第四十三話 初恋と短い旅の終わり
遅ればせながら15000PV&3000ユニークありがとうございます。
さて、本日二話目ですが王都への旅の終わりです。……えっ、端折りすぎですか。
まあ書きたい部分は書けているので、今後余裕があれば番外編か挿話になるかもしれません。
2017年10月18日 誤字修正
盗賊団のアジトを出発してから数時間後、俺達の馬車は森を抜け草原を走っていた。
「何もないですね……」
「失敗したな。やっぱり盗賊団を引き渡した街で泊ればよかった」
「まあ、後で言っても仕方ない」
「ですよね」
「マリー、リサ……そうストレートに攻めないでくれるかな」
アジトを出発してから二時間ほどで、それなりの規模の町に到着した俺たちはクズ盗賊たちを無事に引き渡すことができた。そこで変なことに巻き込まれるのも面倒だったし、お金にも困っていないのでそのまま通過しようとしたのだ。まだ昼前だったしな。
……で、結果が夕闇の草原を必死で馬を走らせなくてはいけなくなったわけだ。
「クライス様、どうされますか」
「そうだなあ……仕方ない、か。今日は俺の結界の中で野営しよう」
「結界の中ですか」
「ああ。一定以上の大きさのものを通さないように物理魔法で調整してね」
「分かりました。ではそれに適した場所を探しましょう」
しばらくして、適した場所が見つかったのでそこに馬車を止めた。
「じゃあテントと馬車を利用して、交互に寝るということで。ひとまずテントを張りましょうか」
「そうしましょう。では護衛の面々にそちらは任せるとしましょうか」
「ですね。じゃあ、俺は……ちょっと森に行ってきます…<座標転移>」
俺は先ほどまで通っていた森に戻ると、風魔法で薪をかき集めてすぐに元の場所に戻った。
「どこにそんなに大量の薪があったんですか」
「マリー、クライス君なら手っ取り早く薪を集めるために、前の森に戻ってもおかしくないから」
「正解だよ」
「……さすがに本気でやってるとは思わなかった」
「……別にいいだろう。事実、早く集まったんだし」
「お兄様、拗ねてないで手早くお願いします」
「拗ねてないからな……あらよっと……こんなもんだろ。…<火球>」
その薪を適当に並べて、俺はそこに火魔法で火をつけた。さて、後は女性陣に任せて……少し寝かせてもらうとしよう……早朝に起きて、魔法使いすぎたせいで眠くて仕方ないんだよな…
あっ……その前に結界を張っておかないとな。
「…<風霊庭園>……ふう。こんなもんだろ」
風魔法の結界はかなりの強度に仕上がった。それに空気などが通るように細かい穴を複数開けて、さらに魔力を込めて強化すれば完成だ。さて、これで大仕事は終わった。さて、寝るとしようか」
「リリア。俺、しばらく馬車の中で仮眠とるから」
「はい」
「料理できたら、起こしてくれ」
「了解です」
俺はそのまま馬車の中に倒れこむと……完全に意識が飛んだ。
「ううっ……んっ、なんか妙に狭いな。後、妙に暗いし……。って、これ仮眠どころじゃないぐらい寝てないか」
俺が目を覚ますと、横にアレクスや護衛達が眠っていた。さらに外はすっかり暗闇に包まれていて、外の火の光だけが見えた。
俺はアレクス達に気づかれないよう、そっと馬車を降りた。すると火の近くで誰かが動いた。
「お兄様、起きましたか」
「ああ、リリアか。……でも何で、こんな夜中に外にいるんだ」
「少し眠れなくって外に出ていたんですよ。後、お兄様はぐっすりと眠られていたようなので、そのままお休みになっていただこうかと」
「配慮ありがとう。おかげでだいぶ楽になったよ」
「そうですか……あっ、夕飯のシチューならまだそこで火にかけたら食べられますよ」
「じゃあ、夜食がてらにいただこうかな」
そう言いながら、俺は火のそばに置いてあった鍋を火の上に移動させた。そのまましばらく熱すると、湯気が出てきたので、それを器に移した。
「じゃあ、いただきますか」
