第六十話 魔術競技大会 ~秘めたる想い~
読んでくださる方ありがとうございます。
久々の二日連続投稿、そして一月ぶりの定時投稿です。
さあ、今日中に魔術競技祭は終わるのでしょうか。
「すみませんでした」
タウラスが教室の地面に頭をつけて土下座をしていた。なんとも暑苦しい絵面だ。
「ま、まあ別に気にするなよ」
「し、しかし、私だけが予選敗退なのですよ」
「そうだけども……」
「確かにそうね。しかも……あまりに予想通りの結果で引き分け、両者失格とか」
「すいませんでしたーーーー」
「ソフィアさん。情け容赦ないですね。というかタウラス。それ以上、頭を地面にブチつけるな。また脳震盪起こして医務室送りだぞ」
そう、彼は<闘技>の予選で<身体能力強化>がかかっているからとタカをくくって、相手と頭突きで衝突した結果……
「まあ、両方とも怪我はしなかったがその衝撃で気を失って、両者失格と」
「すいませんでした」
「いいよ。ひとまず五競技の優勝でなんとか三学年の特待生クラスには勝てそうだし」
「なんとか、だけどな」
「ルーク先輩。これ以上、責めないであげましょうよ。それにお兄様達なら負けませんよ」
タウラスをルークが責めようとしたのをリリアが止めて、俺に視線を向けてきた。
「そうだな。まあ、戦闘無しとは言っても前回の勝負もストレート勝ちしたわけだしな」
「その通りだな。さて、いつまでも一人を責めていないで、次の<魔術戦闘>のポジションを決めるぞ」
<魔術戦闘>は各クラス五人による模擬戦である。各クラスはそれぞれ大将を設定し、大将が相手チームによって拘束されれば負けである。使用魔術の規制は相手を危険にさらさなければという条件付きだが解かれる。つまり完全に制御さえできれば上級魔術撃ち放題というわけだ。
「とりあえず、大将は俺がいくよ。俺なら絶対に相手に拘束されることはないからな」
「いや、クライス。お前は中衛にいろ。大将はユーフィリア嬢だ」
「なぜ……いや、分かった。さっきの競技で魔力を消費してるからか」
「そういうことだ。という訳で、だ。大将であるユーフィリア嬢を後列に下げて、彼女には守りに徹してもらう」
「了解。まあ、消費したって言っても中級魔術程度じゃ破れないレベルの結界を張る余裕ぐらいならあるから大丈夫よ」
ユーフィリアはこう言っているし、大丈夫だろう。まあ、どんな最悪な状況でも彼女なら、どうとでもするだろう。
「それで、クライスが大将の守護と、前衛陣の援護を頼む」
「要するに臨機応変に動けってことだな。分かった」
「前衛は、ソフィア嬢が風魔法と水魔法で相手の進行ルートを塞ぎ、私が残った進行ルート上で待機しておく。後はリリア嬢に侵攻は任せるよ」
「分かりましたわ、殿下」
「精一杯頑張ります」
レオンが語った作戦案は完璧に定石通りのものである。しかし定石通りの手は全員の能力が高ければ、より有効に発揮される。それならこの作戦はまさしくうちのクラスに適しているだろう。俺はもちろんとして、他の四人だけで闇以外の全ての属性を第六階位までは使えるからな、それだけでも大体のことはオールマイティーにできるだろう。
「さてと、それじゃあ予選をさっさと勝ち抜いていきましょうか」
「そうだな。よしっ、上級魔術解禁だし少し本気を出しますか」
「クライス、絶対に相手にけがをさせるなよ」
「当たり前だろうが。第一そんなコントロールもできないようなら、撃てるわけないだろうが」
「そうは言っても、クライス君なら簡単に相手を殲滅できそうだから……気を付けてね」
「ソフィアさんまで……いや、絶対にしませんからね」
そんな風に盛り上がっていた時、教室の前の扉がガラッと大きな音を立てて開いた。
「みなさん、すいません。すぐに<魔術戦闘>の集合場所に向かってください」
「えっ……でも、エマ先生。このクラスの予選は第八試合ですから、まだ早いんじゃ……」
「事情が変わったんです。予選をすべて中止にして、一位と二位のクラスの決勝戦になりました」
入ってきたミラ先生の言葉は唐突だった。
「どういう意味ですか。予選が中止って……」
「天候が悪化するからとかですか……でも、風と水の魔術でどうとでもなるか」
「じ、事情はともかく……早く移動しま……」
「……私の父と王宮筆頭魔導士様のせいですか」
