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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第四章 桜舞う入学式/夜桜散る再会
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第六十二話 魔術競技大会 ~夕暮れ 閉会式~

読んでくださる方ありがとうございます。本日は四話投稿の予定です。


21:27投稿は二話同時投稿です。今話は一話目です。


「……今年度も素晴らしい活躍を見せてくれた皆さん。今後の学校生活に生かしていけるよう、この思い出を忘れないでください。 生徒会長 ユーフィリア・フォルト・フォン・グレーフィア」


色々と計画を思い巡らせているうちに、気が付けばユーフィリアの挨拶は終わっていたようだ。盛大な拍手とともに彼女が俺の後ろに戻ってきた。


「クライス君、場所を開けてくれる?」

「どうぞ……なんか、疲れてます?」

「まあ、多少わね。久しぶりの……あんなに慣れないことをすれば私だって疲れるよ……わよ」

「そうか……いろいろ、素が出てるぞ」

「……あなた相手だと……だんだん気が抜けてきてるのよ」


若干疲れた顔をしているユーフィリアに声をかけると、顔を薄ら染めながらこう言った。

そんな顔をされると俺の方まで……いろいろと、その、抑えきれなくなるから止めて欲しい。もう答えは出たようなものだけど……せめて形だけは整えさせてほしい……


「クライス君、どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「そう……迷惑だったら、言ってね」


と、今度はかなり不安そうに言ってきた。だよな十五年も会わずにいて、再会したら頑なに正体明かさなかったら、そういう疑いも持つよな……不安にさせているのは分かってる、でも、もう少しだけ待ってて……十五年分の想いを言葉にまとめる時間を僕に……


「今大会の順位を発表します。三位 三年一組、二位 三学年特待生クラス、そして今年度の優勝クラスは一学年特待生クラスです」


と、再び思想にふけっていると順位発表とともに会場中に大きな拍手の音が響いた。周りの会話によると何でも一学年の特待生クラスが優勝するのは十五年ぶりらしい。


「へえ、十五年ぶりか」

「あら、知らなかったの。で、優勝の立役者としてはどんな気分かしら」

「いや、別に俺だけが頑張っていたわけじゃ……」

「いえ、お兄様が立役者であるのは事実ですよ」

「本当にそんなこと……ある、かも」


個人競技での優勝、リリアの指導もやったし、そういえばレオンに試合中の助言もやったな。後は<魔術戦闘>で相手を封殺してたのも最終的に俺だったしな。


「ということでクライスはもう少し自分の異常性に気づいた方がいい」

「レオン。それ、もう少しましな言い方はないのか」

「ある。が、お前相手にそこまで気に掛ける義理はない」

「ひどいな、おい」

「お兄様、まだ閉会式は終わってませんからね」


と、リリアが言ったところで、エマ先生が壇上に上がった。


「ただいまを持って、王立魔術学院魔術競技大会を閉会します」


こうして長かった王立魔術競技大会が終了した。






「みなさん、お疲れさまでした。改めまして優勝おめでとうございます」


教室に戻ってきた俺達を先生がそんな言葉で出迎えた……なんだか声が枯れていることは気にしないでおこう。


「先生、優勝の副賞ってないんですか」

「一応……あるにはあるんですけど」

「えっ、あるんですか」


かなり冗談半分に訊いたのだが、まさかあるとは思わなかった。


「二つあるんですよ、一応」

「しかも二つもあるんですか。それで、何なんですか」

「一つ目は、クラスに一年間専用研究室が貸し出されます」

「それはいいですね」


これでしばらくは、自身の研究室を用意しなくてもなんとかなりそうだ。まあ、研究内容が外部に公開できるような代物ではないので、最終的には学院どころか個人で研究室を作らないとだめなんだが……この世界の魔術法則と物理法則の関連性なんて研究はなあ、大半が七賢者レベルしか知らないこの世界の秘密事項ばかりだし。


「先生、それでもう一つは何なんですか?」

「……ダンスコンペへの優先参加権です」

「えっ……どういうことですか」

「学院では魔術競技大会の終了後、夜には新入生歓迎会として舞踏会が開催されます。それには一年生はほぼ全員参加するのですが……」

「コンペと舞踏会の違いは?」

「舞踏会は立食パーティーの合間にやる、あくまでイベント中の余興扱いですがコンペではもちろん採点が行われて順位が決まります。ただ、毎年中々出場者が出ないんですよね」


