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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第三章 魔人の復活と王都への旅編
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第四十二話 エルフの王女の行く末と盗賊団解体

読んでくださる方ありがとうございます。


本日は二話投稿です。次話は二時間後となっております。


2017年10月18日 通常修正


「……私の年齢のことはどうでもいいではないですか」

「そうですよ、お兄様。女性に年齢の話を振るとかタブーです」

「いや……これ、俺が悪いのか」

「いえ……それより私を弟子にしてください。お願いします」

「わ、私もなりますよ」

「勘弁してくれよ……」


美少女二人に挟まれること約一時間。その論争は終わりそうもなかった。


「もう私には手がないんです。賢者様の知識をお借りする以外には」

「それは分かるんだけど……」

「ま、まさか賢者様にも手がないとおっしゃられるんですか」

「いや、見当は付いてるよ」

「本当ですか」


彼女は魔力量が多い上に、全属性の魔術が初級までとはいえ使えるということは属性魔力資質もある。すなわち、彼女の問題は一つだ。


「ようはシルヴィアさんの場合、属性魔力よりも、さらにこの世界の魔力に親和性が高すぎるんだよ」

「つまり、どういうことでしょうか」

「というか、それでしたらお兄様も同じなのではないでしょうか」

「少し違うんだよな……」

「「と言いますと」」

「まあ、世界のどの魔力資質に近いかの差なんだよ。俺の魔力は世界に物質や現象を存在させている魔力情報の魔力、つまり魔法を発動するための魔力だ。反対にシルヴィアさんの魔力はこの世界や魔力空間の大半を占めている、まさにこの世界の魔力そのものだ」


そこまで言うと、聞いていた二人は納得したようで大きく頷いた。


「なるほど、ですからお兄様は簡単に魔術現象を起こせるのですね。しかもその必要とする魔力の量も少ないと」

「反対に私は大魔法を発動しようとすると、世界の魔力の中に霧散して発動しないということですか……」

「そういうこと。まあ俺も似たようなことになってもおかしくないんだが」

「「えっ」」


また二人の声がかぶったな。思考が近いんだろうか。


「俺の魔力も世界の他の現象や物質に引っ張られる可能性もあるんだよ」

「では……どうしてあれだけの魔法を発動できるんですか」

「最初の魔力を広げるプロセスをすっ飛ばす」

「お兄様、そんなことが可能なんですか」

「最低でもリリアクラスの魔術師じゃないと不可能だけどな。ようは外部の魔力情報をこの世界に引き込むときに、引き込むと同時に自身の魔力を使って具現化させるんだよ」

「なるほど……それなら広範囲に広げた自身の魔力が霧散することもない、と」


これに関しては魔力の少ない魔術師には絶対に不可能なことだ。つまり魔術を発動させる過程で一切環境魔力を使用できないということだからだ。魔術の大本さえ完成してしまえば、後は自身の魔力と環境魔力を取り込んで魔術は発動するという寸法だ。