「えっ……いや、そういう訳では……」
かなり慌てているミラ先生にユーフィリアは静かに言った。その言葉にミラ先生が明らかに動揺している……なるほど、事情は読めた。
「あの二人が、さっさと自分の子息の試合を見せろとでもいったんですか……でも、貴族の権威とは独立した王立学院なら要求を突っぱねることぐらい……」
「残念ながらそれは不可能よ」
「どういう意味ですか」
「彼らはこの学院の運営に出資している。王国政府と言えど出資者が出資した団体に法律の範囲内で文句をつけることは禁じられない……まあ、仮に違法であったとしても今代国王が動くとは思えないがな」
「…ふざけんな」
「クライス君、怒らないで……後であの伯爵は痛い目に合わせておくから」
ユーフィリアはかなり怒っているせいか発言内容がかなり物騒だ。現職の伯爵を暴行すると言っているのだから。
「まあ、二人とも一旦落ち着いてくれ。どのみち決勝戦の相手は変わらなかっただろうから、こちらとしては消耗しなくていい」
「でも他の生徒に迷惑をかけるのは……」
「ユーフィリア嬢、気にしなくていい。僕たちの試合が終わったとで、残ったクラスで順位決定戦をやればいいだろう」
「でも、それじゃあ不公平なんじゃ……」
「ユーフィリア。普通に考えろ。むしろ俺達と当たって得するチームがどこにある」
「うっ……それはそうですけど」
「というか、クライス君。今、普通にユフィのことを呼び捨てにしなかったかしら」
「お、お兄様。熱くなっても最低限の礼儀は守ってくださいよ」
「わ、悪い。すみませんでした、ユーフィリアさん」
「いえ、私は気にしませんよ」
先ほどの<魔術演武>であんなことをしておいて、よく言えるものだ。……ああ、そう言えば前世でも最終的には彼女から告白するように仕向けられたんだったっけ。
「さて、話もまとまったようだし行こうか」
「そうだな。まあ、ユーフィリア嬢は気にする必要はない。悪いのはあれがまかり通ると思っている君の父上で会って君ではないからね」
「ありがとうございます、殿下」
「よし、じゃあ勝ちにいくしかないな」
「逆にお兄様がいて負けることってあるんですか」
「……ないな」
さて、ぞれでは久々に魔術戦闘と行きますか。
「皆様。本競技<魔術戦闘>は予選を廃止し、先に総合得点上位二クラスによる決勝を行ってから、三位以下のチームで三位決定戦を行います。突然の変更で申し訳ございませんが、どうかご了承ください……それでは、選手の入場です」
ミラ先生の声で、俺はゆっくりと競技コート内に足を踏み入れた。
「クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダー 今回こそは貴様を倒す」
「バン先輩。あまり熱くならないでください。氷魔術で冷やしましょうか」
「き、さ、貴様……」
「まあまあ、バン君落ち着いて」
俺を挑発したバン先輩を逆に挑発し返すと、後ろから出てきた優しそうな先輩が彼をなだめた。……見覚え無いな。
「クライス。何、相手を挑発するような真似を」
「先にやったのは相手だけどな。それよりあの優しそうな先輩は?」
「ああ、あの人か。魔術省の副大臣の息子だよ。名前はレウス先輩だったかな」
「そうか……さて、残りは全員見覚えのある顔か」
バン先輩をはじめとした入学式の魔術披露で対戦した三人に加えて、先ほどレオンと対戦していた先輩にレウス先輩か……とりあえず、魔術の精度的に脅威なのは後述した二人の方だな。魔力量や使用属性数が少なくても、制御が細かい方がこの狭い領域では重要だし。
「他に質問がないのなら、私は定位置に動くよ」
「ああ、問題ない。それじゃあ前衛は任せました」
「そっちこそ、余裕だろうけど後衛にまで到達されるなよ」
「分かってるよ」
「各選手、試合開始のポジションに移動してください。移動が終了したら、静止してください」
実況の声を聞きながら、俺は最初の場所からゆっくり後ろに下がり、大将のユーフィリアのすぐ前にまで来た。
「そんなところで大丈夫なの」
「ああ。むしろ戦況がよく見えた方がいい」
「そう……そろそろ始まるわよ」
「分かってる」
その瞬間、試合開始の合図が鳴り、両チーム一斉に魔術を展開した。
「暇だなあ」
「いいことじゃない」
