第四十一話 森の民?
いつも読んでくださる方、ありがとうございます。
本日二話目です。
追記:五十一話以降の投稿システムに慣れてないもので、投稿時間間違えました。……すみません。
追追記:誤字・ミス等の修正をしました。
2017年10月18日 誤表記修正
「お兄様、この奥です」
「分かった。じゃあそこの扉を丁寧に開けてくれ。中の人たちにけがを負わせたくはない」
「そうします……お兄様はどうされるんですか」
「このままここで盗賊団を全員潰す」
ボスの部屋を出て一分後。俺とリリアは最速で奴隷たちの監禁部屋までたどり着いた。俺はリリアに部屋の開放を任せると、少し部屋から離れた場所に立って盗賊団を迎え撃った。
「おらあ、坊主。ここはもう行き止まりだぞ」
「知ってるよ」
「頼りになる騎士様もいなくて、ご自慢の魔法を放つ時間があるのかあ」
「調子に乗ってるみたいだから、叩き直してやるよ」
「……勘違いするなよ」
「「「あん」」」
「調子に乗ってるのはお前らの方だろ」
「ぶっ潰せ」
「「「おう」」」
「…<爆炎障壁>」
さて激高した盗賊たちが俺に突っ込んできたところと男たちの後方に<爆炎障壁>を展開すると、突っ込んできた男たちは後ろの男たちに押されて、炎に叩き込まれた。
「熱っつ」
「だ、誰か氷もってこい」
「次…<暴風切断術>」
「ウギャア」
次いで騒いでいる男たちに向かって風の刃が飛び交う。威力は抑えてあるので死ぬことはないだろうが、場を阿鼻叫喚の地獄絵図にするには十分だ。そうしてその状況をしばらく続けた後で、両方の魔法を解除した。
「や、やっと終わった」
「もう終わりか、あん」
「もう一度喰らうか」
「うっ……」
「お、俺は投降するぞ」
「俺も」
「それ以外のやつは……死んでもいいんだな」
「「「降伏します」」」
全員の心をしっかりと折った後で、雷魔法で気絶させた。さて、こいつらはアレクス達に任せて俺もリリアのもとに行こうか。
「お兄ちゃん、助けて」
「どうしたリリア」
「そ、それが……」
魔法でこじ開けられた奴隷たちの部屋への戸を抜けたところで、涙目で走ってきたリリアに遭遇した。
「どうした、まだ残党がいたのか」
「ううん、この中には一人も……」
「じゃあ何が……」
「聖女様ー」
「んっ……聖女」
「アッ、アウッ……だ、だからそう呼ばないでください」
リリアの背後から数人の人が駆けてきた。そして聖女とリリアのことを呼んでいる……大体展開は読めたな。
「治癒魔術、使ったのか」
「う、うん。……一人、栄養状態が悪くて危なかった男の子がいて……」
「そうか……」
「後、私たちの突入前の拷問で足を切り取られていた人の足を繋げたんだ」
「……それだけやれば、聖女様と崇められるだろうな」
「だ、だからそう言わないでよ」
リリアの話し方が今日の朝のに戻ってるな。二人っきりだとこうなるのかな。……まあ、それはおいておこう。
「あの、聖女様……そちらの方は」
「だからそう呼ばないでくださいよ……私の兄です」
「せ、聖女様のお兄様……失礼しました」
「いや、いいから。……それより他に重篤な人はいらっしゃいますか」
「はっ、そうですね。私も全員は診れてませんし」
「ああ、はい。何人かはいますが……」
「案内してくれ」
そのままリリアとともにその部屋を奥まで進むと……だんだんと血の匂いと臭気で空気が濁ってきた。
「これじゃあ、助かるものも助からないぞ…<空気清浄>」
「あっ、匂いが薄まりましたね」
