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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第三章 魔人の復活と王都への旅編
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番外編 詩帆side ~黙って待つだけは嫌だから~後編

というわけで後編です。


読んでくださる方ありがとうございます。


:九月二十三日0:31 修正しました。


「ソフィア、それで何があったの」

「まあ、大方予想通りだとは思うけどね。いきなり襲われたのよ。ユフィと間違えられたのか、それとも私個人に対する報復か、はたまたあなたに対する警告か」


ソフィアを助けた翌日は偶然にも休日だったため、私は朝から医務室で安静にさせられていたソフィアのもとにいた。魔法が万能のこの世界といえど、大きなダメージを負えば完全には魔法で治癒しきれないし、治癒魔法は本人の魔力や生命力も少量とは言え、消費されるのでこういった処置になってしまうのは当然だ。……だが、今回はどうもそれだけではないようね。


「あなたに気配を悟られず、あわや致命傷のけがを負わせるってどんな魔術師よ」

「すくなくとも光属性を使える第六階位以上の魔術師であることは確かね」

「……<転移テレポート>を使われたの」

「ええ。校舎の入り口であなたを待っていたら、いきなり景色が変わったから間違いないわ」

「そう……にしても<気配察知サウンドレーダー>は使ってなかったのかしら」

「使ってたに決まってるでしょ。普段ならともかく、あなたがあの女に喧嘩売ってる状況で警戒しない訳がないじゃない」


確かにそうだろうとは思っていた。私だって絡まれだしてからは、いつでも<光子障壁フォトンシールド>を張れるようにしていたうえで<生命探索ライフエクスプロール>を展開していたのだ。私以上に慎重なソフィアがそれを怠るはずがない。


「というか、周りを見れば分かると思うのだけど」

「そうね……こんなに先生たちが殺気立って見回りしている状況は見たことないわ」


学生のなかでもかなり上位の生徒、しかも貴族子女であるソフィアが学内・・で襲われたこともあって、先生方は警備を強化していた。この王立魔術学園の教師は最低でも第四階位以上の魔術師であり、校長先生に至っては第八階位の魔術師である。ここにいるのは冒険者や魔術師を引退した人間が大半だが、それだからこそ腕前は素晴らしい。だから安心して……いられないのだ。


「要するに犯人は学内の人間か、校長先生の<気配察知サウンドレーダー>にかからないほどの使い手ってことだものね」

「そうね……まあ、目星はつけてるけど」

「そう……って、ええっ」

「まあ、驚くわよね」

「い、いつの間に……」

「あなたが眠っている間によ」


第八階位の魔術師である校長先生の感知をかいくぐれるというのが最低条件だ。仮に犯人が生徒であったとしても、校長先生の探知精度なら魔法行使の形跡ぐらいは見破られるから。……だから


「おそらく闇魔法を使われたのよ」

「や、闇って。……でも、それじゃあ転移魔法の説明が……」

「安心して、既についてるから」

「……そう。とりあえず、無茶はしないでね」

「分かっているわよ……」


そう言いながら、私は彼女の言葉を裏切ることを心の中で詫びた。






「…<幻惑の雲コンフュージョンクラウド> ふっ、これで、仕留めたな」

「あのねえ、あえて誘ってあげたのにこの距離で魔術に失敗するって、どうなのよ」

「なっ、もう一度…」

「遅い…<暴風切断術ウィンドカッター>」

「グワッツ」


さて、その夜。学校図書館から寮への道を歩いていると、背後から精神魔法を受けた私はその魔法を<精神防御メンタルディフェンス>で防いで、襲ってきた男の手足を<暴風切断術ウィンドカッター>で切り飛ばした。


「…<治療リカバー>……これで血は止まったはずよ。で、何をしに来たのかしらエルケーニヒ」

「てめえ、なめやがって」


さて、暗がりの中、襲ってきた男のローブのフードを取るとそこにいたのは顔が焼けただれたせいで引き攣っていたが、間違いなく元グレーフィア伯爵家の筆頭魔術師のエルケーニヒだった。


「これ以上、騒ぐようなら……今度は生きては帰さないわよ」

「くそっ、お前が高位の魔術師って聞いて疑問が氷解したよ。俺の魔術ごときで自分が黒焦げになるほどの傷を負うはずがねえからな。挙句の果てに精神魔法まで使われてたとはなあ」

「よく、理解しているようで何よりだわ」

「どこで、俺だってわかった」

「昨日の夜の時点でよ。まあ、確証を持ったのは今日になってからだけど」


昨日、ソフィアの傷を見るとそのすべてが火傷だった。つまり襲った人物は攻撃魔術は火属性しか使えないということも分かった。そして彼女の記憶を精神魔法でたどったところ、記憶を魔術によって改ざんされた形跡があったので、闇と火の魔術師だという結論に至った。


「そして、ソフィアに気づかれなかったということは闇魔法第五階位の<隠蔽ハイド>を使える、裏の魔術師っていうところまでは確信してたのよ。……後は、今日の昼に伯爵がいない時を見計らって、家の裏業者リストを見た上で、あなた以外に候補者がいなかったのと、昨日の昼にアレーヌ侯爵があんたに面会した記録が残ってたから確証できたわ」

