第五十二話 入学式~新入生代表挨拶~
読んでくださる方ありがとうございます。
本日二話目です。制服の色はご想像にお任せします。
2017年10月22日 リリアの入学関連の矛盾点の大規模改変
「入学式かあ…」
「お兄様、何をしみじみと言っているんですか。ぼーっとしていると突き飛ばされますよ」
「はいはい。行きますよ」
王都到着から一月後。俺とリリアは再び王立魔術学院を訪れていた。今日はいよいよ入学式である。
「いや、まさか制服があるとは思ってもみなかったわ」
「普通じゃないですか。王都の学校はどこでもそうですよ。魔術学院では訓練用のローブまで統一ですからね」
「だな……で、制服のデザインがこれまた……」
「どうかしましたか、お兄様」
「いや、何でも」
制服のデザインは高等部が男女ともに前世で言うブレザータイプ。中等部は男子は学ラン、女子はセーラー服だった。
「お兄様……私の顔になにかついてますか」
「いや、何も」
しかし黒髪美少女にセーラー服はベストマッチしただろうな……ただリリアは本来なら中等部のはずだが、飛び級で高等部に進学しているので残念ながらブレザー姿である。前世で学校ではブレザーしか見たことなかったから余計にセーラー服姿の美少女を見たか……って、そんなことじゃなかった。
「リリア、この制服って誰がデザインしたか知ってるか」
「ええ、ものすごく有名ですよ。七賢者様たちです」
「……なるほど。向こうの世界とこっちの世界の時間率は同期してないから別におかしくない、か……たぶんセーラさんやラニアさんとかの女性陣が悪ノリして作ったんだろうな……」
「お兄様。本当に何をブツブツ言っているんですか」
「すまん。気にするな」
にしても次元層の狭間の魔力情報からそんなものまで作っていたとは……師匠達って、この世界にとっては本当に万能な存在だったんだな。
「お兄様。受付終了までまだ時間はありますけど、並んでますし急いだほうがいいですよ」
「分かってるよ。でも、手続きも済んでるから名前を確認して、書類貰うぐらいだろう」
「それでも早め早めがいいに決まってます」
「まあ、そうだけど……」
「じゃあ、行きましょうか」
別に俺もそれほど学校にハイテンションになっているわけではない。小・中・高・大学、そして就職先も大学である俺は学校などもはや生活の一部でしかない。ただ……なんとなく魔法学園の入学式というと、あの超有名魔法呪術学園を思い出してテンションが上がってしまっただけだ。
「……入学式か」
「お兄様……なんだか笑顔が不気味なのですが……」
「新入生の方はこちらにお願いします」
その時、受付の席から大音量が響いた。……魔法でも使ったのかな。有力候補は風魔法かな。
「お兄様、本当に行きましょうよ」
「分かってるよ」
「じゃあ、行きますよ」
そう言って二人で歩いて受付の前まで行くと、思っていたよりも列は短かった。さすがに式の開始の一時間も前に来たかいがあった。二、三人が受付を済ませた後、俺の順番になった。
「おはようございます。ご入学おめでとうございます。お名前を伺ってもよろしいですか」
「はい。クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダーです」
「クライスさん……ああ、席は講堂の最前列の一番、左端ですね」
「やけに前の位置ですね」
「ええ。あなたが新入生主席ですから」
「………えっ、すみませんもう一度」
「ですからあなたが新入生主席です」
「えっ……」
と、早速フリーズしてしまう出来事が発生しました。どういうことだ主席って、俺は何も聞いていないぞ。
「あの、主席ってなぜ」
「まず、入学試験の成績が満点だったのがあなたとグレーフィア伯爵家令嬢のユーフィリア様です。その上で、魔法実技の成績であなたが主席に決定しました」
「な、なるほど……」
「ちなみに妹さんは高等部の第四席ですよ」
「そ、そうですか……」
この学校が完全実力主義というのはどうやら本当らしいな。まさか高位の貴族令嬢よりも俺を優先するとは思わなかった。……やっぱり魔法をもう少し過少申告するか、試験で手を抜いておけばよかったな。