「では、その方法を教えていただけるんですか」

「まあ……教えられないこともないんだけれどね。俺には教える時間と場所がなくて」

「そんな……」


超越級の魔術師、ましてやエルフの王女なんてものと一緒に行動する余裕はない。彼女は落胆してしまったようだが、別に俺もこのまま放逐するほどひどくはないさ。


「お兄様、なんとかならないんですか」

「なんとかなるよ」

「えっ……」

「他の講師を紹介するから……とびっきりの人をね」

「それって……」

「それは明日の朝のお楽しみ。早く寝なさい」

「本当にそんな方がいらっしゃるんですか」

「いるから、安心して」

「は、はい……では失礼します」

「ああ、おやすみ」


俺は二人が俺の部屋を出たのを見て、部屋のランプを消した……






……翌朝


「おはようございます」

「ああ、おはようリリア。でも何でここに…」

「お兄様、私もシルヴィアさんの講師のもとに連れて行ってくださいますよね」

「えっ……やっぱり、だれか分かった?」

「まあ、だいたいは」

「そうか……」

「お待たせしました。さあ行きましょう」

「了解。じゃあ行こうか」


翌朝、盗賊団の始末もあるので、早めに俺は講師のもとへと出かけることにした。


「それでこんなに早朝に短時間で済むということは、近くなんでしょうか」

「いや、フィールダー子爵領の最南端の山脈の頂上」

「そ、そんなところまで行くんですか」

「大丈夫。一瞬だから」

「えっ……」

「では…<座標転移トランスポート>」


俺が転移した場所は、もちろんつい数日前までいたあの山の家の正面である。


「…<気流操作ウィンドコントロール>」

「ふう……それでここが」

「ああ、マーリス師匠の自宅だな」

「マ、マーリス様ですか……七賢者第七位の」

「そういうこと。さあ、入るよ」

「ああ、ちょっと待って下さい」


さて早朝だが、おそらくセーラさんも師匠も起きているはずだ。ゆっくりドアを開けよう……


「…さてと。師匠、お久しぶりです……っつ、全員ドアから離れろ」

「えっ、どういう意味ですか」

「…<霊炎の槍フレイムジャベリン>」

「またですか…<絶氷要塞ブリザードフォートレス>」

「やあ、クライス君。お帰りというにはやや早いと思うのだが……事情を説明してもらおうかな」

「帰ってきたわけじゃありませんから。弟子候補を置いたらすぐ帰りますよ」

「んっ、弟子候補?」

「あなた、とりあえず入れてあげて」

「はい、おじゃまします」


いつも通り上級魔法をあいさつ代わりに撃ってきた師匠をひとまず無視って、セーラさんに話を通しておこう。


「それで。どういう理由で二人も女の子を連れて、ここへ来たのかしら」

「まあ片方は賢者様にお会いしたいと言っていたうちの妹のリリアです」

「あら、そう。こんにちはリリアちゃん。……綺麗な魔力をしているわね」

「あ、ありがとうございます。セーラ様」

「様なんて言わなくていいわよ。さんで十分」

「は、はい」

「ということは……もう一人の彼女が弟子候補かしら」

「ええ、そうです……」

「シルヴィア様……なぜ、ここに?」

「あら、マーリス。久しぶりですね」

「い、一体なぜ国にいないんですか」


どうやら師匠とシルヴィア様は知り合いのようだ。セーラさんの眼が怖いので、早めに状況を聞き出しておこう。


「知り合いのようで何よりなのですが……お二人はどのような関係なんでしょうか」

「いや、四百五十年ほど前にね。まだ戦争の跡がひどくて人間の国家ではまだ稼げる状態じゃんかったんだ。そこで建造真っ最中だったフォレスティアの建設に手を出したら……まあ、王族に気に入られてね」

「それでマーリスが私の教師役になってくれたの……もちろん当時は賢者だなんて知りませんでしたけど」

「なるほどな」


千年生きている師匠と、五百年生きているシルヴィア様……確かにどこかで邂逅していても不思議ではない訳だ。


「そういえば、一時期うちに帰ってこないと思ったらそんなところにいたのね」

「まあ、そういうことだね。……それで、なぜ王宮にいらっしゃらないのですか」

「事情はまあ……こういう次第でして……」


さて、場も落ち着いて師匠がひとまず事の顛末を聞いてくれるようなので、俺はリリアとセーラさんとともにしばらく談笑することとなった。セーラさんがいつでも治癒魔法の相談なら受け付けると言ってくれたので、リリアがものすごく感動していた。まあ…俺よりはるかに専門的な話が聞けると思うので、かなり有意義だろう。


