第五十一話 第一王子との出会い
読んでくださる方ありがとうございます。
本日は二本投稿です。二本目は二時間後に投稿します。
「それで、話というのは」
「まずは……父王の言動で不快にさせてすまなかった」
「それは構わないよ。こちらもこちらで反撃してるしな」
「そうか……」
王子に案内された王子の私室は至ってこじんまりとした書斎のような場所だった。王の言動に関して謝られてたが、別にある程度は予測していたことだし、正直言って怒ってすらいない。
「一応言っておくと、国王を含めてあそこにいた面々は隠密四人を含めて全員を眠らせた上で記憶を改ざんしてある」
「本当に凄腕の魔術師のようだね。やはり僕のお抱えの判断は正しかったか」
「殿下。さすがにこのレベルの魔術師を見て、力量を見破れないようであれば上級魔術師は名乗れませんよ」
「そうか。ジャンヌ、お茶を用意してくれるかい」
「もう既に用意してあります。どうぞ」
「さすがの手際だね。クライス君、毒は入っていないから安心して飲んでくれ」
「どうも」
そう言いながらも、俺は騎士鎧の女性が俺と王子の前に置いてくれたお茶に水魔法の<毒物鑑定>をそれとなくかけさせてもらってから、俺はそれに口を付けた。
「おいしいお茶ですね」
「ああ。これでも王室御用達のいい茶葉だからね。まあ、父は味の良さなんて分からないみたいだけど」
「そうか……」
「それで今、魔法を使ったよね。<毒物鑑定>かな」
「……よく分かったな」
「僕にはさっぱりだよ。このお茶の効果がなければね」
「本当だ……色が変わってるな」
「このお茶には魔石の粉末が含まれていてね。魔術を行使すると、色が変わるんだ」
魔石のように魔力を発するものがあったというのに、魔術を使ってしまうとはまだまだ俺も経験不足だな。まあ、気づかなかったのは王子のお抱え魔術師が隠蔽魔術ぐらいはかけていたからだろうが。
「私にも全く分かりませんでしたよ」
「ハリーでも無理か」
「私は魔力が揺らいだことには気づけましたが……ほとんど変化がないレベルですね」
「それぐらいじゃなきゃ、魔人を倒すには至らないからな」
「そうか……さて、そろそろ本題に移らさせてもらおうかな」
レオン王子は目をこちらに見据えると、ゆっくりと話し始めた。
「……君は王国に残るつもりがあるかい」
「基本的にはね。この国に家族もいるし…探している人もいそうだからな」
「そうか。まずはホッとしたよ」
「どういう意味でだ」
「この国の戦力では今後、魔人が襲撃してきたとしても撃退できないからね。……可能性があるとしたらグレーフィア伯爵令嬢ぐらいかな」
「どういった理論でその答えを出した」
王子の戦力分析は俺の考えたものとほぼ同一だ。となると、それ相応の魔力知識の専門家でなければ出せる答えではないということだ。
「もちろん、僕の考えではないよ。考えたのは僕のお抱え魔術師のハリーだよ」
「なるほど……第八階級の魔術師か。第九階位に片足突っ込んでるレベルだな」
「魔力隠蔽をしていて、そこまで当てるとはさすがだね」
「それで、推量の根拠は」
「僕が遠目で見た感じの魔人の魔力量と速度。それを踏まえると、かなりの魔力持ちで、なおかつ相当な威力の身体能力強化を使える魔術師でないと太刀打ちできないと思った」
眼鏡の魔術師ハリーが語った推量はほぼ俺と同じだ。俺も同様の解を出したわけだが……一つ足りないことがある。
「別に速度に対応しようとしなくても、高威力の広範囲火力魔法で吹き飛ばすという手もあるぞ」
「奴らを一瞬で焼けるほどの火力なんて、それこそ超越級魔法が必要だよ……まさか、使えるの」
「……さあ、どうだか」
「その口ぶりだと使えそうだけど……まあ、追及は止めておこう。有能な人材に逃げられても困るしね」
