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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第三章 魔人の復活と王都への旅編
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番外編 詩帆side ~黙って待つだけは嫌だから~前編

読んでくださる方、ありがとうございます。


……なんだか思いのほか、長くなってしまいましたので前後編とさせていただきます。


「ユーフィリアさん。これがどういうことなのか説明していただけますか」


王立魔術学園中等部に入学して早や四年近くが経ったころ。私はいつものように夕食のために訪れた食堂で、複数の女子生徒に囲まれた。

……こんなことは日常茶飯事だが、今日のは少し面倒くさそうだ。


「なんのことですか。私にはさっぱり」

「とぼけないでちょうだい。あなたの不正の証拠は私が持っているの。だからおとなしくそれを認めるか……それが嫌なら私に従いなさいよ」

「はあ……そんな身もふたもない話に付き合っていたら、いくら時間があっても足りませんよ」

「なっ……たかが伯爵家の、ましてやあの無能伯爵の娘が私に逆らうというのですか」

「まあ、私の父が低能だということには全面的に賛成しますが……ありもしないことを認めるほど、私もプライドは低くないもので」


はあ、全くどうしてこうなったのだろうか。まあ原因の大半は私の才能とあの豚伯爵のせいなのだけど。


「あなた、どうなるかは分かっているのね」

「どうぞ。その程度のうわさ程度好きにバラまけばよろしいかと」

「言ったわね。……後悔しても遅いわよ」

「ご自由になさってください」

「……皆さん、行きますわよ」

「ま、待って下さい。エレナード様」


エレナード・レブナント・フォン・アレーヌ。私に目をつけてきた学内最大派閥のリーダーであり、財務大臣であるアレーヌ侯爵を父に持つ人物。

……まあ、典型的な貴族子女と言う感じの女の子だ。


「はあ……本当に何がしたいのかしらね。テストの不正だ、魔術は全て別のトリックを使っているだ、学内で他の生徒に暴力をふるっただの……私の評判を下げて、何がしたいのかしら」


彼女たちが去った後、私ユーフィリア・フォルト・フォン・グレーフィアは大きくため息をついた。と、そこへ後ろから声をかけてきたのは、この学校では数少ない友人の一人だった。


「まったく、なんで十四歳で派閥だなんだを作らなくちゃならないのかしらね……」

「ユフィ。たぶん、そのこと自体が目的だとは思うのだけど……」

「分かっているわよソフィア。それより、あんまりこういうところで私に関わらない方がいいわよ」

「変わらないもの。私があなたと関わろうが、関わるまいがあの子たちは私にも同様のことをしてくるから」

「まあ、ねたまれるという意味では同じだものね」


彼女の父親の場合は、派閥や爵位の序列を越えて、子爵であるのに商務大臣を任されてるので、エレナードのようなタイプの考え方をする人間にとってみれば、最も気に入らない相手だろう。


「それにしても、もう少し柔軟に対応したら」

「そうもいかないわよ。というより下手に出れば、余計に調子に乗るでしょ」

「それもそうね。さてと、いつまでも話していないで夕食を食べてしまいましょう」

「そうね。ここでのんびりしていたら、また彼女たちに絡まれるだけですもの」


そう言いながら、ソフィアと夕食をとっていた時には思いもしなかった。まさかこの衝突があんな大きな事件につながるなんて。






「あらら……」

「はあ、あの子たちはどれだけ面倒くさいことが好きなのよ」

「こういうことをやるぐらいじゃないかしら」

「そういうことが聞きたいんじゃない、っていうことは分かってるわよね」

「ええ……で、どうするの」

「決まってるでしょ……大事にならなければ静観するだけよ」

「もう十分大事な気もするけど」

「これ以上にってことよ。まあ親や学校が動かない限りは無視ね」


さて、翌朝の学校。登校した私に待っていたのは掲示板に張られた、私のテストの不正を綴った校内新聞だった。まあすべて出鱈目なんだけどね。まあ私の成績や魔法の実力が良すぎるせいなんだけど。けどそれで恨むのもどうかと思うけど。