「どうぞ…まあ、私はほとんど手伝ってないのですが」
「これから覚えればいいよ。それで……なんで眠れなかったんだ」
「さあ、何ででしょうかね。初日からしっかり眠れてないので……環境が変わったせいでしょうか」
「本当に大丈夫か。悩みがあるなら聞くけど……」
「い、いえ……大丈夫ですから」
なんか、歯切れが悪いな。……初日っていうと……まさか、俺がフッたことが原因じゃないよな。
「なあ、リリア……」
「は、はい」
「ひょっとして……俺との失恋をまだ引きずってるのか」
「へっ……な、何を言うんですか。べ、別に失恋なんてしてませんし。私も別にお兄様に異性としての好意なんてありませんし」
「リリア、落ち着いて」
「わ、私は落ち着いてますよ」
さすがに失恋はデリカシーなさ過ぎたな。というかフッた本人が言うとか、それ以前の問題か。……さすがにフォローしておかないと可哀そう、か。
「リリア、俺って昔から鈍いって言われてたんだよ」
「そんなこと、今言われても困りますが……まあ、そうだと思いますよ」
「他のことはいくらでも先が読めるのに、女性心理だけは全く読めないって」
「はあ」
「でもな、相手の気持ちが真に俺に好意を向けてるかどうかぐらいは、鈍くても分かるよ」
「えっ……」
「だからさ。……はっきり口に出した方が楽になれると思うんだ。断る俺が言うのも何だけど……たとえ結果が分かり切っていたとしても」
「……楽に……なれますかね」
リリアが一瞬、口をつぐんだ。そして大きく息を吸って言った。
「私はお兄様に憧れていたというのが、一番近いと思います。ただ……その奥底にあったのはお兄様への恋心だったんだと思います。……いえ、違いますね。私はお兄様が……好きです。異性として」
「そうか……でも、ごめん。やっぱりその気持ちは受け取れない」
「……分かってます。でも、スッキリしました。……あっ、私もう寝ますね。おやすみなさ……」
「ちょっと待って、リリア」
リリアの眼に涙が浮かんでいるのを見た俺はそっと彼女を呼び止めた。
「そんな言い方で満足なのか。今ならこの空間に風魔法で結界を張ったから、みんなには聞こえないぞ」
その言葉に振り向いた彼女は堰を切ったように、目を見開いて言った。その見開いた眼から涙がぼろぼろとこぼれていくのを気づかないぐらいに。
「……じゃあ言いますけど。…十分な訳、ないじゃないですか。ええ、ずっと会えるのを心待ちにしていたんですよ。五年間も。幼い子供の恋心なんて軽いものかもしれませんが。そしてお兄様は私の想像以上に私のタイプだったんですよ。しかも久しぶりの再会で、颯爽と現れて命まで救ってもらったんですよ……好きにならない訳ないじゃないですか」
リリアは今まで多少甘えん坊になっても、ずっと穏やかだった口調が嘘のように、泣きながら俺に全てを吐露していた。
「お兄様と初めて私の部屋で話した時、うれしくって意識がどこかに飛びそうでしたよ。でも、でも……その次の日に宿屋の部屋の中で、あんなに美しく愛しい人への思いを語られたんですよ。私の気持ちを分かってた上でやるなんて最低です」
「ゴメンな……リリア」
「そうですよ。……でも、その話を聞いて……お兄様にあれだけ思われたらどれだけ素敵だろうと……思ってしまった自分もいるんですよ……それも悔しくって仕方なくて……やっぱり私はお兄様が好きなんですよ。でも……叶わない恋を追い続ける自信もないんです。だって……これだけ言っても、お兄様の心がその方から動いていないのが分かりますもの」
「…………」
「私の初恋はこれでおしまいです……さすがにスッキリ……あれ、涙が止まらない」
「リリア……お前の兄として言うよ。辛かったら……今日だけは俺の胸で泣いていいよ」
「……グスッ…お兄様の…バカ」
そう言いながら、リリアは泣いた。俺のローブの下のシャツをビショビショにして、疲れ切って眠るまでずっと。その姿に心が痛かった。
