第五十九話 魔術競技大会 ~体育祭ではなく魔術祭~
遅くなって申し訳ありません。連休中に四章を終わらせていこうと考えているので、頑張ります。
「さあ、午前の競技もいよいよ大詰め。第五競技<一斉斉射>決勝戦です。ここから観戦される方のために再度ルールを説明しておきましょうか」
昼に近づいた王立魔術学院ではまだまだ生徒達の暑い熱気が立ち込めていた。
「この競技は実に単純です。競技者が自身の後方から放たれる百発の多属性の弾丸系魔術を、自身の前方百メートルにある的にぶつかる前に何発落とせるかを競う競技です。それでは解説のクライス君とユーフィリアさんは誰が優勝すると思っていますか」
「あの、今になって言うのも何なんですけど……なんで、俺が解説をやらされているんですか」
「私一人で引っ張り出されるのが嫌だったからよ」
「そんな、迷惑な……」
「それだけでなく、私のクラスの魔術成績トップの二人であるというのが大きいですね……私一人で解説までするのも大変ですしね」
「「絶対、本音はそっちですよね」」
会場にはミラ先生とお兄様、更にはユーフィリアさんの声まで響きわたっています。……本当にあの人たちは何をやっているんでしょうか。
「……それで、この競技のポイントは何だと思われていますか」
「そうですね。やはりルールで広範囲魔術が使えないことが大きいでしょうね。一つの魔法では落とせても三、四発でしょうし」
「自身の前方に来てから着弾までの時間を考えると、四人チームでもその方法だと七十発程度を打ち落とすのでやっとだな。まあ、それなら同時に複数個の魔術を制御するという方法があるけど……」
「そうでしょうけど、それは操作難易度が高すぎるんですよね。というか、できる人は分かっていると思いますから……下手に誤射が起きないよう、解説役としては言わないと思いますよ」
「……すみません」
「さあ、解説からはかなり有効で危険な作戦案が出ていますが……果たしてそれを選手たちは生かせるのでしょうか。では出場選手は競技の開始地点へ立ってください」
先生の声に私は、ゆっくりと前に出て開始地点に指定されたライン上に立った。
「それでは競技を開始します」
その言葉に私は目をつぶって意識を集中させる……その瞬間、後方から複数の魔力を感じた。
「……<光の弾丸>」
それに合わせて周囲に光の弾丸を展開した。その数は丁度百。
「……そこです。…<光の弾丸 斉射>」
私が放った魔術は寸分違わず、後方から撃たれた全ての魔術を打ち抜いた。
「さあ、審判が確認に走りますが、これはもう一位は確定でしょう」
「……まさか全弾撃墜するとは思いませんでした。いくらリリアでもさすがに、ね」
「ものすごい集中力ね。一発も外さなかっただけでなく、残弾もゼロということは百発の魔術を完全に制御してたわけですか……」
「さあ、結果出たようです。優勝はやはり全弾撃墜で一学年特待生クラス、リリアさんです。午前は三競技で一位を取ったこのクラスは現在首位ですが、さて他クラスは巻き返しなるか……」
その実況の声に、私は満面の笑みでクラスメイトの方を見て叫んだ。
「やりましたー」
「リリア、お疲れ様。いや、まさか全弾命中させるとは思ってなかった」
「それは実況でも聞きました。なので……誉めてください」
「……すごかった。やっぱりリリアはすごい魔術師で、俺の自慢の妹だと思ったよ」
「ありがとうございます」
昼休憩。教室での昼食時間に俺のところに来たリリアは、俺の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべた……その笑みからは、ひとまず兄に褒められた嬉しさ以上の感情は見えなかった。俺への恋心はほぼ振り切ってくれたようで何よりだ。
「ちなみにお兄様ならどうやりましたか?」
「そうだな。俺なら雷魔法を格子状に展開して、全弾打ち落としかな」
「……なるほど。一種類の魔法を同時に複数展開することで、疑似的に範囲魔法にしてしまうと」
