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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第四章 桜舞う入学式/夜桜散る再会
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"travel diary" ~幼き日の初恋~

読んでくださる方ありがとうございます。


作者体調不良で水輝sideが書ききらなかったので、前に書いていたこちらを出しておきます。

修正していたせいで投稿時間が遅れてすみません。


「お兄様……」

「リリア、泣くなよ……ああ、もう。どうしたもんかな……」


夢の中でお兄様の前で泣いている私。その時、私は何があったのか思い出せない。

まあ三歳ぐらいのことなので思い出せなくても当然かもしれない……




「……魔物か。それと……っつ、子供の反応が二点……さすがにまずいぞ」

「んっ……お兄様、どうしたんですか」

「ああ、リリア。起こしちゃったか。ちょっとうるさかったかな」


お兄様の緊迫した声に、眠っていた私の意識は飛び起きました。


「それは、いいんですけど……それより、子供の近くに魔物が出たって」

「そうだ。こんなにのんびりしてる場合じゃない。リリア、すまん、少し馬車から降りる」

「いや、お兄様。普通の馬車から降りるのもおかしいと思いますけど、この馬車……」


私の制止など意に介さず、お兄様は即座に走行中の馬車から飛び降りました。自身が展開した<空中歩行ウィンドウォーク>によって空の上を走っている馬車から。


「さすがクライス君ですね……」

「ああ。馬車から飛び降りたとは思えないほど、綺麗に減速してから自分の魔術で空中に着地してたし」

「アレクス。空中に着地するっていう表現は変」

「そうだな」


お兄様が降りた後の友人の皆さんは、何も心配していないご様子でした。まあ魔人を討伐し、赤竜を瞬殺するような魔術師ですからそうなるでしょうけど。でも……


「すみません。私も気になるので行ってきます」

「えっ……リリアちゃん」」


でもお兄様が言っていた魔物に襲われかけている子供のことが気になって、私はお兄様と同じように馬車を飛び降りました。


「……<突風ウィンドブラスト> <空中歩行ウィンドウォーク> 」


そのまま風魔術で自身の速度を停止させて、そこに張った<空中歩行ウィンドウォーク>に着地しました。お兄様が張った馬車の走行用の<空中歩行ウィンドウォーク>は馬車の周囲に円周上に展開されているので、後方に飛んだことですぐにお兄様の魔術の領域は消えました。


「……うう……やっぱり高いのは怖いですが……飛び降りましょうか。いや、別に飛び降りなくてもいいですね……<転移テレポート>」


自身の展開した空中の足場から、地面まで私は一気に<転移テレポート>で移動しました。そしてその周囲をぐるりと見渡すと……


「……いました」


私の視界の先には木の根元で膝を抱え込んで泣いている三歳ぐらいの女の子を、その兄が泣き止ませようとしている光景が広がってきました。私はそれを見て思わずほっと溜息をつきました。


「よかった、無事ですね。後は、魔物を倒しておけば……」


その時、私の右前方から巨大な猪が子供たちに向かって突っ込んでいきました。それに遅れて、お兄様の<火炎弾ファイアバレット>が後方から申し訳程度に放たれます。

お兄様ならもっと弾速や威力を上げることもできるでしょうが、子供たちがどう動くか分からない以上、使用を控えたのでしょう。しかし、その結果おそらく魔物である猪は子供たちにまっすぐ向かって行きます。


「……はっ。私が結界を張れば……」

「リリア。それはしなくても大丈夫」

「えっ、お兄様。それはどういう……」

「射線が見えればこっちのものという訳さ……<雷撃弾ライトニングバレット>!」


私が子供たちの前に結界を張ろうとした瞬間、私の後ろからお兄様が現れてそれを制しました。そのままお兄様は雷魔術の弾丸で正確に猪の後頭部の一点を打ち抜きました。雷撃のエネルギーによって神経を介して全身の筋肉を焼かれた猪はそのまま硬直して、動かなくなりました。


