現代編 水輝side ~研究開始しかし前途多難~
さて、詩帆sideとはうって変わって現代編です。
こちらも本編にいずれは関わっていきますので、のんびり書いていきましょうか。
後、十分後に登場人物紹介3を投稿します。
「須川君、君が湊崎准教授の全研究を継承するというのは准教授の意思でもあるから認めよう」
「はあ……」
「ただ、それならば全研究成果をこちらに報告してくれ。そうでないのなら、その研究成果はしかるべき対応として大学側で管理させてもらう」
「いや、それはないでしょう。研究成果というものは大学が准教授に出資していたというだけで取り上げられるものではありません。あれは准教授の著作物である以上、その成果の譲渡は彼の意思にのっとるべきです」
湊崎准教授の葬儀から一月後。警察の捜査も完全に終了し、事件性もなさそうなことから全ての物品が返却され俺に譲渡される運びとなった。だが、そんな俺は大学の監査委員会に呼び出されていた。
「確かに君の言う通りだ。准教授が生きていた頃まではそれで構わんよ。ただ、問題は君が湊崎准教授ではないという点だ」
「どういうことですか」
「彼は研究の大半を秘匿しながらも、活動できたのには訳がある。まずは表向きの理由としては彼の知名度の高さと功績の大きさ」
「……表向きには、どういうことですか」
あれ、普通の監査かと思ったら……どうも雰囲気がおかしいぞ。
「最初の内は、それでよかったんだよ」
「はあ」
「ただ、あの男は妻が余命宣告を受けてから、壊れたんだよ」
「えっ……それはどうゆう」
「私たちをゆすってまで予算を取っていたんだ。彼がどう手を回したかは知らないが、最終的には文科省筋からも圧力がかかっていたんだぞ」
「は、はあ」
「しかもあの男は私たちの密会事情から行きつけの風俗まで調べていたんだぞ」
「ああ、予算を出さなかったら大学と家族に報告するとの脅し付きでな」
「……いや、それについてはあんたらの自業自得だろうが」
「君、口を慎みたまえ。ここがどこだか分かっているのかな」
「……先に愚痴りだしたのは、あんたらだろうがよ……」
あまりの理不尽な話に、一瞬キレかけたが理事会の面々のあまりの体たらくに逆に頭が冷えた。
「それで…公開する気はあるのかね」
「……止むを得ませんね。……分かりました、外部公開はもちろん、しませんよね」
「当たり前だ」
「では……これを」
俺は渋々といった感じで、前の席にUSBを置いた。
「これに研究データが入っているのかね」
「ええ。これはもしもの時のために僕が持たされていたものです。が、内容自体は湊崎准教授のものと全く同じです。もっとも准教授のものは王水の中に投げ込まれていたのでデータの復旧は不可能でしょうが」
「……そうか。分かった」
「それに関してはコピーを取ってあるので、どうぞご自由にお使いください」
「ふむ。君は湊崎准教授と違って話が分かるようだな。……故人を悪く言うつもりはないがな」
「そうですか、では」
そう言って、俺は会議室を後にした。
「プハア……本当にどうなることかと思ったよ」
「まあ結果的には理事会の方々はいまだに湊崎准教授の手のひらの上という訳ですか……災難ですね」
「そうだけど……半分ぐらいは自業自得だろうしな」
「それもそうですね。あっ、お茶でも飲みますか」
「ああ、お願い」
五分後。無事に旧湊崎研究室に戻ってきた俺は星川と、作戦の成功についてダラダラと喋っていた。もちろん作戦は俺が立てたという訳ではなく、湊崎准教授の遺書にあったものだ。
「まったく、あの人が大学理事会はしつこく研究成果を渡せと言ってくるだろうから同封してあるダミーのUSBを常に持っておくようにして、自分の本物のバックアップ用USBは研究所の隠し金庫に入れとけってそういうことかよ」
「みたいですね……まさか、そこまでしていたとは驚きです」
「そうだな。……しかし、あれだけメディアへの露出が多くてよく外部に漏れなかったよな」
「さっきの理事会の人の話を聞く限り、おそらく完成後に軍事情報を流すとでも囁いて、政府筋から圧力をかけさせたんじゃないですか」
「……あの人は裏組織の幹部か何かかよ……」