「そういうことだな」
「……あの、クライス君。私の競技はどうでしたか」
俺とリリアが話しているところに、今度はティシリアさんがやってきた。確か彼女は第二競技の<魔術速射>という競技に出ていたはずだ。
「すごく良かったと思うよ。咄嗟の判断力は非常に高かったと思うし」
「でも……三位でしたし」
「あれは経験値がないとどうしようもないよ。だから特待生クラスの先輩たちに負けるのは仕方がない」
この競技は珍しく全クラスが一人づつ出場する競技だ。各人が自分の使用可能魔術を申告して、その中から選択された魔術を指定された的にどれだけ早く撃てるかを競う競技である。当然、使用魔術を細かく把握できている上級生の方が有利なのは当たり前だ。
「しかも、上級性は一属性特化の人が多かったからな。その分、魔術数も絞り込んであるし」
「……そ、そう言ってもらえるとありがたいです」
「まあ、一競技ぐらい三位を取っても問題ないしな。午前では俺とリリアが優勝したのに加えてルークがものすごく細かい競技で優勝したろ」
「ああ、<直射競争>ですよね。魔術をまっすぐ飛ばせる距離を競う」
「そうですよね。お兄様の言い方がひどいですけど、普通に考えて二百メートルもの距離をまっすぐ撃つのって並大抵の制御じゃないですよ」
「……恥ずかしいから、これ以上褒めないでくれ」
ルーク君の静かな主張に三人で笑った。
そんな四人のやり取りを聞きながら私は大きくため息をついた。
「クライス君って本当に天然の女たらしなんじゃないかしら」
「ユフィ、妬いてるの?」
「違うわよ。私があいつを好きとかありえないから」
「でも、どう見ても私からはそうにしか見えないけど。さっきの解説もすごく楽しそうだったし」
「……そうだったとしても私が好きなのは彼じゃないもの」
「どういう意味よ」
私は大きく息を吸って言う。
「そうね。仮に彼が彼だったとしても、私が好きなのは彼でなく彼だということよ」
「訳が分からないんだけど……」
「でしょうね。まあ……いつか話すわ。じゃあ、私は実況席に行ってくるから」
不思議そうな顔をしているソフィアを置いて、私は教室を出た。
午後になり、二つの競技が終了した。そして第八競技の決勝には会場がどよめく人物が勝ち上がっていた。レオン・アドルフ・ルーテミア殿下である。
「さてと、第七競技までに優勝が三競技に、二位が一競技、三位が二競技、で……予選落ちが一競技。これが響いてるからなあ。さて、なんとしても勝たないとね」
第八競技は<結界戦>指定フィールド上に結界を展開し、競技終了時点でより広い面積の結界を構築できた方が勝ちという、競技だ。
「それで……決勝戦の相手は、確か入学式の日の魔術披露会の審査員席にいた先輩か」
そこに立っていた先輩はあの時の気弱そうな感じはどこへやらと言った感じで、凛と立っていた。
「それでは、<結界戦>。競技開始です」
「……<雷撃障……」
「…<水壁>」
自分が展開するより前に、先輩によって張られた結界は水の結界だった。先輩の展開速度に驚きつつも、防御力の低い水の障壁を吹き飛ばそうと、自身で次の魔術を詠唱する。
「早い。けど……<爆炎弾>」
「…<水壁>」
「なっ……」
吹き飛ばした結界は、即座に詠唱によって修復された。おそらく結界を展開した後、すぐに再展開できるように発動一歩手前まで準備していたのだろう。
「……くそっ……<範囲焦滅>」
「威力はすごいけどな。ただ、何度やっても同じだよ」
「………<雷撃障……」
「遅い…<水壁>」
今度はさらに効果範囲の大きい魔術を使ったが、同様に修復される。しかも結界の範囲は指定領域内の中心線より、若干こちら側にまで伸びているので、このままだと結界を張っても面積差で敗北が決まる。
「さあ、これはレオン殿下。打つ手なしか。さあ、試合時間は残り三十秒です」
「これは相手の戦略がはまっていますね。これに打開策は……ちょっ、クライス君。どこへ」