「というわけで、こちらが入学資料と教材になります。後、学院長挨拶と生徒会長挨拶の後で新入生代表挨拶がありますので、その内容も考えておいてくださいね」
「えっと、それを僕がやるんですか」
「もちろんですよ。毎年中高等部合同入学式は高等部主席が生徒代表挨拶をするのが習わしです」
「ああ、そうなんですか………」
これは面倒くさいことになったな……生徒代表挨拶か……適当に練るにしても時間かかるぞ、これは。
「お兄様。早めに来ておいて正解でしたね」
「だな……」
「それでは会場内でゆっくり待っていますので。挨拶、楽しみにしていますね」
「ああ……」
こうして俺は意気消沈しながら、入学式開始までの一時間を挨拶の草案練りで潰すこととなった。
「ええっと、こっからのつなぎをどうするかな……」
「ご機嫌よう。クライス君、リリアさん」
「えっ……ユーフィリアさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです。ユーフィリア様」
「ええ、お久しぶり。そしてクライス君、主席おめでとう」
四十分ほど話す内容を考えていた時だった。俺の横からユーフィリア嬢が声をかけてきた。……なんか気まずいな。
「……なんか、すみません。主席を奪うような真似をしてしまって……」
「構わないわよ。結局、壇上で挨拶はしなければならないから」
「えっ、なぜですか」
「私がこの学校の高等部生徒会長なの」
「……一年生で生徒会長って可能なんですか」
「システム上は、ね」
そりゃあ、どこの世界でも選挙年齢に達していれば選挙に出ることは可能だろうが……というか、入学式から生徒会長ということは中等部の頃に選挙に出たってことか。
「なんか、本当にすみません」
「気にしないでちょうだい。第一あなたが実力で勝ち取ったものなのだからむしろ堂々としておいて。負けた私までみじめになるから」
「はい。分かりました」
「さて、これでいいかしら」
「ええ」
「じゃあ私は隣の席に座っているけど、落ち着いて挨拶の内容を考えて構わないわよ」
「すみません」
「ふふ、まあ私も緊張するから、隣にここまで緊張した人がいるのは楽なんだけどね。……今の会話は気にしないように」
最後に素で話してくれたユーフィリア嬢の言葉で少し楽になった。さて、これで落ち着いて考えられ……
「ふふふ、初めてユフィが楽しそうに男性と喋っているのを見たわ。ということはあなたがユフィの想い人かしら」
「ちょ、ちょっとやめてよソフィア」
「こんな場でそこまで素になっていいのかしらねえ」
「うっ……クライス君。気にしないでくださいね」
そこに今度は青い髪の眼鏡美少女が現れた。話しぶり的にユーフィリアの友人のようだが……
「ごめんなさいね、クライス君。私の名前はソフィア・フォン・フローズ。フローズ子爵家の長女よ」
「フローズ子爵って……確か商務大臣の」
「確かリリアさんだったわよね。ええ、そのフローズ家の認識で間違いないわ。ユーフィリアの友人で一応、学年五席よ」
「わ、私の……なんかすみません」
「いいのよ。それより系統的にかぶる魔法もあるから、いろいろと教えて頂戴ね」
「は、はい是非」
「ふふ、ありがとう」
相当押しの強そうな人だなあ。にしても実務能力だけで子爵にして大臣職に上り詰めたフローズ子爵の娘か……ユーフィリアもそうだが、この子もかなりできそうな子だなあ……
「まあ、細かい話を聞くのはまた今度にしておくわ。今はあなたが大変そうだから。……頑張ってね首席さん」
「は、はあ」
「もう、本当に止めてよ、ソフィア」
「両手に花とは朝からいいねえ……クライス君」
「もう、この忙しいときに今度はいったい誰が……えっ、レオン王子……」
「この間言い忘れたね。私も高等部新入生でね」
「リリアさんが四席で殿下が三席よ」
「は、はあ……」
ちくしょう。なんで、こんなに知り合いまみれなんだよ。俺が王都に来てから出会った人物なんて、行った店の人たちを除けば本当に少ないはずだぞ。それなのになんでこんなことに……キャラが濃すぎないか……
「殿下。すみませんが歓談は後にさせてください」
「分かっているよ。今は挨拶を考えるので手一杯なのだろう」