湊崎准教授は呆れるほどの数の防衛線を張って、自身の研究と詩帆従姉の命を守ろうとしていたようだ。しかも最重要の研究成果に至っては自身で秘匿していた上に、裏では暗躍していたとか……本当に無茶苦茶だろう。
「まあ、准教授の過去の話は置いておきましょう」
「そうだな……さて、そろそろ<次元間量子データアクセス解析装置>の復元と、中心基盤の読出しを始めようか」
「そうしたいところですけど……今はやめた方がいいかもしれません」
「どういう意味だ」
「まだ大学側はおろか、自他国の政府間諜、さらには別研究機関のスパイが残っていてもおかしくないんです。一応湊崎准教授が実験装置のために、この研究室には入念にジャミングを仕掛けているので、この部屋の周辺では携帯の通話はおろか、かなりの強さの電波であってもレーダーから何から無効にしているようですが……」
「ちょっと待って。何で知ってるんだ」
「そんなの、最初に来た時にスマホの全通信が無効になったので、その後からいろんな通信端末持ち込んで、調べたんですよ」
彼女からの衝撃発言に俺は一つ思い当たることがあった。
「そういえば、星川が来た日の翌日ってよく湊崎准教授が徹夜で居残ってたけど……まさか」
「たぶん、私の持ち込んだ電子機器のせいで次元間の量子データが乱されて、アクセスできなかったんでしょうね」
「迷惑な話だなあ……まあ、今となってはそれもまたスパイ対策になっていたということで良しとしようか」
「そう思ってくださいよ、先輩」
「はいはい……じゃあ、今日のところは監査も終わったことだし。ひとまず部屋の整理でもして帰ろうか」
「ですね。部屋中とっ散らかっますし。しかし警察の方々も元通りにして帰ってくれればいいんですけどねえ」
そう言いながら、床に落ちている資料なんかを拾い始めた夏川とともに俺も本棚を整理し始めた。ここは実験装置が隠されている以上、かなり巧妙に整理しておかないと不味いからな。
「ちなみに、警察の方々は元通りにしてくれてるぞ」
「えっ、そうなんですか」
「ああ。俺達が年末時で特に実験も言いつけられなかったから、研究室でダラダラ課題こなしながら遊んでたからな」
「それでこんなに汚くなるんですか」
「男子学生の生活なんてそんなもんだよ」
「そうなんですか……」
そんな風にむだ話をしていたせいで、結局その日の午後いっぱいを掃除に使ったものの、あまり部屋はきれいにならなかった。まあ、どのみちあと数日は研究室が封鎖されていた影響もあって、持ち出したデータなどの復旧もしなければならないので、そのために来た俺の同級生や後輩たちに手伝わせればすぐに終わるだろう。
「じゃあ、帰りましょうか」
「今日のところはこんなもんだろ」
「あっ、じゃあ研究室再会祝いにこの辺で飲みませんか」
「いいな……あっ、じゃあ先に席とっといてくれる」
「何か予定があるんですか」
「大学事務室に鍵を帰しに行くついでに、研究室の今月分の一応の予算報告を出しておくんだよ」
「……今月何もしてませんよね」
「ああ、だから一応なんだよ」
「分かりました。じゃあ、先に行って待ってますね」
そう言って、彼女とともに部屋を出た後、俺は事務室に向かった。
「さてと、これでひとまず問題も解決したし……かわいい女の子とパーっと飲むとか最高だな」
学内の並木道をダラダラ歩きながら、俺はそんなことを呟いていた。こんなこと聞かれたら確実に星川に引かれるなと思いつつ、正門を抜けた時だった。
「須川 水輝さんですよね」
「は、はい。そうですけど……」
「湊崎 雅也准教授から研究成果を譲られたという……」
「ええ、合ってます…うわっつ」
正門を出た先にはカメラを構えた人たちが大勢集まっていた。そしてそのシャッターが一斉に切られる。というかテレビカメラとかも混ざってるよな。
「湊崎准教授の研究内容は外部に報道されていない部分に危険事項が含まれているというのは本当ですか」
「あなたが譲られたっていうのは本当なんですか」
「あんたが湊崎夫妻を殺して、研究成果を奪い取ったんじゃないのか」
「ちょ、ちょっと待って下さいって」