実況席の喧騒がどこか遠くに聞こえていたその時。
「レオン……火魔術の結界を相手の結界と接するように、二重に展開しろ」
「おっと、解説者からの助言だ。しかし、彼も同じクラスメイトですから特に問題はないでしょう」
クライスが風魔法を使って叫んだのが聞こえた瞬間、相手の顔色が変わった。その瞬間、俺は魔術を展開した。
「………<氷結障壁>!」
「先輩、遅いですよ……<爆炎障壁>! <爆炎障壁>!」
先輩が水魔術の結界の強度を上げるため氷魔術の結界に変更しようとしたが、合成魔術の詠唱よりは単一属性魔術の二連唱の方が早い。
「なっ……<氷結障……」
「試合終了です。さあ、結界面積的にはレウス君の氷魔術ですが……その一面はレオン殿下の火魔術によって焼失しています。つまり一面がかけていますので結界とはみなされません。よって勝者はレオン殿下です」
俺はクライスに向かって大きく手を振った。
「さてと、最終競技か。いや、まだ<魔術戦闘>が残っているのか」
個人最終競技<魔術演武>に出るのは私、ユーフィリアだった。ここまでのクラスの戦績は優勝四競技、二位二競技、三位二競技なので優勝四競技、二位五競技の三年特待生クラスに勝つためにはこの競技と次の<魔術戦闘>は絶対に優勝しなければならない。
「さあ、<魔術演武>もいよいよ大詰め。一年から三年までの全ての一般クラスの競技が終わりました。いよいよ次は特待生クラスの演武です。毎年、ハイレベルな演武が見られますが、果たして今年はどうなるのか」
「先生、盛り上がってますね。さて、まずは一学年の華。生徒会長ユーフィリアさんです」
華、とクライス君が言ったことで作品のイメージが固まった。せっかくだし、クライス君の……いや、ひょっとしたら雅也の驚く顔が見られるかもしれない。
「この競技では魔術によって作った光景を教員三名が審査し、その得点に応じて順位が気まります。毎年、入学式の後にやっているものとルールはほぼ同じです」
「クライス君、何度も解説、御苦労さま。……では、ユーフィリアさん、お願いします」
その言葉とともに、私は詠唱した。
「<大地障壁> <高圧水流>」
「これは……円柱状に出現させた<大地障壁>を削っていますね。前回も似たようなことをしていましたが……」
「今回は……どうやら木のようですね」
私が作り上げたのは一本の巨木だ。ただし満開のその木には色などついていない。そこでだ
「…<火炎弾丸>」
「これは……」
「すごいですね。<火炎弾丸>で木の花に色を付けて……これは桜かな」
桜と分かってくれたのなら十分だ。後は……闇魔法を使えることにしておけば楽だったんだけどな。
「……<大地障壁>」
「これは会場全体が闇に包まれて……というか真っ暗ですよ」
「な、なにをしたいんですか、ユーフィリアさん」
「……<光球>」
私が上空に上げた巨大な<光球>は月の代わりである。
「夜桜……か」
「これは……美しいです」
だが、まだ最後仕上げが残っている。私はクライスがいる方向が正面になるように桜の木の前に<大地障壁>で窓のある壁と椅子を用意した。そして、最後にそこに座った。
「美少女と夜桜……絵になっていますね。自身の容姿は採点に入りませんが、これは絵画のようで素敵ですね。クライス君はどう思います」
「………」
「クライス君、大丈夫ですか」
「……あっ、はい。すみません、あまりの美しさにぼうっとしちゃって」
私はもう順位などどうでもよかった。まあ、おそらく優勝しただろうがそんなことよりも……
「クライス君の口が、詩帆って動いてたわね……やっと確信が持てたわ。まあ、気づいてもらわなくちゃ困るけれど……~貴女へ~なんて私を勝手に絵に書いたのはあなたなんだから」
彼が私にいつ正体を告白するかが見ものね。……その時、私はどんな反応するのかな。
そんなことを考えているだけで私は胸が躍って仕方なかった。
疲れました。たぶん、もう二度と一話でこんなに多くの多人称視点を使うことはないかと思います。




