第五十三話 入学式~魔術披露がなぜこうなった……~
申し訳ございません。最終調整が長引き、27分間投稿時間が遅れました。これからは気を付けます。
読んでくださった方ありがとうございます。
またたくさんの評価、ポイントありがとうございます。感謝の一日二本投稿を土日に行いますのでよろしければ、是非お読みください。
2017年10月23日 リリアのセリフを追加
「………」
俺の叫び声と同時に沈黙した講堂内は静まり返ったままだった。えっ、これは本当にやらかしたやつじゃ……
「……クスッ…」
その時、俺から見て右の方で誰かが笑ったのが聞こえた。その方向に目線を向けると、ユーフィリアが口に手を当てて爆笑していた。いや、そうは見えなかったけどあれは絶対に内心で爆笑している顔だ。
「……ええ、以上で私の挨拶を終わらせていただきます……檀上、降りても構いませんよね」
「……ああ、はい。……以上で王立魔術学院入学式の全内容を終了いたします。なお引き続き……」
司会の先生の言葉にようやく会場は再び音を取り戻した。俺はその間を縫って、自分の席に戻る。
「……ふう……」
「お兄様、お疲れさまでした」
「お疲れ、クライス君。いや、いい演説だったよ」
「半笑いで言わないでください、殿下」
「本当に良かったわよ……フフッ……本当に、ね……」
「ユーフィリアさん、本当に笑いながらいうのは止めてください」
ちくしょう。休憩と同時に絡まれるのは予想してたけど……俺の原稿自体、全く使えなくなったからなあ。演説が短く、単純なものになってしまうのは仕方がないと思うのだが。
「まったく、何が駄目だったんだか」
「どうもこうもないと思うわよ」
「えっ、ソフィアさん。……それはどういう意味で」
「ユフィも殿下も分かっているのなら、言ってやればいいと思うのですが……」
「ごめんなさい。からかった時の反応があまりにも昔の知り合いに似てたものだから、ついね」
「すまない。からかったリアクションが面白すぎて、つ……」
「ついじゃないですよ。というか殿下に至っては悪意しかないじゃないですか」
ユーフィリアの昔の知り合いというのが俺ならば……一体、俺はどれだけ特徴的なリアクションをしているのだろうか……
「それで、話がそれましたけど……さっきの言葉はどういう意味なんですか」
「ああ、それはね。あなたの最初の方の発言がポイントよ」
「最初の方……何か言いましたっけ」
「言っただろう。九属性全てを第九階位まで使える、と」
「ああ……私も毒されてて気が付きませんでした」
「そこですか……」
「そこしかないでしょう。あれがどれだけ規格外か分かって言っているのかしら」
確かにこの世界では上級魔術師の数は数十万人に一人程度である。つまりルーテミア王国内に上級魔術師は多くても百人もいないということである。更に第九階位が使える魔術師となると一億人弱に一人ぐらいの割合になるのでルーテミア王国の九千万人程度の人口では発生しない可能性すらある。……まあ、現実には俺、ユーフィリア、リリアに師匠とセーラさんと国内に五人もいたりするが。
「確かに第九階位魔術師自体が希少だな」
「それが分かるなら、全属性……しかも合成魔法を含めた九属性が第九階位まで使える魔術師が言葉を失うぐらいのレベルでおかしなことは分かるだろう」
「ですよね……」
「ついでに言っておくけど、最初にどよめいたのはあなたの発言がはったりだと思われたからだからよ。その後で教員陣が一切否定をしなかったから、静かになったというわけよ」
「……なるほど」
どうやら俺が演説で何かをやらかしたわけではなく、単純に俺の魔術の使用属性の異常さに度肝を抜かれていただけらしい。
「なら、よかった。……これで入学式も終わったし、後は教室に向かうだけだな」
「あら、まだイベントは残っているわよ」
「えっ。……楽団の演奏とかですか」
「とぼけてるのか……お前もさっき説明されただろう」
「……忘れてたかったんだよ」
「もう、悪あがきは止めなさい。じゃあ、行きますよ」
その時、講堂中に魔法で拡声された声が響いた。
「入学記念魔術披露会に参加する生徒六名は、至急校庭上特設会場へ向かってください」