「政府筋からは湊崎准教授は大学や複数の政府機関相手に脅迫を行っていたという話ですが……」
まあ、おそらく俺に研究成果の利権がすべて移ったからだろうな。これで湊崎准教授の影響から逃れた政府や大学がマスコミに情報をリークしたのだろう。……俺に研究を手放させるために。
「一部では非合法組織とのつながりも示唆されていますが……」
「あなたが研究成果を海外の研究機関に売ろうとしているという話もありますが」
更には俺に対する嫌がらせか、相当数の事実無根のうわさも含まれている。俺はそれらに対して、一言で済む言葉を言った。
「そういった話は、大学事務局を通してください。僕個人ではお答えしかねます」
「ですからあなた個人に対する質問です」
って、ダメだろ。余計に火に油を注いでしまった。あー、もうどうしよう。その時、学内から足音が聞こえた。
「ええっと、ですねそのことに関しては……」
「はっきりしてください」
「ですから、その……」
「先輩、行きますよ」
「うわ、ちょっと」
走りこんできた星川は俺を引っ張ると、即座に報道陣の間を縫うようにして歩き出した。
「な、何でまだ行ってないんだよ」
「こんな状況で外に出られないじゃないですか。それよりさっさと逃げますよ」
「おいおい、俺はそんなに走れないよ……」
走り出した星川に引っ張られるような形で俺も走り出した。後方から、報道陣たちの声や車の音が響いて来たが、何度も裏道を通り、細い道を通り続け何とか撒くことができた。
「はあ、はあ……」
「本当に先輩は体力無いですね」
「バカ、二キロ近く全力疾走させて言うセリフじゃねえだろ」
走り続けて気が付くと、かなり山側の住宅街の通りを歩いていた。いや、本当に死ぬかと思ったわ。
「先輩、まだ走ることにならないといいですね」
「もう大丈夫だろ、さすがに……」
そう言った瞬間、俺の頬を何かがかすり、直後に後方のブロック塀が砕け散った。
「ど、どうなってるんだよ」
「先輩、伏せてください」
伏せた上を、細長い金属片……銃弾が抜けて行った。その直後、今度は撃たれたのとは逆の方向から銃声が響いた。しばらくそのまま伏せていると、やがて銃を懐にしまいながらスーツ姿の男が寄ってきた。
「ご無事ですか」
「ええっと、あなたは……」
「くれぐれも内密にお願いします。所属は自衛隊です。ようはあなた方の護衛ですよ」
「は、はあ」
「それで、さっきの銃を撃った男はどこへ」
「あれならさっきのこちらからの狙撃で仕留められなかったので、今は部下たちが追っています」
「そうですか」
どうやら助かったようだ。……というか秘密裏に護衛が付くって、どういう状況だよ。
「それで、あの男の素性は」
「おそらくあれ自体はどこかの国が金で雇っただけのスナイパーでしょう」
「そう、ですか」
「ところで……実は別件でお話があるのですが、私たちにご同行していただけませんか」
どうやら助けたのは、こいつも研究成果目当てだったらしい。……まずいな。このままじゃあ拒否権はないぞ……
「あれ、サイレンが聞こえますね。こっちに向かってきますけど……応援ですか」
「いや、おそらく今の銃声に気づいた市民の通報でしょう。……クソッ、サプレッサーなしで街中でライフルぶっぱなすとかどういう思考してるんだ。なにより、無能な上層部め、警察の出動止めとけよ」
「あ、あの……」
「取り乱して申し訳ない。ともかく、このことはご一考ください。そしてこのことはくれぐれもご内密に。警察にも何も知らないと答えてください。そうするのなら、私たちはいつまでもあなたたちの護衛ですから」
そう言って、男は走り去っていった。
「ねえ、あれって」
「たぶん、言ったらこ……消されるんだろうな」
「だよね……」
「はあ……本当に湊崎准教授はどうやってこの日常を回避してたんだろうな」
「周りに根回ししてたんじゃなかったですっけ」
「知ってるよ。……その方法も残しておいてくれよ」
こうして平凡だった俺の騒がしい日常が幕を開けた。
……当分は、研究どころか日常生活もまともにできそうもないな。
読んでくれてありがとうございます。
次回投稿予定は明日です。
2017年10月22日 誤字修正