「今の魔法で空気中の匂いのもとを魔力で破壊したんだ。たぶん、しばらくすれば完全に匂いも消えるよ」
「せ…リリア様、クライス様。こちらです」
「よし、診よう」
さて、奥にいる奴隷の数は三十人か……子供が十人に、女性が十五人、男性が五人となると奴隷の使用用途にも検討が付くというものだ。
「全員、栄養状態が最低であることには変わらないな。リリア、全員に俺が水魔法系の治癒かけるから、重傷者はよろしく」
「分かりました」
「それじゃあ、皆さん動かないでくださいね……<完全治癒>」
水魔法の内科系治癒魔法を使おうかと思っていたのだが、全員の状態を見て使用魔法を変えた。星魔法<完全治癒>なら免疫向上から身体欠損の治療、更には体内の不足物質の一時的な代用まで行えるので今の状況にはぴったりだろう。
……まあ、そこまでやろうとすると尋常じゃない量の魔力を使用するので、超越級魔導士以外は魔力枯渇による死を覚悟しないと使えないが。もっとも星魔法自体、使える人間がほとんどいないけど。
「って、お兄様。これじゃあ私の仕事ないじゃないですか」
「すまない。うっかりしてたわ。……調整なしにこの魔法かけたら、そりゃあ全員こうなるわな」
「まったく、もう」
「すみません……彼女は殺していただけませんか」
リリアの仕事を奪ってしまったせいで怒られていると、一人の男性が衝撃的な発言をしてきた。
「へっ、殺す……どういう意味ですか」
「ふざけないでくださいよ。せっかく助けたのに殺せなんて」
「ええ、助けていただいて身勝手なのは分かっています。……でも、こんな彼女を生かしておいてやるのはあまりに酷で……」
「こんな彼女……っつ」
「えっ……」
彼が指し示した女性は虚ろな目をしていて、とてもではないが生きている人間の眼をしていなかった。
「一体、何が……」
「ふざけた話ですよね……彼女は貴族とかの観賞用だから中身はどれだけ汚れていてもいいだろうって」
「そ、それは……」
「聖女様には話しづらいことですが……ようは男達の欲のはけ口にされたんですよ。……ここから連れ出されて、三日後に帰ってきた彼女の眼は、もう……」
「……そんな」
「分かったでしょう。だからもう彼女を楽にしてあげてくだ……」
「それを言うのはまだ早いと思うぞ」
「えっ」
俺は驚いた顔をする二人の視線を背に女性の頭に触れた。そのまま精神魔法で相手の記憶をたどる。……まだ俺なら助けられるかもしれないからな。
「…<精神精査> なるほど、ここで心が壊れたわけか……」
「か、彼は何を」
「おそらくお兄様は、彼女の精神を取り戻そうとしているのだと……」
「そ、そんなことが……」
「私にもさっぱりわかりません。……でもお兄様は先日、魂すら修復されています……きっと」
「……っつ…レヴィ、頑張ってくれ」
レヴィ、それが女性の名前なのだろう。さて、何とか助けられそうだな。
「…<精神精査> となると、ここでの記憶を消去するか……いや、消去だけじゃ足りない、書き換えよう…<記憶改変>」
「ううっ……」
「レヴィ」
「ラスト…<精神修復>」
最後に傷ついた精神を完全修復した。ついでに無詠唱で体の中の傷もさらに綺麗に整復しておいた。
「あ、あれっ…私は確か、奴隷にされて……アレン」
「レヴィ……よかった」
「ちょっと、なんで抱き着いてくるのよ……」
さて、仲のいい夫婦は二人きりにしておいて、周りの状況を見ようか。……と、思ったとき体に二人の人間が飛び込んできた。……んっ、二人?