それでも、その姿を見て詩帆の姿がかぶって……彼女を待たせ続けている自分が腹立たしくて、余計に心が痛かった。
眠ったリリアをそっと女性陣が眠っていたテントに戻した俺は……そのまま夜が明けるのを待った。
「で、クライス」
「なんだよアレクス」
「寝不足みたいだが……リリアちゃんに結局手をだ…グベラッ」
「寝不足で機嫌、悪いんだよ。ふざけたこと言ってると、次は拳じゃなくて火炎弾か風刃が飛ぶぞ」
「ど、どうしたんだよ。夜になんか嫌なことでもあったのか」
朝、想像以上に下世話な質問をしてきたアレクスをぶん殴ったところで、朝食の時間となった。そしてリリアは昨日のことなど、無かったかのように俺に話しかけていた。……いや、角ばった感じや刺々しい感じが無くなって、普通に兄妹や従妹と会話しているような感じになっていたので変化はあったのか。
「お兄様、今日はどこまで行きましょうか」
「うーん。さすがにロスしすぎたよな」
「そうですね。お兄様がいるせいか、赤竜に遭遇しますし、盗賊団に襲われますし、挙句の果てにエルフの国の王家の継承問題ですからね」
「お、俺のせいなのか、それ」
「ええ。お兄様がいなければ盗賊に襲われる以外は普通、ありえない気がします」
「いや、そうだろうけど」
むしろ気軽に話せるようになったぶん、非常にディスられるようになった気がするのは気のせいだろうか……まあ、楽に話せて何よりか。
「じゃあ、今日からは上空を走り続けるか」
「初日の方法ですか……でも、今度は劣等竜とかに遭遇しですが……」
「俺は疫病神じゃないんだぞ。というかそれぐらいなら一秒足らずで瞬殺できるから」
「まあ、それならいいですけど。……フィーリアさんと護衛の皆さまはそれで大丈夫ですか」
「ええ、構いません」
「道さえあるのなら、どこでも行けますよ」
「じゃあ、お兄様」
「ああ。じゃあ荷物を詰め込んで出発しようか」
こうして俺たちは二週間の空の旅へと赴くこととなった。そう、二週間である。……予定は一か月だったので丁度半分ぐらいになった計算である。いやあ、空の上だと制限速度はないし、遮蔽物もないから丁度良かったな。
「クライス様、見えましたよ」
「おお、あれが王都か」
「綺麗ですね」
「でかいな」
「本当ですね。門や外壁が子爵領の倍、いや三倍ぐらいありそうです」
見えてきた王都は赤いレンガの壁で組まれた城壁と、その中に広がる赤系統のレンガ造りの建物。そしてその中心に白い巨大な王城がそびえたつ美しい街だった。
「じゃあ、王都の南門に向かいますね」
「ああ、そうしてくれ」
「はい……」
そのまま馬車はゆっくりと速度を落としながら、門へと向かった。歩く人々の後ろをゆっくりと進んで、やがて兵士たちの詰め所についた。そこで兵士が一人駆け寄って来て、御者のフィーリアさんに声をかけた。
「通行証や身分証明書はお持ちでしょうか」
「すみません。王都行は初めてでして。私以外は持っていません」
「分かりました。では通行料をお願いします。通行許可が出るのに時間がかかることもありますが、フィールダー子爵家のご子息とご令嬢ならすぐだと思いますよ」
「そうですか」
「はい……あっ、問題ないですね。どうぞお通りください」
「ありがとうございます」
「ええ……ようこそ王都ルーティビッヒへ」
ちなみに後日聞いた話だが、通行証と言うのは王都の市民証や冒険者ギルドや商人ギルドの会員証。後は王立学院の学生証で問題ないらしい。まあ、要するに自身の公的な身分が証明できるものならなんでもいいそうだ。
「やっと王都ですね」
「ああ、まあ結構早く着いたんだけどな」
「精神的に疲れすぎてるせいで、やっとっていう感じですからね」
「まあ、そうだな」
ともかくこうして俺達は無事に王都ルーティビッヒに到着した。
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次回更新は明日です。