「まあ、そうなんだけど…」
試合開始十分が経過して、状況は完全に硬直していた。
「にしてもリリアさんはすごいわね。二人を同時に相手取って通さないって」
「まあ、当然だろう。上級の一番上と中級の一番上じゃ、それだけの差になるよ」
リリアは二人の男の先輩から交互に繰り出される攻撃魔術を結界で受け止め、その間隙に<死毒の霧>を放って、相手を行動不能にしようとしていた。しかも当然のようにリリアは無傷というのがすごい。相手は大なり小なりリリアの他の魔法がかすって、出血しているから勝負がつくのは時間の問題だろう。
「まあ殿下とソフィア二人でようやく押しとどめられるあの人もあの人だけど」
「名前なんだったっけ」
「……忘れたわね……あの悪女としか言ってなかったから」
その悪女と呼ばれているユーフィリアと入学式の後の魔術披露で対戦した女子の先輩は強力な氷魔法であの二人を翻弄していた。ソフィアさんが風魔法の結界で相手の魔術を減衰し、それをレオンが火魔術で焼いて打ち落とすという状況が続いている。相手の魔力量の方が多いのでおそらくジリ貧だが。まあ、そろそろ俺が手を加えてもいいかな……
「って…<爆炎障壁>……ふう、危なかった」
「ちょっと、集中してよね」
「ごめん、ごめん……じゃあ、仕返しに……<霊炎の槍>」
さらに相手は多少の余裕もあるようで、こちらに氷属性魔術を放ってくるので、俺は火魔術の結界を局所展開して相殺していた。更にこちらに撃ってきた場合は、仕返しに撃った本数の倍の反属性魔術を撃ち込むことにしている。
「さすがの精度ね」
「これぐらいできなきゃ魔人は倒せないって前に言っただろう」
「そうね……にしてもあなたが援護に徹しててもいつかは勝てそうね」
ユーフィリアの言葉にレオンたちの方を見ると、俺の魔術が飛んだ瞬間に相手が防御に入ったため、すかさず相手を抜いて、奥のバン先輩たちのもとに向かっていた。……が、
「危ない……<氷結障壁>」
「今度はバン先輩の火魔術ね……あの人、こっちにもバカスカ撃ってるけど、魔力量消費の計算とかしてるのかしら」
「してないと思うぞ」
「よね……」
バン先輩は自身の結界展開を傍にいる他の先輩に任せて、自身に近づいた相手を攻撃する以外はずっと俺に向けて魔術を放っていた。まあ、距離はあるし大半が中級魔術だから余裕で撃ち落とせるんだが。
「安定したみたいだし、そろそろあなたも攻撃に参加したら」
「いいけど……たぶん、一瞬で終わるよ。というか、あの三人だけでも勝負がつきそうだし」
前方ではリリアが相対していた二人の先輩の内の一方を麻痺させて戦闘不能にしていた。一人になれば何秒持つのかと言ったところだ。更にレオンとソフィアさんがバン先輩の周囲にいるせいで、バン先輩は迎撃のためにずっと魔術を放ち続けていたのだが……そのうちの一発が味方の女子の先輩に当たって戦闘不能者を増加させている有様だ。
「この状況で俺や君まで参戦したら、もはやいじめでしょう」
「そうね……」
「それじゃあ、二人きりの話と行こうか」
「えっ……」
「通常の光魔術の結界の他に風魔術の防音結界も張ってある。意味は分かるよね」
この戦闘中という状況でなければ二人きりになるのが難しかったので止むを得ずである。まあ、三人には悪いが、すぐに終わる。
「さっきの演武の件について聞きたい。あの夜桜の演出の意味は……」
「製作者にその意図を尋ねられるのは、以ての外ね」
「……その言い回し。ってことは、やっぱりユーフィリア、君が……」
「はっ…ク、クライス君、後ろ」
会話の雰囲気に合わないユーフィリアの怒号に慌てて振り向くと、そこには……
「クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダー 貴様、俺の話を無視するなあ……」
なぜかものすごく怒ったバン先輩と彼が発動させたと思われる極大の火球が上空に出現していた。
「あらら……さて、どうするかな」
「あなたがこんな状況で防音結界なんて張るからよ。なんとかしなさい」
「はあ……了解です」
俺はあまりに間の悪いバン先輩にイライラしながら、この魔術への対抗策を考え始めた。
頑張れば、もう一話ぐらいは今日中に投稿できると思いますので善処します。




