第四十九話 過剰能力は疑われやすい
読んでくださる方ありがとうございます。
また5000ユニーク突破しました。本当にありがとうございます。
更新休んでしまいましたので、今日は二本は投稿しようと思います。
2017年10月22日 リリア入学に関する修正並びにクライス・リリアの魔力階位矛盾点の修正。
「いくらお姉さんの心が広いといっても……さすがに限度があるわよ」
「いや、本当なんですって」
「詐欺もそれぐらいにしないと。ほら、初級でも怒らないし、入学不許可にもならないから言ってごらん」
「だから信じてくださいって」
「はあ……お兄様。だから私、自重してくださいって言いましたよね」
俺はかれこれ三十分も不毛な争いを続けていた。一体なぜこうなったのか、話は二時間前にさかのぼる。
王都の魔人事件から三日後、俺とリリアは王立魔術学院を訪れていた。もちろん目的は入学手続きのためだ。この前日に既に王都での戸籍というか市民証は取得したので、このデータをもとに登録を行ってくれるはずなのだが……
「お兄様。そんなに心配しなくてもほぼ問題はないですから」
「いや、分かってるよ。子爵領立学園中等部の卒業認定もあるし、魔法の実力は論外だからな」
「じゃあ、何を心配されてるんですか」
「いやあ……やっぱり入学試験と聞くと心配しちゃってね」
これは前世からの癖なので仕方ない。試験前になると細かいことが気になって仕方のないタイプで、それで試験の点数を落としたこともしばしばというのは笑えない話だ。
「よく分かりませんけど……お兄様らしい気はします」
「そうか……」
「クライス様とリリア様でよろしいでしょうか」
「はい、私たちのことですが」
「校内でお会いしたら、事務室に案内するようにとお聞きしておりますが……」
「分かりました。お願いします」
学校の教員制服を着た人が、俺達を入学手続きの会場に連れて行ってくれた。こういうところは先に連絡しておいて正解だったな。
「お二人の魔術の腕はかなりのものだとお聞きしております。お二人と授業で出会えるのが楽しみですよ」
「ありがとうございます。それで、先生の担当魔術は」
「主に水魔術の治癒を専門にしています」
「そうですか。僕も妹も使えますから、会う機会もあるかもしれませんね」
「それはそれは……さて、着きましたね」
初老の優しそうな先生と談笑しているとあっという間に部屋に到着した。ほんとに助かったな。
「ありがとうございました」
「いえいえ、案内しただけですから。それでは」
そう言ってその先生が去っていったのを確認してから、俺はゆっくりと事務室の扉をたたいた。
「失礼します。入学手続きを受けに来たクライス・フォン・ヴェルディド・フィールダーです」
「リリア・フォン・ヴェルディド・フィールダーです」
「ああ、お二人ですか。どうぞお入りください」
中から聞こえてきた女性の声にそっとドアを開けると、中から魔術の光が見えた。……瞬間、<水の弾丸>が飛んできた。
「…<大地障壁> 何なんですかいきなり」
「お兄様、もう一発きます…<風の弾丸>」
「一体何をするんですか」
「一次試験は合格よ」
「はい」
その時、再び中から声が聞こえて扉が開いて女性が出てきた。
「一次試験って、どういうことですか」
「うちの入学試験は厳しいの。そこに高等部から編入したいというのなら、それ相応の実力を見せてもらわないと」
「なるほど……」
「というのは嘘なのだけどね。私がただあなた方の実力を見たかっただけよ」
「……そうですか」
「ごめんなさいね、クライス君、リリアさん」
ローブ姿の女性は悪びれもせず、試験なんて嘘っぱちだといってしまった。……なんか、師匠と似た雰囲気を感じるな。
「私の名前はエマ・ローレンス。専門は攻撃魔法で、特待生クラスの担任もやってるわ」
「そうですか……」
「ちなみに魔力階位は第八位よ」
「……そんな人がなぜ、王宮魔術師をやってないんですか」
「教える方が好きだからよ」
「そんな無茶なものが通るんですね……」
「高位魔術師なんてそんなものよ。じゃあ、私はこのへんで。後は事務員の方に任せるわ……<転移>」
そしてエマ先生はあっという間に消え去ってしまった。
「なんだったんだ、いったい……」
「ごめんなさいね。あんなことは普通はないから、安心して。さてクライス君とリリアさんよね。市民証はあるかしら」
「はい持ってます」
「そう、じゃあまずは入学試験を受けてもらうわ。筆記テストね。制限時間は一時間よ」