こう言った判断ができるのなら、確実にあの国王より人格者であることは間違いないようだ。あの国王なら俺にその魔法を全て公開して、王の盾となれぐらいはいいそうだしな。
「さて、それでこの国で唯一魔人に対抗しうるのは君ぐらいだと思うのだが……君は知っているのか、魔人とは何かを」
「魔人とは世界の外側の負の魔力エネルギーによって構成された疑似生命体」
「負の魔力エネルギーによる疑似生命体……」
「つまり、魔力の塊ということですか」
「その認識で問題ない」
「なるほど。……つまり自然災害的な事象だと考えても」
「まあ、世界のシステム上起こりうることだからそうとも言えるかな」
三人の理解している形はとりあえず基礎的な理解の方向性としては間違っていない。まあ、三人を完全に信用できるか分からない以上、魔神についてまでは話すわけにはいかないのでこれで十分なんだけども。
「それで、本題の続きは」
「ああ、そうだったね。君がこの国に残ってくれるとして……この国をどう思う」
「正直に言おうか。腐ってるな。腐敗政治ここに極まれりだ」
「だよね。で、そこでお願いしたいんだけど……」
王子が語った発言はとてつもなく衝撃的であり、同時に予測していたものでもあった。
「僕のクーデターに協力してくれないか」
「規模は?」
「現国王の腐敗態勢に手を貸している貴族、大商家の当主すべての更迭、場合によっては病死や廃摘も視野に入れてるかな」
「なるほど。国王自身は」
「無論処刑」
「実の父親相手にそこまで言えたもんだなあ」
「父だと思ってないからね。向こうも僕のことを、老後もいい生活をさせてくれる物だとしか考えていないから」
「なるほど…」
あの国王の処刑に関しては賛成だ。盗賊団の件もそうだが、被害にあっている連中は重税に苦しむ王都の民を除いても四桁は下るまい。
「処刑は賛成だよ。王子がまともな善政を敷くというのであれば、決して反対派には回らない」
「じゃあ……」
「ただ、クーデターに参加するかどうかは話が別だ」
「……どういう意味でだい」
「現状、俺が手を出すメリットがない。確かに火力で相手を牽制することならできるだろうが、そっちのお抱え魔術師一人で魔法的火力は十分だろう。そっちの女騎士さんも相当な腕がありそうだし」
「そうなんだけどねえ……でも、君がこちら側につくというのならそちらの関係者にも僕の手で保護させてもらうよ」
「それこそ不要だな。俺が守り切れないわけがないだろ」
「はあ……交渉決裂かあ」
王子は残念そうな顔をしているが、別に何度も言っているように協力しないとは言っていないんだが……
「あのなあ、別に協力しないとは言っていないからな」
「えっ……どういう意味だい」
「作戦決行前に俺が必要だと誘ってくれて、それが俺にとって納得できるものであればもちろん参加する」
「……本当に」
「ああ。自分にメリットがないから参加したくないのであって、そうじゃないなら話は別だ」
「つまり……交渉成立ってことかい」
「ある意味な」
その途端に王子は笑顔になった。
「いやあ、良かったよ。これで安泰だ」
「どういう意味ですか」
「殿下はあなたがどちらの派閥にもつかないと言ったように聞こえたのですよ。普通に聞いていれば、殿下側につくと言っているようにしか聞こえないのですが……殿下は臆病な方なもので」
「失礼なことを言うな、ハリー」
「ええ、失礼しましたよ」
「おい、緊張が解けたからって客の前でしていい態度か、それ」
「そうだね……まあ、直にそれが当たり前になるだろうから気にしないでくれ」
「はあ。まあ、いいか」
俺は後に、と言ってもほんの数日後にその言葉の真意を知り、頭を抱えることになるのだが……もちろんその時の俺は全くもって知る由もなかった。