そうは言っても魔法の実力は転生した影響のようだから不可抗力、というか普通の人も才能次第だからねたまれても仕方ないし。勉強の方に至っては前世で医大まで出ておいて、高々中学校程度の勉強で負けるわけがない。


「まあ、あのお嬢様も自分が絶対に一番じゃなければ許せないってタイプだものね。下手に刺激するよりいいか」

「そういうことよ。……まったく、私以外にも妬む対象はいるでしょうに」

「いや、いないと思うわよ。身分差なしの完全実力主義をうたってるこの王立魔術学院で、有り余る権力を使って強引に主席を取ろうとしてる彼女が唯一、勝てないのがユフィだもの」

「そうは言っても、ねえ……」

「一つ言っておくけど、あなたを妬んでいる人間は二桁じゃすまないと思うけど」

「そ、そうかしら……」

「あなたがどう思っているのか知らないけれど、普段勉強しているように見えないのに全教科の試験で常に満点を取って必ず主席。魔法実習では王宮筆頭魔導士をこえる四属性を第七階位まで行使して、すでに卒業後は結婚しなくても独力で生きていけることが確定……まあ、それだけの実力があると夫探しも難航するでしょうけど」

「うっ……」


前言撤回、まあ妬まれても仕方がない、か。というか前世でそんなことをしている奴がいたら私でも妬んでいると確信できる。


「まあ、諦めたら」

「そうね……さすがに実力行使に出ることはないでしょうし」

「それが分かってる子達ならいいんだけど……あの子達があなたを舐め切っているのは事実なのよね」

「上級魔術師が天災のごとき存在だなんて子供でも知っているのだけどね」

「そうね……まあ、私にも絡んでくることはないでしょうけど」

「でしょうね」


私と一緒にいるから彼女も霞んでしまうが、彼女だって第五階位の魔力持ちで、水と風の属性魔法が使える魔術師である。あのお嬢様は論外として、仮に凄腕を雇ったとしてもよっぽど派手なことをしない限りは彼女に攻撃を加えることは不可能だろう。