そう言いながら、渡された試験用紙を持って促されるままに席についた。……勉強、全くしてないんだが。
「じゃあ、始めてください」
ひとまず開いてみると、さすがにこの世界の高校の入試問題。正直言って日本の中学生なら誰でも解ける程度の問題しかない。数学の項目に至ってはたまに小学生レベルも見かける。とはいえ、魔法文化が発展していて、それなりに社会も発達しているので実は高等数学もないわけではなかったりする。
「終了です。さあ、できたかしら」
「たぶん、何とかなってますよ」
「私も……」
「そう。まあ、かなりハイレベルな問題だったから厳しいかもしれないけど。……とりあえず、採点が終わるまでは入学手続き書にさっきの市民証の内容を書き写していってくれるかしら。一部、関係のない項目もあるけど、全て埋めてね」
「分かりました」
そう言って渡された入学手続き書の項目は氏名や保護者名、現居住地の住所、卒業した学校等々、よく見る項目が並んでいた。
「ええっと、ここら辺はすぐに埋まるな」
「お兄様、王都屋敷の住所でいいんですよね」
「ああ。俺たちの現住所という意味ではな」
「分かりました。……後、お兄様」
「なんだい」
リリアが書類の一点を指さして、怪訝そうな顔で聞いてきた。
「この「自身の魔力階位と使用属性階位」って、正直に書かれるつもりですか」
「もちろん。公式書類に嘘を書いても仕方ないじゃないか」
「いや、せめて上級までにして、使用属性も絞りましょうよ」
「……なんかの拍子に使っちゃったらどうするんだよ」
「あっ、お兄様の心配している部分はそこなんですね」
仮に嘘を言ったとしても俺の実力なら、あまり公開したくない所もあったと言い訳が通るだろうが……ややこしいのは先に済ませておこう。
「まあ、お兄様はそれでいいのなら私はいいですけど」
「だろ。じゃあ、さっさと書いてくつろがせてもらいますか」
そう言って俺はペンを手に持つと、書く量に対して圧倒的に狭い欄に自身の使用属性を書き込み始めた。ちなみにリリアにはああ言ったが、さすがに物理魔法と自作魔法は除外したよ。さすがに騒ぎどころじゃすまなそうだし……
「二人とも、おめでとう」
「満点ですか」
「その通りよ。……編入試験扱いだったから相当問題の難易度は高いはずなんだけどね」
三十分ほどして、試験の採点が終わった事務員のお姉さんが戻ってきた。まあ、そりゃあ満点だろうけどさ。リリアも満点なのはさすがだよなあ。
「ということは入学は」
「もちろん合格よ。じゃあ、書類を見せてもらえるかしら」
「どうぞ」
「どうぞ。お兄様、どうなっても知りませんからね」
「大丈夫だよ。きっと」
そのまま書類を確認していた事務員さんはとあるところで目線を止めた。
「リリアさん、魔力量が第九階位、光魔法、水魔法、風魔法が第九階位というのは本当に……」
「ええ、事実です。お兄様にずいぶん鍛えていただきましたから」
「さすがに信じがたいのだけど……こんなの王宮筆頭魔導士様と学院長と後はローレンス先生ぐらいのものよ」
「本当なんですけどね……」
「まあ、いいわ。それでお兄様は……これ正気かしら」
「ええ。全て本気です」
その言葉に事務員のお姉さんは叫んだ。
「誰が全属性第十二階位なんて言葉を信じるのよ」
こうして俺と事務員さんの不毛な争いが始まったのだった。
「信じて……いただけないんですね」
「さすがにね。これを信じろというには無理があるのよ」
「じゃあ、実際に確認してくださいよ」
「……こんな嘘みたいな情報、信じたくもないけど……まあ、手続き上は仕方ないか」
「話は聞かせてもらったわ」
「うおう、ローレンス先生。……一体いつからいたんですか」
「ついさっきからよ」
三十分の不毛な争いの末、何とか事務員さんも落ち着いてくれた。そこにローレンス先生が現れた。
「それで何の御用ですか」
「決まってるじゃない。あなたたちが本当に超越級魔法を使えるのかは、使える人間と学院や王家の上層部以外は判別できないわ」
「つまり先生が判定してくださると」
「そういうことね。まあ、一度超越級魔法を見てみたいというのもあるけど。こんな機会でもなければ超越級攻撃魔法なんて見られないしね」
「なるほど」
興味本位兼審査名目と言う訳ならぜひ協力してもらおう。
「じゃあ、お願いします」
「ええ、いいわよねカレン」
「まあ、あなたがいいというのなら」
「きまりね。じゃあまずは修練場に移動して、リリアちゃんから見させてもらおうかしら」
「お願いします」
そのままローレンス先生に案内されるまま、俺とリリアと事務員のカレンさんが連れられたのは結界が張られた巨大なグラウンドだった。
