第五十四話 入学式~魔術披露エキシビションマッチ~
申し訳ありません。投稿時間過ぎてました。
一つだけ言い訳させていただきますと、最近少しプライベートが忙しいせいです。
2017年10月23日 リリアの入学関連の修正並びにユーフィリアとの戦闘シーンの修正
水蒸気がはれた先にいた男は俺のことをずっとにらみ続けていた。
「……俺、この人と戦うのか……」
「クライス君。戦うんじゃないからね。魔術の披露をして、その技術の高さを競うんだよ」
「いや……それは分かっているけどね」
バン先輩はしばらく、ひそひそと喋っている俺とレオン殿下の方を睨んでいたが、やがて唐突に空に向かって手を伸ばした。
「これは競技を始めるということなのかしらね」
「みたいだな……にしてもすごく無口な先輩だな」
「普段はそうでもないよ。……ただ、一年生に惨敗したことに相当イラついてるみたいでね。……制御ミスらないといいけど」
「おい。さすがにその発言は聞こえたらまずいだろ」
「聞こえてるよ」
殿下の失礼発言はばっちりバン先輩にも聞こえていたようで、野太い怒声が会場に響いた。というか自国の王子相手にあの態度って、どれだけキレてるんだろうか……まあ、殿下に対する口調に関しては俺も人のことは言えないけど。
「そう言えば彼の素性は……」
「現王宮筆頭魔導士。グスタフ・フォン・テルミドール伯爵の長男。両方軍国主義で怖いのなんの。今の軍務大臣も戦争大好きだからなあ……おっと、これはユーフィリア嬢の前で言うことではなかったかな」
「いいわよ。別にあの父親が何と言われようと私には関係ないから」
「そうかい……」
「ちょっと待て。王宮筆頭魔導士の息子だったっけ。魔術師の階位は」
「魔力階位第七階位。で、火属性第八階位の上に風魔法第七階位っていう化け物だよ。そうそう一応言っておくけど、この学校にいる上級以上の魔術師は君たちと先生方を除くと、今日出てる学年順位のトップ二人だけだからね」
「つまり……」
「まあ、僕たちの想像以上にキレてるってことかな」
と、殿下が話を締めくくった瞬間、バン先輩の詠唱が終わった。ちなみに模造魔法の上級を使うのには実は膨大な詠唱時間がいる。俺や師匠達、後は超越級が使えるユーフィリアとリリアは模造魔法を超越級と同様に扱うことで詠唱時間をカットしているのに過ぎない。
「…<気体収縮>……<炎獄世界>」
「バカッ、その組み合わせは危険すぎる……<風霊庭園> …リリア、ユーフィリアさん。学園の外周と校舎に結界を」
「通常結界でいいですよね…<光子障壁>」
「…<絶氷要塞> 言われなくても展開してるわよ」
「クライス君どうしたのか……」
「話は後で、それより念のため耳を塞い……<防音障壁>」
第八階位火属性魔術<炎獄世界>の発生点の中心に空気が集束する。……結果、猛烈な爆炎が学園の上空を覆った。
「キャア……」
「バカみたいな花火をしやがって……」
「あれは、本当に……そうだ、観客や外に被害は」
「観客席や審査員席の正面には既に風魔法の結界と消音結界を張ったよ」
「ついでに校舎と外周は私とリリアさんで防ぎきれましたけど……はあ、全く何をしたいのやら。間に合ってなかったら、ケガどころじゃすまない人間が出ていてもおかしくないですよ」」
「ええ。まあ私は結構、ギリギリでしたし……」
「いや、そうは言っても……さすがの展開速度だったね。はあ……あいつがあんなお偉いさんの息子じゃなければとっくに退学だろうにな……」
「どうだ。この威力に勝てる魔術があるか」
あまりの危険度に俺達が四人で頭を抱えているところに当のバン先輩が機嫌よくこちらにやってきた。
「あの、ですねえ……」
「殿下。すごいでしょう」
「ま、まあ威力は認めるけど……」
「でしょう。でしたらこのような下賤なものと関わらず、私を早く殿下付きの魔術師に任命してください」
「……いや、さすがにそれは……」
「なるほど、そうですか。貴様が悪いのだな」
「はあ……何をいきなり」
殿下がバン先輩の対応に顔を渋くしていると、今度は俺に突っかかってきた。……なんだよこのとばっちり。
「貴様の様な火力のない魔術師に殿下の護衛は務まらん」