「……ちっ、全てあんたの手のひらの上か」

「そういうことね。……で、依頼者はアレーヌ侯爵なのかしら」

「答えるわけがねーだろ」

「アレーヌ侯爵ならあなたを始末するどころじゃなくなると思うけど」

「……おいおい、現役財務大臣を潰す気か」

「大丈夫よ。相手が被害をこうむりつつも、致命的なまでには刺さないから」


……ソフィアに重傷を負わせたうえに、私にまで手を出そうとしたのだ。無論、その程度の罰は受けてもらわねばならない。


「どうする。あなたが依頼者を話してくれるのなら、あなたを少なくとも生かしてはおくわよ」

「……証拠は」

「あなたの四肢を治療してあげるわ…<組織復元グランリカバー>」

「はあ……五体満足になっても、逃げられる気がしねえな」

「どうするのかしら。次は四本じゃなくて五本飛ぶわよ」

「わかったよ。ああ、お前の予想通りだ」

「交渉成立ね。じゃあ、しばらく土に埋まっていてもらいましょうか」

「はっ、それって殺す気じゃねえかよ」

「空気穴はあるから……<地神要塞アースフォートレス>」


そのまま問答無用でエルケーニヒを地面の中に作った空間に放り込んだ。……さて、これで暗殺者は片づけた。さあ、後はあの女の子に敗北を味わってもらいましょうか。






……一月後 校内実力テスト 結果発表日


「おっ、七位はソフィア様か……魔法の実力もあって、勉強もできる美女っていいよなあ」

「あっ、分かる分かる」

「おっ、六位から四位もいつもの顔ぶれよね。あっ、三位はレオン王子よ」

「格好良くて、勉強もできて、運動神経抜群の王子様……完璧よねえ」


校内の中央掲示板に張り出された成績結果を見て、生徒たちがはしゃいでいた。私はその後ろからゆっくりと人ごみの中に入った。その途端、周りの興味が私に向く。


「ねえ、あれユーフィリア様よね」

「ええ……たしか、体調不良で一月ほどお休みされてなかったっけ」

「えっ、俺は夜に不審者に襲われたって聞いたけど」


私はこの日のとある準備のために、一月ほど学校を休んでいた。だから表向きはずっと部屋から出ていなかったことになっている。


「あら、ユーフィリア様。御加減はいかがですか」

「……あら、これはエレナード様。ええ、すっかり良くなりましたよ」

「そう、勉強や訓練も大切だけど、身体を壊さないようにね」

「ええ、気を付けます」


そこにやって来たエレナードは勝ち誇った顔をしていた。きっと彼女は私がエルケーニヒに襲われ、怯えていると思っているのだろう。そして私が彼女に逆らわないだろうとも。

……だが、そんな事にはさせない。


「さて、学年順位の一位が決まったようですね」

「ええ、見に行きましょうか」


やがて人だかりの中で歓声が一際大きくなったので、私とエレナード様は揃って掲示板の前に向かった。そして、それを見て余裕の笑みを浮かべていた彼女の笑みが凍り付いた。


「なっ……なぜ、私が一位でない訳が……」

「あら、私が満点で一位だったようですね」

「そ、そんな訳が……あなた、まさかまた不正を……」

「それをしているのはあなたでしょう」

「なっ、どこにそんな証拠が……」


そうエレナード様が言ったとき、人ごみの上空に紙が舞った。


「何だ……これ」

「何々……これが侯爵令嬢エレナードの、本性だ……」

「ねえ、これって侯爵家の実印みたいじゃない」


その紙はエレナードが父を通じて、学校の教師何人かに圧力をかけていた証拠・・である、命令書だった。原本はテストや試験の回数分に教科の数をかけた枚数が侯爵と教師の双方から盗み出せたので、およそ百枚にもなる。


「こ、こんなもの偽造です。ユ、ユーフィリア様こんなことをしてただで済むと思っているのですか」

「私がやったという証拠はありませんよ。第一、あれに押されているのは侯爵家の本物の印ですよ」

「そ、それも偽造です」

「じゃあ……ここに書かれている名前の先生全員に確認してみましょうか」

「そ……それは」


できるわけがないだろう。なにせこの場で舞っている紙の大半は何度も不正を容認している教師たちとのものだからだ。


「と、とにかくお父様の耳に入れれば、あなたの家など簡単に……」

「ああ、最後に一つだけ」

「謝罪の言葉なら受け付けましょう」

「ええっと、そうですね……エルケーニヒはこちらで預かっています」

「……へっ、な、何のことでしょうか」


その瞬間、彼女の顔が青ざめた。当たり前だ、奴に証言されれば下手をすれば爵位の降格すらあり得るのだから。


「お父様にご相談されるならご自由にどうぞ。……ただ、また実力行使に出られたら……次は私、どうするか分かりませんよ」

「……っつ、きょ、今日のところは見逃します」


そう言いながら、彼女は廊下の先へ走っていった。まあ、彼女の父親が手を出すことはないだろう。自身の権力を利用して、娘の学校の教師に圧力をかけていたなどと知れたら失脚の可能性すらあるのだから。


「終わったかしら」

「ええ。お手伝いご苦労様」


そうして一息ついていた私のところにソフィアが歩いて来た。


「さっきの紙の舞わせ方は見事ね」

「風魔法の角度を調節して放っただけよ」

「それでも器用よ」


そんな風に、親友と話しながら私はふと思った。


「……権力闘争はごめんだけど、学内で力を持っておくのはありかもしれないわね」

「どうしたの、いきなり」

「いえ、少しね」


その年の冬、私はルーテミア王国魔術学院の新年度高等部生徒会長選挙に立候補した。

次回投稿は明日です。

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