「……すごいです」

「まだまだだな。本当ならこんな状況になる前に仕留めなくちゃならない」

「この特殊な状況下で正確な魔術射撃ができるだけでも十分すごいと思いますよ。それより子供たちを」

「そうだな」


私たちが子供たちのもとに行くと、恐怖のあまり足がすくんでしまったようで二人してその場に座り込んでいました。


「二人とももう大丈夫だよ」

「ありがとうございます。助かりました」

「あ、ありがとう……」

「いいんだよ。それより怪我はない?」

「妹がこけて足を怪我してしまったぐらいです」

「そうか……ちょっと見せてね」


お兄様が女の子を座らせてからスカートを少しまくると、確かに膝が大きくすりむけていました。


「ああ、これは痛いだろうね。ちょっと沁みるけど我慢してね……<降水レイン> <治療リカバー>」

「わあ、傷が治ってるよ」

「ま、魔術師の方だったんですか」

「ああ、しがない一塊の魔術師だよ」


私はお兄様の謙遜と言うかふざけた発言に突っ込みませんでした。なぜなら私も昔、お兄様にそうしてもらったのを思い出していたから。




「お兄様……痛いです」

「そうは言ってもな……もう少し歩いたらお父様たちのところに戻れるから」

「嫌です。もう歩けません」


私が三歳の頃。家族で領内の山の別荘に来ていた時でした。私が花を摘みに行こうとしたのにお兄様が付いて来てくれて、そこで私が走ってこけてしまったのです。それで膝を大きくすりむいた私は泣いて座り込みました。


「そうは言っても、ここには薬も何もないし……」

「お兄様、おんぶしてください」

「ええっ……はあ、仕方ないか」


お兄様は私を背中に背負うと、歩き出しました。しかし……


「お、お兄様。揺れて痛いです」

「そんなにか」

「はい。ものすごく痛いんです」


今思えば、おそらくあの時私の足はかなりえぐれていたのだと思う。だからお兄様は不慣れな治癒魔術で私を治療することをためらったのではないかと思う。


「……やっぱりこのまま連れて帰るのは危険か……リリア、一回降ろすよ」

「はい……」

「それから……少し痛むけど我慢して<降水レイン>」

「ううっ……お兄様」

「頑張って……頼むから成功してくれよ……<組織復元グランリカバー>」


お兄様の詠唱によって、一瞬にして私の傷は元通りになりました。


「ふう、成功かな」

「な、治りました。お兄様、すごいです」

「よかったね。あっ、後このことはくれぐれも内緒ね」

「内緒ですか?」

「ああ、内緒ね」

「分かりました。その代わり……最後までおんぶしてください」


お兄様はその私の言葉に苦笑しながら、結局おんぶでお父様たちのもとまで運んでくれたのでした。


ずっと書庫に籠っていたお兄様との数少ない交流の中で、この出来事が今でも忘れられないのは……この時に初めてお兄様にほのかな恋心を抱いたからかもしれません。まあ、儚く散った初恋ですが……




「リリア。この二人を送っていこうかと思うんだけど」

「もちろんいいですよ。もう暗いですし、子供二人では危ないですから」

「そうだな」


そう言いながらお兄様は男の子を連れて歩き始めました。私はそれを追って女の子を手をつないで歩き始めました。


「お姉ちゃんも魔法使えるの?」

「ええ、使えますよ」

「そうなんだ。どんな魔法が使えるの?」

「うーん、いろいろかな」

「いろいろ……すごーい」


歩きながら女の子と話していて、私はふと気になったことを聞いた。


「そういえば、二人はなんで森の中にいたの?」

「お花を獲りに来たの。今日はお母さんの誕生日だから」

「そっか……」


女の子の笑顔を見て、横目でお兄様の姿を追いながら私は昔の思い出に胸を馳せるのでした………



今週中には体調を戻して、水輝side4と遠い空の下4を投稿できるよう頑張ります。

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