「お兄様、素晴らしかったです。本当の意味であの二人が再会できましたね」
「クライス様、でしたか……失われた星魔術、しかも範囲行使。さらには闇魔法の精神魔法まで使われるとは……まさか、七賢者様のお一人ですか」
「な、何だ。一体」
「あなたはいったい誰ですか……お、お兄様に勝手に抱き着くなんて」
「これは失礼を。申し遅れましたね……森の民の国フォレスティア王家 第一王女 シルヴィアと申します」
「シルヴィア、さん……王女でしたか。これは平らにご容赦を」
「いえ、今の私は王家を追われた身ですから」
「いや、お兄様。驚きはそこではありません。フォレスティア王家の人間ということは……」
「ええ。森の民とも言いますが、皆さんにはエルフと言った方が通じるのでしょうか」
「えっ……」
さて、この世界のエルフというのは大昔に人間と精霊が混ざった種族であると言われている。
まあ、エルフについて簡単に言うと人との交流を避け、森の奥に国家を形成している、魔術が得意な人間がほとんどの種族……唯一の特徴は耳が長いことぐらいでしょうかね……
「はあ、なるほど……それは分かったんですけど。なぜ、こんなところに」
「言ったでしょう。国を追われたんです」
シルヴィアがその特徴である耳を見せながら、事の顛末を話してくれるまでは結構大変だった。いや、彼女はすぐに話してくれようとしたんだけどな。
ひとまず、盗賊たちをゾディアとリーダーのセルウィグを除いてさっきの奴隷部屋に叩き込み、奴隷にされていた人たちをひとまずアジトの居住区で休ませなきゃならなかったからな。
その上で、食事を作って全員に配布して食べ終わったのが今である。
「国を追われた?」
「あなたほどの魔術師なら分かっているとは思いますが、私の魔力はエルフでも最高峰、人間たちでもこれに勝てるのはあなたか賢者ぐらいのものでしょう」
「ああ、でしょうね」
「ですが、これだけの魔力があっても魔術が使えなければ意味がありません」
「魔術が使えないんですか、そんなに魔力があって」
「正確に言えば使えるのですが…まあ、そういうことです」
リリアが驚いているが、そういうことも稀にある。彼女の魔力はおそらく超越級第十一階位で師匠よりも多い。だが、世界の魔力に親和性があってもそれぞれの属性魔力に親和性がなければ、使えないのが魔法だ。まあ、セーラさんの召喚魔法や俺の物理魔法みたいに無属性と言える様な魔術もあったりするが……あの辺の魔術は使い手を選ぶ上に、結局大半が属性合成魔術だったりするからな。しかも俺のに至っては物理現象を理解しないと無理だし。
「それで国を追われたんですか」
「まあ、正確に言うと自分から出奔した扱いですね」
「はあ」
「フォレスティア王国では魔力の最も多いものが王位を継承します。ですが、それだけでは意味がなく魔術がきちんと使えることも重要視されます。そして私の場合、中級以上の魔術が一切使えません」
「一切、ですか……ちなみに使える属性数は」
「合成魔法を含めた全属性が使えると思ってくださって構いません」
「ちなみに王家を継ぐ資格は」
「三属性以上の中級魔法の行使と、上級魔法を一属性でも行使できることです」
「うーん、特殊な事例だな……」
こう言った事例もあるにはあるのだろうが……俺には対処する方法が思いつかない。
「それでお願いがあるのですが……」
「何でしょうか」
「お願いします。私を弟子にしてください」
「はいっ?」
「なっ、じゃあお兄様。私も弟子にしてください」
「お、落ち着いてくれ、二人とも」
「落ち着いていられません。私はこのままだと国に帰れないんです」
「自分から出てきたのにか」
「はい……条件を達成するまでは帰らないと言って出てきてしまったので」
「それは確かに戻りづらいよなあ……」
彼女の幼さでそれは確かに辛いものがあるだろう。
「それで国を出て何年になるんだい」
「そうですね……かれこれ冒険者としてお金を稼いで、いろんな魔術学園に入学して……かれこれ四百年ですかね」
「えっ、四百……」
「ええ、国を出たのが百歳ごろだったと思うので、丁度それぐらいかと」
「お兄様、エルフの寿命は平均で千年ほどですから。普通ですよ」
「そ、そうか」
なんだか善意で盗賊団を潰しに来て、とんでもない事案に巻き込まれてしまったような……さて、これからどうしよう……
次回更新は明日です。