つまり優先参加権とは名ばかりの、優勝クラスを利用してイベントを盛り上げるための強制参加権ということか。


「それで、一組は絶対に参加しなければいけないんですが……誰が出ます?」

「私はクライスを押そう。主席だし、何より今日の功労者だからな」

「なっ……それを言うなら殿下が出た方が盛り上がるんじゃないですか」

「私はもう舞踏会は慣れているからな。自由に踊らせてもらうよ。せっかくの優勝の副賞だしな」


先生からの問いかけに二秒でレオンが俺に押し付けようとしてきた。しかも自分勝手な言い訳だが、あながち間違ってはいない。


「じゃあ私はユーフィリアを押そうかな」

「わ、私もユーフィリア先輩が出るのが良いと思います」

「なっ、なんで私が。コンペならソフィアの方がダンスが上手いんだから、ソフィアが出た方が……」

「生徒会長で次席で、なおかつ今大会でも解説役まで頑張っていんだから、優勝賞品ぐらい受け取って」

「そうですよ。それにお兄様とユーフィリア先輩なら絵になりますし」

「えっ……で、でも……」


ユーフィリアもソフィアさんとリリアに二人掛かりで追い込まれていた。というかソフィアさんって親友相手でも容赦ないんだな。


「ね、ねえ他に出たい人がいるかもしれないしさあ……」

「いそうにないが」


周りを見渡すと、タウラスはいまだに優勝の喜びに号泣していたし、ルークは我関せずと本を読み続けているし、ティシリアさんは自分の席で小さくなって、目立たないようにしていた……クソッもう打つ手はない……いや、一人だけ明らかに出そうなやつがいた。


「ジェラール。お前は出る気ないか、ダンスコンペ」


俺は最後の望みを教室後方で紅茶をすすっていた一人の男子生徒にかけた。ジェラール・セシル。両親が王都で貴族向けの劇団を抱えているということもあってか、いつもキラキラとしている金髪の美青年だ。だが魔術の腕もそれなりに確かで、光魔術の<幻想イリュージョン>で自身を竜に変化させて、<魔術仮装>では二位を取っている。


「うーん、いい提案だね」

「そうか。じゃあ……」

「ただ僕の美貌を一人の女性だけに舞踏会の間中捧げるわけにはいかない。僕は普通の舞踏会の方で全ての淑女に僕の美貌をささげるよ」

「ああ、そうだった。そういえば、お前ってそういう奴だったわ……」


こいつに断られた時点で俺の方は万策が尽きた。


「……クライス、諦めろ。まあ、私も舞踏会の方には出るからフォローぐらいはしてやろう」

「……分かったよ、出るよ」


俺は渋々だが自分の出場を認めた。まあ、仕方ないか……適当に予選で負ければいいし……それに、最後まで出場する気はさらさらないしな。


「ユーフィリア、クライス君と一緒に踊ってきなさいよ」

「クライス君が相手というのはどうでもいいけど……分かったわ、出るわよ」


ユーフィリアも出場を承諾して、ようやくクラスの出場者が決まった。


「ふう、よかったです。危なく私が強制的に決めなければならない所でした……生徒からの恨みは買いたくありませんからね」

「ちなみに、もし決まってなかったら誰を選ぶ予定だったんですか?」

「クライス君とユーフィリアさんです」

「「結局一緒じゃないですか」」

「やっぱり仲が良いな」

「やっぱりってなんだよ」

「フフ、やっぱりユフィもまんざらじゃないんじゃない」

「べ、別にそんなことはないからね」


レオンとソフィアさんが俺とユーフィリアをからかう中、ゆっくりと時間は過ぎて行った。






「それで、ルークは舞踏会には出るのか」

「僕は出ないよ。部屋で本でも読んでいたいからね」

「そうか……そう言えばタウラスは?」

「なんでも自分を鍛えなおすとか言って……気が付いたら教室から消えていたらしい」

「あいつは何をやっているんだよ」


放課後、舞踏会の準備に忙しいからと言っていたユーフィリアと手伝いに引っ張り出されたソフィアさんが教室から消え去った後、俺達は教室内で思い思いに過ごしていた。


「それで、レオンは衣装はどうするんだ」

「もちろん、公式パーティー用の衣装を用意してるさ……多分ハリー辺りがな」

「ハリーさん、大変だな。魔術師としての業務に小間使いまでやらされてるのか」

「させている訳じゃないからな。あいつが下手に他の人間を外部で殿下に接触させるよりは警護が楽だと言ってるからだぞ」

「ハリーさんのプロ意識がすごいな」


王宮の魔術師というのは想像以上に激務のようだ……絶対やりたくないな。ただレオンが国王になったらほぼ確実にやらされそうなんだよな。


「僕の衣装はどうでもいいだろう。それより、クライスはどんな衣装を着ていく気なんだ」

「レオン。動揺が出てるぞ、口調が私から僕になってるぞ」

「突っ込むな。それで、どうするんだ」

「もちろん一番いい霊装を着ていくぞ」

「そうか……今、礼装じゃなくて霊装って言わなかったか」

「言ったよ」

「お前……舞踏会で戦争でもする気か」

「……ある意味そうかもな」


俺が持っているスーツの中で最もしっかりしているのが、十四歳の誕生日にセーラさんからもらった霊糸を使用したコートとスーツのセットだからというのもあるのだが……ユーフィリアのあの雰囲気を見ていると、正体を明かした時に何をされるか全く予想がつかないからというのもある。