「ここ、ですか」
「ええ。ここなら大丈夫よ。じゃあリリアちゃん。まずは光魔術の第八階位からお願いできるかしら」
「はい…でも、どうやって……」
「ああ、こうするわ。クライス君、ちょっと腕を出して」
「えっ。こう、ですか」
「そうよ。動かさないでね…<爆炎弾>」
リリアがどうやって魔法を使えばいいのかと聞くと、俺の出した腕に向かってローレンス先生は<爆炎弾>を撃ち込んだ。その威力によって俺の腕は一瞬にして消滅した。
「うあああああああ……な、何するんすか。腕が、腕が消滅したんですが」
「それでいいわ。リリアちゃん」
「は、はい…<肉体再生>」
「うう、治った……」
リリアが使った光魔術第八階位<肉体再生>は四肢や内臓などをその人が生きてさえいれば再生できる最高位の治癒魔術である。それを実演させるためとはいえ、無茶させるなあ。
「死ぬかと思ったんですが」
「ごめんなさいね。じゃあ、次は水の第九階位」
「絶対あやまる気ないでしょう」
「…<大海衝>」
水の第九階位魔術<大海衝>によって周りの人たちが逃げ惑う。……なんか申し訳ないな。
「いいわね。じゃあ最後に風の第八階位を私たちの周囲に張ってちょうだい」
「はい……<風神障壁>……よろしいですか」
「ええ。完璧よ。さすがに光と風の第九階位はここで撃たせるわけにはいかないのよ。あなたが危険だからね」
「そんな……まさか本当だったなんて。すみません」
「いえ、信じられなくても当然のことですから」
リリアは無事、全ての魔術を成功させた。さてと、後は俺か。
「それでローレンス先生、僕はどうすれば」
「ええ。さてと、さっきはああ言ったけど……さすがに超越級魔法の様な危険なものを学院内で撃たせるわけにもいかないし……そもそもそんな機密魔法を一般生徒の前で撃つのもどうかと思うし……そうだわ、クライス君。全階位の第九階位魔術を同時に放てるかしら」
少し悩んでからローレンス先生が言った言葉はかなり狂った提案だった。それに当然のようにカレンさんが言葉を返した。
「そ、そんなもの無理に決まってます。九種の魔術同時行使で、ましてや第九階位なんて」
「別にそこはいいんですよ……それよりさっきのリリアへの発言的に、俺なら事故を起こしても良いという風に聞こえるんですが」
「でも、あなたなら問題なくできるでしょう」
「まあ、お安い御用ですけど……」
「はあ……そんな、ありえないです」
「まあ、それがお兄様ですから」
カレンさんは信じられていないようだが、エマ先生はまるで俺ができると分かっていたような顔だ。
「それにしても、よく僕ができると思いましたね」
「あら、これでも上級魔術師よ。相手の力量程度見れなくてどうするのよ」
「なるほど。隠蔽してない魔力量だけでもあたりを付けられましたか」
「そうね。まあ最初は超越級魔術師なんて本当にいるとは思わなかったけど」
「そうですか……」
「まあ、そういう話は後にしましょう。それじゃあ、お願いするわね」
「了解です……<神炎空間創造> <大海衝> <惑星崩壊> <神撃の旋風> <神槍> <絶対零度> <電子光波領域> <流星群> <滅魂>」
爆炎が空間を焼き焦がし原子の塵すら消失した空間を、炎ごと膨大な水の奔流が押し流す。削り取られた地面は奥底から振動し、マグマを噴き上げる。それを風が抉り取っていく。そこに上空から光の槍が突き刺し、爆裂する空間を魔力によって強引に凍てつかせる。そこを電磁力の波が砕きつくし、とどめとばかりに流星群が降り注ぐ。最後に魔力によって作られた何もかもが<滅魂>よって消え去り、辺りは静寂に包まれた。
「ううっ。さすがに魔力使いすぎたな」
「これが、お兄様の全力の一端……まるで天変地異ですね」
「ほ、本当に第九階位魔術……なの。なによ、あれ。世界の終わりかと思った」
「第九階位。破壊力が素敵ね。もう一度ダイジェストで見たい気分だわ」
「無茶言わないでください」
「分かってるわよ。あっ、もちろんさっきの記述に文句はないわよ。あれだけの数の第九階位魔術をあれだけ制御できて魔力量が底知れないんだからね。これ以上虚言を張る必要はないでしょう」
「それはどうも。あっ、くれぐれもさっきの書類の内容は内密に。あくまで全属性第九階位の魔術師ということで」
「了解……まあ、それでも十分に異常だとは思うけど」
そんなこんなで俺の魔力階位詐称疑惑はなくなったものの、たかが入学手続きにものすごく疲れることとなってしまった。
二本目は二時間後です。