「いや、別に俺は殿下の護衛ではないのですが。というか護衛ならハリー殿のような適役がいますし」
「あのようなヒョロイ魔術師など殿下の護衛にはふさわしくない」
「そうですかね。あの人の方が術のレパートリーもおそうですし、よっぽど適役かと」
「だから奴では殿下を守り切れない。私の様な威力のある魔術が……」
「お前程度の威力の魔術なら、簡単に出せるんだよ。一つ言っておくが、あの魔術より高い威力の魔術なんて合成魔術の上級や超越級にはゴロゴロしてるぞ」
なんだか腹が立って思わず言い返してしまった。周りからの視線が痛い。
「……な、何を。じゃあ、お主はそれが撃てるというのか」
「撃てるよ」
ああ、もういいや。どうやらこいつは相当甘やかされて育ったらしい。見事に脳筋だ。だが、そろそろ現実を見てもらおうじゃないか。
「じゃあ、次の演技でそれを撃て」
「撃つわけがない。そんなひねりも面白みもないただの攻撃魔術を」
「なっ……じゃあ、何をすると言うのだ」
「うーん、お前を真似て……花火かな」
「……花火?」
「……花火!」
バン先輩から疑問の声が、ユーフィリアから驚いた声が聞こえたが……まあ、さっさと撃ってしまおうか。
「じゃあ、行きますよ……」
俺は上空に左手を掲げた。もちろん、魔術自体はポケットに手を突っ込んでいても使える。だからこれは一種の演出だ。さて、それに合わせて俺は一発の火球を背後から上空に向けて打ち出し、そして上空で花を咲かせた。
「キャア、また、爆発……じゃない」
「すごい、綺麗」
「これは……単一の魔術ではありませんね」
「ここまで高度な魔法制御をしてきますか……さすがですね、クライス君」
怖がりながら徐々に盛り上がっていく会場を見ながら、俺は一発、二発と同様の種類の火球を次々打ち上げていく。爆発させる際は風魔術を利用して、火球の爆発の方向を制御し、光魔法や闇魔法の幻影を利用して花火の色を変えていく。
「すごい……音もさっきのと違って、少しドキッとするぐらいの音だし」
「俺は逆にこの音、好きだな」
「あっ、分かる分かる」
「にしてもどうやって色を出してるんだろう」
生徒たちの盛り上がりも十分な様なので、ここからは俺も楽しませてもらおう。大きな花火と小さな花火を重ねて発射して、ヒマワリの様な花火を撃ってみたり、ハート形や、犬や猫の顔の形をした花火を撃ってみた。さすがにここら辺ともなると風魔法では厳しくて、物理魔法を使わざるを得なかったけどな。
「すごい……お兄様の魔法、やっぱり素敵です」
「やっぱり……クライスが……だったら……何で」
「いやあ、綺麗だねえ。……ユーフィリア嬢どうかしたかい」
「いえ、見とれていただけです」
「そうか……」
細かい花火を含めて五十発少々……そろそろ潮時かな。その場に座り込んだバン先輩のメンタルもかわいそうだし……
「それでは、フィナーレです……」
そう言ってから、最後に超巨大な花火を打ち上げ、それが消えかかる中、火花が垂れるタイプの滝風花火をその前に撃って終了だ。ちなみに騒ぎにならないよう、学園の外側からは幻影で見えなくさせてもらった。
「…………素晴らしい」
「ですね。これは文句なしでクライス君の勝利でしょう」
「ですよね。では一年生の全勝ということですよね」
「ははっ。これは勝つのには無理があるだろう。……バンには悪いけど、俺も一年生に一票」
どうやら俺の勝利みたいだな。まあ、周りの盛り上がりを見るに当然だろうけど。
「いやあ、終わった終わった。さてと、教室に戻りましょうか」
「ちょっと待ってもらえるかしら、クライス君」
「どうしました、ユーフィリアさん」
「いえ……イベントの余興で私と魔術戦をしてくれないかしら」
「……………はい?」
イベント終了の余韻に包まれる会場でユーフィリア嬢がとんでもないことを言いだした。
「ちょっと待って下さい。一体なんで、いきなりそんなことを……」
「そうね。……いい加減に煮え切らない男がいてね、かなりイライラしてるのよ」
「……そ、そうですか」
まずい。たぶんユーフィリア=詩帆はもうほぼ確実だろう。そして詩帆も俺の正体に感づいているっぽいな……かといって、こんな公衆の面前で正体を明かすわけにもいかないし……何より、こんなタイミングで「ああ、俺が雅也だよ」なんて言えば、逆にぶちギレられかねない。