そんなこんなで十五分ほどでシルヴィアさんの説明は終わったようだ。


「なるほどね……魔力資質がこの世界の原質に近すぎる、か」

「それはクライス様の考察ですがね」

「いや、たぶんその通りだと思うよ。……で、クライス君」

「はい、師匠」

「シルヴィア様は私とセーラで指導してくれということで、いいんだね」

「はい。僕には余裕はないですからね」

「分かった。全力を尽くそう」


師匠なら了承してくれるだろうとは思ったが、まあ元から知り合いだったのはラッキーだったな。


「じゃあ、僕たちはこの辺で」

「ああ、もう行くのかい」

「ええ。王都への旅の途中で盗賊団を潰しまして……その後始末がありますので……」

「そうか……んっ、ということはシルヴィアは奴隷扱いで捕まっていたということかい……よく無事だったね」

「わ、私は捕まってすぐでしたから……道で囲まれたらさすがに初級魔術だけじゃ対処できなくて……」

「まあ、助かってなによりですから……じゃあ、時々様子は見に来ますから」

「ああ、任せておいてくれ」

「ク、クライス様……ありがとうございました」

「いやいや……たまたまだからね。じゃあ……<座標転移トランスポート>」


俺は再び師匠の家を後にし、盗賊団のアジトへと戻った。


「ただいま戻りました」

「お帰りなさいませ、クライス様。朝食の用意は済んでおりますが」

「じゃあ先にいただこうかな」

「では私も」

「あっ、そういえば後でセルウィグが話がしたいと」

「そうか……リリア、先に食べておいてくれ」

「分かりました。お気をつけて」

「今さらあいつが俺に手を出すことはないだろうから大丈夫だよ」


そう言いながら俺はリリアと別れ、盗賊団のボスであったセルウィグを監禁している部屋に向かった。


「入るぞ」

「言わなくてもかまいませんよ」

「だよな。……で、話とは」

「俺と一部のクズどもは殺して構わん。だからゾディアとその他の部下たちは助けてやってくれ」

「うーん、却下だな」

「……そうか」


こいつが言いたいことは前日のゾディアの弁明で分かっていた。だからこそ、その二人だけは別の部屋に入れたんだしな。


「一つ言っておくと、お前の事情は聞いたよ」

「今更だろう。過去に何があろうと今の俺は罪人だよ」

「そうだな」


俺も実際、昨日のゾディアの話を聞いていなければ全員を近くの町の兵舎に預けて、全員処刑で問題ないと思っていた。


昨日、シルヴィアとの会話の前にゾディアがボスを助けてくれと言ってきた。だから俺はそっと光魔法の<真実の眼トゥルーアイ>を発動させて奴の話を聞いた。

セルウィグは騎士団で訓練中に他の騎士を殺してしまったせいで、街を追い出された俺をからかいながらかばってくれた恩人だと。更に盗賊団の中には、殺されてもどうしようもないやつもいるが、大半は生きる為に仕方なくやっているのだということも聞かされた。そしてそれはボスも同じだと。

真実の眼トゥルーアイ>で見る限り、そこまでに嘘がなかったから俺はこの話を信じてやることにした。


「バカな奴だな」

「俺もそう思うよ。まあ、お前もだろ」

「そうだな……」

「で、お前の親父は国王の帝国出兵前の無茶な資金調達をやらされて、これ以上は従業員への給与すら出せないと断わったら…」

「即座に斬られたらしいな。挙句、家財道具から何から何まで持っていかれたらしい。俺も古参の従業員に裏口から逃がされていなかったら死んでただろうな」

「そうか……」

「まあ、言い訳にしかならんだろ。さあ、あの国王の手先の兵士に殺されるぐらいならお前に殺される方がましだ。とっと殺ってくれ」

「いや、しないけど」


その言葉にセルウィグが目を見開いたが、構わず続ける。


「お前らには生きていてもらおうと思ってな。あっ、ただし積極的に殺人を行ってたり、女を襲うような奴は去勢したうえで騎士団に引き取ってもらうけどな」

「……何が狙いだ」

「やむを得ず、法を犯したものを罰する資格は俺にはないんでな」


俺の転生実験自体が大学への詐欺と公文書偽造のたまものだし。最終的には自殺ほう助に当たるからな。だから俺は正直言って、こういう輩にはそれ相応以上の罰すら与える資格はないんだろうな。


「……訳ありか」

「まあな。で、これからどうしていく気だ。この盗賊団的仕事を辞めるのなら、去勢されたクズどもを騎士団に突き出しておけば、お前らは助かるぞ」

「裏稼業からは抜けられねーな。ここにいる連中は表に顔を出せない奴らばかりだからな。……だから、こういう汚い裏仕事は止めて、もう少しましなことに手を出すかな。せっかく助けられた命ならな……」

「分かった。じゃあ、準備金だな」

「おいおい、そんなものいいのか」

「いいよ。じゃあクズどもは連れてくから、後は任せた」

「お、おう……もう行くのか」

「ああ、用意を済ませたらすぐにでもな。あんまり長居すると、俺らもまずいし」

「そうか……恩に着る」


俺は餞別にスノードラゴンの魔石が詰まった袋を投げると、部屋を出た。すると廊下にリリアが立っていた。


「はあ、お兄様は本当にお人よしですね」

「聞いてたのか……まあ、そうだな」

「まあそこがお兄様をす……尊敬できる要因ですしね」

「そう言ってくれるとありがたい」

「そうですか……では朝食に向かいますよ」

「そうだな」


その後、朝食を食べ終わった俺は処刑用の盗賊十三人をアレクスに拘束させたうえで全員去勢してやった。麻酔魔法など使っていないので痛みで気絶してしまったし、俺もアレクスも自分たちでやりながらにゾッとした。切り落としたものは燃やして空に流してやった。……これであいつらにやられた奴らも少しは報われるといいのだが。


こうして気絶しているそいつらを縛り上げて土魔法ので作った箱に入れて馬車の後ろに繋いだ俺たちは、見送りに来たセルウィグ達に別れを告げ、アジトを出発した。

今章で名前が出てきた人物の詳細説明は登場人物紹介3をお待ちください。


面白かったら、ブクマ等よろしくお願いします。

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