいる気だった。家族を持ってまで、湊崎准教授のように守り通す覚悟などなかったから。


「私は覚悟してるんです。ずっと前、あの日正月の日に大学に呼び出された日から」

「……俺でいいのか、な」

「そうじゃなければ、湊崎夫妻に趣味が悪いといわれつつも、通いつめませんよ」

「なっ……」

「そろそろ遠回しな発言は止しましょう。先輩、全てを背負う覚悟はできてます。その上であなたと一緒にいたいんです。だから……」

「ああ、もう……俺が言うよ。結婚してください」

「…………先に付き合ってくださいって言いませんか、それ?」

「いや、もう半ば同棲してるような感覚だったもので……つい」


考えてみると大半の日数を研究室で徹夜して、空いた日付は二人で飲んで、遊んで、どちらかの家で目を覚ますのだ……たしかに一緒にいない日の方が珍しいな。


「にしても……今回の発言がなかったら、お前の印象、一生自堕落な女だったぞ」

「仕方ないじゃないですか。もう先輩と長くいすぎて、兄と接してるような感じになりかけてるんですよ」

「逆ギレするか、そこ?」

「先輩が優柔不断なのがいけないんです。さっさと告白するか、全部話してくれていればこんな恥ずかしい告白をすることなんてなかったのに……」

「ちょっと、待ってくれ。本当に……もう、泣かないでいいから」


星川は怒りながら、ずっと泣いていた。


「仕方ないじゃないですか。嬉しくって、不安で泣きそうなんですもん」

「もう、泣いてるぞ」

「言わないでください。先輩が受け入れてくれて、でもそしたら先輩を失うのが余計に怖くなって……」

「准教授の気持ちが分かった気がするよ……分かった。僕が死ぬときは君を守り切ってからだ」

「先輩、カッコ良すぎです……また惚れちゃいそうです」

「もう、素直になっていいよ」


彼女を抱きしめながら、俺は何があっても彼女を守り抜くことを誓った。


……後日。俺が湊崎准教授の手のひらの上で踊らされていたことを知り、異世界転移装置を強化して、あの人を殴り飛ばすという決意が生まれたのはまた別の話。

本当に現代編は頭が痛くなりそうです……


最後に、面白かったらブクマいただけると嬉しいです。

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