特設会場の上は妙な熱気に包まれていた。
「なあ、なんで出場者が固定で成績上位者三名なんだ」
「そんなもの、見栄えがいいからに決まっているでしょう」
「ですよねえ……さて、まずは殿下か」
「確か、火と土、それからその合成魔法の雷属性の使い手だったはずよ」
「階位は……」
「確か魔力階位が第六階位、火魔法と土魔法が第六階位、雷魔法が第四階位だったかしら」
「へえ、かなりの腕だな」
さて、入学式後に毎年行われているというイベント「魔術披露会」は開校当初から行われている由緒正しいイベントらしい。新入生の成績上位者三名と在校生の魔法実技成績上位三名が、同じ順位の者同士で既存の魔術を利用して、どれだけ華麗な情景を作り出せるかというのを競う大会らしい。
「相手の先輩の技は見せてもらったけど……」
「ええ、<高圧水流>の水圧を工夫して絵を作るというものだったわね。確かに綺麗だったけど……まあ、殿下の圧勝じゃないかしら」
そんな風にユーフィリアが言ったところで、殿下がゆっくりと特設会場の上に立ち、まずは土魔術を発動させた。
「…<大地障壁>」
その詠唱の直後、ゆっくりと会場中心の地面が盛り上がり、壁となった。そのまま今度は火魔法を詠唱する。
「……<範囲焦滅>」
更に発生した巨大な炎の奔流が土魔法の壁を焼いていく、その壁が熱せられ真っ赤に燃え上がったタイミングで、炎の奔流が消え去った。
「…<雷球> <雷球>」
最後に<雷球>で熱せられてもろくなった土壁を破壊して、砕け散ったものに小さな<雷球>が複数衝突する。その結果、熱せっられて半分液体化した粒は電気を通し、瞬間的に分解された。そして、急速な分解は爆発を生んだ。
「……綺麗」
「ガラスの粒が舞ってるみたい」
殿下はこの現象を理解しているわけではないのだろう。すなわち今日のために用意しておいた魔術なのだろう。……よく思いついたよな。まあ、宮廷魔術師のハリーさんは優秀そうだったから彼のアイデアかもしれないけれど。
「なるほど、高温のマグマを電離させて結晶を取り出す、か」
「ガラス化した破片が砕け散る様は見事ね」
「……ずいぶんそう言ったお話に詳しいようですが」
「昔、王城の図書館で覗いた七賢者著作の化学の本にはまっていたせいかしらね」
「そうですか……」
ユーフィリアさんの知識的にますます詩帆感を感じるんだが、まあ今は追及をしないでおこうか。
「それでは審査員の皆様、判定をお願いします」
先ほども司会をやっていた女の先生が、審査員の面々に判定を促した。ちなみに審査員は教員枠が学院長とエマ先生。生徒枠は会長代理でソフィアさんと、上級生枠で三学年の男子の先輩が入っている。
「私は殿下の方を支持しよう。砕け散らせる際に使った魔法はどれも標準的なものなのがいい」
「私も同様ですかね。ただ水魔法をあそこまで繊細に評価した手腕には評価したいと思います」
「僕は水の制御の細かさ的にブルーム君を支持します」
「私は殿下に一票です」
三年生の先輩以外が全員、一年生側に票を入れた。つまり……
「一回戦は、一年生チームの勝利です」
一年生側は大いに盛り上がった。その流れに手を上げながら、ゆっくりと殿下が戻ってきた。
「さて、ひとまず面目は果たしたかな」
「そうですね。お見事でした」
「じゃあ、次は私ですね。勝利に貢献できるよう、頑張りましょうか」
「ああ、ユーフィリア嬢。よろしく頼んだよ」
そのまま二回戦が始まる。相手は眼鏡をかけた神経質そうな女の先輩だ。
「ああ、やっぱり彼女が出てきたか」
「有名な人なんですよね」
「もちろん。ユーフィリア嬢がいなければ、生徒会長になっていた人、って言えばわかるかな」
「なるほど……」
どうりでさっきからユーフィリアのことを睨みつけているはずだ。顔立ちはそれなりに綺麗なのに……相当怖いんだが。
「ついでに彼女の父親はこの国でもかなり面倒くさいことで有名な公爵様でね。それはもう彼女も性格が面倒くさくてね」
「そうですか……」
「まあ、彼女がどういう人間かは分かってもらえたかな」
「ええ、よくよく……それで彼女の魔法の腕は」