「なるほど……ではストレス発散兼余興ということで…殺傷系魔術はな……」
「もちろんありよ」
「いや、そんなことをしたら死人が出かね……」
「どちらも治癒魔法の名手だから大丈夫よ」
「ぐっ……まあ舌戦で俺が勝てるわけがないか……」
「何か言った」
「いや、別に」
「じゃあ、やりましょう」
俺は話を長引かせて、先生方からの制止を待っていたのだが……気が付けば全員が期待のまなざしで俺達を見ていた。
「普通なら止めるんじゃがな」
「大丈夫ですよ。あの二人なら……」
先生方がものすごく和やかに会話をしている。それを横目で見ながら、俺はついに競技場の中心にやって来てしまった。
「はあ」
「何のため息よ。それで、結界はどっちが張っておく」
「俺が張るよ……<星空の守り>」
「じゃあ、覚悟はいいかしら」
「おい、ルールは」
「相手をころ……行動不能にしたら勝利よ」
「今、殺すって言いかけなかったか」
「気のせいよ」
ものすごく不安だが……まあ、いい。さて全力の何割まで出すことになるかな……
「じゃあ、こっちから行かせてもらうわよ…<狂風雪衝破>」
発動待機のような高等技能までも使って、彼女が最初に放ってきたのは氷魔法第八階位<狂風雪衝破>だった。その大きさも威力も発動速度も全て、俺のものと遜色がない。だが……
「いきなり大技って……実戦経験が足らな過ぎるだろ」
「えっ……なんで、後ろに…<転移>……って、発動しない」
「残念。既に転移魔法は封じてあるよ。やっぱりもう少し実戦経験があればな…」
「くっ…<光子障壁> これで時間が稼げるわね」
俺は無詠唱でユーフィリアの背後に回った上で<空間座標固定>を使い、転移を封じた。それで終わりだと思ったのだが、ユーフィリアは障壁で時間を稼ぎ上級魔法を放とうとしてきた。これは彼女が戦闘に不慣れだという認識を変えなければいけないな。近距離での判断力なら俺以上かもしれない。だけど……残念ながら魔術なら俺が一歩上だ」
「その魔法は有効だけど、残念ながら相手が悪かったね…<魔力喰らい>」
「そんな、術式も魔力だから理論上は可能だろうけど……まさか魔術を分解するなんて」
あまりにも予想外の現象にさすがのユーフィリアもついに動きが止まった。さて、勝負をつけようか。
「…<負荷上昇> <魔力吸収>」
物理魔法で行動能力を奪い、そのまま彼女の肩に触れ<魔力吸収>で彼女の魔力を意識が保てる最低限度まで一気に奪い取った。
「な、なによ、この……魔術……魔力が……」
「よっと。急激に魔力を失った反動かな」
「くっ……ありがとう」
急激な魔力の消費によって倒れたユーフィリアを手で支える。彼女が赤面した理由は察したのであえて何も言わないでおこう。
「やっぱりあなたから強引に事情を聞き出すのは無理、か」
「何の話ですか」
「はあ……まったくこんなだからな」
と、ユーフィリアを抱きかかえながら隠語だらけの話をしていると、ふと周りからの目線が冷たいことに気づいた。
「魔術戦ならもっと派手にやれよ」
「誰もお前の瞬殺シーンなんて期待してねえんだよ」
「挙句の果てにユーフィリア様を抱きかかえて赤面させる、だと……吹き飛べ」
どうやら多くの男子生徒から恨みを買ってしまったようだ。……夜道には気を付けよう。
「ユーフィリア。なんでいきなり無茶なことを」
「ごめんね、ソフィア。少し気になることがあってね」
「ああ、じゃあソフィアさん。後はよろしくお願いします」
「ちょっ、ちょっと」
結界を解除した瞬間に駆け込んできたソフィアさんにユーフィリアの介助を任せて、俺はそっとその場を離れた。
「ふう。何とか逃げ切ったな。さて、これで詩帆に正体をばらすのは先延ばしにできるな」
校舎裏の森まで走り去った俺はこう呟いた。だが別に詩帆をに正体を明かさないことに大した理由はない。
「……せっかくの十五年ぶりの再会だし……それはもう少しロマンティックなのがいいしなあ……」
そんなこだわりが余計に詩帆を怒らせていたとは知らない俺だった。
少し短めだったので、明日の深夜一時までにはもう一本上げます。