「まあ、お前のことだから一番仕立てのいいスーツがそれだったとかいう理由なんだろうが」

「うーん、それだけだったら学院が貸与してくれるスーツでもよかったかもな」

「じゃあ、なんで」

「今は言わない」

「借りたスーツを汚すような行為に及ぶとかか?」

「あのなあ、そんな理由なら、そもそもいいスーツなんて着ていかないからな」


なんて話していた時だった。突然、外から怒号が聞こえた。


「ユーフィリア。お前はまた、こんなことを」

「お、お父様。待って下さい」

「まったく、また魔術成績を向上させよってからに。このままでは嫁の貰い手が無くなるではないか」


窓から外を見ると、そこにはグレーフィア伯爵家の大きな馬車が止まっており、伯爵がユーフィリアを馬車に強引に連れ込もうとしていた。


「そ、それは……」

「だいたい女が魔術を極めて何になる。お前らは私の下でおとなしくしておればよいのだ」

「嫌です。まだ、私は……ここでやりたいことがあるんです」

「減らず口を……」


おそらく人目のないところであれば彼女も伯爵を穏便な方法で無力化できたのだろうが、こんな公衆の面前で貴族子女が父親相手に魔術を放つわけにもいくまい。彼女はただ、必死で逃れようとしていた。


「お願いします。お父様、私にもう一度だけ時間をください」


お父様ということすら屈辱なのか、彼女が顔を歪めたのが分かった。だが、伯爵はそれすら踏みにじった。


「そうか、そうか。分かった。ただし……」

「っつ……そ、そんなの」


伯爵の声は小さく聞こえなかったが、唇の動きで分かった。「奉仕しろ」……意味合い的には父から娘に絶対に求めてはいけない方のものだろう。それが見えた瞬間、俺はあいつを殺してやろうかと思った。


「まあ、よい。さあ、さっさと来い」

「い、いや。ま、まさか馬車の中で……」

「そうに決まっているだろう。さあ、早く……」

「……<光弾ライトバレット>」

「うおう」


彼女の顔が絶望に染まった瞬間、俺はなりふり構わず魔術を放った。俺の放った魔術は寸分たがわず伯爵の顔面すれすれを通り過ぎた。その瞬間、俺は更に転移で間に割り込む。


「き、貴様。貴族たる私に何を……」

「女性に対する態度としてあまりに不適切だったもので」

「なんだと。私の娘に何をしても文句はあるまい……まさか、貴様ユーフィリアを」

「どうお考えかは知りませんが、少なくともあんたの手には渡しません」


俺は伯爵を睨みつけたまま言い切った。その後ろで怯えている少女を庇いながら、ますますこの男に対して殺意が膨らむ。だが……この子が穏便に済ませたいと思ったものを、これ以上大混乱に陥れるわけにもいかない。


「な、なめよって。私を怒らせたことを後悔させてやる。貴様をどうやっても殺す」

「本気で殺す気なら王国軍全員を赤竜並みにしてから来い。魔人殺しをなめるな」

「……貴様、絶対に殺してやるからな。覚えていろ。おい、さっさと馬車を出せ」


怒鳴りながら伯爵は馬車を急発進させ、あっという間に去っていった……これであの人の殺意は俺にだけ向いてくれただろう。


「ふう。大丈夫か、ユーフィリア」

「クライス君……あなたは……」

「何で助けたか。そんなもの決まってるだろ。君が困っていたから」

「そういうことじゃなくて……あなたはいったいどういう存在なの。お願い答えて」


彼女の悲痛な叫び。あれだけの目に遭って、俺をいや、雅也を求めているのだろう。だけど……


「それは……今夜の舞踏会の後にでも話そうかな」

「えっ……分かった。じゃあ、待つわ……」

「そう言ってくれて助かる……それじゃあ、後で」


彼女にそう言うと、俺は走って別れた。


まだ彼女に伝えたい言葉はまとまっていない。十五年分の想いを込めた言葉は……


でも……


でも……俺はそれを名目に……逃げた、だけじゃないのか……

二話同時投稿です。もう一話も是非お読みください。

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