「水魔法第七階位 風魔法第七階位 氷魔法第七階位 まあ、ユーフィリア嬢や君がいなければ間違いなく天才と称賛されていただろうね」
「……ということは」
「たぶん、君も恨まれているんじゃないかな」
なんだか、物騒な話を聞いた気がするな……まあ、置いておこう。さて、件の先輩の演技が始まる。
「…<狂風雪衝破>」
先輩のその言葉とともに会場の中心に高さ五メートルほどの氷の竜巻が発生した。俺のに比べると格段に破壊力が落ちる、というのは俺の方があまりにチート過ぎるのだから言わないでおこう。
「…<上昇気流>」
次いで先輩の言葉で氷の竜巻に強力な風がぶち当てられた。結果、竜巻の回転から外れた氷が砕けて上空に舞い上がる。と、思ったら一部の氷は大きな粒のまま俺達と……大半はユーフィリアに向かっていた。
「恨みってそっちの路線かよ…<風の弾丸>」
「さすがの腕だね。クライス君」
「殿下、せめて自分の周囲ぐらいには結界を張ってもらえませんか」
「大丈夫。僕の演技が終わった瞬間からハリーが僕の周りに結界を張ってるよ」
「過保護だな……って、ユーフィリアは……無事、みたいだな」
彼女はあろうことか詠唱すらせずに自身の前に既に光魔法の障壁を張っていた。顔色一つ変えないその余裕に先輩の顔色がますます赤くなっていたが……まあ事実ユーフィリアの実力なら余裕だろうから、諦めた方がいいだろう。
「さて、危険な彼女の演技も終わったね。次は……ユーフィリア嬢かな」
「そうだな……なんか、対抗して氷魔法でやりそうなんだが」
「奇遇だね。僕もそう思っていたよ」
先輩の演技が終わってからも微笑みを崩さないユーフィリアが内心でブチぎれていることを、俺達は感じ取っていた。そしてその予想は現実のものとなる。
「……<絶氷要塞> <暴風切断術>」
第十階位の氷魔法によって作りあげられた氷の要塞。それが完成すると同時にユーフィリアは<暴風切断術>で要塞を削り始めた。削った氷の粒は上空に舞い上がり、雪のようになって降ってくる。
「……さすがだな」
「本当だね。さて、完成するのは何かな」
「あの感じだと……たぶん」
「すごい。魔法の精度的に私は満点をつけたいわよ」
「ミラ先生、落ち着いてください」
審査員席でミラ先生が一人立ち上がった瞬間、氷の要塞が削り切られた。
「竜、か」
「満点」
「先生、落ち着いてくださいって。あっ、私もユーフィリアを支持します」
「これは言うまでもないでしょうな」
「……一年生側ですね」
ユーフィリアが要塞を削って作ったのはリアルな竜の彫像だった。高さ十メートル、横幅がそれと同等ぐらいの翼を広げた竜の像はとても綺麗だった。興奮して像に近寄ったミラ先生とそれを止めに入ったソフィアさんを含めてさらっと一年生側の勝利が決まってしまった。
「ふざけないでよ。まさか私が負けるわけが……キャア」
「ごめんなさい。まだ上空に雪が残っていたみたいね」
ユーフィリアが腹いせにか、上空に残しておいた雪を先輩の上に一気に降らせて、埋めてしまった。
「まあ、空気穴は作っておくから許してね」
「怖っ。それを笑顔で言うとか」
「えっ、クライス君。何か言った」
「いえ、何も……」
笑顔でさらりと言ったユーフィリア嬢が世界で一番怖いのに、なぜだか綺麗に見えました。
「それで。これで俺が出場しなくても勝利だな」
「何を言ってるんだ」
「えっ……まさか」
「記念行事なんだぞ。二勝して勝敗が決まっても三回戦をやるに決まっているじゃないか」
「……本当に」
「ええ、本当に」
よく見ると、像の周りを見て回っていたミラ先生がソフィアさんに引きずられて審査員席に戻されていた。
「それでは三回戦を行います」
司会の声に俺は大きくため息をついた。
「はあ、仕方ない。行くか」
「いってらっしゃい」
「あっ。そう言えば俺の対戦相手は」
「ああ。それなら……」
その時、殿下の言葉を後方からの爆音がかき消した。後ろを見ると、巨大な竜の像が跡形もなく水蒸気に還っていた。
「えっ……まさか、あれ」
「ああ。広域火属性魔術で何度も学園に損害を出しているバン先輩だ」
水蒸気がはれると、そこには目つきの悪い男の人が立っていた。
次回投稿は明後日です。