「分かっていただけて何よりです……」
幸いなことに全員が俺の挨拶文づくりに協力的なのは救いだ。これでなんとか……
「新入生の皆様、ご歓談の皆様。まもなく王立魔術学院中等部・高等部合同入学式典を執り行います。恐れ入りますが、速やかに受付で確認された席にお座りください」
無情なアナウンスが鳴り響いた。
「クライス君……頑張ってくれ」
「ええ……」
入学式開始に向けて騒がしくなっていく場内で、俺はひたすら原稿を組み立てることとなった。
「………みなさんが、この学院で多くの学びの機会を得て、またここで学んだ知識を生かして進んでいけるよう教員一同努めていきたいと考えております。では改めましてみなさん入学おめでとう。学院長ガルディア・へブラート」
入学式のプログラムはあっという間に進み、長い校長先生の演説も終わってしまった。次のユーフィリアの生徒会長挨拶が終われば、その次は俺の挨拶だ。頭の中で組み上げた演説文を必死に記憶に叩き込む。
「生徒会長挨拶」
「はい……クライス君、行ってくるわね」
「はい……」
余裕のない俺に一言声をかけてから、ゆっくりとユーフィリア嬢は檀上へと進んでいった。短いスカートから絶妙に見えそうで見えないあたりが想像力を誘われる……なんて、言っている場合じゃないな。
「みなさん。まずは新入生である私が生徒会長であるため、変則的な挨拶になることをお許しください」
確かに考えてみればそうなんだよな。というか俺とネタがかぶるから本気で止めて欲しいよな。
「さて春の息吹が感じられる今日この日に私たちはこの学院に入学します。まずはお忙しい中、ご臨席を賜りました来賓の皆様、ありがとうございます。そしてこれから先、私たちを心身両面で指導してくださる先生方、今後の学校生活どうぞよろしくお願いいたします」
どうしよう。日本での生徒挨拶の定番的なこと言われて、もう用意していた原稿の大半が使えないんだが。
「きっとこれからからの生活ではきっと様々なことがあるでしょう。もちろん学友たちと得る素晴らしい経験も数多くあることでしょうが、挫折や失敗もあることと思います。それでも支え合って全員で進むことが私達にはできると思います」
うん、もういいや。こうなればどうにか文章ひねり出してやろう。
「これから先の学校での経験で勉強や寮生活、そして健全な友人関係や……恋愛にも少し興味を持ちつつ、素敵な学校生活を送ってください。以上で生徒会長のあいさつとさせていただきます。生徒会長ユーフィリア・フォルト・フォン・グレーフィア」
会場は拍手喝采に包まれた。俺も拍手したよ、もちろん。とてもよかったもの。と、壇上を降りてこちらに戻ってきたユーフィリア嬢が薄く微笑んで囁いた。
「さあ、これ以上の演説を頑張ってくださいね」
はめられた。これ、絶対に主席を取られたことを根に持ってるよね。くそっ、やるだけやってやる。
「新入生代表挨拶」
「やるだけやりますよ」
「フフ、頑張ってね」
そのまま俺は檀上へと上がった。そして周りを見渡していった。
「みなさん。まずは僕のような新参者がここに立っていることに関して、疑問があるかと思いますのでご説明させていただきましょう。僕が入学試験で満点を取れて、九属性全てを第九階位まで使えるからです」
会場がどよめいた。当たり前だな。だが、もう俺は止まる気はない。
「その両方とも、僕の師匠のおかげです。師匠の名前は諸事情で公開できませんが……さて、僕の主席理由はもうお話ししました。ここからが新入生代表挨拶です。僕たちはこの学校に魔術を学ぶためにやってきました。それは誰一人として例外ではないと思います。なら、精一杯魔術を学びましょう。それ以外に僕が言えることはありません。以上です」
そう言い切った瞬間に、会場の真上に霧を展開し、虹を映した。
「これで僕のすべての演出を終了させていただきます。……新入生代表クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダー」
だが、俺のやけくその大音量とは裏腹に会場は静まり返ったままだ……やらかした、かな。
次回更新予定は明後日です。