「さてと、くれぐれもこの出口の存在と場所は秘密にしてくれよ」
「それを公開して、騒動に巻き込まれるなんてまっぴらごめんだからな。もちろん非公開にしとくよ。なんなら自身の精神魔法で記憶を改ざんしてもいい」
「ははは。まあ、そこまでする必要はないかな」
それから一時間後。しばらく談笑していた俺達だったが俺がそろそろ帰ると言うと、レオン王子が自身の秘密通路を抜けた方が問題が少ないと言われ、目隠しをされてから現在は地下通路を歩いている状態だ。
「そうか……それで、クーデターはいつやる気なんだ」
「それに関しては時期が来れば、としか言えないね」
「まあ、そうなるよな」
「分かってくれているようで何よりだよ」
「殿下。そろそろですが」
「分かっているよ。クライス君、少し耳を塞いでいてくれるかい」
「了解」
しばらく渡された耳栓で耳を塞いでいると通路の先の何かのギミックを動かしたのか、しばらく振動が続いてから止まった。そのまま誰かに手を引かれるようにして階段を上り始めた。そこを抜けて、しばらく左右に曲がったところで足が止まり、そっと耳栓と目隠しが外された。
「……ここは」
「地下通路を出てからしばらく言った先の裏路地。治安が悪いし、結構危険だけど君なら大丈夫だろうと思ってね」
「まあ問題はないけど……とりあえず、ありがとう」
「秘密通路を通したことに関しては、僕も君との関係性がばれたくなかったから問題ないよ」
「そうか。じゃあ、そういうことならそろそろ別れた方がいいかな」
「そうだね、助かるよ。それじゃあ、また機会があれば」
「ああ、またな」
「ああ、クライスさん。路地はこちらの方向に進めば大通りに出ますから」
「ありがとうございますジャンヌさん」
そのまま三人と別れて、ジャンヌさんの教えてくれた方向通りに進むと、五分ほどで大通りにたどり着いた。
「いやあ、久しぶりに窮屈な場所から解放されたな……で、ここはどこなんだろうか」
王城の角度的に王都の西側と言うのは判別できたのだが……まあ、中心に向かって進めば子爵邸には戻れるし、最悪は<座標転移>を使えばいいのだが。
「さて、ひとまずはのんびり歩いて帰りますか……」
「お兄様、ご無事ですか」
「リリアか。一体どうした、そんなに血相変えて」
と、のんびりと歩き出そうとした瞬間、真横に転移でリリアが現れた。
「どうしたもこうしたも、お兄様が王城に連れ去られてからもう四時間ですよ。その途中に王城内で大規模な魔法を行使した感じの魔力を感じ取れましたし、その後、お兄様の魔力が消失しますし……」
「ああ……やっぱりあの部屋と地下通路は魔力隠蔽がかかっていたか……そりゃあ、隠蔽している俺の魔力なんて絶対に感知できるわけないよな」
「どういうことですか。魔力隠蔽された場所って」
「まあ、いろいろと密約等があるせいで話せないんだけどね……」
「密約……お兄様のことですから怪しい取引に騙されるようなことはないと思いますけど……」
どうやらリリア達には心配をかけていたようだな。まあ、当然か。いきなり連れ去られてから四時間も音信不通だったんだからな。
「ともかく体は健康体だし、いろいろあったけど何事もなかったことになっているから」
「それって何かやったけど魔法で誤魔化したってことですか」
「おお、するどいな。その通りだよ」
「いや……誰でも分かると思うんですけど」
「だよなあ……」
「まあ無事ならいいですけど……それより早く帰りましょうか」
「そうだな。俺も昼食抜かれたからお腹減ってるし」
「私たちはカフェでおいしい昼食をいただきましたよ」
「いいなあ……」
リリアと夕暮れの道を歩きながら、俺はできればクーデターになんて巻き込まれたくないなあと、ものすごく楽観的な思いを描いていた。
読んでくださってありがとうございます。