「さてと、こんなものは無視をしておきましょう」

「そうですね……さてと、行きましょうか……」

「あら、ユーフィリアさん、ソフィアさん。ご機嫌麗しゅう」

「……これはこれは、エレナード様」

「おはようございます」

「ええ。それより、あの掲示板はご覧になってかしら。……ひどい噂をする人もいたものね」

「……そうですね。まあ、あの程度の誹謗中傷など気にするまでもありませんわ」


お前が元凶でしょう。などとは口が裂けても言えなかった。というか、昨日あれだけ言っておいてよくもここまで言えるものだ。


「……それは、それは。ところで昨日の話は考えていただけましたか」

「はあ、昨日というのは何の話でしょうか」

「あら、私の派閥に入るという話ですよ」

「結構です」

「あら、他の方の派閥に入る予定でもあるのかしら」

「いえ。私はどの派閥にも入りませんし、新たな派閥を立ち上げる気もございません」

「まあ、なぜ。あなたならどこの派閥でも歓迎されるでしょうし、ご自身で立ち上げても人が集まるでしょうに」

「そういったものに意義も興味も感じませんので」


最後に堂々と相手の思考を否定してやった。横でソフィアが私の発言を聞いて、顔を青ざめさせているがむしろ実力行使に出てくれるなら問題にしやすいし好都合だ。


「そう……では、また」

「ええ」


そう言ってエレナードが離れたのを確認して、ソフィアが私に詰め寄ってきた。


「どういうつもり。問題は起こさないんじゃなかったの」

「あそこまでやってくるのなら、むしろ実力行使に出てもらって潰した方が楽よ」

「そりゃあ、ユフィが強いことは知ってるよ……でも」

「大丈夫よ。私を倒せる人間がいるとしたら……一人だけだから」

「えっ」

「そして、あの人は私に絶対に敵対しないから」

「うーん、よく分からないけど。ともかく、何かあったら必ず私に話してよ」

「分かってるわよ」


そのまま教室に向かった私たちは、まだこの問題が激化してたことに気が付かなかった。






「みなさん、明日は魔法実習があります……」


今日も一日の授業が終わり先生の挨拶を何気なく聞いていた私は、一瞬自分の名前が呼ばれたことに気づいていなかった。


「それでユーフィリアさん」

「……はい」

「あなたは放課後に職員室に来て頂戴」

「えっ、私何かしましたか」

「とある噂よ。さて、それじゃあ来て頂戴ね」

「ああ、ちょっと」


そのまま担任のレミー先生は何も言わず出て行ってしまった。


「うわあ、朝のことが大事になっていたわねえ」

「だから言ったでしょう。あの子相手には下手に出なさいって」

「分かってはいたんだけどねえ。まあ、適当に誤魔化してくるわ」

「そうしてよ。退学とかになったら次の矛先は私に向くんだから」

「了解。じゃあ、行ってくるわ」


私たちは様々な視線を向けてくる生徒たちをかわしながら、職員室へと向かった。






「信じられませんね。そのような話」

「いえ、私も信じられませんでしたよ。まさか彼女の様な生徒がこのような不正を働いていたなんて」


部屋に入った私は即座に職員室内の会議室に連れられた。そこではバカみたいな話が続けられていた。


「ユーフィリア君、そろそろ認めたらどうだい。自分の今までの試験は全て不正で、先生たちに圧力をかけて満点を取っていたと」

「すべて実力ですから」

「じゃあ、その証拠を見せて見なさい」

「逆に真面目にやっていて証拠なんてあるんですか」

「ほら、ないんだろう。だったらそれが証拠じゃないか」


私に嫌疑をかけていたのは、金で点数や単位を買えると噂のとある男性教師だった。まあ、だからこそこいつの話なんて誰も信じていないが。現に私が先生たちに圧力をかけた証拠の手紙というのも、あまりに怪しすぎて他の先生は一切信じていなかった。


「あのねえ、たかがこんなことで職員会議にしないんでほしいんですが……」

「こんなこと。ことは生徒が不正に主席を取っているかもしれないという話ですぞ。学校でこれ以上の重要な話がどこにあるというんですか」

「証拠はその紙きれ一つだろう。第一、全ての教科で満点など学校自体に圧力をかけなければ不可能だ。そんなことは国王陛下ですら不可能だぞ」

「そ、それは……」


たぶん計画も彼女たちが立てたのだろう。杜撰さが目立ちすぎる。私がこの程度で音を上げると思っているのかしら。


「ともかく、明確な証拠もなくこれ以上追求する必要性はないだろう」

「し、しかし……」

「証拠が入ってから出直しなさい。以上、解散」


校長先生の一言でこの会議も終わりだ。まったく、本当に稚拙なトリックだった。さて、私も解放されたようだし帰ろうか。


「先生、私は帰っても構わないんですよね」

「ええ。すまないわね、こんなことになって」

「いえ、実害はありませんから」

「そう。じゃあ、帰る道に気を付けてね」

「はい」


帰り道。いつもだったらソフィアが待っているのだが、今日は待っていないことを不思議に思いつつ、私は寮へと帰った。


「いつも待ってくれるのに……怒らせたかなあ。忠告聞かなかったし」


しいて言うならばそうやって拗ねて帰られることは何度かあったので、実は不思議ではなかった。


「でも……なんだか妙に胸騒ぎがするのよねえ……んっ、この音はなにかしら」


そのとき私は寮のわきの藪から物音が聞こえていることに気づいた。いくつかの魔術をいつでも放てるようにして、藪に飛び込むとそこには……


「ユ……フィ、よね」

「ソ、ソフィア。何があったの」

「あんた、ねえ。もう少し、怒らせる相手を、考えて、よ……」

「ソフィア」


そこには全身に傷を負ったソフィアが倒れていた。私は応急処置の魔術をかけつつ、彼女を寮の医務室へと運んだ。


彼女を襲った犯人を見つけ出して、復讐することを胸に誓って……

次回更新は明後日です。

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